人の住む世界とはちょっとだけずれた場所に存在する居酒屋ならぬ異酒屋。
私は店主の雪女の‘春’
今日もちょっと変わったお客さんが来ているのです。
『八尺ってなによ!!身長242.4cmですけどなにか?!帽子なんて被ったら全長260cmくらいになりますけどなにか?!私が身長高いからって誰かに迷惑かけましたか?!……ちっちゃくなりたい~…』
八尺様の通称‘はっちゃん’
【まぁまぁはっちゃん落ち着いて…】
髪が伸びる日本人形の‘花火ちゃん’
『はっちゃん言うな!私には‘小鳥’って名前があるの!』
人と違い特異な私たちの名前に込められる想いと言うのは人と同じ
もしかしたら、人以上かもしれません
生まれながらに力や性質、役割を背負うからこそ、そんなものに負けずに生きてほしい。
そう願うんです。
私たちは‘人を殺める’力を持っています。
花火ちゃんのように‘人に作用しない’力の子の方が少ないように思います。
ただ、誤解しないでほしいことがあります。
私たちのような存在皆が人を憎み、殺したいって思ってる訳じゃありません、そりゃ力を使うことはあります。
けど、少なくとも私のお店に来る人たちは人が好きなんです。
そりゃ、嫌な思いしたことはあります。けど、私たちは人が好きなんです。
何て言ったって、私達は突き詰めれば人から生まれたんですから…
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小鳥ちゃんは、また合コンに行き、またダメだったらしい。
相手の男が皆小鳥ちゃんより小さかったのだ。
小鳥ちゃんの求める彼氏の第一条件は‘自分より大きいこと’らしい。
…かなり絞られてしまうけど…
『なんで世の男どもはこうも小さいんだ!!!』
【違うわ。小鳥が大きいの。】
キッ!っとお酒の回った小鳥ちゃんが花火ちゃんを睨む
『ぅがー!彼氏ほしいー!!』
【でも、小鳥より大きいとなると…都市伝説生まれじゃなくて‘妖怪’になるわよ?朧車とか、一目入道みたいな?】
『いやー…ぃゃー…』
「まぁまぁ、小鳥ちゃん大事なのは心だよ」
『春はいいわよね、大きさ普通だもん』
「そんなことないよ?私は愛する人を氷漬けにしちゃうんだもん。氷漬けにしちゃったら、会話もできないもん。側にいても話もできないんじゃ寂しいよ」
『あ…ごめん』
「ううん。いいの、幸か不幸か今は相手いないし!結局一番バランスが良いのは花火ちゃん?」
【私は歳上がいいんだけど…】
何気に花火ちゃんはかなりの歳上、徳川家康を生で見たことがあるんです。
そんな花火ちゃんの歳上って………
「…恋って難しいね」
『【…うん】』
~♪~♪~
『ん?…またか…』
携帯を取り出した小鳥ちゃんはため息をつく
「どうしたの?呼び出し?」
特定の条件を満たすと現れる小鳥ちゃんなんかは、条件を満たす人間が現れた際はこうやって携帯に連絡が入る。
が、人間のもとへ向かうかは自由である。
『そうなんだけど、この子…前にもあったのよ。その時は行かなかったんだけど。』
「二回も満たすなんて…わざとじゃない?」
『私もそう思う。よっぽど私に会いたい好奇心旺盛な子か、怖いもの知らずの子か、それとも別のなにかがあるのか。ま、人間の考えることはわからないけどね~』
【どうするの?】
『行ってみようかな!暇潰しくらいにはなるかも~』
小鳥ちゃんは、 すっと立ち上がり私たちに背を向けたまま手を振り店を出た。
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店を出た私は‘化物道’を通り顕現場所へと向かった。
化物道は簡単に言えば‘どこ○もドア’のようなもの。目的地へとショートカットして向かえる。
たどり着いた場所は当然ながら八尺様の話が残る場所。
まだ道祖神置いてあるのかぁ
早く壊れないかなぁ~
昔、化物道の整備が済んでない頃は道祖神で囲った外に出ることはできなかった。
しかし、今は化物道の整備が終わってるため外へ出ることができる。
つまり、道祖神の意義が失われつつあるのだ。
しかし、やっぱり道祖神があることで窮屈な感じを受ける。
さて、件の子はどこかしらっと
携帯で地図を開くと赤い丸が表示される。
この赤い丸が居場所である。GPSのようなものだ。
あの家だな~
それじゃぁ、やりますか
手に持っていた帽子を深く被り、塀の側を歩き始める
『ぽ…ぽぽぽ…ぽ…ぽ…』
恥ずかしいのよね…これ…
ゆっくりと塀の側を歩く
早く気づいて~…
『ぽ…ぽぽぽ…ぽ…』
家の周りを何周もしたが…
だぁー!なんで気づかないのよー!
気づくでしょ!?塀より頭1つ分出てるのに!?
ぽっぽ言ってるのに?!
何より、呼んだくせ塀の周り見ないの?!
よし…
スー…………………ハー…………………
『ぽーッぽー!ぽぽぽぽぽぽぽっぽっぽっぽぽっぽー!』
随分前の一発屋歌手がこんな歌を出していた
そのせいで春の店で歌わされたことがある
ぜってーあの一発屋だけは許さない
迷惑してるモノがいることを思い知らせてやる
―――!
視線
気づいたね
今日のところはこれでよし
さて、春の店にでも行くかね
踵を返して歩き出した
が…
え?なんで?
私の後をつけてきてるんですけど…
普通しなくない?
こんなのの後をつけるとか…
ぐねぐねとことあるごとに曲がりまこうとするもついてくるついてくる
はっ…はっ…
さすがに疲れるんですけど…
……………………
…………
……
『なんなのよ!?あんた!』
ついに業を煮やしてしまった私は振り替えって話しかけた
“あっ…すいません…。えっと…その…”
『言いたいことあるならはっきり言いなさい!』
“はい!”
彼女の体がビクンっと小さく跳ねる
『それで?何?』
“あなたが八尺様…ですか?”
『そうだけど?っていうかさ、普通私みたいなのの後とかつけなくない?鍵かけて布団の中で震えるのが普通でしょ?怖くないの?』
“怖いです…。でも…私が呼んだみたいなもんだし…”
『みたい。じゃなくてあなたが呼んだのよ。昔は私たちが気に入った人間を見つけてたけど、今は貴女みたいに故意に私たちを呼ぶ人間もいる。それで?なに?貴女前にも私を呼んだでしょ?何の用?』
“私を殺してください…。楽になりたい…”
『はぁ?』
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その子は前髪を長くし、イメージで言えば井戸から出てくるあの人みたいな感じ
長くしてる理由は顔のソバカスを隠すため
ソバカスがある。たったそれだけの理由で学校の女生徒のいじめの対象にされてしまったらしい。
好いていた男にも拒絶されてしまったのだ。
人間とは本当に愚か、同じ種族なのに‘個性’と呼ぶべき小さな違いで他者を排除しようとする。
いつの時代もそう、自分と違うもの、自分より優れたものを持つもの、自分より下であると見下せるものを相手に自身の鬱憤をはらす。
本当にくだらない。
殺す価値すらない愚かな奴ら。
私も女である以上、この子の抱えているものの痛みがわからないわけではない。
自身の抱える個性のせいでつまずいてしまう。それは理解できる。
私の身長。彼女のソバカス。
本人にとっては大きなコンプレックスなのだ。
私と彼女の違いは話を聞いてくれる、味方になってくれる友人が側にいるか?それだけ。
私にはいる。彼女にはいない。
もし私が人間で彼女の立場だったらどうだろうか?
同じように死をゴールとし異形なものに頼るのだろうか?
考えても仕方ない私は人間ではないのだから。
『ふ~ん。くだらない、本当に死にたいのなら簡単に殺せるよ?うっすい紙を破くのと同じくらい簡単に。でもさ、私は悔しいのよ。』
“え?…どうしてですか?”
『そりゃそうでしょ。貴女をいじめる奴らに仕返しをするより、私を呼び出して殺される方が簡単だと思ったんでしょ?それ、すっごくプライドが傷つく。私よりそいつらのほうが上みたい』
“いえ…そんなつもりじゃ…”
『そんなつもりじゃない?よく言うわ。
実際、仕返しをせずに私を呼んだじゃない。
死にたいならいつでも殺してやるわよ、想像を絶するような死に方を貴女にプレゼントするわ。
けど、どうせ死ぬなら貴女をいじめた奴らに仕返しくらいしてみなさい!
死ぬ貴女に怖いものなんてないでしょ!
私を前に当たり前のように会話をする貴女がたかが人間の小娘らを相手できないとは思えないけど。242.4cmで人を殺せる私より怖い女が高校生ごときにいる?』
“…いません。”
『でしょ?もし貴女が何もできなかったら、私が殺してあげる。』
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『ってことがあったのよ~』
【小鳥カッコいいわねぇ♪】
「それで、結局どうなったの?」
『それがさぁ~、凄かったよ~。もう何て言うか全て吹っ切れた感じでさ。相手の女どもどつき回してさ、めっためたにしてんの。見てた私がちょっと引くくらいに』
「それで?」
『いじめられることはなくなったみたい。長かった前髪もすっきり切り落としてさ、その事を聞いて離れてしまった人もいたみたいだけど、話しかけてくれる人も増えたみたい。私を呼んだあの頃よりはいい顔してた。八尺様の小鳥様を呼び出すくらいだし、それくらいやってもらわないとね~』
なんて言っている小鳥ちゃんだけど、
私は知ってるよ?
『あの子は私の担当だ、手を出すな!』
って八尺様に成りすまし彼女の命をかすめ取ろうとするやつらを近づけなかったこととかさ
殺すことだけが私たちの生きる道じゃない。
たまには、生かすことをしてみたい。
だって、殺すより生かす方がずっと難しい。
時間を持て余してる私たち、少しくらい難しいことに手を出さないと暇なんです。
作者clolo
長くなってしまいました…
怖いとかとは主旨が違いすいません、
またしっかり推敲して書きたいなぁ
お読み頂きありがとうございました!