のれんを持って店先に出たところ、
《やぁ、春ちゃん店は開きましたか?》
「いらっしゃい颯(ハヤテ)さん」
やって来たのは今日一人目のお客さん黒いライダースーツを着た“首無しライダー”の颯さん
首がないのに居酒屋来てどうするんだって思うかもしれませんけど、飲めるんです。
颯さんは店に来るときはフルフェイスのヘルメットを被ってます。
そして、ストローで飲むんですがフルフェイスで隠してるのでどうなってるかはわかりません。が、飲み物はへっているので、飲んでるんです。
「今日は飲めるんですか?」
《今日は飲めないからノンアルコールをもらうよ》
「そうなんですね!なににします?」
【とりあえず、ビール】
《そうそう、ビール……!!…花火ちゃん…ビックリした…》
「いらっしゃい、花火ちゃん」
《春ちゃんは驚かないのね…ノンアルコールのビールで》
いつのまにか颯さんの隣に花火ちゃんが座っていた。
その気配の無さなんかは、人形より座敷わらしとかに近いような気がします。
【そうだ、颯くんは馬に乗ったりする?】
《馬?いやぁ、さすがに馬には乗らないかなぁ。バイク以外だとせいぜい車かなぁ》
首無しライダーなのに車に乗ることあるんだ…
なんて思っていると
【今日、小鳥と化物道歩いてたら馬に乗ってる首無しライダーを見たの。この辺りの首無しライダーって颯くんだけでしょ?
それで小鳥が『颯ー!』って呼んだのに無視して行っちゃうもんだから小鳥が拗ねちゃって大変だったの】
バイク乗ってる人に声をかけて気づいてもらえると思うこともちょっと…って考えちゃうけど
《花火ちゃんを見落とすことはあっても小鳥を見落としはしないよ~》
とケラケラ笑う颯さん
たしかに、颯さんなら小鳥ちゃんを見落とさないと思うなぁ。小鳥ちゃん大き…目立つし…
【不知火くんでもいればわかったかもしれないのに】
「不知火くんは諸々一段落したからラーメンと水炊き、モツ鍋を食べに九州に行ってますよ」
【都市伝説が食べ歩きってどうなのかしら…ホント人間くさいわ】
なんて言っている花火ちゃんですが、不知火くんの一件について凄く心配してたんです。
決して多くない“人間を好きな仲間”ですからね。
《不知火くん…こう言ってはなんですけど“片耳”で済んで本当によかった。もしかしたら…って思ってたから…》
まるでいなくなったかのようにしんみりしそうになると、
【食べ歩き野郎のことはどうでもいいの。馬に乗った首無しライダーのことよ】
花火ちゃん…自分で不知火くんの話を出したのに…
「あっ!」
《どうしたんだい?》
「スナズリがないんです!」
《あらぁ…小鳥がきいたら拗ねるぞ~》
またケラケラと笑う
前にも一度スナズリが切れてたことがあった。そのときはまぁ飲むわ飲むわ、拗ねるわ拗ねるわ
大変めんどくさかった。
『私にとって~スナズリってぇ~のはねぇ~…』
と、こんこんと絡まれた
それ以来、スナズリだけはきらしまいと誓った。のに…
「すいません!ちょっと買ってきます!」
カウンターを出ると、
《乗せていこう。その方が早い》
「でも…」
《春ちゃんいない間にお客さんが増えたらどうするんだい?早いのにこしたことはないだろ?》
「…はい。よろしくお願いいたします!花火ちゃん…」
【お客さんさん来たら座っといてもらうわ。ビールくらいなら私でも出せるし。
早く行ってきなさい】
「ありがとう!」
――――――――――――――――――――
手早く必要なものをもち外に出ると、先に出ていた颯さんがバイクにまたがり待っていてくれた。
《はい。》
とヘルメットを私に差し出す。
「ありがとうございます!よろしくお願いいたします!」
《うん。任せといて》
颯さんの後ろに乗り店へと発進した。
颯さんの運転は丁寧で、乗り慣れていない私に配慮してくれてるのがわかりました。
たぶん颯さん自身にしてみては多少物足りなさがあったのではないか?なんて思っていると。
颯さんが少し座り直し、前屈みになりました。
私が、ん?と思っていると
《春ちゃん、しっかり掴まっててね。飛ばすから…》
そう言い、スピードが上がりました。
「どうしたんですかー!?」
運転してる颯さんに聞こえるように大きな声で問うと
《後ろー!見てごらん!!》
と颯さんも大きな声で返してくれます。
颯さんに言われたように後ろを見ると
タタタッ!タタタッ!タタタッ!
と馬に乗った首無しライダーが追ってきているのです。ものすごいスピードで…
バイクと馬ってどっちが早いんだっけ?
さすがにバイクですよね?
馬は疲れるし…
なんて思ってると、私たちとの距離をみるみるつめてくるんです。
これにはたまらず
《嘘だろ?!ガチで速いわ!!ってか速すぎじゃね?!》
これが颯さんの素なのか、普段と違う現代っ子みたいな言葉遣いでちょっと驚きました。
私が乗ってるせいでいつもより安全運転を心がけてるから無茶ができないんだ…
《ごめん春ちゃん!もう少し飛ばす!……イヤイヤ、マジかマジかマジかマジか?!》
と片手で、腰に回した私の手を掴み
片手でハンドルを切り右に逸れる
一瞬何が起こったかわかりませんでしたが
急なハンドル操作による遠心力で私がバイクから落ちたり、バランスを崩さないよう掴まえててくれたんです
と言うのも
私の左側を、縦切りした剣が通りてすぎました。
加速した颯さんよりも更に加速した馬ライダーはいつのまにか右手に剣を構えてるではありませんか
「《嘘だろ嘘だろ?!》」
いつのまにか颯さんの口調が移った私は颯さんとハモりました。
「颯さん!走るやつを対象にした何か出来ませんでしたっけ?!」
《できるよー!少年漫画的に言うなら必殺技的なのあるけどさー!ダメなんだ!》
「なんでですかー?!」
《俺が使えるのって走るやつの首を飛ばすのばっかしなんだよー!!アイツ首ねぇじゃん!?飛ばす首ねぇから意味ねぇんだぁー(wwww)》
wwwwは、颯さんの声色を聞いた私のイメージですが
颯さんもなかなか焦っているようです
《お前ー!なんなんだよー?!》
と馬ライダーに訴えるが
[▼▲○◎◇※△■ー◆※ー!]
《ダメだー!言葉わかんねー!…春ちゃん!!》
と颯さんは
今日一番の声をあげて私の頭を低く押さえ込みました。
シュンッと私の頭の上を剣が通りすぎ、
その瞬間私と颯さんは宙に浮いていました。
目まぐるしく視界が回る中で颯さんが私を抱き締め
地面に叩きつけられることか身を呈して庇ってくれました
とはいえ衝撃は大きなものでした。
「いたぃ…」
《しっ》
と颯さんが小さな声で言います
[○◇◎■◆◆…]
外国の言葉を呟いた馬ライダーは颯さんのヘルメットを持つとそのまま去っていきました。
相手の首を切り落としたとでも思ったのでしょうか…言葉のわからなかった私にはわかりませんが
馬ライダーが姿を消すと
《いやぁ、首がなくて良かったと思ったのは初めてだよ~(www)》
「ヘルメット…すいません。私がいなければ逃げ切れてただろうに…」
《いやいや、俺の力不足だよ。それより、こちらこそごめんね。ちゃんと守れなかった…。ヘルメットはいいさ、沢山あるしね。
俺もまだまだだね。さぁ!スナズリ買いにいこうか!》
と、バイクを起こしヘルメットを取りだし被りました。
これ以上私がなにか言うのはいけない。そう思いました。
颯さんのプライドとかを傷つけかねないから…
「はい!お願いします!」
この言葉がいいだろうと感じました。
――――――――――――――――――――
スナズリを買い終えて店に戻ると
『遅いわよ~春~』
と、小鳥ちゃんが一升瓶片手にべろんべろんに酔っていました。
【ごめん、春…あのでかいの止められなかった…】
「いいよ、あの程度で済んでるなら。颯さん、何飲みますか?」
《もう、今日は運転したくないし日本酒の熱燗にしようかな。それと、スナズリで!》
今日は驚くこともありましたが、
お猪口にストローさして飲む姿に絡む小鳥ちゃんや、ケラケラ笑う颯さんに、真似をしてストローで飲む花火ちゃん。
みんな凄く楽しそうでなによりです。
作者clolo
お読みいただきありがとうございました!
しっかりした話を練るさながら、書いてみたかった変な話なんです。
似てるけど全く違うものってありますよね?
次はもっとちゃんとした怖話を書かせていただきます!