【重要なお知らせ】「怖話」サービス終了のご案内

中編3
  • 表示切替
  • 使い方

死ぬ

 死恐怖症(タナトフォビア)という言葉をご存じだろうか。

 単純に言えば、死ぬのが怖いと思うこと。

 

nextpage

 初めて、死、ということを深く考えたのは、小学校六年生の頃だった。

 いわゆる、終末論というものが流行っているようなとき、ノストラダムスの大予言で、世界が滅ぶとされていた。

 隕石が降ってきて、地球に当たって、砕けていく映像。

nextpage

 そんなものを信じるなんて、馬鹿だろうが、かなり本気で信じていた。

 預言の日であった夜は、どうか世界が滅びませんように。

 と、泣いて、神様に請うたほどだ。

nextpage

 現在、様々な動画などで爆発オチとして使われている。

 あの映像を見て、よくよく、その時のことを思い出す。

 幼い私自身へと、あんなものを見るべきでなかった。

 そう、伝えてやりたかった。

nextpage

 死ぬ、ということは、終わるということ。

 死ぬ、ということは、亡くなるということ。

 死ぬ、ということは、無。

nextpage

 天国、地獄があって、死後にはそこへと行ったり、輪廻転生だったり、様々な答えがあるけれど、結局、本当かどうか、在るかどうかはわからない。

 死んでからではないと、分からない。

nextpage

 生きているものの最期は、死。

 生まれた瞬間に、死は定められている。

nextpage

 それを理解した瞬間、頻繁に吐き気と恐怖に苛まされるようになった。

nextpage

 勉強しているとき、周囲の友人と遊んでいるとき。

 『死ぬ』

 テレビドラマや映画の話をして、誰かと感想を言い合い。

 『死ぬ』

 新作のゲームで遊び、マンガや小説を見て、楽しいと思い。

 『死ぬ』

 見知らぬ場所へと旅行に行って、良い思い出を作った。

 『死ぬ』

nextpage

 なりたい仕事を見つけて、専門学校に通う。

 『死ぬ』

 なりたい職業に就いて、仕事を頑張る。

 『死ぬ』

 好きな人ができて、付き合うことになった。

 『死ぬ』

nextpage

 死にたくない、と心の底から考えて、考えて、考えても足りないくらい考え。

 『死ぬ』

 は、頭の片隅に残り続けた。

 

nextpage

 先輩が癌になった。自分よりもそこそこ程度に年上で、しかし、まだまだ若いといえる年齢だった。

 手術をして、闘病して、数年経ち。

 どの臓器にも転移はなく、再発も限りなく低いというほどもまでに快復した。

nextpage

「まだ分からないかもしれないけど・・・」

 そう、前置きして、先輩は言う。

「癌って宣告されて、手術して、闘病中なんどもなんども、死ぬかもしれない。

 そう考えると、怖くて怖くて、吐き気がしたんだ。人間って死ぬかもって思うと、吐き気するんだなあって初めて知ったよ」

 

nextpage

 私は、先輩のように身近に死を感じてなどはいないけれど、

 多分、その恐怖は随分と前から感じているものです。

 そのように、返答することはできなかった。

nextpage

 私は、今、大病を患っていない。大怪我を負っていない。

 私は、今、脅され、殺されようとしていない。

 私は、今、事故や災害に、遭ってなどいない。

nextpage

 安全に毎日を生きている。危険なんてない。

 当たり前のように、生きていて、それでもいつかと、知った時。

nextpage

 あなたも。

 『死ぬ』

 を、恐怖してしまうかもしれない。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

Concrete
コメント怖い
2
8
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ
表示
ネタバレ注意
返信
表示
ネタバレ注意
返信