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中編7
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騙す

言葉には力がある、それは言霊と言われたりもする。それぞれの言葉、それぞれの話の中には世界があり、時には伝え行く媒体である“人”を飲み込んでしまう。

俺は、今までいくつもの事柄、言柄に関わってきた。

そんな俺でも、始めての出来事だった。

……………………………………………………

♪~♪~♪~

「もしもし?」

昼の3時、汀からの電話だった

その日は講義もなく家にいた

『もしもし…繋がった…』

聞き間違いだろうか、震えてるような、今にも泣き出しそうなそんな声だった

「汀?どうした?」

『よかった…よかった…あのね…』

「ん?」

『ここ…どこだろう…?』

「は?なに言ってんだ?」

『あのね…』

……………………………………………………

以降は汀から聞いた話である

その日、朝から友人に会いに隣の町へ行った。

久しぶりに会った友人と食事をし、色々なことを話し

夕方から友人がバイトがあり早めに別れ、帰ってくる為に電車に乗った

いつも利用する駅であり、いつものように電車に乗った

朝から出掛けたため、疲れもあり少しの時間だったが、うたた寝をしてしまったそうだ

目が覚めると、乗り過ごしたのではないかと思い電車を急いで降りてみた

しかし、そこは全く知らないところだった

無人駅、駅員も利用者も誰もいない駅

人を探してみたが誰もいない。自分一人っきり

世界が自分をおいてどこかに行ってしまった。そんな風に思えた

誰にかけても繋がらない、友人や親誰にも繋がらない

そこで俺ならばと、かけてみると繋がった

そして今に至る

……………………………………………………

「そうか」

『私ね、ここがどこかわかった』

「俺もわかった」

“如月駅”

俺も汀も考えてることは同じだった

「本当に、よくもまぁそこまで巻き込まれるもんだ」

『自分でも嫌気がさしてるよ~…。私、どうなるのかな?…』

弱気になってるな…まだ時間はたいして…

「汀、そっちは今何時だ?」

『3時15分だよ』

「よかった、時間のずれはないみたいだ」

少しの沈黙

なんと言っていいか、言葉が見つからない

俺は…汀を助ける術を知らない

…………

………

……

『私どうなるのかな…』

泣くのをこらえてるのだろう

泣きまいとして声が震えている

『悠志…助けて…』

頭の中にあった色々なものが一瞬で消えた

「待ってろ…必ず助けてやる」

『うん…』

……………………………………………………

とは言ったが、どうする…どうする…

こんなのは始めてだ

人の身体に影響を及ぼすものはあったけど

人を取り込み空間を作り出すなんて

[あのぉ]

部屋にある、ドールハウスから声がする

「メリー、どした?」

[この前の猿夢みたいなのとは違うんですか?]

以前、汀についていたメリーさん

消してしまうには心が痛んだ、ゆえにこうして部屋に置いている。話せるし、歩ける、考えられる、だからなおさら消さなかった。

「ちょっと違うんだ。猿夢の場合は、美紗の身体自体はこちらにあったから出来たことなんだ。だけど、今回は違う、汀の身体自体があちらがわに行ってしまってる。俺が直接どうにかできないんだ」

考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ

こうしてる間にも汀は…

[如月駅の最後って確か…]

「帰ってきたかはわからず終いだ。後に帰ってきたと、書き込みがあったけど信憑性かけている。釣りと扱われている。…駅に行ってみよう、何か手がかりがあるかもしれない」

急いで汀が使った駅へと向かった

ダメだ…何かしら手がかりがあるかと思ったんだけどな

くそ……

[どうするんですか…?]

車に戻った俺は助手席にいるメリーに駅になにもなかったことを話した

ゴソッ

携帯を取り出した

16:30か…

[汀さんにですか?]

「あぁ」

~♪

『もしもし…』

解決策が見つかったか、なんて聞いてこない

「汀、俺のこと信じられるか?」

『…うん。信じられるよ…信じてる!』

「そうか。今何時だ?」

『ん?今17:30だよ』

「了解。またかける」

『うん。わかった』

マジかよ…

「17:30…時間がずれてきてる」

[こっちとむこうの軸がずれ始めてるってことですか?]

「たぶんな。そのうち、電話も繋がらなくなるだろうな。そうなったらアウトだ…」

ふぅ………

「手がないわけじゃないんだ」

[でも、あなたが始めからその“手”ってのを使わなかったってことは何か使いたくない理由があるんでしょ?]

「鋭いな、その通り…」

[その手っての話してくれますか?]

「簡単に言えば………汀を騙すんだ」

[騙す?]

「ことの発端は、汀が“終わりのわからないverの如月駅”を読み具現化したことだ。

そこで、“無事帰ってくるverの如月駅”を読ませて再具現化…いや、再構築と言った方がいいのかな。つまり、そういうことをしようかと」

[使いたくない理由は?]

「上手くいかなかったら…半端な具現化が起これば、汀がどうなるかわからない。下手すればどこかわからない、変なところへ消えてしまいかねない…」

[汀さんが100%信じてくれれば、“帰ってくるverの如月駅”で再構築されて、汀さんが帰ってこれる。ってことですか?]

「そのとおり。流石メリーさんだな」

[何が理由でその手を使わないんですか?]

「失敗したら汀が…」

[違いますよね。使わない本当の理由は、口では何と言おうと、実はあなたのことを心の底では信じてなかったら

ってのが怖いんでしょ?]

「本当にズバズバ言うなぁ」

図星をつかれ、思わず苦笑いが込み上げてきた

[大丈夫ですよ。だって、誰もいない世界でたった一人にされて…そんな中で連絡つくのはあなただけ、私ならあなたの言葉1つ1つに希望をのせてすべてを信じますよ。…だって、信じるしかできないんだもの。

それに、使い古された言葉だけど…汀さんはあなたが思ってる以上にあなたのことを信じてると思いますよ]

メリーは俺見て微笑んだ

「汀を騙すくらい、俺には造作もないことだ」

好きなアニメの台詞を真似てみた

「やってやる…急いで戻ろう」

家に戻る最中

信じられるよ…信じてる!

汀の声が

汀の言葉が

頭のなかに響いた

……………………………………………………

[具体的にどうするんですか?]

「スレを作り上げるんだ。そして、出来上がったものを汀に読ませる」

~♪~♪~

「もしもし、麻霞です。お願いしたいことがあります」

1つをでっち上げるには、それなりに手がいる。俺1人では手が足りない、時間がない

人海戦術だ

カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ…

――――――――――――――――――――

あのぉ…いいですか?

どうぞ

ここどこでしょうか…?

なになに?

帰れなくなったんです…

迷子?

………………………………

………………………

………………

………

帰れました…帰れました…帰れました!!

ありがとうございました!

――――――――――――――――――――

できた…

時間は…21:10…

あっちでは何時なんだ…

[(あ…)]

~♪~♪

「汀、今からURLを送るぞ。知ってるか?如月駅ってのは帰ってこれた話もあるんだよ」

あとは、汀次第……

……………………………………………………

メール…

送られてきたURLへ繋いだ

これ…

あの人が送ってきたんだ

意味がないわけない

だって、あの人は間違ったことはしないから

信じられる

私はあの人を信じる

…………

……

この人は帰れたんだ

ふぅ…

私は目を閉じた

キィ―――――

っく…激しい耳鳴り

たまらず目を開けた

なんだったの?

プォーン―

電車…

コツ…コツ…

シュー…

誰もいない車内入り口側の席に座った

なんだろう…眠い…ダメだ…瞼が…

キー…ガタン…

……………………………………………………

電車…

汀…!

思わず走り出していた

……………………………………………………

着いたの?…

私は電車を降りた…

ここは?…

……………………………………………………

電車からはちらほらと人が降りてきた

違う…これはただの最終電車…

汀は…

はっ………

しまった……俺はミスをした……

「なんてミスを…」

帰れたとは書いたけど…

どこに帰れたかを書いていない…

不完全なものだった…

[どこに帰れたかを書き忘れた、って思ってるんでしょ?]

いつのまにかメリーが後ろにいた

[大丈夫ですよ、書いときましたから。“始めにいた駅に戻りました”って]

「メリー…お前ってやつは…」

メリーを小脇に抱えて車に飛び乗った

車を飛ばすこと30分

「メリー、汀に電話かけてくれ、繋がるか?!」

メリーへ携帯を渡した

[呼び出し音は鳴ります]

汀が使った駅に着いた

バンっ

ドアを乱暴に閉め、ホームへと走る

時間も時間なため、人はいず改札口を飛び越えた

はぁ…はぁ…はぁ…

「よぉ……こんばんわ」

メリーがかけた携帯を耳にあて目の前の相手へ話しかける

『…こんばんわ』

「よく俺を信じたな」

『信じるって言ったでしょ?』

「言ったな」

『ありがとう』

「どういたしまして」

携帯の通話を終了した

「…おかえり」

『ただいま!』

汀を車にのせ、家と送り

長い一日が終わった

Concrete
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