中編6
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人が日常の中での情報源は視覚、すなわち眼から得られるものが80%と言われている。“眼”にも様々“千里眼”“心眼”“慧眼”といったものがある。少しずれるが、“霊を視る”“邪視”といったものも“眼”の力だろう。また、人には“良いもの”“悪いもの”を潜在的に判断することができるとも言われる。

……………………………………………………

連日続いた雨が終わり、本格的に真夏日というものが始まろうとしていた。

“本年度の交通事故における負傷者8人 死傷者0人 歩きスマホや危険運転をやめ、歩行者も自動車も十分に注意を払いましょう”現在の事故状況を公表し、死傷者0人記録を途切れさせまいとやっきになっている警察署の前を通りかかっていた。

「私パチンコってのをしてみたい。」

また、この子は変なことを言い出して…

「へぇ、行ってみれば?」

「ああいうところに女一人で行くのはちょっと…ってわけで一緒に行ってください!」

「なんで俺が…」

「だって、パチンコできるでしょ?」

「まぁ、やることもあるけど。」

はぁ…たまにはいいか。断っても、結局一人で行くだろうし、ついて行くか…

「わかった、行こうか。」

「ありがとう!」

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店内はどういう表現をしていいかわからない、とてもそうぞうしい…いや、うるさい

いつも通りだった。

とりあえず、負けても傷は浅い1円パチンコをさせることにした。

「台ってどれを選べばいいの~!?」

周りがうるさいためよく聞こえず、聞こえた言葉を繋ぎ合わせた。

「とりあえず、ここから奥までの中から好きなのを選びな。」

「えー?何?」

聞こえやしねぇか…。いつもより近くで伝え直した。確率は1/99、甘デジと呼ばれる台を勧めた。ちなみに俺は“空物語”と呼ばれる昔から続く人気シリーズをよく打っている。最近の台は保留玉からのステップアップがほぼ必須となっているが、このシリーズは“鳥群”というものが現れれば熱いという分かりやすい仕様になっており、また眼を離しているうちになぜか当たっているということもある。俺が台に座り打っていると、ふらふら見回っていた汀が俺の隣に座った。

種類が多すぎてわからない!君が打っているから同じのにすることにした!とのことだ。

どうしていいかわからず1000円札を握っている汀にどこに入れるかを教え、ハンドルの弾き加減を調整した。

来た!

400円分を使いきる辺りで俺は当たりを引き、汀の方を見ると1000円札をまた取り出そうとしていた。上皿の玉が無くなると1000円分を使いきったと思ったらしい。汀の手を制止し、台の“玉貸”を押してあげると“おぉ~!?”と驚いていた。玉が出終わり、液晶が6となっているところを指差し

「これが0に、なるまでが1000円分だからな」

「ありがとう!」

と耳元で言われ驚かされた。

俺の台が連チャンし続いていると、汀が興奮して俺の肩をバンバンバンバン

「当たった当たった!!」

よほど嬉しかったらしい、凄く目が生き生きとしている。

……………………………………………………

俺は3連チャンで終わり、しばらく打っていると当たりをやっとこさ引いた、汀はまだまだ続いていた。

ビギナーズラックってやつか?調子良いなぁ。と、煙草に火をつけまた自分の台に集中した。

……………………………………………………

…………まじか…この子…15連チャンもしやがった…

俺は持ち玉がなんとか2400円分だけ残し、切り上げることにした。

「やめるの?」

俺が玉を引くのを見た汀が声をかけてきた。

「俺はこの辺が引き際だと思ってさ」

「それなら私も…」

と俺の真似をし、玉を引いた。この後も続くかもと深追いをしない辺りがこの子っぽい。カードをとり、二人でカウンターへと向かい交換し、換金所へと行った。

「おねぇちゃんすごかったね~」

換金所のところで60歳くらいの男に汀が話しかけられていた。

「ビギナーズラックってやつですかね?始めてパチンコしたんですけど、負けなくてよかったです!」

と笑顔で相手をしていた。

「良いところで止めたよ。あれ以上打つと、今度は逆に全部持っていかれてたよ~。あんちゃんもあそこが引き際だったね。」

「どういうことですか?」

汀が尋ねた。

「二人の台は、赤くなってきてたからね~」

赤く?

「赤く?」

汀も同じことに疑問を持ったらしい。

「二人が打ってるうちは光ってたんだけどね。連チャンするにつれて、赤みを帯びてきていたのさ。終わったときにはだいぶ赤かったからね。わしにはたまに見えるのさ、良いものと悪いものってのが。」

「見える?」

「そう、始めは小学生の頃だ。給食に出てきたものが赤く見えてね。どうも嫌な感じがしたから食べなかったのさ。先生にはなぜ食べないんだとしこたま怒られたが、頑として食べなかった。そうしてるうちに、給食を食べた友達や先生が全員食あたりで運ばれてな。食べなかったわしは無事だったのさ。その時に、あぁあの赤はわしにとって悪いって言う信号だったんだなって思ったのさ。逆に、親と歩いているときに交差点にさしかかると、道が光っててね。そちらに向かうと宝くじがあり、親に買うように勧めたら100万円当たったのさ。」

「それならパチンコだといつも勝てるんじゃないですか?」

「いやいや、そういうわけでもないのさ。“たまに”見える日があるんだ。だから、光ってない台を打って勝つこともあるし、反対に負けることだってあるのさ。もちろん、勝つのが嬉しいし、楽しいけど。わしにとっては勝つだけが楽しみじゃないのさ、この歳になると勝つか負けるかの刺激がないと毎日退屈すぎる。でも、光ってる台が合ったらもちろん座るけどな。そんじゃぁな、お二人さん。」

はははっと笑いながら男の人は去っていった。

「ホントかなぁ?そんなことってあるのかな?」

「ん~、嘘を言ってるようには見えなかったな。俺たちに嘘を言う理由もないしな。俺はそういう力ってのが合っても不思議ではないと思うぞ。俺は幽霊信じてる質だし“霊が見える”って人も信じてる、“相性”や“運”ってものが見える人がいたっていいと思うしな。」

「それもそうかもしれないねぇ。それに、私も世間的に“変わったモノ”に、触れてるからなぁ。」

「夕飯食べて帰ろうぜ、奢るよ。」

「私の方が勝ったんだし、私が奢るよ~」

「いいよ、俺は泡銭は貯めずに使ってしまうようにしてるんだ。」

「なんで?」

「働いて得た金じゃないからね。働いて稼いだ金は大切に使うけども、舞い込んできた金は使ってしまうようにしてるってだけさ。だから行こうぜ。」

「んじゃぁ、奢ってもらおうかな~!」

二人でファミレスへと行った。

……………………………………………………

本格的に真夏日が始まり、朝から美紗のバイト先に遊びに行こうと、汀を車に乗せていた。

「また、信号に引っ掛かっちまったなぁ。」

交通量の多い交差点。混むことが多く、信号を越えるまでに何度か赤になることがあった。

「ねぇ?あの叔父さんこないだの人かな?」

交差点の信号待ちをしている男がいた。

「あぁ、そうだろうな。」

「パチンコかな?勝つといいねぇ。」

「そうだな。」

青信号に変わり発信した。

……………………………………………………

美紗を冷やか…会いに行った帰り、行きに引っ掛かった同じ信号でまた止まってしまった。

横断歩道のそばに行きに見たのと同じ場所に男がいた。

「あれ?パチンコ終わりかな?またあのおじさんだ」

なんだか、思い詰めてるようだな…

あぁ…そういうことか

今日は“たまに”の日なのだろう。

あの人は今どんな風景が見え、何を思ってるんだろうか…

青信号に変わり、しばらく車を走らせていると

救急車とすれ違った。

……………

………

“本年度の交通事故における負傷者8人 死傷者1人 歩きスマホや危険運転をやめ、歩行者も自動車も十分に注意を払いましょう”

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