友人の息子が亡くなった。まだ小学五年生だったというのに、学校の屋上から飛び降りたのだ。
遺書には学校で苛めに遭っていたこと、また親友の男の子から裏切りを受けたこと、担任に苛めのことを相談したにも関わらず、助けてくれなかったという内容が書き綴られていたらしい。
お葬式が済み、しばらく経った頃だろうか。友人から是非とも自宅に来てくれと誘われたので、久しぶりに遊びにいった。
「今日はわざわざありがとう。あの子もあなたに懐いていたでしょう。きっと喜んでるわよ……ねえ?」
リビングのソファーに腰掛けた友人はにこやかに笑いながら、電話の子機を耳に当てた。それは本物の子機ではなく、子ども用の玩具だった。
「な、何してるの?」
訝しげに問い掛けると、友人はにこにこしながら私に子機を差し出した。それは彼女の息子の誕生日に私が贈ったプレゼントであり、息子はこの玩具をとても気に入り、いつもそれで遊んでいたのだという。
「本当はあの子の棺に入れてあげたかったんだけど……あの子のことを身近に感じていたかったから、そうしなかったの。来る日も来る日もこれを耳に当ててね、あの子に話し掛けてたのよ」
「…、へえー。そうなんだ……」
「聞いてみる?」
友人は私に子機の玩具を無理矢理握らせた。顔は笑っているが、有無を言わせない感じだった。幼い息子を亡くしたばかりの彼女に、同情心がないわけではない。私は曖昧な笑みを浮かべ、仕方なく玩具を受け取った。
そろそろと耳に当てる。何の物音もしない。ボタンを押すと、メロディーが流れるタイプの玩具だったのだが、電池が切れているらしく、ボタンを押しても何も聞こえない。
と。
「いだいよぉぉぉいだいよぉぉぉぐらいよぉぉぉだじてよぉがえじてよぉだじてよだじてよまっぐらだよぉぐらいよぜまいよぉだずげてよぉおがあざんおがあざんおがあざんおがあざんおがあざんおがあざんおがあざんごめんなざいィィぃィィぃィィぃィィごめんなざいごめんなざいィィ」
地獄の底から響いてくるような金切り声に驚き、思わず玩具を放り投げてしまった。テーブルの下に転がったそれを友人はゆっくりと拾い上げ、歯を見せて笑った。
「ね?聞こえたでしょう?親より先に死んだ子はね、親を悲しませた罰として地獄に落ちるんですって……」
友人は目を細め、子機の玩具を耳に当てた。その様子は酷く楽しそうだった。
作者まめのすけ。-2