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中編7
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一軒の空き家

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私の名前はアヤ。

学校に通いながら、コンビニのアルバイトをしている。

同じ学校で出会ったタケシという彼氏がいる。

ある日学校が休みだからと、タケシと二人で出かけることに。

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近所の喫茶店やファミレスで食事するのがほとんどだから、たまには隣町まで行ってみよう!と提案した。

車の免許を取ったばかりで慣れない運転をするタケシに、慎重にね!と言いながら隣町へ向かう。

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「さて、どこへ行こうか?」

隣町まで来てみたはいいものの、肝心の目的地を決めていない。

とりあえず走ってればいい場所が見つかるかも?と人通りが多そうな道を走りはじめた。

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ビルや病院、高層マンションなどが建ち並ぶ道を走っていくと、道がだんだん細くなり古い民家や空き家ばかりのところに出てきてしまった。

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「戻った方がいいみたいだね(笑)」

と来た道を戻ろうとしたとき、ある建物が目に入る。

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一軒の空き家だった。

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あまりにも立派な日本家屋につい見いってしまう。

表札はなく、庭も管理されていないのか雑草が生い茂っている。

空き家であることが勿体ないと思うくらい綺麗な家。

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「ねぇ、入ってみない?」

笑顔で言う私に、タケシはやめとけと言う。

「ちょっとくらいいいでしょ?」

好奇心を抑えきれないでいる私にタケシは呆れながらも、ちょっとだけだぞ!と言ってくれた。

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「ごめんくださ~い!」

「誰もいねぇよ、空き家なんだから」

私は笑いながらだよね~(笑)と言って玄関を開ける。

鍵がかかっていない玄関はガラガラと音をたてて開いた。

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中は以外と綺麗で、机や壺が部屋に置いてある。

土足のままあがり、一つ一つ部屋を見て回る。

外の光が雨戸で遮ってあるせいで、昼間でも暗い。

私とタケシは携帯の明かりを頼りに更に奥へ進んだ。

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「もう気は済んだか?」

「ん~、もうちょっとだけ」

「まったく……」

タケシは呆れながら周りを見る。

「本当に誰も住んでないのかなぁ?」

「気味悪いこと言うなよ、早く帰ろうぜ」

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長い時間いると、携帯の電池が切れてしまった。

「あ~ぁ、もうちょっと居たかったのに~」

携帯を鞄に入れ、じゃあ帰ろうか?とタケシの方を向く。

「タケシ?」

呼んでもタケシは返事をしない。

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「どうしたの?」

タケシは私の声に気づくと、突然私の手をつかんで玄関がある方へ歩きだした。

明らかに様子がおかしいタケシ。

名前を呼んでも返事をせず、私の方を見向きもしない。

「タケシ、急にどうしたの?」

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「後ろを見るな!

黙って前だけ向いてろ!」

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その言葉で黙る私。

玄関から出て車に乗り込むと、タケシはシートベルトをしないまま車を発進させた。

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何も言わずに車を運転するタケシ。

よく見ると手が震えている。

額には汗が。

タケシに何があったのか聞きたくても聞けないまま、私は助手席に乗っていた。

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いつもならタケシが家まで送ってくれるが、今日は一人で帰るからと断った。

するとタケシが、今日は俺の家に泊まれと言いだした。

断ろうと思ったが、分かったと言ってタケシの家に入る。

玄関の鍵を閉める音がする。

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タケシは慌てた様子で、家にあるすべての鏡に新聞紙をはる。

私はその様子を見ているだけ。

何も言えない私はイスに腰をおろした。

新聞紙をはり終えたタケシは私に妙なことを言いだした。

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「明日から学校はしばらく欠席しろ。

鏡を絶対に見るな!

まだ断定はできないが、お前は体調を崩すかもしれない。

俺が何を言ってるのか分からないと思うが、少しの間苦しい思いをする覚悟をしておいてくれ!」

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そう言うとタケシはどこかに電話をかけに行った。

電話を済ませて戻ってきたタケシに、分かるように説明してと頼んだが何も教えてくれなかった。

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タケシが夕飯を用意してくれたが、疲れたから要らないと言って早めに寝ることに。

今日はいつも以上に疲れた。

体を重く感じながら横になると、すぐ眠りについた。

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うぅ……

苦しい……

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苦しい……

たすけて……

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「アヤ!!」

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目を覚ますとタケシがいた。

心配そうな目で私を見ている。

悪い夢でも見たのか、私はうなされていたらしい。

身体中が汗でびっしょりに。

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「大丈夫か……?」

心配するタケシに、大丈夫と言って起きようとしたが。

なぜか体を石のように硬く感じる。

金縛りではない。

起きようとするが、体がズッシリと重い。

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思わず声がもれる。

頭が痛い。

風邪でもひいたのか?

私は眠れないまま朝を迎えた。

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めまいがする。

吐き気がする。

何も食べてないのに。

立つことがつらくなってきた。

フラフラしている私に、タケシは寝てろと言う。

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次の日も症状はひどくなる。

あぁ……

頭が割れそうに痛い……

肩や背中に痛みを感じる……

何なのこれ?!

薬を飲んでも全然効かない。

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症状はひどくなっていくばかりで、とうとう嘔吐まで繰り返すようになった。

だけど何も食べてないせいで胃液ばかりを吐いてしまう。

タケシがまたどこかに電話をかけている。

早くしてくれ!まだなのか?!と声が聞こえる。

一体何が起きているの……?

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私死ぬのかな……?

意識が朦朧としだした。

たった一日、二日でゲッソリ痩せてしまった。

もう苦しむ気力もないくらい体力が奪われた。

私の名前を必死で呼ぶタケシの声に返事もできず、私の視界は暗くなっていった……。

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誰かの声が聞こえる。

誰?

一人じゃない。

誰なの?

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私はお堂のような場所に横たわっていた。

声が聞こえる方を見るとタケシがいる。

それともう一人、知らないおばあさん。

なぜかおばあさんはタケシに怒っている。

タケシは頭をさげて何度も謝っている。

何か悪いことでもしたの?

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私が目を覚ましたのに気づいた二人は、話すのをやめて私に近づいてきた。

おばあさんはまだ怒っている。

一人でブツブツ何かを言っている。

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「まったく!

厄介なもんを連れてきよって!

恥を知れ恥を!!」

「ごめんなさい!

まさかこんなことになるなんて……」

「言い訳するな!!」

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おばあさんは座布団を敷きながら怒鳴る。

タケシが私に言う。

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「アヤ……

もうちょっとだけ我慢してくれ。

もうすぐ元気になれるから……」

タケシは私の体をゆっくり起こして、座布団に座らせる。

私が倒れないように後ろに座って体を支える。

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おばあさんが前に座って何かを言いはじめた。

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うぅ……

うぅ…… うぅ……

く、苦しい……

うぅ……

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ガシッ!!

おばあさんが私の髪を強く引っ張る。

「あぁ……」

声をだす私をにらみつけている。

意味の分からないことを怒鳴りはじめた。

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「出ていけ!

ここはお前がくる場所ではない!!

この娘から出ていけ!

この体はお前のものではない!!

早く出ていけ!!!」

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そう怒鳴るとまた何か呪文のような言葉をいいはじめる。

おばあさんは私の髪を更に強く引っ張る。

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あぁ…… あぁ……

やめて…… 熱い……!!

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身体中が火のように熱くてたまらない!

熱い! たすけて!!

もがき苦しむ私の体をタケシが離そうとしない。

熱い! 熱い! たすけて!!

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「あぁぁあぁあぁぁぁあ!!!」

叫び声をあげ、嘔吐をくりかえす。

胃液が周りに飛び散る。

頼む!堪えてくれ!!とタケシが叫ぶ

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「あぁぁあぁあぁぁぁあ!!!」

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「あぁぁあぁあぁぁぁあ!!!」

「あぁぁあぁあぁぁぁあ!!!」

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病院のベッドで目を覚ました。

タケシの姿が目にはいる。

私の手を握るタケシの目には涙が。

「良かった…… 助かった……」

笑顔になるタケシを見て、私も笑顔になる。

「もう大丈夫だよ……」

「助かったんだね……」

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私は三日間意識が戻らなかったらしい。

夢でも見てたのではと思うほど、体が軽い。

死なずに済んだ安心感で思わず涙が溢れる。

それを見たタケシが自分の鞄から何かを取り出す。

それを私の手首につける。

赤い布を硬く編んだミサンガのようなもの。

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「これは……?」

タケシは今回の出来事を詳しく語りだした。

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おばあさんの話では、私は知らず知らずのうちに霊を招いてしまう体質らしい。

赤い布はおばあさんのもので、今回のようなことがもう起きないよう、毎日身につけておけばいいらしい。

おばあさんはタケシの親戚にあたる人で、霊感が強いことを生かして霊を追い払う仕事をしてるのだとか。

あの空き家から帰るときに、私が霊も一緒に連れてきてしまい今回のことが起きたそうだ。

あのおばあさんがいなかったら、私は間違いなく死んでいただろうとタケシは頭を抱えながら言った。

タケシには霊が見えていたらしい。

あの空き家から帰るときから。

赤ん坊をおんぶしている女が私の背中にしがみついてるのが。

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「怖い思いをさせて本当にすまなかった……」

頭をさげて謝るタケシに、もういいよ済んだことだからと私は言ったが、怖くて怖くてたまらなかった。

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済んだことだから良いって?
お前が土足で不法侵入したんだろう? 男はやめとけ言ってたよな?

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