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最寄り駅からアパートへと続く帰り道。
その途中に急な坂がある。
坂は中ほどでゆるやかに「く」の字に折れ曲がり、坂の下から頂上を望むことはできない。
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坂を登りきったところには寺がある。
坂の片側の高い塀の向こうは広い墓地だ。
もう片側は民家の高い塀である。
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坂の麓と中ほど、それに頂上には街灯がある。
しかし、中ほどの街灯は電球が切れかかっていて、まるで息切れをしている老人のようにチカチカと点滅を繰り返している。
夜ともなると薄気味の悪い道だった。
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しかし残念なことにその坂道は僕の下宿への近道で、厭だ厭だと思いながら、俯(うつむ)きつつも夜にトボトボ登るのだった。
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ある夜、僕がその坂を登っていると、折れ曲がった道の向こうから、コロコロ、何かが転がってきた。
見ればそれは銀杏の実で、コロコロ、コロコロ、僕の足元をかすめて坂の下まで転がっていった。
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坂の上の寺の庭には、大きな銀杏の木があるのだ。
ああよく転がるなあと思いながらも、僕はまたトボトボ坂を登った。
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それから何日後かの夜のこと。
僕はまた、トボトボ坂を登っていた。
すると折れ曲がった道の向こうから、コロコロ、何かが転がってきた。
見ればそれはカメラのフィルムケースの黒い蓋で、器用にその身を起こしたまま、コロコロ、コロコロ、僕の足元をかすめて坂の下まで転がっていった。
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なんであんなものが。
不思議な気持ちになりながら、僕はまたトボトボ坂を登った。
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また何日後かの夜のこと。
僕はまた、トボトボ坂を登っていた。
すると折れ曲がった道の向こうから、ゴロゴロ、何かが転がってきた。
見ればそれは薄汚れたランニングシャツに股引きを履いた爺さんで、枯れ枝のような細い腕で膝を抱えた姿勢のまま、ゴロゴロ、ゴロゴロ、僕の足元をかすめて坂の下まで転がっていった。
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下、アスファルトなのに。痛そうだなあ。
不憫な気持ちになりながら、僕はまたトボトボ、トボトボ、坂を登った。
作者綿貫一
今年もよろしくお願いします。
昨日(1月6日)、「白雪夜話」という話をアップしたのですが、今朝、寝ぼけて削除してしまいました。
データ残っていないのに…。
怖いをつけていただいた方々(たしかゴルゴム様ともうひと方)、大変失礼いたしました。
ああショック…ですが、年の初めに厄落としですね!
がんばります!