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中編5
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食事

夏休み

ごくありふれたイベントだが、友人たちと5人で山へキャンプに行き目一杯楽しんだ。

持参したデジカメでたくさんの写真を撮りまくった。

後日、現像してきた写真に見覚えがないモノが1枚混じっていた。

丸い何かが写っている。

なんだこれ?

友人の誰かがイタズラか面白がってか、撮った1枚だろうと気にもとめず、

現像してきた写真を友人に見せようと大学へと持参した。

「ほれ、この間のキャンプの写真。現像してきたよ。」

と、友人たちへ写真を渡した。

丸いモノが写った写真は持ってこなかった。

『なんだこれ?!』と不思議がる演技でもされたらめんどくさい。なんて思ったからだ。

皆で回しながら写真を見ているが誰も“丸いモノ”について言い出さない。

そうかそうか、そんな写真なんて無かったことにしよう。という魂胆か、それならそういうことにしよう。

俺もそれに乗っかることにした。

皆写真を眺めながら思い思いに、あ~だこ~だと真新しい思出話を口にしていた。

――――――――――――――――――――

真新しい思出だったキャンプも、少し古い思い出になり始めた頃、友人が二人事故にあい亡くなった。

山道を二人でドライブ中

トラックと正面衝突した。

友人が大切にしていた愛車は姿かたちをとどめていなかった。

トラック運転手の話では、友人たちの車が中央線を越えてきたらしい。

現場の状況から判断しても、その証言は正しいようだ。

だが、俺はそれを信じられなかった。

運転していた友人は“安全第一”を信条とするようなやつだった。

俺は運転が荒い面があるため黄色信号でも当たり前のように通過するが、そいつは絶対に止まる。

そんなやつが山道を運転するんだ、普段以上に気を付けるはずなのだ。

だが、友人側に事故の非があるのは事実だった。

1度に二人の友人を失った悲しみが和らぐ間もないうちに、また一人亡くなった。

自殺だった。

悩みは人それぞれ抱えているだろうが、自殺するほどのモノを抱えているようには見えなかった。

だが、式で会った友人の彼女と話をしたとき気になることを言っていた。

『“夢であいつらが俺を呼ぶんだ、笑いながら赤い涙を流してるんだ”“日に日に呼ばれる感覚が短くなってる”って…。二人が亡くなって、酷く落ち込んでたから、私は一緒に病院に行こうって言ったんだけど…』

と泣きながら話してくれた。

山で自殺した友人は泣いていたらしい…。

いきなり3人も失った俺は無気力になり、部屋に引きこもりがちになってしまった。

朝、目が覚めると顔を洗い歯を磨きタバコに火をつける。腹が減ったらカップ麺を食べる。テレビを眺め、夜になると寝る。そんな毎日だった。

ふと、机の引き出しに手をかけた。

中にはキャンプに行ったときに撮った写真が入っていた。

俺を含め5人で笑いながら自撮りした集合写真。

釣りをする俺

水切りをする友人

花火を振り回す友人

グラス一杯の酒をイッキ飲みする友人

写真をめくる度に涙が溢れてきた

なんでこんなことになってしまったんだ…

そうだ…あいつは…

一人だけになってしまった友人

“生きてるか?”

それだけを書き、メールを送った。

“生きてる。お前は大丈夫か?”

良かった、どうやら生きてるようだ。

返事を考えながら涙ながらに写真を引き出しへしまおうとすると、奥に1枚あることに気がついた。

あぁ、丸いモノが写った写真があったな…

思い出し、写真を取り出した。

あれ…こんなのだったか…?

中央に写っていたはずの丸は左へとズレている。

いや、こんなのじゃなかった。

写真を撮る心理として、中央になるようにおさめるモノだ。

写真に通じるものを持っていれば、ずらして撮ることもするだろうがそんなセンスを持ってるやつはいない…

写真が変わっている…それに、よく見ると

何か別のモノがうっすらといくつか写っている…

“見てもらいたいものがある。今から会えないか?”

“今から行く。”

すぐに返事は返ってきた。

――――――――――――――――――――

「これなんだけど…」

俺の部屋にやって来た友人は以前の面影を少し残していたが、頬はこけ目元は落ち窪んでる様に見えた。

『なんだこれ?』

「誰かが撮ったものだと思うんだけど…」

『誰も撮ってないと思う。ほら、デジカメとかって人の思い出とかが入ってるだろ?そんなものを勝手に触るようなことするやつらじゃなかっただろ…?』

そうだ、どれだけ親しかろうと他人のプライバシーに土足で踏み込むようなやつらじゃなかった…

あいつらの笑顔を思い出すとまた涙が溢れてきた…

『この写真…見てるとなんか気分が悪くなってきた。…よくないものなんだろうな』

「何なんだよこの写真…」

『視てもらおう…』

そういったものが視れるという人を調べ

予約をした。

――――――――――――――――――――

友人と合流し一緒に、視てくれるという人のもとへと向かった。

従者…とでも言うのだろうかその人が部屋へと通してくれた。

【何を持ってきたんだい…!】

口を開くやいなや怒気を含んだ声を女に投げ掛けられ、俺も友人もビクついてしまった。

それと、同時に状況の説明なんてもはや入らないと言っている様だった。

「これです。」

恐る恐る写真を取り出し渡した。

黙ってそれを視た後、口を開いた。

【これは、“蓋”だよ。】

「蓋?」

【そう。“地獄の蓋”】

何を言ってるのか分からなかった。

『地獄…?!意味がわからない…なんでそんなものが』

【意味なんてないんだよ。

たまたま蓋があるところにあんたたちがいた。

人はね、地獄に落ちやすい。落としやすいのさ。生きる為とは別に娯楽で生物を食べる、狩る。他人を妬み、怨み、殺す。こんなに、地獄が似合うモノは他にいない。業が深いのさ人間は…】

「…始めと写真が変わっているのは…?」

【目の前に馳走が並べられたら食べるだろ?分かりやすく言うなら、初めは口を閉じていた。そして、食べ物が来たから口を開けた。】

『食べ物…』

【わかっているんだろう?君たちの死んだ友人さ。正確には“魂”ってやつさ。

開いた蓋の周りにうっすらと写っているのが“食べられる友人の魂”

事故で死んだ子も、自殺した子も食べやすいように“魂”という形に料理されたのさ。】

女はタバコに火をつけ、フーッと煙を吐き出した。

俺も友人も言葉が出なかった。

「友人たちの魂はどうなるんですか…?」

【さぁねぇ。そこまでは私じゃわからない。それと……。いや、何でもない。】

「…そうですか」

話を終え、礼を伝え料金を支払い店を後にした。

『現実離れしていて、なんだか俺じゃよく分からなかったわ』

「俺もだ…」

写真を改めて見た、

蓋の周りには光がいくつか写っていたが

今見ると5つであることがわかった。

生きてる俺と友人。死んだ友人3人を合わせた5つ。

もう、俺も友人も魂を捕まれてるのだろう。

自殺した友人の夢に出た二人は助けを求めていたのだろうか…

飲まれたくない…と

地獄に飲まれることがわかっているのに、何もできない。

ただ、やって来るその日を待つしかできない…。

そのことに気がついたその時

俺の見える世界から色も光も失われた。

真っ直ぐに近づいてくる、電車の警笛さえ他人事のように思えた。

Concrete
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