短編2
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それでいいのかい

公園に、1人の老人。

時々現れて紙の束をたくさん腰にぶら下げている。

どうやらあの紙を売っているようで時々金銭と引換に紙を渡しているのを見かけた。

私は興味を惹かれ次に見かけたら購入してみようと思った。

最後に老人を見てから1ヶ月ほど経ったある日の帰り

公園にあの老人がいた。

日々の疲れで老人の事を忘れていた私だったが老人を見てすぐに

あの紙を買おうとしていたことを思い出した。

すぐに老人の元へ行き

紙を売って欲しいのだがいくらだろうか

と聞いた。

老人は

あなたが買いたいと思う値段でよろしいですよ

と言った。

少し悩んで財布の中には何故か千円札が1枚入っていただけだったので

これで良いだろうか?

と老人に問うと

おいくらでも構いません

では好きなものを1つ、お選びください

と言って自分の腰元を指さした

表紙の色の違う同じサイズの紙の束がいくつか老人の腰にぶら下がっている

私は桃色の表紙の束を手にした

すると老人が

それでいいのかい

と尋ねてきた

少し悩んだが最初手にしたものだし何よりこの桃色の表紙に何となく心惹かれたので

構いません

と答えると老人はにっこりと笑い

ではその中から好きな紙を1枚選んで下さい

そしてその紙はできる限り肌身離さずお持ちください

と言った

私はおまもりのようなものか

と思いながら適当に1枚引き抜いた

同時に目の前が真っ白になったかと思うと

老人の声が聞こえた

君はいい子だ

がんばりなさい

·

··

···

····

·····

·····

······

·······

目が覚めると白い天井が目に入った

体が思うように動かない

父が眉間に皺を寄せて何かに耐えるような顔をしている。

母が泣いている。

あまり話すこともなくなった妹も泣いている。

家族と反対側にいたメガネで白衣を着た男が

「もう大丈夫ですよ」

と言った。

母が「よかった、本当によかった」と泣いている

妹も「心配したよ。よかった」と泣いている

父は何も言わなかったが少しだけ泣いていたような気がする。

そこで俺は思い出した。

学校の帰り、河に流された猫を助けて溺れた事を。

俺が口をぱくぱくさせると母が一生懸命聞こうとしてくれた。

「ねこ…ぶじ……?」

母は

バカな子だね…

と涙をこぼしたが

妹が

「無事だったよ。今家にいるから早く退院して会ってあげてね」

と泣き顔で笑った。

今ではリハビリが終わり、以前とほとんと変わらず日常生活を送っている。

いや、変わったことはある。

家族が1匹増えた。

鼻と肉球が綺麗なピンク色だったからという理由で父が『モモ』と名付けた真っ白な猫。

そしてもう一つ。

小学生の時に祖母がくれたおまもり袋に

いつの間にか真っ白な紙が1枚

祖母に聞くとお小遣いにとこっそり千円入れておいた

と言っていた。

おわり

Concrete
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mami様
自分の書いたものを好きだと言っていただけるのはとても嬉しいです!!いつもありがとうございますー

この『優雨』という名前は姉と私の間にもう一人
歳で言えば私の3つ上になる生まれて来られなかった兄がいたのです。
その兄につけるはずだった名前なのですが何となく好きなので使わせてもらっていますw
兄弟全員天気が含まれる名前なのですが私は昔から雨が好きなのでw
うちの兄弟は今で言うキラキラネームぎりぎりの名前ばっかりですw(読みにくい)

普段の会話時は一人称が「俺」で仕事の時や文章内は「私」なので確かに性別はややこしいですねw
紛うことなきオッサンなのです…

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さえ♪様
閲覧及びコメントありがとうございます。
楽しんでいただけたなら幸いです。

家族全員動物好きなので兄が無事だったのも猫が無事だったのも本当に良かったと心底安心したものです。

兄の事故の件は20年近く前の話なのでその時助かった猫はもうこの世にはおりませんが、その子供が元気に実家で飼われておりますw

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