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明るい部屋。
フカフカのソファー。
目の前に置かれたティーカップとケーキ。
そして、微笑みながら此方を見ている三島さん。
絶体絶命。正に絶体絶命である。
蛇に睨まれた蛙ーーーーーーそんな言葉が頭に浮かび、僕は改めて溜め息を吐いた。
「今更ですが、御挨拶致します。《うなずき庵》の荷物預かりサービスです。御預かりしていた物を御返ししに参りました。どうぞ御確認を。」
隣に置いていた風呂敷包みを取り出し、開く。
中から現れたのは、渡された時と変わらない黒い重箱。
「此方で間違い御座いませんね?」
「うん。そうだね。」
三島さんが小さく頷いた。
本当なら、此処で関連商品やお勧めの品を売り込むのだが、今回は流石にパスさせて貰う。
「本日はご利用有り難う御座いました。其れでは、今回は此れで失礼させていただきます。」
此れで仕事はおしまいだ。
一礼をして立ち上がる。
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「ねぇ。」
「・・・・・・はい?」
三島さんが、テーブルの上に置かれた重箱を指差した。
「此の箱の中に何が入っているか、知りたくない?」
中身は空だ。店長と確認した。
「知りたくない?ねえ、何が入っていると思う?」
なのに、此の言い様は何なのだろう。
まるで中に何かしら入っているのだとでも言いたげな・・・・・・。
三島さんが、グッと身を乗り出して僕を見上げる。
「君は、何が入っていると思う?」
何だか無性に怖くなって答える。
「・・・何も、入っていません。」
「どうかな。」
「今回配送した荷物は、配送前に一度店長と中身を確認してあります。何かが入っている訳がありません。」
「本当に、断言してしまっていいの?」
「何をですか。」
「《何も入っていない》なんて。」
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カタリ
小さな音が、重箱から聞こえた。
「此れは、子供を入れる箱なんだよ。」
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飢饉になるとね、自分の子供に此の箱を持たせて、隣近所の中から一軒に、お使いに行かせるんだ。
其れを一斉にやる。子供の居る家同士でね。
嗚呼、勿論重箱の中身は空だよ。
・・・さて、どうしてだと思う?
・・・・・・
・・・・・・・・・
言いたくない?
其れとも、単に考えられないだけかな?
・・・・・・殺す為だよ。
《口減らし》って、君は知って・・・いや、どうせ聞いても答えないんだろうな。
知ってることを前提にして話すよ。
小宮寺が知ってるだろうから、知らなかったら後で聞いてみるといい。
話を進めようか。
・・・お使いに行かされた子供は帰ってこない。
行った先の家で殺されるんだ。
殺されて、骨を自分が運んできた箱に詰められる。
其れで、元の家に返されるんだ。
・・・そうそう。肉。
子供の肉はね、行った先の家で食べられてしまうんだよ。
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其処で三島さんは、心底嬉しそうに顔を綻ばせた。
「自分の子供は殺せないし食べられないのに、他人の子どもは殺せるし食べられる。極限まで行っても、人間の倫理観というのは働くものなんだろうね。歪な形になったとしても。」
そして、皿に添えられていたフォークを取り上げ、徐にクルクルと回して弄ぶ。
「・・・貴方は、何が言いたいんですか。」
「君は本当に嫌そうな顔をするなあ。まぁ、此方としては願っても無いことだけれど。」
三島さんが、スッとフォークを此方に向けた。
「只、一つだけ忠告を。」
「・・・はい?」
「此の箱の前で、あまり食べ物を残さない方がいいと思うよ。」
僕に向けられたフォークの先が、其のまま真下に下ろされる。
指し示されたのは、一口も手が付けられずに残されたケーキと、此れまた、全く口にされずに冷めた紅茶。
三島さんの目元が愈細められる。
「飢饉で死んだ子供。しかも、此れは使われたのが一人じゃなくてね。中に込められた思いも強い。・・・言いたいことは、分かるかな?」
僕は改めてケーキを見た。
目にも鮮やかな赤いソースが掛けられていて、其れは恰も・・・
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「嗚呼、君は本当に嫌そうな顔をするね。」
三島さんが、もう一度僕に笑い掛ける。
僕は何を言うこともなく、差し出されたフォークを手に取った。
作者紺野
僕の文章力が圧倒的に足りていないから!!!
こんな時間をかけて頑張っても!!!
気持ち悪さが100分の1も伝わらない!!!!!!!
因みに此の後僕は、店長に派遣された人畜無害な方のロリコンに無事救助されました。
コメントのお返事、遅れて申し訳御座いません。
話を書いている途中は返事を書くことが出来ないんです。