俺の判断が間違っていたのか?
こんな事をさせないために俺がいるはずなのに......
ほんの一瞬の出来事、ユウの想いが流れ込んできた。
ユウは知っていた、冥界の門を召喚するために俺が課している制限の事を。
冥界で滅びる事のない魂は永久に罪を償うためにあらゆる苦痛を与えられる。
救済の道は特別監査が入る事だけ。
模範囚には仮釈放の権利が与えられ生まれ変わる事を許される。
生まれ変わっても罪を犯した魂は有無を言わさず冥界送りにされる。
アルカトラズのように隔離された世界、その世界に関与する事は非常に危険だ。
穴を開ける事はこの世と冥界を繋ぐ、出入りが自由になるって事だ。
それだけは絶対にあってはならない。
俺が冥界の門を召喚する事が外法だと言ったのには意味がある。
囚人を外に出さずターゲットのみを冥界に送るための制限、ルールを決めているからだ。
私利私欲のために利用しないと言う約束、俺の命をかけて順守すると決めている。
俺は神じゃない、裁く権利なんてない。
一時の感情で裁きを下し冥界送りにするのはリスクが高すぎる。
その事をユウは知っていたんだ。
どす黒い憎悪は吸い込まれるようにユウの中に吸収されニシムラは大人しくなった。
「ユウ!」
倒れてるユウに駆け寄り抱き起こすとユウは微かに笑って言った。
「よかった」
「いい訳ないだろ、無茶はしないって約束....」
「無茶じゃないよ、大丈夫だって確信があった」
「確信?」
「うん、ここで殺された家族は生前と変わらぬ生活を送っていた......」
両親と18歳になる娘は生前この家で幸せに暮らしていた。
とても素直で明るい娘は学校での評判も良かった、それは連日ニュースでも報道されていた。
ほんの少しの勘違いからストーカーと豹変してしまった男は近所に住む大学生で娘と同じバスを毎朝利用していた。
ある朝、寝坊してしまった男は走ってバス停に向かう。
走る男の真横をバスは追い越し遥か先の停留所に停車する。
あのバスに乗れなければ遅刻は確定、男が諦めかけた時、娘はバスの運転手に待ってくれるよう頼んでくれ男は遅刻を免れた。
勤勉で真面目だった男は地方から上京し独りで住んでいた。
友達もなく毎日が同じ事の繰り返し、部屋と大学を往復するだけの毎日だった男に毎朝の楽しみが出来た。
少しづつ膨らむ恋心はいつか歪んだ物に変わっていく。
娘の行動すべてを監視し強い思い込みに支配された。
娘を自分の恋人だと思い込むようになってからは、娘の友人たちが邪魔に感じた。
奥手で純真な娘はまだ恋も知らなかったと言うのに、男はたまたま娘の身を案じた友人の一人を娘に言い寄る男と認識する。
その後は惨劇が待っていた。
夜、家族団欒の時間に包丁を持って現れた男は幸せだった家族を惨殺する。
そして自らもその場で首を吊った。
幸せだった家族はその後もこの家で家族団欒に暮らしていた。
事件は風化し始め忘れかけた頃、誰かが口にした。
『この家に幽霊がでる』と......
噂は噂を呼び、あっという間に興味本位で大勢が押し寄せる。
静かだった家は荒らされ家族は恐怖を感じた。
また幸せが奪われてしまう、もう誰も入って来て欲しくないのに......
恐怖は徐々に憎悪に変わっていった。
そして僅かに残った娘の恐怖を、悲しい悲鳴をユウは感じたんだ。
「両親はもう上に行った、娘さんだけがまだ中にいる。少し戸惑ってる」
「戸惑ってる?」
「罪の意識が強くって......」
「そうか、少し時間がかかりそうだね。歩ける?」
「大丈夫」
足元のおぼつかないユウの手を取り、倒れたままのニシムラを蹴飛ばすと目を覚ました。
「おい、帰るぞ。さっさと立て」
「....あれ?ここは?」
「さっさと立って歩け!置いてくぞ!」
惨劇のあった家を後にしてニシムラを車に押し込み送って行った。
ユウは少しぼんやりする事があったが、それ以外はいつも通りだった。
作者伽羅
長々とお付き合い戴き恐縮です。
次回は最終話です。
ユウの中にいる娘さんの今後についてお話しします。