ばあちゃんから聞いた話。
僕はよくばあちゃんちに遊びに行くんだ。ばあちゃんちに行くと、よく美味しいお菓子を出してくれる。ばあちゃんは僕の好みをよく知っていて、僕の好きな物を食べさせてくれるんだ。家にいてもすることなくてつまんないし、お母さんはお菓子をくれないし、全然遊んでくれないし。ばあちゃんちに行ったほうが断然面白い。
ばあちゃんは天気がいい日には縁側に座って日向ぼっこしてる。僕が隣に腰掛けると、「嗚呼、来たのかい」と言って、お菓子を持ってきてくれるんだ。今日は暑いからソーダー味のでっかいアイスキャンデー。それをかじっていると、ばあちゃんはぽつりぽつり話してくれた。戦争の話とかじいちゃんとの馴れ初めとか、いろいろ聞いたけれど。その中でも特に記憶に残っているのがつんぼ揺すりの話だ。
ーーー昔はねえ、平気でそういうことが行なわれていたんよ。
昔々のお話。ばあちゃんの故郷に伝わる話なんだよ。昔はね、兄弟が物凄く多かったんだって。5人6人は当たり前。多い時は7人とか8人とか。本当に多いと10人とかね。でもね、別に子どもが欲しくて生んだわけじゃないんだ。田んぼや畑を耕すには大勢の労力が必要でしょ。それでたくさん子どもが必要だったみたい。
あとは男の子欲しさ、っていうのかな。家の跡継ぎになる男の子が欲しくて、男の子が生まれるまで子どもを産んだりしてたみたい。女の子は家を出てお嫁に行っちゃうじゃん?だから、家を継いでくれる男の子___長男が欲しかったみたい。
___子だくさんは幸せだって言うけれど、現実は違うんだよ。
今みたいにユウフクじゃない時代だったから、その日に食べるご飯すらままならなかった。今では1日3回食べるでしょう?それが1回や2回だったりしたこともあるんだって。白いご飯なんて1年に1回くらいしか食べられなかったってばあちゃんは言ってる。ばあちゃんも5人兄弟の4番目だからね。あんまりユウフクとは言えなかったみたいだよ。
___ほら、箪笥の上。コケシが飾ってあるでしょ。あれはね、口減らしで死んだ子どもの供養のために作られたんだよ。
ばあちゃんちの居間には箪笥が置かれていて、大小様々なコケシが飾ってある。じいちゃんが旅行先で見つけて買ってきた物だ。ばあちゃんがたまに手入れしていたのを見たことがある。僕がまだ保育園に通っている時、ばあちゃんちでコケシを見つけてよく遊んでたんだっけ。でもね、コケシって玩具にしちゃいけないんだ。さっきも言ったけれど、昔は今よりもユウフクじゃなかった。たくさんの兄弟を抱えて、お父さんやお母さんは凄く苦労したそうだよ。食べる物がないんだもの。お腹が空いても、満足に食べさせてあげることすら出来ない。
だからね、口減らしっていうのが行なわれていたんだよ。口減らしっていうのは、簡単に言っちゃうと自分の子どもを殺しちゃうこと。口を減らす___子どもの数を減らして、他の兄弟や両親が生き延びられるようにすることにすること。特に男の子は重宝されたみたいだよ。家を継いでくれる長男は他のどの兄弟より優遇されるしね。あとは次男三男と、田んぼや畑を耕すのに労力となる男の子も優遇される。女の子はお嫁に行っちゃうし、男の子より体力がないって理由で、あんまり優遇されなかったって。
コケシは口減らしで死んだ子のために作られたんだって。コケシはね、本当は子消しって書くんだよ。ばあちゃんが言ってた。子どもを消しちゃうこと____つまり、殺しちゃうことだよね。その子達が迷わず成仏出来ますようにって想いを込めて作られたのがコケシの由来なんだってさ。
____つんぼ揺すりも行われてたねえ。ばあちゃんの故郷ではね、それすら当たり前のことだった。
つんぼ揺すりって知ってる?これはね、赤ちゃんを殺す方法なんだ。今もあるよ。今では揺さぶりっこ症候群って言うんだっけ。生まれて間もない赤ちゃんはね、強い力で揺さぶられると脳の血管が切れて死んじゃうんだ。だから、絶対に強く揺さぶったらいけないんだよ。
ばあちゃんの故郷では、生まれてきた赤ちゃんに障害があったり、奇形児____足が3本だったり、目がなかったりする赤ちゃんが生まれてくると、その子は凶子(マガゴ)って呼ばれて、忌み嫌われる。化け物とか言われて、ずっとずっと苛められる。その子を産んだお母さんも凶女(マガメ)って言われて、同じように忌み嫌われちゃう。障害や奇形がある赤ちゃんは、お母さんに責任があるって思われてたんだ。そんなことないのにね。障害や奇形は、お母さんのせいでも赤ちゃんのせいでもないって、ばあちゃん言ってるよ。運命だから仕方ないんだって。でも昔は、そんな風には考えられなかったんだね。
でね……その赤ちゃんは、つんぼ揺すりで殺されたんだ。でも、生まれて間もない赤ちゃんを殺したなんてテイサイが悪いでしょ。近所の人の目もあるしね。だから、あくまでも事故ってことにしたんだって。事故で急死したってことにして、遺体はこっそり始末したんだ。可哀想だよね。赤ちゃんは何にも悪いことしてないのにね。
つんぼ揺すりは鬼揺すりとも言われる。残酷極まりない卑劣な手段として伝わっているみたいだけど……本当にあったことなんだよ。もしかしたら、君のおじいちゃんやおばあちゃんも知っているかもしれない。
「やだねえ、怖いねえ。昔はそんなことがあったんだね」
僕はかじりかけのアイスキャンデーから顔を上げて、ばあちゃんを見た。ばあちゃんは黙って僕を見てたけれど、やがて言ったよ。
___お盆は過ぎたよ。早くお帰りよ。
作者まめのすけ。-3