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俺達は怖い話や肝試しが大好きだった。夏になると誰かが必ず怖い話をしようー肝試しに行こうと言い出す。皆それぞれ怖い話を語るが、なかでもコウ君の怖い話が一番怖かった。
一番のビビリが斉藤で、コウ君が怖い話をする度に青白い顔をさせて怖がっていた。
その怖がり方がオーバーで面白かったのを覚えている。
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今から数年前の話。
コウ君と斉藤が車の免許を取ったお祝いと称した肝試しに行くことになった。
廃墟のすぐ近くに車を停め、それぞれ懐中電灯を持って廃墟の入り口へ歩いて歩いて行った。
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肝試しの場所は廃墟だ。建物の周りは草が生い茂り建物の中にあったであろう古くなった家具や、壁の一部のような物が落ちていた。近くでコオロギの鳴き声や名前の忘れた虫の鳴き声がする。
ザク・・・ザク・・・ザク・・・・バキッ・・・ザクザクザク・・・
「この廃墟、思ってたより怖くねーか?ここに女の幽霊が出るらしい。本当に出たら怖いよな、出たら俺は真っ先に逃げるから。お前らを置いてけぼりにしても俺の事恨まないでくれよな・・・・・・おい!無言になるのやめーや怖いだろうが。」
珍しくコウ君は多弁になっていた。いつもなら斉藤をからかったりする余裕があるが、今回はやけに怖がっていた。斉藤は既に青白い顔になっており、無言で歯を食いしばっていた。
何かを確認するように自分の周りや目の前をライトで照らしてはホッとする表情を繰り返す斉藤の行動を俺は黙ってみていた。
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「もう帰ろうよコウ君、この廃墟怖いよ。」
「ばか、まだ入ったばかりじゃねーか。幽霊みてないから帰れない!幽霊みてから、帰る!」
後ろを振り向かず前を向いたままそう断言した。
階段にさしかかると俺達は縦一列になって進み、コウ君が先頭で斉藤が一番後ろになった。
ギシ・・ギシ・・・・ギシ・・・ギシ・・・
階段に体重をかける度に階段が鳴る。手摺も脆く頼りないものだった。
2階にあがると幾つか扉があり、一つ一つ部屋の中を確かめたが何もいなかった。
扉を開ける度にコウ君は、よし!いるか?いるか?いないな・・・ という言葉を繰り返した。
「もしかしたら俺がドアを開けるから出てこないのかもしれない、次のドアで最後だ、斉藤が開けてくれ。」
俺は内心自分が氏名されなくて良かったと安堵したが、斉藤は絶望感と苛立ちを混ぜたような複雑な表情をしていた。散々文句を言った後に斉藤は最後の扉のドアノブを握った。
「なにか起きても知らないからね!」
ギィイイイイイイ・・・・・・・・・バンッ!!
斉藤がドアを開けた。
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shake
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「ぎぎぎぎぎぎぎぎいいいいいああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
「がああああああああああああああああああああ!!!!」
shake
一斉に叫ぶとドアを閉めずに逃げ出した。逃げる際に後ろを振り向いた斉藤の額が俺の鼻に直撃したが構わず走り出した。
ダダダダダダダダ・・・・ダダダダダダダダダダダ・・・・
後ろを振り向かずに一心不乱に逃げ、階段を下りて出口に着いたところでコウ君がいない事に気がついた。
「コウ君!いない!置いてきちゃったコウ君!ねぇ!」
「分かってるよ分かってる、コウ君探してくるからお前は車のエンジンかけててくれ」
冷静を装ったが内心めちゃくちゃ怖かった。斉藤が出口から出て行く後姿をみて、一緒に探しに行こうの一言を言わなかった事を後悔した。
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「コウくーん!コウ君どこにいる?大丈夫か?」
階段を上りながらコウ君を呼ぶ。目の前をライトで照らし進んで行くとコウ君の声が聞こえてきた。
shake
「たすけてぇーたすけてぇー」
「コウ君!!」
コウ君が通路の真ん中で土下座をするような体制でうずくまっていた。
「コウ君!大丈夫か?立てるか?今腕掴むから」
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「ごめんなさぃいいいいいいいいいいいいごめんなさぃいいいいいいいいいい!!!もうしませんんごめんさないいいいいいいいい許してくださいいいいいいいいいもうしませんんんんんんんんん!!!!!!!!!!!!!」
腕を掴むと狂ったように腕を動かし暴れた。暴れるコウ君の腕が俺の顔を何度か引っ掻いた。
「コウ君!コウ君!逃げるぞ!!逃げよう!!コウ君!!!」
コウ君を引きずるようにしてその場を離れた。階段を下りている間もコウ君は暴れ叫んでいた。
出口を出ると斉藤が硬直した表情で立っていた。
「コウ君・・・だよね?どうしたの・・・これ・・・・・・」
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暴れるコウ君を無理やり車に押し込み斉藤の運転で廃墟から撤退した。
数分経つとだんだんコウ君が落ち着いてきた。車内は肩でぜぇーぜぇーと息をはくコウ君の声だけが響き、俺と斉藤は無言になっていた。
「斉藤、今どこに向かってるんだ?」
「コウ君の家だよ。」
「電話したのか?」
「してない・・・お前ら待ってる時怖くて怖くて、電話することなんて考えられなかった。ごめん・・・」
「いやいや、こっちこそごめん一人にして。俺もめちゃくちゃ怖ったよ。」
「うん・・・」
車内はまた、無言に戻った。
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コウ君の家に到着すると直ぐにお父さんが出て来て車へ向かってきた。
後ろのドアを勢いよく開けるとコウ君の襟首をつ掴み引きずり出した。
shake
「馬鹿もんがああああ!!!何やってるんだ!!」
鬼の形相でコウ君を怒鳴りつけると頭をバシバシ叩いた。ごめんなさいごめんなさいと叫ぶコウ君を無視し、尚もお父さんはコウ君を叩いた。
「お父さんやめてください!コウ君、あの・・コウ君は悪くないです!!!」
斉藤が言うと、お父さんの手が止まった。
ニィイ・・・・・・・・
お父さんは目をすーっと細めニヤリと笑った。笑った顔は酷く不気味で気持ち悪さを感じた。
「迷惑をかけたね君達、コウをありがとう。君達は廃墟に肝試しに行ったんだね?コウには幽霊が憑いてしまっている、君達も幽霊に狙われている。君達も幽霊をみたんだね?」
「いいえ、みてません。斉藤は?」
「幽霊なんてみてません!!ドアを開けたらでっかい蜘蛛が上からすーっと糸を出しながら落ちてきたので叫んだんです!」
コウ君のお父さんは全て知っているよと言わんばかりの様子で、うんうんと頷きながら斉藤の話を聞いていた。
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「うんうん、うんうん、怖い思いをしたんだね。君達に幽霊が憑かないようにお守りをあげようね。ラッキーアイテムだよ。」
ポケットからお守りを出すと、俺達に一つずつ手渡した。見た事もない怪しいお守りで普通のお守りよりも一回り大きなサイズだった。
「ありがとうございます。」
「コウ君の分もありますよね?」
「はははっ・・・勿論ある。さ、もう遅いから早く家に帰んなさい。」
「でも、コウ君は・・・・」
shake
sound:19
「いいから帰んなさい!いいから帰んなさい!」
怒号にもにた口調で叫ばれ、俺達は何も言葉を返せず逃げるようにして帰った。
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二日後、斉藤から取り乱した様子で電話がかかってきた。
「もしもし斉藤どうした」
「コウ君が!コウ君が事故を起こして怪我して入院してるんだって!!」
「まじかよ・・・」
「一緒に病院へ行こう!今からそっちに向かうから!」
そう言って電話が切られた。
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斉藤の車に乗りコウ君の病院へ向かう途中
「コウ君、一人で車を運転して突っ込んだんだって。」
「突っ込んだ?どこに突っ込んだんだよ?」
「田んぼに突っ込んだんだって。」
「田んぼ?まぬけだなーコウ君。」
田んぼに突っ込んだコウ君を想像したら少し可笑しく感じ、不謹慎ながら笑ってしまった。
「笑えないよ・・・・コウ君どうなっちゃったか分かる?車の中大変な事になってたんだよ・・・・」
「どうなったんだよ・・・」
「事故現場に行った人から聞いた話なんだけど・・・・・」
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sound:39
shake
「突っ込んだ車を引き上げたら、コウ君が両手を万歳した状態でハンドルに顔を突っ伏していたんだって。顔を確認してみると、コウ君の唇には真っ赤な口紅が雑に塗りたくられていたんだって。こんなことってあるか?意味わかんないよね?コウ君呪われちゃったのかな?」
「なんで口紅なんて」
「そんな所は重要じゃないよ!コウ君、コウ君が、コウ君の車の中に人型の大きな案山子が入ってたんだって!!案山子だよ案山子!!あんなでかい案山子はみたことないって、フロントガラスを突き破って入った形跡がないって!どういうことだよ?意味分からないよね?笑っちゃうよね?意味分からな過ぎて、笑っちゃうよね?あはははははははははははははは。ほら、笑っちゃうよね?あははははははは・・・・あははははははははははは」
「お前、気味悪いよ!やめろよその変な笑い方!やめろおおおおおおおお!!」
俺は運転席側へ身を乗り出し無理やりブレーキを踏んだ。
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なんとか事故を起こさず車を停めらた。
斉藤は笑うのを止め、真顔でじっと俺の顔を見つめたまま動かなかった。
俺が車から降りると。
「裏切り者・・・裏切り者・・・・裏切り者・・・」
真顔で同じ言葉を繰り返し言った。この時、コウ君のお父さんの怪しくニヤっと笑う顔が脳裏に浮かびザァーっと鳥肌が立つのが分かった。どうしてあのような行動をとったのか分からないが、俺はコウ君のお父さんから貰ったお守りを斉藤の顔をめがけ投げ捨てた。相手はびっくりした顔をして何度も瞬きをしていた。
「ごめん・・・」
斉藤を残し、コウ君の病院へも向かわずに、自分の家まで走って帰った。
お守りを投げつけられて驚いている斉藤の顔をみた時、ああ もう斉藤とは会えなくなるんだなという考えが浮かび相手の顔を見ていられなくなった。
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その日以来、斉藤から連絡はこないしコウ君がどうなったのかも知らない。人づてにコウ君の事を聞こうと試みたが、コウ君の話を知る者はいなかった。事故があった事を話しても、そんな事は知らないの一点っ張りだった。
この時の俺は、コウ君や斉藤の家へ直接行って聞いてくるという選択はなかった。二人の顔をみる勇気が無かったし、単純に会いたくないという気持ちがあったからだ。
地元で就職しようと考えていたが、これを機に上京することにした。
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数年経った今も、二人がどうなったか謎のままだ。
作者群青
人から聞いた怖い話を書きました。誤字脱字がございましたら、ご指摘頂けると幸いです。
昔肝試しに行った事がありますが、行って後悔しました。
夏と言えば怪談 怖い話。最近、テレビであまり見かけなくなりましたね。少し寂しいです。皆さんは夏といいますと、何を思い浮かべますでしょうか。