これはA子がまだ可憐なJKだった頃の話です。
高校入学当初はA子が天真爛漫な女の子だと、周囲は誤解していて、まぁ可愛い部類に入る顔立ちなこともあり、クラスでは一目置かれた存在でした。
しかし、根っからの自由人だったA子は、苦手な授業や放課後などを一人静かに過ごすため、校舎の屋上に上がっては昼寝をする習慣を、入学から一週間で体得しました。
ナントカと煙は高い所が好きとは、よく言ったものです。
その日も苦手な化学の授業を優雅にシエスタしていたA子が、澄みきった青空の下で大の字になっていると、フェンスに手をかけてボンヤリ佇んでいる少女に気づきました。
「あ?アンタもサボり?」
授業をサボることに何の罪悪感も持たないA子が、その女の子に話しかけると、女の子はちょっとビックリしてA子を見ましたが、ばつ悪そうに笑って頷きました。
「じゃあ、仲間だね♪」
A子がニンマリ笑うと、女の子も笑いました。
黒縁メガネにベリーショートの少し気弱そうな彼女に、A子は近づいて隣に立ちます。
「アタシ、A子!アンタの名前は?」
A子の問いかけに、彼女は小さく消え入りそうな声で答えました。
「私、マサミ」
マサミがはにかみながら俯くと、A子はマサミの肩に手を置いて言います。
「まーちゃん、学校好きなんだね」
一度も名前で呼ぶこともなく、ニックネームで呼ぶA子の近すぎる距離感を、マサミは違和感なく好意的に受け取ったようです。
「私、学校大好きだよ」
「へぇ~……アタシも勉強がなければ好き♪」
学校の存在意義を全否定するような答えを言うA子に、マサミはプッと吹き出しました。
「それじゃあ、学校の意味ないじゃない」
「あ、そっか!!」
しばらく笑い合う二人の間には、微妙な距離はすっかりなくなり、以前からの友人のような雰囲気が出来上がっていました。
「A子ちゃんは、将来どうするの?」
マサミからの高校生の悩みベスト3に入る質問に、A子があっけらかんと答えます。
「実家を継ぐよ。兄貴は別のことしたいって言うし、アタシは酒好きだから」
未成年のセリフには似つかわしくないことをサラリと言うA子に、マサミは感心しました。
「そっか、A子ちゃん家は造り酒屋さんなんだ」
「まーちゃんは?」
A子がマサミに質問を返すと、マサミは俯いて言いました。
「私は大学に行きたい」
A子はマサミの答えに目を見張ります。
「えぇーっ!!まだ勉強したいの?物好きだねぇ……」
間抜けなA子の感想に、マサミは笑って言いました。
「知らないことを知りたいの……世界は知らないことだらけだから……」
知的好奇心豊かな優等生のマサミと真逆のA子……それは特異な組み合わせでした。
「じゃあさ、これから学校サボって遊びに行こう♪」
とんでもない提案に面食らうマサミの手を強引に引いて、A子は屋上を駆け降りて行きました。
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A子とマサミは鮮やかに学校を抜け出し、最寄り駅から電車に乗って、少し栄えた街へ行きました。
それなりにビルが建ち並ぶ街を、マサミはキラキラした瞳で眺めています。
「まずはお洒落な食べ物を食べよう!」
A子がまず向かったのは、クレープ屋さんでした。
「おやっさん!ブルーベリーチョコ二つ!!生クリーム大盛りで♪」
見た目ほど老けていないクレープ屋さんに注文し、クレープの出来上がりを待つ二人を、店長は訝しく見ていました。
平日の午前中に制服姿のJKがクレープ食べに来てるんですから、無理もありません。
「はいっ♪まーちゃん」
出来上がったクレープの一つをマサミに差し出しますが、マサミは受け取ろうとしません。
「私はいいよ!!お金持ってないし」
しおらしく固辞するマサミに、A子は薄気味悪い笑みを浮かべます。
「お金のことなら気にしないの!!体で払ってもらうからさ……グヘヘヘへ」
気持ち悪いことこの上ない言葉をぶつけられ、困惑するマサミに、A子はグイッとクレープを押し付けます。
「これも勉強だよ?」
そう言われたマサミは、申し訳なさそうにクレープを受け取り、「いただきます」と一口パクリしました。
「……美味しい♪」
マサミが顔を綻ばせると、A子も満足そうに笑います。
「でしょ?」
二人はクレープをパクつきながら、次にゲーセンに向かいました。
クレーンゲームに二千円も吸い込まれたり、ドライブゲームで事故ったり、メダルゲームでちょこちょこ稼いだりして、あっという間に時間は過ぎていきました。
「最後にプリクラ撮ろ♪」
A子はマサミの腕を引き、プリントシール機の中に入りました。
フレームを決め、二人でポーズを取り、パシャリ!
プリントシール機の現像を待つ間、A子がマサミに言います。
「そろそろ学校に戻ろうか……出来たヤツは学校で渡すね」
そう言って、吐き出されたシールを取り出し、マサミを連れて学校へ戻りました。
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学校に着き、屋上へと戻った二人は、夕焼け空の下で向き合い、A子が言います。
「まーちゃん、どう?楽しかった?」
A子の問いにマサミは少し興奮気味に返しました。
「うん!すっごくドキドキした!!楽しかったよ!!」
子供のように瞳をキラキラさせているマサミに、A子がプリントシールを渡しました。
「これ、さっきのプリクラだよ」
ワクワク顔のマサミが、シールを見た瞬間、顔を曇らせました。
「……A子ちゃん」
泣きそうな顔でA子を見るマサミに、A子が言いました。
「まーちゃん、まーちゃんの希望だった大学にはアタシが行く……だから、まーちゃん……」
いつもヘラヘラしているA子が眉をハの字にして、涙を堪えていると、マサミは悲し気に笑いました。
「うん……何となく気づいてたんだ……でも、A子ちゃんのお陰でハッキリしたよ……ありがとう…A子ちゃん……」
そう言うと、マサミの姿がだんだん透けていきました。
「バイバイ…まーちゃん」
「さよなら……A子ちゃん……」
淡く瞬く細かな光の粒たちが、茜色の空へと向かって昇っていき、吸い込まれるように消えました。
空を見上げていたA子が、屋上のコンクリートの床に目を落とすと、あのプリクラが遺されていました。
そこからは1枚だけシールがなくなっていたそうです。
A子のスマホには、今もそのシールが貼ってあります。
不自然に右に寄った満面の笑みのA子の横に、ポッカリ空いた一人分のスペース……。
そこには、私には見えないA子の親友が確かにいるんだと思います。
その少し古くなったシールを見て、私もA子と初めてのプリクラを撮りたくなったのは、また別の話です。
作者ろっこめ
困りました‼
スランプです!!
((((;゜Д゜)))ヤバい……。
ゲスト総出演エピソード2の執筆中なのですが、全く筆が進まない……。
どうやら、わたしもヤキが回ったようです……。
なので、ストックから一話放出して間を持たせます。
ミンナ‼オラに元気を分けてくれ‼
下記リンクから過去作品などに飛べます。
第18話 『フォトグラフ』(ゲスト総出演エピソード1)
http://kowabana.jp/stories/28237
第20話 『物件探し』(ゲスト総出演エピソード2)
http://kowabana.jp/stories/28249