短編2
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見上げてごらん。

かつて付き合っていたS君の話。

S君とは幼馴染みで、幼稚園の時から一緒でした。小学校、中学校までも同じで、高校、中学は別々でしたが。高校に入ってすぐ、S君から告白され、私達は付き合うようになりました。

S君には不思議な癖がありました。デートをしている時も、ちらちらと空を見上げているのです。最初は天気の心配をしているのかと思いましたが、晴れていようが雨が降ってこようが、しきりに空を見上げていました。

気になった私は、S君に聞いてみたのです。

「いつも空を見上げてるけど、どうしたの?何かあるの?」

S君は少し困ったように笑いながら答えてくれました。

「信じて貰えないかもしれないけど……空を見上げていると、なくした物が落ちてくるんだ」

S君によれば、最初は小学生の時だったといいます。大切にしていたビー玉をなくしてしまい、酷く落ち込んでいたのですが。ふと空を見上げてあちら、なくしたはずのビー玉が落ちてきたそうです。

他にも、なくしたはずの野球帽、ミニカー、片方の靴下、サッカーボールなど……それらの物が空から落ちてきたのだそうです。

「まさかあ。そんなことあるわけないじゃん。絶対嘘。信じられないもん」

現実主義だった私は一笑に付しました。空からなくした物が落ちてくるなんて……どう考えても現実的じゃないじゃないですか。あり得ません。

S君は寂しそうな表情を浮かべ、私を見つめて言いました。

「君も信じるはずだよ。きっと……」

それから一年後。私はS君の訃報を知りました。

大学からの帰り道、帰路についていたS君の頭上に「あるもの」が落ちてきて、S君に直撃。彼は首の骨を折って即死だったと……。目撃者はそう話しているそうです。

その「あるもの」とはーーー何だったと思いますか?

かつてS君を捨てた、彼の母親だったんです。

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ちゃあちゃんさん、コメントをありがとうございます。

私が短大生の時ですか。細い道を歩いていたら、いきなり漬物石くらいの石が降ってきましてね。幸いにも直撃はせず、掠りもしなかったんですが。どうも、近所の高校生の悪戯らしく、近くで「おい、人通ってんじゃねえか」と聞こえた時には驚きました。いや、道なんだから人が通って当たり前でしょうよと言いたかったけれど、言えなかったです。チキンですから、私。
その後も怪我人が出たという話は聞きませんが……真上とか真下って、意外と盲点なんですよね。特に真上。普通、前は向いて歩いていても、上を向いては歩かないですし。
いやいや。でも一歩間違えれば、私は死んでいたのでしょうね。悪戯も度が過ぎれば笑えないものですね。

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無くしてしまって困る物と、困らない物に別れるけれど、ふと空を見上げるって事は無くした物に対して少なからず思いがあるって事でしょうにね…

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