ある女性保育士がいました。
彼女はとても優秀な保育士でした。
優しく、誰からも好かれる性格の彼女は、保育園の子どもたちからの人気も高く、乳児から年長組まで、幅広い子どもたちからなつかれていました。
nextpage
手遊びやわらべ歌のレパートリーも豊富で、彼女のまわりにはいつも、子どもたちの明るく楽しげな歌声や笑い声が響いていました。
ですが、彼女には唯一、苦手なことがありました。
nextpage
それは、1歳頃までの乳幼児をあやすことでした。
子どもがグズったりすると、落ち着かせるために抱っこをしてなだめるのが普通ですが、彼女がそれをすると、泣き止むどころか、逆に、火がついたように子どもが泣き叫んでしまうのです。
nextpage
グズった子どもを向かい合わせになるように、左腕で抱き抱え、子どものアゴを左肩に乗せ、右手で背中をポンポンと叩きながら、身体全体を小刻みに揺らす…
子どもがグズったときに誰もがする「たてだっこ」ですが、彼女が1歳頃までの子どもにそれをすると、かえって強く泣かせてしまい、必ず逆効果になってしまうのでした。
理由は、彼女自身も、ほかの保育士も、全くわかりませんでした。
nextpage
ある日、彼女は街でたまたま入ったカフェで、偶然にも短大時代の友人に出会い、そこで近況報告や昔話に花を咲かせました。
友人も彼女同様、保育士として頑張っているということでした。
そこで彼女は、例の悩みについて、相談することにしました。
nextpage
********
「へぇ~なるほどね。誰からも好かれてしまう、アナタらしい悩みだね♪」
友人は、全てを見透かしたような表情で、そう答えた。
「ん?え?えっとぉ~、なんでそうなるの?」
彼女は、友人の言わんとしていることが理解できず、照れ笑いを浮かべた。
nextpage
「理論や経験を通して考えることを知らない、赤ちゃんの時代の時こそ、感性が豊かというか、感受性が強いというからね」
友人は、そう言ってから、おもむろに椅子から腰をあげると、次の瞬間、鬼のような形相を浮かべ、テーブル越しに彼女の鼻先まで、ぶわっと顔を近づけた。
nextpage
「うわっ!?ビックリした!なんなのよ、いきなり…」
友人の思いもよらない行動に狼狽える彼女。
「アハハハ♪ごめんごめん」
友人は再び椅子に腰を下ろすと、いつものように明るい笑顔で言葉を続けた。
nextpage
「ねっ!?ビックリしたでしょ?」
「そりゃぁ、ビックリしたわよ」
「これでわかったでしょ?」
「え?なになに?どゆこと?全然わかんないよぉ~」
友人はイタズラっぽい笑みを浮かべたまま、もったいぶったようにその理由を明かさない。
nextpage
「もう!いいかげん教えてよ!こっちは真剣に悩んでるんだからさぁ…」
ふて腐れ始めた彼女に、いたずら好きの友人もさすがにからかうのをやめた。
「誰にでも好かれてしまうっていうアンタの性格も、時には災いすることもあるのね」と言って、先程の突然の行動の意味を明かした。
nextpage
「さっき、ビックリしたでしょ?」
「そりゃ、当たり前でしょ。怖い顔していきなり近づいてくるんだもん」
「赤ちゃんだって、おんなじよ。だっこされたときに、怖い顔が目の前にあったら、そりゃぁ泣くわよ」
nextpage
「え?だからなんなのよ?」
「実は私、霊感強いんだけどさ………」
nextpage
「乗ってるのよ…
アナタの左肩に…
………悪霊が………」
作者とっつ
新作書きたくてウズウズしてるけど、過去作品の投稿がまだまだ完了しなくて…。
とりあえず、連休の家族サービスも終わったし、明日から仕事だし、久々に超短い過去作品を投稿します。