長編13
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キレイナモノ

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「うん、美羽ちゃんはキレイナモノになったよ」

女に問われた少女は、開け放たれた窓の外を見つめながら、そう応えた。

女はその言葉を聞いて安堵の溜息をつき、はらはらと涙を流した。

そして、少女の小さな両肩に手を置いて「ありがとう」とつぶやいた。見届けてくれてありがとう、と。

しかし少女はぼんやりとただ虚空を見つめるばかりだった。

女は少女のその様子に、彼女の娘が成ったキレイナモノの素晴らしさを見たようで、歓喜に胸が震えた。早く自分の目でその姿を見てみたい。

―― 一刻も早く娘を追わなくては。待っていて、美羽。

そして、少女を一人その場に残し、女は部屋を出ていった。白い服を翻して。

少女の見つめる窓の外には、真っ黒な、深い深い夜の森が広がっていた。

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樹里(じゅり)には赤ん坊の頃から姉妹のように育った友達がいた。それが美羽(みう)だった。

どこに行くにも、何をするにも一緒の二人。

しかし、美羽は樹里にないものを多く持っていた。

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例えば、美羽の容姿は近所でも評判になる程であった。

子鹿のような黒目がちな瞳。

濡れたように長いまつ毛。

果実のようにみずみずしく、紅い唇。

絹のように白い肌、烏の濡れた羽のように長い黒髪。

一方で樹里の容姿は十人並みであった。

しかし、美羽の容姿が褒められるのを、我がことのように誇らしく思った。

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例えば、美羽はピアノが上手かった。

彼女の小さく細く、そして白く美しい指は、鍵盤の上でそれは優雅に踊った。

その指使いは正確で繊細で、そして澄んだ音色を奏でた。

一方で樹里の演奏は十人並みであった。

しかし、美羽の演奏が褒められるのを、我がことのように誇らしく思った。

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例えば、美羽は字が綺麗だった。

幼稚園の頃から自分の名前を漢字で書くことができた。

彼女の書く字は丁寧で美しく、また大人しい性格を表すように、やや小ぶりであった。

一方で樹里の書く字は十人並みであった。

しかし、美羽の字が褒められるのを、我がことのように誇らしく思った。

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樹里が美羽に負けないものといえば、ひとえに体力だけだった。

同年代の男子も顔負けの活発さを樹里は持っていた。

一方で美羽は生まれつき身体が弱く、よく熱を出しては寝込んでいた。

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そんな美羽のことを気遣い、樹里は土産を持ってよく彼女の家に見舞いに行った。

土産と言っても、樹里が近所の森で拾ってきた花や、木の実や、蝉の抜け殻だったりしたのだが。

それでも美羽は喜んだ。

彼女の優しい母親も、朗らかな父親も、娘の小さな友人のことを歓迎した。

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深い森を背にした美羽の家は、近所でも有名な豪邸であった。

十人並みの樹里の家とは違ったが、彼らはそれを鼻にかけず、家族ぐるみで交流を深めていた。

近所でも評判の家族だった。

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近所といえば、少女たちと同い年の少年が住んでいた。名前を智也(ともや)という。

智也はやんちゃな性格で、二人によくちょっかいを出してきた。

公園でシロツメクサを摘んで花輪を作っていると、いつも智也がやって来て、美羽のそれを奪って乱暴にちぎってしまった。

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美羽の髪を掴んで引っ張ったり、木の枝に芋虫をくっつけて、それを美羽の顔先に近づけてみたり......。智也の標的は決まって美羽だった。

そんな時、樹里は智也に喰ってかかった。美羽が泣かされるのは許せなかった。

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取っ組み合いの喧嘩をして、顔に擦り傷を作って家に帰ることもあった。

母親は「アンタは女の子なんだから......」と小言をいったが、父親は「子供はそれくらい元気があった方がいい」と言って笑い、あげくに母親に尻をつねられて悲鳴を上げていた。

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そんな陽だまりのように穏やかな日々は、彼女らが小学2年に上がったある春の日に、不意に終わりを告げた。

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「パパが帰ってこないの……」

美羽は悲しそうな顔をして樹里に打ち明けた。

樹里はそんな彼女の表情も美しいと思った。

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仲の良かった美羽の両親はいつしかすれ違っており、父親は家を出て行った。

そして彼女の家には、全身白づくめの格好をした人々が出入りするようになった。

彼らが出入りするようになって父親が出て行ったのか、父親が出て行った結果として母親が彼らを招き入れたのか、その前後は正確なところはわからない。

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「おかしな宗教の人たちよ……」

樹里の母親は、恐れと侮蔑を顔に浮かべ、つぶやいた。

美羽の家に対する近所での評判は地に落ち、深い森を背にした豪邸には近づかないよう、親たちは子らに言い含めた。

学校でも美羽に話しかける者はいなくなった。

樹里ともう一人、智也をのぞいては。

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「おい美羽、今日、お前の家に遊びに行っていいか?」

智也が敢えてぶっきらぼうな調子で美羽に尋ねる。

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「ごめん……、今日はお家に白い服着た人たちがいっぱい集まってて、ママと大事なお話をしてるんだって」

shake

――パリパリ

「だから、智也くん来たら怒られちゃう……。ごめんね」

shake

――パリパリ

「樹里ちゃんもごめんね。この間見せるって言ってた本、今度学校に持ってくるから……ホントにごめんね」

shake

――パリパリパリパリ

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美羽はすまなそうに顔をふせた。手にしたキャベツの葉をほおばりながら。

放課後の、三人しかいない教室。

小さな口で青い大きな葉に無心にかじりついている美羽の姿は、友人たちの目にも奇妙に映った。

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「……どうして最近、ずっとキャベツを食べてるの?美羽ちゃん」

先日学校に、見慣れぬ手提げ袋を持ってきた美羽。中には、バラバラにしたたくさんのキャベツの葉がタッパ―に詰められて入っていた。

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「……わからないの。急に食べたくなって……。

食べないと、なんか変なの。イライラしたり、悲しくなったりして……。

ママは、たくさん食べなさいって言って、たくさん私に出してくれるの。

うちの冷蔵庫、今、キャベツだらけになってるわ」

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shake

――パリパリパリパリパリパリ

shake

――パリパリシャクパリシャクパリパリパリ

shake

――パリシャクパリシャクパリシャクシャクシャクシャク

美羽の咀嚼音だけが響いていた。

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しばらくして、美羽は学校に来なくなった。

担任の教師は、体調を崩しているためだとホームルームで子供たちに説明した。

樹里は見舞いに行きたかったが、母親にそのことを話すときつく止められた。

しかし、一週間連続で美羽が欠席した日、たまりかねて、帰宅前に美羽の家に立ち寄ることを決めた。

智也にも声をかけたが、先約があるということでそっけなく断られた。背後にはサッカーボールを持って彼を待つクラスの男子たちの姿があった。

樹里には智也の表情から、美羽の様子を気にかけていることが感じられた。

しかたないから後で報告してやるか、と思った。

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深い森の前の豪邸に着くと、背伸びをしてインターホンを鳴らす。

「はぁあい」

返答があり、ややあってから扉が開いた。

現れたのは美羽の母親だった。白い、ヒラヒラした和服を着ている。この家に出入りしている人々と同じ格好だった。

彼女は以前から綺麗な人だった。今も変わらず美しいままだ。ただ、以前と比べてやややつれた感はあった。

「あらあらぁ、樹里ちゃん、久しぶりねぇ。前に会ったのはいつだったかしら?」

そう言って微笑むと、樹里を家の中に招き入れた。

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洋間に通された樹里は、思わず部屋の中を見渡していた。

テーブルの上に置かれた大きなお皿。その上に丸々としたキャベツが山盛りに積まれている。

驚いている樹里の様子を見て、母親が微笑んだ。

「ごめんさいねぇ。ここ最近、美羽がよく食べていたものだから……。

八百屋さんから一杯買ってきていたの。冷蔵庫に入りきらなくて。

でももう、これも必要ないわねぇ。樹里ちゃん、持って帰る?ロールキャベツとか、たくさん作れるわよ?」

樹里は首を振った。そんなことより知りたいことがある。

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「ねえ、おばちゃん。美羽ちゃんの具合はどうなの?」

美羽の母親は頬に手を当てて応えた。

「あの子を心配してくれてありがとぅ、樹里ちゃん。美羽は元気よ。安心して?

ただ、今はちょっとお外に出られないだけなの。とっても大事なことをしているから。

それもね、もうすぐ終わるの。

もうすぐ、また一緒に遊べるわ。

もうすぐ、………になれるから」

最後の言葉が聞き取れなかった。

「おばちゃん、今、なんて言ったの……?」

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「キレイナモノ」

うっとりとした口調でそう言った。

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「樹里ちゃんには、ちょっと難しいかもしれないけど……。

おばさんねぇ、あの子、美羽がいて、あの人、美羽のパパがいて、わたしがいる。この暮らしがだぁい好きなの。

美羽は良い子だし、パパも優しくて、私は幸せだなぁって思ってた。

おばさんの実家は、そうじゃなかったから……。

だからね、ずぅっとこの暮らしが続きますようにって思ってたの。

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ある日、オオウベさんっておじ様が訪ねてらして、『貴女の家はとても幸せそうですね』って言うから、『はい、とても幸せですわ』って私応えたの。

そうしたら、『それは結構。その幸せが末永く続くよう、はばかりながら、ひとつ助言を。家族の誰も、貴女は疑ってはいけませんぞ』って言うから、『はい、誰も疑うことなどしませんわ』って応えたの。

だって私、そんなことするはずないもの。

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しばらく経ったある夜、あの人の帰りがいつもより遅かった。深夜になってたの。

普段なら、少し遅くなるだけでも連絡をくれるのに。

『急に取引先の重役から呑みに誘われちゃったんだよ。連絡する間もないくらい絡まれて大変だったよ』って。

お酒と香水の臭いをぷんぷんさせながら言うの。

お仕事なら仕方ないなって思ったわ。

……でも、その後ご近所の後藤さんから、あの日、あの人がタクシーから降りるときに、若い女の人が後部座席に乗ってたって聞いたの。

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私……我慢したのよ?

頑張って、我慢しようとしたの。

だって、疑ったらいけないんだもの。

疑ったらダメ。疑ったらダメ。

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……ちょっと確認しただけなの。

『あの日、タクシーに乗り合わせて、一緒に帰った人いる?』って。

そうしたら、『いや、別にいないよ。一人だったよ』って。普通の顔で言うの。

だから、私、『ああ、そうなの』って。

後藤さんはああ言ってたけど。

あの人がそう言うなら、そうなんだって。

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その後、そのお仕事先の重役の人が自分のことを気に入ってくれたって言って、そのお付き合いで帰りが遅くなることが増えたの。連絡はちゃんとくれるんだけどね?

疑ったらダメなの。疑ったらダメ。

でも疑うって、心の中にモヤモヤさせておくのも、疑うって言うんじゃないかしら?

……だから、そう。確認。

確認しようって思ったの。

遅くなった時は、

『どこにいたの?』

『誰といたの?』

『どんなこと話したの?』

って。

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でもそのうち、あの人ったら『俺のことを疑うのか?』って。

『そんなに毎回毎回聞くなんて、疑っているのか?』って。

ひどいわよね?

疑わないように、確認してるだけだったのに……。

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……あの人が帰ってこなくなったの。

『少し、距離をおこう』って。『冷静になろう』って。

ひどいわよね?私は冷静なのに。

そんな時、またあのオオウベさんが現れたの。

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『どうもお宅の気が乱れているのを感じた。これを正すにはキレイナモノを奉じるしかない』って。

私は聞いたわ。『キレイナモノってなんですか』って。おっしゃることには、

『キレイナモノとは清浄なるもの、常世(とこよ)の神なり。

これを奉じれば貧者は富を得、老人は若返る。家の不和もたちまち正される』

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私は聞いたわ。『それはどんなものなんですか?』って。おっしゃることには、

『キレイナモノとはこの世ならざる常世に属すモノなれど、その身は初め、この世のナカにある。

俗から聖に成るモノなり』

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私は聞いたわ。『それは私にも成れるものなんですか?』って。おっしゃることには

『この世のケガレを溜め込んだ、大人の身には成れぬモノ。

ケガレを知らぬ幼子の……そう、この家にも一人いたのではないか?』って。

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美羽の母親は、樹里を娘の部屋まで連れていった。

「美羽ちゃん!」

樹里はベッドに横になっている友人の元へ駆け寄った。

そして、友人の様子に目を見張った。

彼女の顔は、布団からはみ出した手は、岩のような色になっていた。

思わず手を取ると、マシュマロのように柔らかかった彼女の肌は、石膏のように固い。

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「おばちゃん!美羽ちゃんどうなっちゃってるの?どうしてこんな色なの?どうして固いの?どうして起きないの?どうして息してないの?」

矢継ぎ早の問いかけに、美羽の母親は動じずに微笑んだ。

「大丈夫。今は寝ているだけ。

その姿も、大切な行程なの。キレイナモノに成るための。

もうすぐ目を覚ますわ。もうすぐ、もうすぐ」

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「樹里ちゃん、ちょうど来てくれてよかったわ。

おばさん、教祖様……オオウベさんに、お布施……ご用事があるの。

いただいたアリガタイお水の、美羽が飲んだ神水のお金をお持ちしなくちゃいけなくて。

ご近所の後藤さんと一緒に行ってきたいから、少しの間、美羽を観ていてくれないかしら?」

そう言い残して部屋を出て行った。

外から部屋の鍵をかける音がした。

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壁の時計の針が午後8時を指した。

樹里は暗い部屋の中、ベッドで眠る美羽を観ていた。

石像のようになってしまった美羽。それでも美羽は美しかった。

ぼんやりとした眺めた窓の外には、深い深い夜の森が広がっている。

――ヒラヒラ

不意に、真っ暗な森を背景に、小さな、白いものが、横切った。

その瞬間、樹里の頭の中に幼い日々の思い出がよみがえった。

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ある春の日、樹里と美羽、そして智也の三人で、美羽の家の裏の深い森に遊びにいった。

木々の枝には若芽が芽吹き、動物や虫たちも冬眠から目覚めはじめ、森はにぎやかさになってきているようだった。

そんな時、また智也が美羽を驚かそうと、木の枝に緑色の芋虫をつけて持ってきた。悲鳴を上げる美羽。

智也はいつも、美羽をいじめる。樹里ではなく、美羽を。いつも、いつも美羽ばかり観てる。

樹里は智也とケンカしながら、泣いている美羽の手を引いて彼女の家まで帰ってきた。

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家には美羽の父親がいて、三人におやつを出してくれた。

そして、智也が家の中にまで持ってきた枝についている、緑色の虫を観て、

「ああ、これはアゲハ蝶の幼虫だよ」

と言った。

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昆虫にも詳しかった美羽の父親は、樹里たちにその虫の色々なことを教えてくれた。

この芋虫はキャベツなどの葉を食べながら成長し、やがて綺麗な羽をもつ、蝶の姿になること。

智也が、芋虫と蝶では形が違うと騒ぐと、蛹(さなぎ)の段階を経て、大きく形を変えるのだと言った。

固い表面をした蛹の内側で、幼虫は一度身体の形を失くすのだと。

一度、ドロドロのスープのようになって、芋虫の姿から、美しい羽を持つ蝶の姿に変わるのだと。

そう、きれいなものに。

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「キレイナモノ……」

樹里は知らずとつぶやいていた。

美羽を見る。

美羽は固い殻に包まれて眠っている。

きっともうすぐ、キレイナモノになって出てくるのだろう。

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――これまで以上にキレイナモノになって?

――今でも十分キレイなのに?

――私は美羽ちゃんがキレイなのは嬉しいけど。誇らしいけど。

――智也はこれまでもずっとキレイな美羽ちゃんを観ていたのに。

――今よりもっとキレイナモノになるの?

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――なんか、ズルイ。

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樹里は、美羽の勉強机の上にあったペン立てから、コンパスを取り出すと、手に針の部分を当ててみた。

しかし石のように固い肌は針を通さない。

試しに布団をはいで、身体のあちこちに針を当ててみた。

一か所だけ、針が中にめり込んだ場所があった。

美羽の口だった。

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美羽がキレイなものになるなら。

今がその途中経過であるのなら。

きっとこの固い表面のその中は。

樹里は美羽の口に開いた穴に口づけると、

―ーチュ、チュ、チュ、チュルル。

中に満ちる液体を吸い込んだ。

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口の端からこぼれた液体を、指ですくう。

それは暗い部屋の中で、ほのかに光を放つ乳色の滴だった。

これは、美羽のスープ。

薄い塩味と、薄甘いマシュマロの味がする。トロトロと粘り気がある。温かい。

――チュルチュル、チュルチュルチュル。

美羽に口づけ、スープをすする。

すする。

すする。

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小さな穴では物足りなくなって、部屋の椅子を持ち上げ、その脚で美羽の胸を何度も打ち付けた。

罪悪感はない。これは美羽の形をしたただの殻だ。

何度目かで美羽の胸の殻は割れた。

中には光り輝くトロトロのスープだった。

樹里はそこに顔を突っ込まんばかりの勢いで口をつけ、ゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。

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shake

――ゴクゴク

shake

――ゴクゴクゴクゴク

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気付いた時には美羽型の殻の中から、光るスープはほとんど消えていた。

わずかに残ったそれの底の方に、薄い半透明の膜のようなものが残っていた。

それは拡げると大きな羽のようであり、細い触角のようであり、幾分大人びた、美羽の顔面のようにも見えた。

樹里はその膜をスープに浸し、その後、口に含み、飲みこんだ。

柔らかくて美味しかった。

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階下でドアの開く音がした。

階段を上る音がする。

樹里は慌てずに、深い森に面した部屋の窓を開けた。

夜の森から涼やかな風が吹き込んできた。

背後でドアが開く。

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「樹里ちゃん、ごめんなさいねぇ。おばさん、遅くなっちゃった。

よければ夕飯を食べて行って……」

美羽の母親はそこで、ベッドの上に横たわる、美羽の蛹の残骸に目を止める。

胸の割れた、中身のない、その残骸。

それを見て、悲鳴を上げた。

その声は部屋中に反響した。

そして窓辺に立つ樹里の肩を掴み、強引に自分の方を向かせる。

shake

「樹里ちゃん!樹里ちゃん!樹里ちゃん、貴女――」

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「観たの?美羽がキレイナモノになるのを」

樹里はゆっくり首を巡らせた。

そして、静かにこう応えた。

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珍味様、なるほど、たしかに。

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