三猿を馬鹿にするんじゃなかった。
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一日目、僕は目が見えなくなった。
光のない、暗闇の世界。
一歩先が道なのか、崖なのかもわからない。
僕は周りの人々に
「目が見えないのです。助けてください。道はこちらでいいのですか」
と泣きながら尋ねて回った。
意地悪な人は僕をからかったり騙したりしたが、親切な人は僕に道を教えてくれた。
その声が嬉しかった。
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二日目、僕は口がきけなくなった。
しゃべろうにも声が出ない。
喉の奥からはかすれた風の音しかしなかった。
目が見えず、口もきけない僕だったけど、文字を書いて道を尋ねた。
『目が見えず、声も出ないのです。道はこちらでいいのですか』
意地悪な人は僕をからかったり騙したりしたが、親切な人は僕に道を教えてくれた。
その声が嬉しかった。
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三日目、僕は耳が聞こえなくなった。
声を聞こうにも静寂しか届かない。
文字を書くことは出来たけれど、その答えを聞くことができなかった。
僕は泣いた。心細くて、孤独で泣いた。
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四日目、僕はまだ泣いていた。
見えなくて、話せなくて、聞こえなくて泣いた。
その時、誰かが僕の手を引いた。
温かくて、柔らかな手の感触だった。
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食べ物のいい匂いがしてきた。
泣きつかれてお腹が空いていたから、お腹が大きく鳴った。口内からはよだれが溢れた。
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誰かが僕に箸を握らせ、食器を持たせた。
手探りで食器の中の何かを口に運ぶ。
炊きたての米の味がした。
僕は夢中になってガツガツ食べた。
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僕は泣いた。
うれしくて、ありがたくて泣いた。
心の中で「ありがとう」とつぶやいた。
ーーサワサワサワ
その時、僕の耳に音が戻った。
「あ、あ……」
僕の口に言葉が戻った。
ーーまぶしい。
僕の目に光が戻った。
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目の前には三猿がいた。
彼らは最初から僕の前にいたのかもしれない。
「ありがとう」
僕は声に出してもう一度礼を言った。
彼らは揃ってキキキ、と笑った。
作者綿貫一
申年にちなんで。