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プリクラ 【A子シリーズ】

中編5
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プリクラ 【A子シリーズ】

 これはA子がまだ可憐なJKだった頃の話です。

 高校入学当初はA子が天真爛漫な女の子だと、周囲は誤解していて、まぁ可愛い部類に入る顔立ちなこともあり、クラスでは一目置かれた存在でした。

 しかし、根っからの自由人だったA子は、苦手な授業や放課後などを一人静かに過ごすため、校舎の屋上に上がっては昼寝をする習慣を、入学から一週間で体得しました。

 ナントカと煙は高い所が好きとは、よく言ったものです。

 その日も苦手な化学の授業を優雅にシエスタしていたA子が、澄みきった青空の下で大の字になっていると、フェンスに手をかけてボンヤリ佇んでいる少女に気づきました。

 「あ?アンタもサボり?」

 授業をサボることに何の罪悪感も持たないA子が、その女の子に話しかけると、女の子はちょっとビックリしてA子を見ましたが、ばつ悪そうに笑って頷きました。

 「じゃあ、仲間だね♪」

 A子がニンマリ笑うと、女の子も笑いました。

 黒縁メガネにベリーショートの少し気弱そうな彼女に、A子は近づいて隣に立ちます。

 「アタシ、A子!アンタの名前は?」

 A子の問いかけに、彼女は小さく消え入りそうな声で答えました。

 「私、マサミ」

 マサミがはにかみながら俯くと、A子はマサミの肩に手を置いて言います。

 「まーちゃん、学校好きなんだね」

 一度も名前で呼ぶこともなく、ニックネームで呼ぶA子の近すぎる距離感を、マサミは違和感なく好意的に受け取ったようです。

 「私、学校大好きだよ」

 「へぇ~……アタシも勉強がなければ好き♪」

 学校の存在意義を全否定するような答えを言うA子に、マサミはプッと吹き出しました。

 「それじゃあ、学校の意味ないじゃない」

 「あ、そっか!!」

 しばらく笑い合う二人の間には、微妙な距離はすっかりなくなり、以前からの友人のような雰囲気が出来上がっていました。

 「A子ちゃんは、将来どうするの?」

 マサミからの高校生の悩みベスト3に入る質問に、A子があっけらかんと答えます。

 「実家を継ぐよ。兄貴は別のことしたいって言うし、アタシは酒好きだから」

 未成年のセリフには似つかわしくないことをサラリと言うA子に、マサミは感心しました。

 「そっか、A子ちゃん家は造り酒屋さんなんだ」

 「まーちゃんは?」

 A子がマサミに質問を返すと、マサミは俯いて言いました。

 「私は大学に行きたい」

 A子はマサミの答えに目を見張ります。

 「えぇーっ!!まだ勉強したいの?物好きだねぇ……」

 間抜けなA子の感想に、マサミは笑って言いました。

 「知らないことを知りたいの……世界は知らないことだらけだから……」

 知的好奇心豊かな優等生のマサミと真逆のA子……それは特異な組み合わせでした。

 「じゃあさ、これから学校サボって遊びに行こう♪」

 とんでもない提案に面食らうマサミの手を強引に引いて、A子は屋上を駆け降りて行きました。

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 A子とマサミは鮮やかに学校を抜け出し、最寄り駅から電車に乗って、少し栄えた街へ行きました。

 それなりにビルが建ち並ぶ街を、マサミはキラキラした瞳で眺めています。

 「まずはお洒落な食べ物を食べよう!」

 A子がまず向かったのは、クレープ屋さんでした。

 「おやっさん!ブルーベリーチョコ二つ!!生クリーム大盛りで♪」

 見た目ほど老けていないクレープ屋さんに注文し、クレープの出来上がりを待つ二人を、店長は訝しく見ていました。

 平日の午前中に制服姿のJKがクレープ食べに来てるんですから、無理もありません。

 「はいっ♪まーちゃん」

 出来上がったクレープの一つをマサミに差し出しますが、マサミは受け取ろうとしません。

 「私はいいよ!!お金持ってないし」

 しおらしく固辞するマサミに、A子は薄気味悪い笑みを浮かべます。

 「お金のことなら気にしないの!!体で払ってもらうからさ……グヘヘヘへ」

 気持ち悪いことこの上ない言葉をぶつけられ、困惑するマサミに、A子はグイッとクレープを押し付けます。

 「これも勉強だよ?」

 そう言われたマサミは、申し訳なさそうにクレープを受け取り、「いただきます」と一口パクリしました。

 「……美味しい♪」

 マサミが顔を綻ばせると、A子も満足そうに笑います。

 「でしょ?」

 二人はクレープをパクつきながら、次にゲーセンに向かいました。

 クレーンゲームに二千円も吸い込まれたり、ドライブゲームで事故ったり、メダルゲームでちょこちょこ稼いだりして、あっという間に時間は過ぎていきました。

 「最後にプリクラ撮ろ♪」

 A子はマサミの腕を引き、プリントシール機の中に入りました。

 フレームを決め、二人でポーズを取り、パシャリ!

 プリントシール機の現像を待つ間、A子がマサミに言います。

 「そろそろ学校に戻ろうか……出来たヤツは学校で渡すね」

 そう言って、吐き出されたシールを取り出し、マサミを連れて学校へ戻りました。

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 学校に着き、屋上へと戻った二人は、夕焼け空の下で向き合い、A子が言います。

 「まーちゃん、どう?楽しかった?」

 A子の問いにマサミは少し興奮気味に返しました。

 「うん!すっごくドキドキした!!楽しかったよ!!」

 子供のように瞳をキラキラさせているマサミに、A子がプリントシールを渡しました。

 「これ、さっきのプリクラだよ」

 ワクワク顔のマサミが、シールを見た瞬間、顔を曇らせました。

 「……A子ちゃん」

 泣きそうな顔でA子を見るマサミに、A子が言いました。

 「まーちゃん、まーちゃんの希望だった大学にはアタシが行く……だから、まーちゃん……」

 いつもヘラヘラしているA子が眉をハの字にして、涙を堪えていると、マサミは悲し気に笑いました。

 「うん……何となく気づいてたんだ……でも、A子ちゃんのお陰でハッキリしたよ……ありがとう…A子ちゃん……」

 そう言うと、マサミの姿がだんだん透けていきました。

 「バイバイ…まーちゃん」

 「さよなら……A子ちゃん……」

 淡く瞬く細かな光の粒たちが、茜色の空へと向かって昇っていき、吸い込まれるように消えました。

 空を見上げていたA子が、屋上のコンクリートの床に目を落とすと、あのプリクラが遺されていました。

 そこからは1枚だけシールがなくなっていたそうです。

 A子のスマホには、今もそのシールが貼ってあります。

 不自然に右に寄った満面の笑みのA子の横に、ポッカリ空いた一人分のスペース……。

 そこには、私には見えないA子の親友が確かにいるんだと思います。

 その少し古くなったシールを見て、私もA子と初めてのプリクラを撮りたくなったのは、また別の話です。

Concrete
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