そこには何も無かった。
まるで隕石が落ちた跡のように…その場所だけにポッカリと大きな穴があった。
俺たちは、その穴の前に立っていた。
昨日、俺は仕事の手伝いを頼まれた。
ついさっきのことだ。呪術師になるために履歴書を持って、ゼロの家へ行き、その後、直ぐにこの仕事へ移った。
「なぁ、ゼロ。ここは…何なんだ?」
俺はゼロに問い掛ける。
俺の左隣にいる16歳の呪術師、神原零は皆からゼロと呼ばれている。
ゼロは俺の問い掛けに答えた。
「今から、ここでお祓いをします。かなり危険な仕事なので、しっかり指示に従って行動してください。」
突然連れてこられたのに何だそれはと思った。
「おい…その危険な仕事に素人の俺を巻き込むのか?」
ゼロはニコリと笑った。
「しぐるさんなら、大丈夫です。むしろ、しぐるさんの力が必要なので。」
俺は溜め息を吐いてから「わかった」と言った。
すると、俺の右隣に立つ少女が口を開いた。
「しぐ、あなたの力は中途半端なんだからね。本気でやってよ!あ、ちなみにもう術は使える?」
普段はふざけているような口調の彼女も、今はやや真面目である。少女の名は城崎鈴那といい、俺と同級生で、ゼロと同様に呪術師をしている。
「術なんて…使えねぇよ。」
「えー、使ってたじゃんあたしとお祓いしたとき!あれだよ!あれ使えないの?」
確かに、あれで化け物を倒した記憶はある。だが、あれは俺の力じゃない。そんな気がするのだ。
「お二人とも、そろそろです。」
ゼロはそう言って、呪文のようなものを唱え始めた。
すると、穴の中心辺りにゲッソリとした男が浮かび上がってきた。男は何かを探しているかのように、辺りをキョロキョロとしていた。
白い着物を着たその男は、その場から動くことも無く、ただ辺りを見回すだけだ。
不意に、その男と目が合った。俺は直感的にヤバいと思った。
「しぐ!力使って!能力解放!覚醒!開眼!!」
城崎が叫ぶように謎の言葉を俺に投げ掛けてきたが、俺はどうすれば良いかわからない。
あの時、あれをどうやったか全く覚えていないのだ。
こうしている間にも、男の顔つきはみるみる変わっていった。完全に俺たちのことを睨んでいる。
ゼロが呪文を唱えるのを止め、俺に話し掛けてきた。
「しぐるさん!あいつはほんとにヤバいやつなんです!人死にますから早く!」
人が死ぬ。この言葉を聞いて、俺の中の何かが動き出した。
さっきまで穴の中心に留まっていた男も、ゼロが呪文をと切らせたからか、少し前に進んでいる。
俺はその男を睨み付け、両手を前に出し、力を集めた。
「このバケモノめ!俺を誰だと思ってんだ!汚ねぇ顔で睨み付けやがって!」
俺は振り絞った霊力を右手に集めると、拳を作り、その男がいる穴の中に飛び入った。
「ちょっと!しぐ違う!!そうじゃない!」
城崎が何かを言っているが、そんなことは関係無い。
「しぐるさん危険です!戻ってきてください!」
ゼロの声が聞こえた直後、俺の拳は男に直撃した。はずだった。
俺は男の体をすり抜け、何もない地面に転がり込んだ。
「後ろを振り返ると、男が人間のものとは思えないほど大きな口を開いて立っていた。」
まずい、喰われる。
そこで俺はふと我に返り、自分がしたことがどんなに恐ろしいことかということに気付いた。
もう駄目だ。俺は死ぬ。妹のところに逝けるといいな…
グシュッ…!
何か、不快な音が聞こえた。
ゆっくりと目を開けると、さっきと同様にあの男が大きな口を開いて立っていた。
しかし、その口の真ん中辺りから何かが突き出ている。見たことがある。その何かは、刀だった。
刀は、まるで男の体を溶かしながら、真っ二つに切断していく。
徐々に刀を持つ者の姿が見えてくる。
それはゼロだった。その姿が見えたところで、俺の記憶は途絶えた。
目が覚めると、そこは俺の家の居間だった。
「旦那様?」
声の聞こえた方を向くと、露が心配そうに俺を見ていた。
「何?どういうこと?俺生きてる?」
意味不明な言葉を喋りながら上半身だけを起き上がらせると、そこには城崎とゼロの姿もあった。
「しぐるさん、無茶し過ぎです。指示に従って行動してくださいと言いましたよね?」
そうだ。俺はあの時、なぜあんな行動をしてしまったのだろう。
心当たる点ならある。
2年くらい前だっただろうか。その時初めて知った自分のことがあった。
「しぐるさん!聞いてますか!?」
不意にゼロが強い口調で言った。
「ああぁ、悪かったよ。」
「まぁ、今のしぐるさんにそう言っても仕方ないですよね。あのとき行動したのは、もう一人の方ですから。」
ゾクリとした。なぜこいつがそのことを知っているのか。もしかして、バレたのか。
「おい待て、なんでそのことを。」
「バレバレですよ。そもそも、それを調べるために、しぐるさんに今回の仕事を手伝ってもらったんですから。」
「ソレとお祓いに何の関係があるんだよ。」
詳しいことは今から話しますとゼロは言った。
また一つ、新たな真実が明らかになろうとしていた。
作者mahiru
前作の続きです!