「汀、変わったよねぇ」
講義が終り、私は友人たちとパフェを食べに来ている
「え?私変わった?」
そんなこと自分じゃわからなかった
「うん。1年ときは何て言うか、
高飛車なとこがあったよ
でも、2年から変わり始めた気がする」
現在、私は3年生である
「高飛車って…
私そんなんだったの?」
「うん。無駄に顔はいいからねぇ
そのせいでしょ?」
「無駄とか言うな~
別に良くもないよ」
「そんな台詞、前は絶対に言わなかったよ?」
……………………………………………………
「そういえば、汀さんって先輩とどうやって知りあったんですか?
学部も違うし、汀さんは文系で先輩は理系、
講義棟も全然違うのに」
ゼミ終りに美紗と一緒にファミレスに来ていた
彼女の言う“先輩”とは彼のことである
「美紗になら話しても大丈夫かな~」
誰にでも話せる話じゃない
つまり、不思議なことが関わってるってことだ
「私にならってことは、汀さんにも私みたいなことがあったんですか?」
「うん。
そのときに彼が助けてくれたんだ……」
「汀さんにはどんなことがあったんですか?」
「………“口裂け女”だよ」
……………………………………………………
~1年前~
7月、連日天候は梅雨としての仕事に勤勉だった
「ホント最近傘が手放せないよね~
汀今日の合コン来れるよね?」
「大丈夫。
ちゃんとした男いるんでしょうね?」
その日は夜に他の学部の人たちと合コンをすることになっていた
1年の頃には興味がなかったが、2年になり始めていってからというもの楽しさを覚えていたのだ
「大丈夫!期待しといていいと思うよ」
…………………………
…………
「かんぱーい!いやぁ、美人さんばかりだなぁ!
俺、鞍馬豪です!みなさんよろしく~!」
その日は3対3だった
ん~、悪くないけどパットしないなぁ
けど、ノリを合わせとこう
そう思い、適当に話をしていた
「夏だし!怪談でも話しますか!」
誰かがそんなことを言い始めた
怪談?アホらしい
そんなものに興味ないわ
「口裂け女って聞いたことあるよね?
大きなマスクをして、赤いコートを着て
私綺麗?って聞いてくるの
“綺麗じゃない”と言えば、鎌で切られ
“綺麗”と言えばマスクをとって顔を見せられて、やっぱり切られるの
この辺りでも昔にたような事件があったらしいよ
5人くらいの被害者が出たんだってさ」
「まじー?
にしても、赤いコートに鎌にマスクだなんて目立つのに警察はなにしてるんだ
って話よね~」
周りはそんなことを話して盛り上がっている
口裂け女ねぇ
そんな顔に産まれたら不運って言うか、憐れだよねぇ
とりあえず顔ですべて判断されるのに
性格が大事何て言うけど、
性格なんてのは始めはわからない
結局みんな顔でしょ?
そんな顔に産まれたら一生救いがないわ
整形だってお金がかかる、けど
顔のせいでまともに働くこともできないでしょうし
そんな顔じゃなくてよかった
なんて考えながら呑んでいた
合コンはろくに収穫もなく終わった
「汀どうだった?」
「なかなかよかったかなぁ」
嘘
解散したときには男の顔は忘れてしまっていた
ポツ…ポツ…
「あちゃー、やっぱり降りだしたか
汀傘持ってる?」
「あるよ。持ってないんでしょ?
一緒に帰ろ」
友人と二人、1つ傘のもと大通りを歩いている
もう一人の友人は電車で帰るため、別れ駅へと向かっていった
他愛もない話しをしながら歩いていると
向かいから、赤い服を着た人が歩いてくる
傘をさしているためよくは見えなかった
友人は見えていないのか、気にしてないのかわからないが
なにも言わなかった
赤いコート…口裂け女だったりして
ふふっ
途中で女性は曲がり顔はわからなかった
……………………………………………………
私は本屋でバイトをしている
本屋とは面白いものだ
どんな人がどんなものを読むのか
それがわかる
人のプライバシーを覗いてるようで悪い気もするが
どうしても好奇心がそそられてしまう
「アカデミア」…漫画
「夏の雪」…小説
「現代の都市伝説」…雑誌
「リリ」…ファッション誌
様々な人が買っていった
「もう上がっていいよ~」
先輩に声をかけられ
先に上がらせてもらった
その日のバイトも終り外に出る
今日も雨か…連日の雨でバイト先にあらかじめ置き傘をしていて助かった
帰るか…
赤いコート…
前に見たのとそっくりなコートを着てる女性が向かいからやって来る
その日も顔を見るまえに女性は曲がって行った
その日以来、私は頭のどこかに口裂け女のことがあった
私…綺麗?
鏡を見て唱えてみた
?!
一瞬、私の口が耳の付け根辺りまで裂けた
そんな風に見えた
驚き口を触ってみたが異変はなく
鏡にはいつもの私がいた
……………………………………………………
1週間後
バイトがあり
本屋にいた
ゴホッ
風邪をひきかけており、咳が止まらなかった
「続・現代の都市伝説」
前もこんなの買った人がいたなぁ
人気なのかな?
ゴホッ…
バイトも終り更衣室へと向かった
マスクマスクっと…
新しいマスクへと交換した
更衣室にある鏡を見てみると
赤いコートこそ着てないが代わりに赤い傘を持ち、大きなマスクをしている
まるで口裂け女だな
苦笑いが込み上げてきた
『ナ……………イ…』
なに…今の…
なにかが頭のなかで聞こえた気がした
家へ帰り鏡の前でマスクを取った
………………なに………これ………………
思わず自分の顔に触れてみると
見間違えじゃない……
口が………………裂けてる……………
いびつに口が裂けた私が鏡に写っていた
いやああああああああ!!
ああああ
あああ
ああ
あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女あの女
あの女だ…あの女が私になにかしたんだ
赤いコートの女…
あの口を裂けば
あの女を口裂け女に戻せば
私はもとに戻れる
戻れる
戻れる
戻れる
戻れる
頭のなかでなにかがはじけたような感じだった
包丁を鞄に放り入れ
真っ赤な傘を持ち、どしゃ降りの雨のなか
赤いコートの女を探しに飛び出した
どれくらい探し回っただろうか
探しても探しても見当たらない
今までどこで見かけた?
駅のそば、バイト先の近く…
踵を返しバイト先の方へと向かった
いない…いないなら…マッテイレバイイか
一時間ほど立ち尽くしていた
周りは私を避けるように歩いていた
………………………………
…………………………
……………………
………
いた
傘をさし、赤いコートを着ている
アイツだ…
殺せ殺す殺せ殺す殺せ殺す殺セ殺スコロセコロスコロスコロセコロセコロスコロスコロセ
こんな精神状態でありながら
どこか思考をちゃんとしている自分がいた
コロスならここじゃいけない
ここは人が多い
足早にどこかへと向かっている後をつけていく
見失わないようにと
公園?…
ここならば
雨の降る公園になんて人はいない
チャンスだ
あいつのかオを裂けバ私の顔は治る
鞄から包丁を取り出し
私に背を向けている赤いコートの女へ駆け出した
べちゃべちゃべちゃべちゃ
雨で濡れぬかるんだ泥が跳ね返る
コロス…コロス…コロスコロスコロスコロス
バサッ…ビリッ
女は背を向けたまま持っていた傘を私の方へとつき出してきた
包丁の刃は傘へ刺さり、布を引き裂いた
何?何なんだ?!
ドンッ!
傘にかくれて相手をよく見ることができなかったが
思い切り蹴り飛ばされた
ばしゃばしゃばしゃ!
蹴り飛ばされた私は後方へ飛ばされ転がった
蹴られたのなんて生まれてはじめてだった
ぐっ…
鈍い痛みが腹部を中心に体に広がっていく
何なんだこいつは
近くに転がっていた包丁を握り直し
襲いかかる
「あがあああああああ
お前のかオを裂けば私はああああ
もとに戻れるんだああああああ」
バン
折り畳んだ傘で私の腕は殴られた
痛い…痛い…痛い…
けど、包丁は離さない
ああぁ!
包丁を大きく横へ振り抜いた
「マジかよ…!?!」
シュッ…
私は相手の腕を切っていた
「いっつ………」
人を傷つけたという事実
が頭のなかに流れ込んできた
私は…私は…私は…
錯乱…思考がまとまらない…
なにかを考えようとしても何も考えられない
包丁なんてもう握っていられなかった
「おい!!!」
パァァァン!!!
思いっきり顔面を平手打ちされた
痛みと衝撃で錯乱してたことも忘れ頭のなかが真っ白になった
はじめて、前に立ってる
赤いコートの人の顔を見た
「…男…?!」
女だ女だと思っていた相手は男だった
「赤いコートの女だと思って襲ってきたんだろ?
悪いな、彼女はここにはいないよ
君…口裂け女だな」
色々なことが1度にありすぎて正直忘れてしまっていた
「いや…いやああああああああ!!」
うずくまってしまう
顔を見られたくない…
「落ち着きな」
彼は私の前へしゃがみこみ
頭に手をおいてくれた
「もとに戻してやる」
「え?」
「とりあえず座ろうか」
私は既に雨や泥にまみれてひどい有り様だった
こんな姿じゃ店には入れない
公園の屋根つきベンチへ座った
「もとに戻すにあたり、君は口裂け女ってものに向き合わなければならない」
彼は鏡を取り出し、私に渡した
「しっかりと今の自分を見るんだ」
嫌だ…嫌だ…見たくない
「見るんだ」
彼の気迫におされ鏡を覗いた
そこにはやはり、口の裂けた私がいた
「君はさ、口裂け女は憐れだと思ってたんじゃないか?
そんな顔に生まれてどうやって生きていくんだろうな
整形をしようにもお金がかかる、そのお金はどうやって稼げばいいんだろうな
お金はなんとかなっても
子供のうちは整形なんてできない、どんな子供時代を過ごしたんだろうなってさ」
「……………」
何も言い返せなかった
「どうだったよ?
自分がなってみてさ」
「どうしていいかわからなかった
人前に出れない。何を思われるのか、なにか言われてるんじゃないか?周りの人間すべてが怖かった
私のせいじゃないのに、たまたまなってしまっただけなのに」
「だろうな、そんな人達がさ
憐れまれたり、蔑まれたりしたらどうよ?
腹が立つさ、“私のせいじゃないのに”ってさ
口裂け女ってのは、容姿について女性を見下す気持ちや
容姿について思い詰めた人達の気持ちが作ったものなんだ
誰かに言ってもらいたいんだ“綺麗だよ”ってさ」
「嫌な女だね、私」
「そうだな、嫌な女だな
でも、前よりは良くなったんじゃない?
憐れまれたりする方の気持ちを理解できたんだしさ」
あのとき
『…ナ……………イ…』
『…ナニガオカシイ…』
たぶんそういってたんだよね?
おかしくないよね…
なにもおかしくなんかない
辛いよね…
ぶつけようのない怒り、不満、不平…
どうしていいかわからなくなるよね…
涙が自然と溢れてきていた
止まることなく流れていた
どれくらい泣いただろう
彼は隣に何も言わず居てくれた
「…綺麗だよ」
「え?」
「君は綺麗だよ
そうやって、涙の流れた君はもう大丈夫だ」
また涙が溢れてきた
私の涙だけじゃない
もっと多くの人達の涙も一緒になって溢れてきているようだった
「もう一度鏡を見てみな」
そこにはもとの私が写っていた
「ありがとう…」
「どういたしまして、鷺沢 汀さん」
彼は笑っていた
「え?どうして私の名前?」
「本屋で名札つけて働いてるだろ?
他にも聞きたいことあるでしょ」
ある
『どうして、赤いコートを着ていたか?』
彼と私の声が重なった
「そもそも、俺は君が口裂け女になってきていると気づいていたんだ
はじめはほっといても大丈夫だと思った、だけど
本屋で見かける度にひどくなっているように感じていたんだ
悪いけど、1度だけ君の後をつけたことがある
道中で雨の中、赤いコートの人を意識しているのがわかってね
ピンときた、君は赤いコートと口裂け女を意識しているってさ
そして、今日本屋で見たときは、俺の目には君は完全な口裂け女に見えていたよ
何かが起こるなら今日だと思ってね
赤いコートを持ってはってたのさ、
そしたらすごい形相の君が来た、そしてコートをはおって
君をここへ誘い込んだのさ
ちなみに、君の見ていた赤いコートの女性は君のバイト先の人だよ」
「そうだったんだ…」
「こんな時期になぜコートを着てたのか聞いてみたら
『レインコートの代わりのつもりで着てるんですよ』だってさ
でも、もう大丈夫」
「あ…腕!!
ごめんなさい…ごめんなさい…
早く病院に!」
彼は腕に布を巻き、血が滲んでいた
「大丈夫だ、浅いし
あとで病院行くさ」
「でも!私のせいで!」
「大丈夫だ!
申し訳ないと思うなら、別の形でお詫びをしてもらおう」
「私にできることなら…
でも、どうして私を助けてくれたんですか?」
「ん?そうだなぁ、気まぐれだ
んじゃぁな」
「あの!名前!
名前教えてください!」
「麻霞 悠志 だ」
……………………………………………………
「これが、彼との出会いだよ」
「へぇ、そんなことがあったんですねぇ
先輩へのお詫びってなにしたんです?
もしかして、体で…みたいな?」
「まっさか~、彼は何も言わなかったんだ
でも、私もさすがにそれじゃいけないと思って、食事を作ったりしたよ
はじめは、『そんなことしなくていい』って言われたんだけどね」
「どうやって先輩を探し出したんですか?」
「名前は聞いてたからね、合コンとかで知り合った人達に片っ端に聞いて探し出したのよ」
「すごいなぁ~」
懐かしいや
まだ1年なのに…
色んな経験をしたな
まだまだこれからもするだろうなぁ
「美紗、帰ろっか」
私たちは店を出ると雨が降っていた
もう、私の目には赤いコートの女はうつらない
作者clolo
今回もまた長くなってしまいました( ̄▽ ̄;)
読んでいただきありがとうございます!