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夢を見ていた。
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濃い霧のかかったどことも知れない場所に、私は一人、立っている。
霧のむこうに小さな人影が見える。
遠すぎて、そして霧が深すぎて、その人影が男か女か、老人か子供かも知れない。
不意に耳元で声がした。
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『私、メリー。今、………にいるの』
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か細い声だった。言葉の一部が聞き取れない。
私はなぜか、その声が遠くの人影のものだと、なんも疑問も持たずに信じている。
そこで唐突に夢は終わった。
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………
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………
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何日か後、私はまた夢を見ていた。
濃い霧のかかった、どことも知れない場所。
霧の向こうに人影が見える。
人影は、前よりややこちらに近づいていた。
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それは金髪の、髪の長い女性だと思われた。
不意に耳元で声がした。
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『私、メリー。今、………にいるの』
相変わらず、言葉の一部は聞き取れなかった。
しかし、声は前よりわずかにはっきりと聞こえた。
そして、その声は苦し気であった。
そこで、夢は終わる。
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………
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………
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また何日か後、私はまた夢を見ていた。
濃い霧のかかった、どことも知れない場所。いつもの場所。
霧の向こうに人影が見える。
人影は、前よりさらに近づいて、それが自分と同い年くらいの少女であることが知れた。
表情は、長い金髪に隠れてわからなかった。
白い、ゆったりとした服を着ている。
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いつもなら耳元で声がするばずだった。
しかし今日は、いつになっても声は聞こえてこない。
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不意に、霧の向こうの少女がこちらに駆けだしてきた。
うつむきながら、長い髪を振り乱しながら。
ぎょっとしたが、私の足は動かない。動けない。
みるみる距離が縮まる。
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少女の姿が私の目の前にあった。
身体をくの字に曲げて、荒い息を吐いて肩を激しく上下させている。
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苦し気な息の下、少女が叫んだ。
shake
『わ、たし……メリー!私は――――――!』
夢が終わる。
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………
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………
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目が覚めると、母親が立っていた。
そして泣きながらこう告げた。
「喜んで!あなたの手術が決まったわ!ドナーが見つかったの!」
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………
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………
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………
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夢を見ていた。
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濃い霧のかかったどことも知れない場所に、私は一人、立っている。
霧のむこう、人影は見えない。
不意に耳元で声がした。
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『私、メリー。今、あなたの中にいるの』
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私は自分の身体を抱きしめた。
「うん、ありがとうメリーさん。これから、よろしくね」
作者綿貫一
こんな噺を。
【都市伝説‐亜種】シリーズ
「ベッドの下の女」
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「ひとりかくれんぼ」
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