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中編4
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つんぼ揺すり。

ばあちゃんから聞いた話。

僕はよくばあちゃんちに遊びに行くんだ。ばあちゃんちに行くと、よく美味しいお菓子を出してくれる。ばあちゃんは僕の好みをよく知っていて、僕の好きな物を食べさせてくれるんだ。家にいてもすることなくてつまんないし、お母さんはお菓子をくれないし、全然遊んでくれないし。ばあちゃんちに行ったほうが断然面白い。

ばあちゃんは天気がいい日には縁側に座って日向ぼっこしてる。僕が隣に腰掛けると、「嗚呼、来たのかい」と言って、お菓子を持ってきてくれるんだ。今日は暑いからソーダー味のでっかいアイスキャンデー。それをかじっていると、ばあちゃんはぽつりぽつり話してくれた。戦争の話とかじいちゃんとの馴れ初めとか、いろいろ聞いたけれど。その中でも特に記憶に残っているのがつんぼ揺すりの話だ。

ーーー昔はねえ、平気でそういうことが行なわれていたんよ。

昔々のお話。ばあちゃんの故郷に伝わる話なんだよ。昔はね、兄弟が物凄く多かったんだって。5人6人は当たり前。多い時は7人とか8人とか。本当に多いと10人とかね。でもね、別に子どもが欲しくて生んだわけじゃないんだ。田んぼや畑を耕すには大勢の労力が必要でしょ。それでたくさん子どもが必要だったみたい。

あとは男の子欲しさ、っていうのかな。家の跡継ぎになる男の子が欲しくて、男の子が生まれるまで子どもを産んだりしてたみたい。女の子は家を出てお嫁に行っちゃうじゃん?だから、家を継いでくれる男の子___長男が欲しかったみたい。

___子だくさんは幸せだって言うけれど、現実は違うんだよ。

今みたいにユウフクじゃない時代だったから、その日に食べるご飯すらままならなかった。今では1日3回食べるでしょう?それが1回や2回だったりしたこともあるんだって。白いご飯なんて1年に1回くらいしか食べられなかったってばあちゃんは言ってる。ばあちゃんも5人兄弟の4番目だからね。あんまりユウフクとは言えなかったみたいだよ。

___ほら、箪笥の上。コケシが飾ってあるでしょ。あれはね、口減らしで死んだ子どもの供養のために作られたんだよ。

ばあちゃんちの居間には箪笥が置かれていて、大小様々なコケシが飾ってある。じいちゃんが旅行先で見つけて買ってきた物だ。ばあちゃんがたまに手入れしていたのを見たことがある。僕がまだ保育園に通っている時、ばあちゃんちでコケシを見つけてよく遊んでたんだっけ。でもね、コケシって玩具にしちゃいけないんだ。さっきも言ったけれど、昔は今よりもユウフクじゃなかった。たくさんの兄弟を抱えて、お父さんやお母さんは凄く苦労したそうだよ。食べる物がないんだもの。お腹が空いても、満足に食べさせてあげることすら出来ない。

だからね、口減らしっていうのが行なわれていたんだよ。口減らしっていうのは、簡単に言っちゃうと自分の子どもを殺しちゃうこと。口を減らす___子どもの数を減らして、他の兄弟や両親が生き延びられるようにすることにすること。特に男の子は重宝されたみたいだよ。家を継いでくれる長男は他のどの兄弟より優遇されるしね。あとは次男三男と、田んぼや畑を耕すのに労力となる男の子も優遇される。女の子はお嫁に行っちゃうし、男の子より体力がないって理由で、あんまり優遇されなかったって。

コケシは口減らしで死んだ子のために作られたんだって。コケシはね、本当は子消しって書くんだよ。ばあちゃんが言ってた。子どもを消しちゃうこと____つまり、殺しちゃうことだよね。その子達が迷わず成仏出来ますようにって想いを込めて作られたのがコケシの由来なんだってさ。

____つんぼ揺すりも行われてたねえ。ばあちゃんの故郷ではね、それすら当たり前のことだった。

つんぼ揺すりって知ってる?これはね、赤ちゃんを殺す方法なんだ。今もあるよ。今では揺さぶりっこ症候群って言うんだっけ。生まれて間もない赤ちゃんはね、強い力で揺さぶられると脳の血管が切れて死んじゃうんだ。だから、絶対に強く揺さぶったらいけないんだよ。

ばあちゃんの故郷では、生まれてきた赤ちゃんに障害があったり、奇形児____足が3本だったり、目がなかったりする赤ちゃんが生まれてくると、その子は凶子(マガゴ)って呼ばれて、忌み嫌われる。化け物とか言われて、ずっとずっと苛められる。その子を産んだお母さんも凶女(マガメ)って言われて、同じように忌み嫌われちゃう。障害や奇形がある赤ちゃんは、お母さんに責任があるって思われてたんだ。そんなことないのにね。障害や奇形は、お母さんのせいでも赤ちゃんのせいでもないって、ばあちゃん言ってるよ。運命だから仕方ないんだって。でも昔は、そんな風には考えられなかったんだね。

でね……その赤ちゃんは、つんぼ揺すりで殺されたんだ。でも、生まれて間もない赤ちゃんを殺したなんてテイサイが悪いでしょ。近所の人の目もあるしね。だから、あくまでも事故ってことにしたんだって。事故で急死したってことにして、遺体はこっそり始末したんだ。可哀想だよね。赤ちゃんは何にも悪いことしてないのにね。

つんぼ揺すりは鬼揺すりとも言われる。残酷極まりない卑劣な手段として伝わっているみたいだけど……本当にあったことなんだよ。もしかしたら、君のおじいちゃんやおばあちゃんも知っているかもしれない。

「やだねえ、怖いねえ。昔はそんなことがあったんだね」

僕はかじりかけのアイスキャンデーから顔を上げて、ばあちゃんを見た。ばあちゃんは黙って僕を見てたけれど、やがて言ったよ。

___お盆は過ぎたよ。早くお帰りよ。

Concrete
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紺野さん、ご丁寧な返信ありがとうございました。返信に間が空き、大変申し訳ございません。

きつねのはなし、私も好きです。ネットで購入致しました。あれは・・・・・・何と言いますか。非常に美しい文体で流れ込むような情景に感銘を受けました。一言では言い切れません。短編集ですが、その短編同市、繋がりがあるようでないようで、実に不思議です。美しいのに薄気味悪い、と言いますか。ひたひたと恐怖心を感じました。ホラー映画は深夜であろうが観ることが出来ますが、きつねの話は日中でなくては読めません。夜に見ると、夢に見そうで。

夢に見て___取り込まれそうで。あの美しい世界に。

土着神関連の話も好きです。よく地方に纏わる言い伝えとか、神様の話とか___或いはその祟りの話などをネットで検索しております。調べれば調べるほど奥が深いものですね。

紺野さんが記載されているコメントを拝見致しますと、お若い方なのですね。学生さん、でしょうか。いつも思うのですが、その文章力や構成力、題材などが素晴らしく、「この方、本当に学生さん?」と首を捻る自分がおります。

ご丁寧な返信、ありがとうございました。参考にさせて頂きます。

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久方ぶりにまめのすけ様の作品を拝見しましたが…やはり、ガツンとした衝撃があって面白いです。また、ラストの一文には良い意味での“気持ち悪さ”を感じました。今年の夏も、まめのすけ様の作品を読んで涼みたいと思います。

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お返事、ありがとうございます。
『オチ重視』の考え方分かります。私も、小説・映画、最後に裏切られるパターンが大好きです。
仰っていたネットから見た怖い話、とても気になって、教えていただきたいところですが、何か訳ありとのこと…我慢いたします。

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まめのすけ。さん

話には、起承転結があったほうが読み手も理解し易いですし、オチがあったほうがいいのかもしれないですね。

私の作品は起承転結がちゃんと出来ていないので、理解し難いし読みづらいと思います。

皆さんの作品は起承転結がしっかりしてて素晴らしいなと思うし、羨ましいなって思ってます。

まあ、価値観は人それぞれですし、作り手の思いと読み手の感じ方が違っても仕方無いかなって思います。

偉そうな事を言ってごめんなさい

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まめのすけ。様

ヤバッ 怖い… オチが絶妙ですねー
忌み子鬼の子要らない子… 切ない怖さに『流石です』

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返事をするのも烏滸がましいのですが、無視を決め込むのも失礼かと思いますので、返事を書かせていただきます。

実の所、僕はあまり恐ろし過ぎる話は得意ではないんです。怖い物好きなのに、臆病で。
ジャンルというのも、物を知らないので、申し訳無いのですが、あまりよくは理解できていません。

強いて言うなら、じわじわと気持ちの悪い話が好きです。少しずつ皮膚に染み込むような感じの、読み終えた後、自分でも理由が分からないのに、不安になるような。あと、金魚と古風な女の子も好きです。

例えば、川端康成さんの短編集から《屋上の金魚》《心中》
最近ならば、森見登美彦さんの《きつねのはなし》
沼田まほかるさんの《痺れる》
などが、好みです。短編ばかりですね。月並みと言うか、ありきたりと言うか・・・お恥ずかしい限りです。

ネット上の話ならば、土着神関連の話が好きです。
あまり詳しくないので、多くは語れませんが。

それでは。長々と失礼致しました。

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紫音さん、コメントありがとうございます。

何だか私の作品はオチがワンパターンでいけない。もっと幅広く視野広くを目標に精進していきたいです。

何はともあれさて置いて。オチですねオチです。オチに関しては、このまめのすけ、ちょっとどころかかなり五月蠅いんです(笑)。自分でも「嗚呼、五月蠅いよなあ」と自己嫌悪に浸るくらい。浸るなら口を閉ざせとどなたか叱責して下さい。

終わり良ければ全て良し、なんて言葉がありますが。要は最後が綺麗にまとまっていれば、何となく形になるものなのでしょう。料理を作る際、材料や調味料の分量が多少違っていても、味が良ければいいんです。美味しく食べられれば、それでよしみたいな(笑)。それは少し違うか。

ホラーに限らず、例えば恋愛小説やファンタジー映画でも同じことが言えると思います。幾ら最初から中盤が面白くとも、最後の最後がぐだぐだで終わってしまっては意味がない。最後が悪いと、全体的につまらなく感じてしまったり。ホラーは特にそうだと感じます。最後の最後でオチがなかったとか。オチがないホラーなんて、ある意味最強に怖いです。

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紺野さん、コメントありがとうございます。

最近、ふと民間伝承に纏わる話をふと書いてみようかと思いまして。ぶっけ本番、ろくな下調べもせずに書いたもので、粗削りな箇所もありますが、寛大なお心でお赦し下さい。

mamiさんから頂きましたコメントにもお返事させて頂きましたが、私が作品を書く上で一番重要視していりのがオチです。更に加速してぶっちゃけてしまうと、オチさえきちんと成立していれば、他がどんなにぐだぐだでも構わない!いや、それは流石に言い過ぎですが(笑)。

私個人の短絡的な考えなので、他のご意見もいろいろあるとは思うのですが。私が恐怖を覚えるのは、著名な文豪の方が執筆された有名な話も勿論ですが。心臓を鷲掴みにされ、背筋どころか体中の血液が凍るのではないかと危惧するのはネットで拾ってきた話のほうだったりするのです。体験談、というやつですね。

現実的な生々しさ。日常生活の中にふと潜む恐怖。そういった身近にあるものを題材としたテーマの話にそそられます。私自身が霊感がからきしなので、生の体験談というものは非常に興味深い。そういった話って割とオチが凄まじいんですよ。ある程度のホラーには耐性ある私でも、「いやあ、お手柔らかにお願いしますよ」と言ってしまうくらい(笑)。

紺野さんはどうですか?どんなジャンルのホラーがお好きですか?もし、差支えなければお答え頂いていいでしょうか。

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流石まめのすけさん、凄いとしか言いようがないといった最後ですね。

オチが『そう来たかΣ(゚□゚;)』って、全身さぶイボが出ました:(;゙゚ω゚):

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流石としか言い様が無いです・・・。
最後の最後で、心臓を掴まれるような恐ろしさを感じました。

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mamiさん、コメントありがとうございます。

ホラーで最も大切なことはオチだと思うのです。私個人の凡庸かつ単純な見解なのですが。
ぶっちゃけてしまいますが、ホラーには文才や心理的描写はなくとも構わないのではないか、と。あったほうが話の筋は通りますし、より味のある作品として仕上がりますが、綺麗にまとまり過ぎると、現実味が失われてしまう。ホラーとは非日常的なものですが、日常的な匂いもないと、真実味に欠けてしまう気がするのです。

私がこれまでの人生の中で、最も怖いと感じた話がそうでした。わけあって、その話の題名や内容につきましては記載出来ませんが、本当に怖かった。読まないほうが良かったと後悔するくらい。

ただ。その話は書物ではなく、ネットで見つけたものです。正直に言いますと、素晴らしい文章だったわけではありません。心理的描写も少なく、当事者の方の体験談をつらつら書いてあるだけ。目で見たことをあるがままに記載してあるのみ。しかし、オチが凄まじかった。

読者をガツンと頭から鷲掴みにし、奈落の底に叩き付けるが如く、凄まじいオチ。決して特別な手法ではありません。真実を述べただけですが、一気にオトされました。

その話を読んでただ一言言えることは、人間というものは残酷だということです。今も昔も。

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チェリールゥさん、コメントありがとうございます。

口減らし、つんぼ揺すり……人間は飢えるととんでもないことをしでかすようです。生きていくためには仕方がないと、果たして本当にそう割り切れるものでしょうか。

人間というものは、実は記憶の改竄が出来るのだとか。自分に都合がいいよう、有利になるように記憶を改竄してしまうのだそうです。本人もまた無意識のうちに。よく、他人との揉め事で意見が食い違うことがあるのはこのためみたいですね。

中には、口減らしのためではなく、虐待されたがために亡くなったお子さんもいるのではないでしょうか。今となっては、何も分かりませんが。

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来道さん、コメントありがとうございます。

シックスセンス、懐かしい。一度だけ見たことがありました。

自分にしてみれば普段通りのささやかな日常が、ある日突然一変したら……怖いですね。人間は基本的に安定を望む生き物であり、例外を排除したがる性質ですから、突然の変化に対しての対応力に欠けていると思われます。

しかし。突然の変化すらも普通に受け入れてしまう人間もまた怖いんですよね。

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