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トントントントン……
トントントントン……
………………
眩しい朝の光で目を覚ました俺は、重く感じる体をゆっくり起こしてトイレへ向かった。
………………
トントントントン……
トントントントン……
………………
台所では彼女が朝飯をつくってくれている。
ピンクのエプロンを身にまとい、黒髪をまるく束ねている彼女の後ろ姿が見える。
用をたしながらゴホゴホと咳をする俺。
一昨日から風邪ひいちまってるんだ。
あ~だりぃ……。
手を洗ってもう一眠りするか、とあくびをしながら部屋へ戻ろうとすると、彼女の声が聞こえた。
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「風邪大丈夫?はい、風邪薬。」
ミネラルウォーターと薬をくれる彼女にありがとうと言い薬を飲んだ俺は部屋に戻ってまた眠りについた。
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………………
彼女とはもう2年以上のつきあいになる。
結婚を前提に、と俺から告ったんだ。
顔を真っ赤にしながら薔薇の花束を渡したんだ(笑)
今思えば恥ずかしい(笑)
同じ職場の彼女はとても気が利いてて、会社の女社員の中でも一きわ目をひく存在だった。
彼女からのOKをもらったとき、俺は勝ち組だぜ!って思いきりガッツポーズしながら同僚たちに自慢してやったよ(笑)
そんときの同僚たちが悔しがる顔は一生忘れねぇだろうなぁ(笑)
人生薔薇色とは俺のことを言うんじゃね?(笑)
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毎日家事をこなしてくれて、俺が残業で遅くなっても温かい飯と風呂を用意してくれてる。
俺より早く起きて朝飯をつくってくれる。
家事をすべて済ませてから俺より遅く寝る。
他の男たちが羨ましがって当然の女を俺は自分のものにしたんだ。
まったく、幸せすぎて困っちまうよ(笑)
………………
目が覚めた。
彼女が朝飯をつくる音が聞こえている。
起きようとすると、さっき起きたときより体が重い……。
頭もボーッとする……。
「くそ、風邪がひどくなりやがったか?
まぁいい、どうせ休みだし朝飯ができるまで横になっていよう。」
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………………
ガーーーッ
ガーーーッ
………………
ミキサーの音だ。
最近運動不足の俺を心配して、彼女は野菜ジュースをつくってくれるようになったんだ。
毎日おいしいから毎日楽しみなんだ。
なぁ?気が利いてるだろ?(笑)
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………………
グツグツ……
グツグツ……
………………
お湯が沸騰する音だ。
音が聞こえるたび今日の朝飯が楽しみになってくる。
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………………。
………………。
………………。
………………。
………………。
………………。
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音がしなくなった。
朝飯できたのか?
いつまでも横になっていると音が聞こえはじめた。
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………………
ジャー、カチャカチャ……
ジャー、カチャカチャ……
………………
皿を洗う音だ。
いつもは2人で飯をくうけど、休んでる俺を心配して先に飯を済ませたようだ。
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………………
……ガチャ。
………………
扉が開く音がして顔を動かすと、彼女が部屋に入ってきた。
何も言わず黙ったまま彼女は俺に近づいてくる。
風邪がまた更にひどくなって今度は視界がぼやけてきやがった。
ぼやけた視界の中で彼女の右手に光る何かが見えた。
体が全然動かせない。
本当に風邪か?
どうもおかしい、薬飲んだのに……。
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………………
グサッ……
グサッ……
ザクザクッ……
ザクザクッ……
………………
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柔らかな何かを裂くような鈍い音が聞こえる。
彼女が光る何かを何度もふりおろす。
何も感じず何もできず俺のぼやけた視界は黒く狭くなっていく。
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「ごめんね……
好きな人ができたの……
だけどあなたは別れる気はないでしょ……?
だからこうするしか無かったの……」
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震えるようなか細い声を聞きながら俺の体は真っ赤なトマトジュースで染まっていった……。
作者退会会員
新作です。
楽しんでもらえるとありがたいです。