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長編9
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佐賀の鈴

鳴海はいつも鈴を着けていた。その鈴はある男が持っていた物だった。

仕事仲間に佐賀という男がいた。佐賀は典型的なダメ男だった。

「あいつはマジでクズ野郎だったよ。でも、いい奴だったな・・・クズだけどさ。」

佐賀は仕事で儲けた金を殆ど博打や風俗に使った。家族や友達仕事の同僚に金を借りるのが常だった。佐賀の口癖は お金がないから貸してくれ だった。

「なんで金貸しのとこで借りないの?って聞いたらさ、ああいうとこは怖いから嫌だって言ってた。利子やらなんやらが面倒なんだと。」

鳴海は煙草をふかしながら語った。

佐賀は一度闇金でお金を借りて期限までに返済できず酷い目に遭っていた。

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「当時俺達の仕事はヤバイものばかりで普通の仕事じゃなかった。表向きは一般的な善良な企業なんだけど裏は酷いもんだよ。”上の人達に口止めされてるから詳しくは言えないけど、裏社会の人達と関わる事をやったりしたよ・・・話戻すね?」

どんな仕事なのか具体的に教えてもらえなかったが、良い仕事とはいえない仕事だというのは分かった。

佐賀はほぼ毎日仕事に遅刻するが欠勤は一度もなかった。そこが唯一良い所だと鳴海は語った。

「仕事を休まない所と人に優しい所が長所だね後はダメ。色んな人に借金してたみたいだけど、総額幾ら位だったんだろうな。ちなみに俺は奴に総額77万貸してた。」

佐賀は本当に金が無くて困るとアポ無し時間帯無視で鳴海のマンションにくるのだという。佐賀が来るときは彼が手首につけている鈴がドアの前で聞こえるのでインターホンを鳴らさなくてもわかるそうだ。

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鳴海と佐賀は同じ歳だったが仕事上で鳴海は佐賀の先輩であった。

仕事内容は日によって異なり先方から依頼された仕事を行うというものらしい。依頼内容を上司から聞き、内容が出来ないものだった場合は断る事ができる。そしてその依頼は他の従業員のところへまわるのだという。

「基本嫌なら断れるんだけど”指名”でくる場合があって、その場合は100パーセント断れないんだ。あの時の仕事は俺指名の仕事だったんだけど、前日の仕事で怪我して病院に運ばれて。」

鳴海指名の仕事だったが本人は病院にいる為他の従業員にやってもらうほかなかった。

その日暇していた従業員の山本を鳴海の代わりにし、他に田中と高田をつけ仕事に向かわせた。

仕事内容は”ある物”を指定された場所へ運ぶという単純な作業で、運ぶ物の中身を見てはならない・運ぶ物から音がしても無視・必ず指定された場所へ届ける事・時間厳守・という約束事があった。

三人はそれらを上司から説明されたあと”運ぶ物”を受け取りに向かった。

その時鳴海は自宅のマンションで寝ていた。足を骨折していて自由に動けなった。

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上司に休みの電話を掛けたときに聞いた仕事を託された三人が無事にやり終えられるか不安だった。

鳴海は数回ものを運ぶ仕事を指名で受けたことがあった。受けた仕事の依頼主は全て同じ相手だった。鳴海はその依頼主のお気に入りだったが鳴海はその依頼主が苦手だった。

早く足を治して仕事に行きたいと考えているとドアの前で鈴の音が鳴った。

リンリンリン・・・リンリンリン・・・

鳴海は松葉づえをつきながら玄関へと向かいドアを開けた。

「鳴海ぃ~調子どぉ?お見舞い来たよぉ~ん」

「くっせ!お前酒臭ぇーぞ!どんだけ飲んだんだよ~」

酔っぱらった佐賀がコンビニ袋を手に提げてドア前に立っていた。

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数時間前、佐賀は仕事を終えた後居酒屋で飲んでいたのだが、ほかの客にいちゃもんをつけられ喧嘩して出てきたのだという。鳴海が怪我で自宅で寝ている事を思い出し、コンビニでビールとつまみを買いここへ来たのだ。

佐賀に酒をすすめられたが飲む気にはなれなかった。佐賀は酒に酔うと粗相をするのであまり飲まないよう言った。かわりに水をたくさん飲ませた。

佐賀は居酒屋で客と揉めた話を面白おかしく話した。それを聞いて鳴海は少し不安感が薄れた気がした。

少し酔いが冷めてきた佐賀が山本達の仕事について話し始めた。

「鳴海、あの仕事・・山本しくじるかもしれない。そんな気がするんだ。」

「やめろよ、変なこと言うんじゃねぇよ。上手くいくだろうよきっと。」

「田中と高田はああいうの慣れてると思うけど、山本は駄目だよあいつビビりだし。」

佐賀の感は的中することとなる。

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次の日の早朝、鳴海はけたたましいインターホンの音で目を覚ます。

「なになになに!居るよ!!そんなにインターホン鳴らすなよ!!」

松葉づえをつかづ片足でジャンプしながら玄関へと向かい、ドアを開けた。

ドアを開けた途端勢いよく人が中へ入ってきた。びっくりして玄関にしりもちをついた鳴海は入ってきた相手を見た。

「鳴海さん・・・俺やばいの運んじゃいました中見ちゃいましたあいつらに殺されますぅぅぅっ・・・」

ガタガタ震えながら涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔をした山本だった。

その様子をみて尋常じゃない事があったということは分かった。山本は服は汚れていて靴を履いていなかった。額や頬に擦り傷がいくつもあり、一部殴られたような痕があった。

ドアを施錠し、山本を中に入れた。

椅子に座らせコーヒーを出した。山本は落ち着かない様子で辺りをきょろきょろ見ていた。

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山本の傷の消毒と手当てをしながら仕事でなにがあったのか聞いた。

話によると頼まれた物を指定場所へ届ける途中でその”物”が暴れだしたのだという。田中と高田は無視したが山本は気になって中身を開けてしまったのだ。中身を見てしまい山本は指定場所とは逆の方向へ向かった。

「中身が人間だったんです!!やばくないですか?犯罪じゃないですか?やばいと思って警察に向かおうとしたら後ろから奴らが追ってきて・・・皆捕まって、すげー滅茶苦茶されたけど俺は逃げて・・・中身も逃げたけど多分もう捕まってますよね・・・

どうしよう。」

「お前・・・・それかなりヤバイ。田中と高田生きてたらいいけど。その依頼主の名前は?」

「怖いこと言わないで下さいよ!!・・・依頼主の名前は」

その名前を聞いて鳴海は胃が痛くなった。鳴海指名でくる”あの依頼主”の名前だった。

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山本を落ち着かせた後帰した。

そのあとすぐに上司から電話がかかってきた。開口一番に怒鳴られた。

「鳴海、もう耳に入っていると思うが今回の失態はお前に責任があるからな。悪いが俺達はお前を守れない。山本は時機にやられる、田中と高田は此方に返されたが即入院。お前山本匿ってないよな?」

想像するだけで恐ろしかった。二人がどんなことをされたのか。

「匿ってません。俺は何をすればいいんですか?」

「受け取り主のQさんに”物”が時間内に届かなかったからQさんの要望でお前をよこせと。」

「俺がその荷物の代わりになれと?」

「そういうことだ。指定場所に明日の午前3:00、何も持たずに来いと。」

後半上司が何を喋っていたのか、耳に全く言葉が入ってこなかった。

もう自分は死ぬのだ山本も既に・・・悪い想像が脳内を支配した。上司の通話は切れていたがしばらくその音を聞いていた。何もする気にならなかった。

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気が付くと外はもう暗くなっていた。あと数時間後には自分はこの世から居なくなるのだと考えた。死刑囚とはこんな気分なのかと。

リンリンリン・・・リンリンリン・・・

聞き覚えのある音がドア付近から聞こえる。よろよろ動きながらドアを開けに向かう。

「鳴海ー開けてー!」

佐賀の声だった。カギを開け中へ入れた。

息を切らせた佐賀が心配そうな顔をして鳴海をみた。

「鳴海・・話聞いたよ・・・大丈夫か?・・・大丈夫じゃないよな。」

「この状況で大丈夫だったら相当精神強いよな。」

リビングに招き二人でビールを飲みながらこの仕事に就く前の話やくだらない話をした。

そうして気を紛らわせようとした。

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「今までお前に貸した金返さなくていい、お前にやるよ。それから俺の兄ちゃんにこの話をして・・・」

「何言ってんだよ!しっかり返すよ、そんな事いうなよまるでお前が死ぬみたいじゃないか。」

「死ぬだろ!Qさんと○○さんはどんな人か分かってるだろ?」

「俺がなんとかするから!」

「何の根拠に言ってんだよ」

「鳴海には借りがあるから、沢山ありすぎるからこういう事じゃないと返せないんだよ。」

鳴海は返す言葉がなかった。変な雰囲気になってしまい沈黙が続いた。

「鳴海、もうそろそろ寝たほうがいい。確か痛み止めみたいなの飲んでたよね?」

そういってキッチンのほうへ佐賀が向かう。鳴海は俯いて自分の心が落ち着かせよとしていた。

酒を飲んで酔っ払っても恐怖と不安は消えることがなかった。ベッドに入り天井を凝視した。

キッチンから戻ってきた佐賀に薬を渡され水で一気に飲みこんだ。いつもより薬の量が多い気がした。

だんだん瞼が下がっていき佐賀の独り言のような声が遠くの方で聞こえた気がした。

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目が覚めた時時刻は午前8:00、鳴海は血の気がサァーと引いていくのを感じた。

とにかく上司に電話をかけた。すぐに上司が電話にでた。

「鳴海・・・お前は無事だたんだな、ま、よかったよ。」

「俺寝坊して、指定場所に行ってなくて、Qさんから電話ありました?今から行っても大丈夫ですか?」

「いや、もうお前は行かなくていい。この取引は終わった、今からこっちこれるか?」

「え?なんで?え・・・分かりました。」

事態が把握できないまま鳴海は電話をきった。

リン・・・ 鈴の音が鳴った。自分の右手についているものだとわかった。

佐賀がいつも腕に付けていた鈴のブレスレットだった。特に気に留めず身支度をした。

携帯と財布、保険証、自動車免許・・・それぞれを鞄に詰め込むとリビングのテーブルに置いてある紙と薬箱をみた。

薬は睡眠薬で紙は佐賀の言葉が綴られていた。

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タクシーを呼び上司の元へ向かった。鳴海は佐賀の安否が心配でならなかった。

Qさんと○○さんの件はおれがなんとかする 鳴海今までありがとう さが

「今までありがとうってなんだよ・・・・」

鳴海は山本と田中、高田に電話したが三人とも電話に出なかった。山本の携帯だけ

『おかけになった電話は現在使われておりません・・・・』

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到着しエレベーターで上司のいる階へ向かう。部屋の前に上司が後ろに腕を組んで立っていた。鳴海をみると、なんともいえない表情をした。

「佐賀はどこにいますか?昨日俺の部屋で佐賀と飲んでたんですけど起きたら居なくて・・」

「端的に話す、鳴海の代わりに佐賀がQさんの元へ行った。佐賀はもうここへは来ない、もう会えないと考えたほうがいい。」

「え、え、ちょっと意味が・・・・」

佐賀がどうなったのか、どこへ行ったのか聞いても口ごもるだけで教えてもらえなかった。

田中と高田が無事であること、入院していること、山本が”見つかった”ことは教えてくれた。

「佐賀から預かった物がある。これだ・・」

上司が差し出した手には茶色い分厚い封筒と小さくたたまれた赤茶色く汚れた紙があった。

紙には蚯蚓が這ったような字で ありがとう と書かれており、茶色い封筒には金が入っていた。きっちり77万だった。

「佐賀・・・・」

上司に骨折が治ったあと一か月は家から出るなと言われたあと、タクシー代を渡され自宅に帰った。

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自宅に着きリビングの椅子に腰かけテーブルの上の薬箱を見やる。昨晩の佐賀との会話を思い出し今までの事を思い出し悲しくなった。

リンリンリン・・・・リンリンリン・・・

鈴の音が聞こえる。もしやと思いドアへと向かう。

「鳴海ぃ~調子どぉ?お見舞い来たよぉ~ん」

佐賀の酔っぱらった声が聞こえた。鳴海は壁を伝いながら急いだ。

カギを開けドアを開けた。

「佐賀ー!!!お前どこ行ってたんだよ!!!!」

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ドア前には誰も居なかった。佐賀の名前を呼んでみたが返事は返ってこなかった。

佐賀から貰ったブレスレットの付いた右手を強く握った。

「あの時確かに聞こえたんだよ、あれは確かに佐賀だった。あいつの声がしたしあいつの鈴の音が鳴ったんだよ。信じてもらえないかもしれないけど。」

鳴海は今も右手に鈴をつけている。 佐賀の安否は今も分からないままだという。

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ネタバレ注意
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寂しいお話しですね…

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