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中編5
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ホラー話

つるべ落としが落ちると例えられる時期。

直ぐに、お日様は暮れて、夕焼け小焼けが過ぎてしまう。

良い子は早く帰りましょう。

そういって、サイレンが鳴る。

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『夕方6時になりました。まだ、外で遊んでいる人は、寄り道せずに家に帰りましょう』

小学校の頃、名前も忘れた童謡のリズムと共に、女の子の声がいつも町を包んでいた。

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陽が落ちてしまうと、街灯の少ない田舎町は、真っ暗闇になってしまう。

星の見えるような日であれば、多少なりと周囲は薄っすらぼんやりとでも見ることはできるけれども、曇り空であれば別である。

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さて、小学生高学年ともなれば、サイレンを無視して遊び惚けるのも致し方ない。

しかしながら、もう暗くなってしまったので帰ろうか。

小学校の校庭で、ぶらんこをきいきいと鳴らしながら、

「また明日遊ぼうね~」

一緒に遊んでいた友達の皆々様の去り際のセリフに手を振った。

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彼、もしくは、彼女たちは帰る家が近い。

しかし、私はかなり遠い。

結局、私は一人で我が家への帰路へとつくことになったのだけれども、どの道を通って帰るべきだろうかと、しばしの間、悩んだ。

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小学校の校庭から、車道の出ていく道。

小学校の裏から、細い路地を進んでいく道。

いずれも、我が家へと向かう道であるものの、どちらを選んでも曰くがあった。

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車道側を通ると。

乳母引き婆。開けないラーメン屋。道おいで。

裏側と通ると。

首なしライダーの下り道。落ち武者井戸。お白さん。

という、曰くつきなお話がある。

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大体は、兄や姉や先輩諸氏の馬鹿な噂話に過ぎないもので、大人になって思えば、嘘ばかりの作り話。首無しライダーとか、なんとか怪奇ファイルだし、キレたぜ、とかいうセリフは友人諸氏がよくよく使っていたものだ。

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そういう嘘の中において、本当の話も交じっていたりするのものなのだが。

私は、その日、裏道を通ることにした。

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お白さん。

小学校の裏道へと至る際に、神社がある。その神社の傍には白い着物を着た女性の幽霊が出るというお話である。白い着物の服を着ているから、お白さんという。

お白さんは、別に悪い幽霊ではないそうだ。

子供のことを見てくれている良い幽霊、だという話である。

神社の横ではなくて、よくよく見える人の話では、校舎の入り口に居たり、神社へと入る小さい坂道の傍に立っているそうだ。

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私は、ブランコの場所から校舎の入り口付近の傍の道を通り、裏まで行かねばならない。

もろに、その場所を直視しなければならなかったが、現状、校舎側を眺めて見てもお白さんなる人物は見当たらなかった。

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悪い幽霊ではない。という話を聞いていたので、その道で帰ることにしたのである。

そうして、結局、お白さんのおの字もなく、裏道へと続く坂を下ることができた。

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首無しライダーの下り道。

裏道を続く坂を下っていくと、細い道になる。そこで、左側に急な傾斜の道があり、その上にぽつんと民家があった。

そこから二輪バイクがすごいスピードで下ってきて、裏道を通る人間を轢いてしまうという。その運転している人間の首はないらしい。とかいうお話である。

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エンジン音が聞こえれば、引き返せばいい。そういう風に思って、裏道の坂を下っていき、丁度、土手の傾斜付近をおそるおそる見ながら足早に道を進んだ。

特に何も現れなかった。

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落ち武者井戸。

私の田舎は、平〇という文字が多い地域だった。歴史上の平家にまつわる様なお話の上で、合戦に敗れた平家の落ち武者が、村人に裏切られて井戸に捨てられたというお話が残っている。

裏道を中ほど進んでいくと、深い藪の中にポツンと一つ枯井戸があった。

夜にその傍へと行くと、男の声で恨みや辛みの声が聞こえるらしい。

その声を聞くと呪われてしまい、夢の中で殺される。というお話である。

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裏道を中ほどまで進み、井戸の場所付近まで着ていた。声を聞いてしまうと、呪われる。

ということで、耳を塞いで足早に通り抜ける。

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声も何も聞こえず、呪われなかった。

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そうして、私は無事に暗闇に沈んだ田舎道を通り、我が家についてから親に怒られたとさ。

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さて、その日、他の友達も暗い中に帰ったわけであるのだが、近所の家とはいえ、どうしても、その曰く付きの場所を通らないといけない子が居た。

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小学校の校庭から、道路側へと出ていく道。

遠い間隔があって、僅かに街灯もある。

車の通りは限りなく少ないけれども、バスも通るため、人の通りがあるといえばある為、裏道よりも怖くはない。

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彼女は、校舎側から車道を出て、大きい通りを歩いていた。

田舎町では数少ない商店は閉まっていて、シャッターが下りている。

誰が入るのか分からない衣服の店も、電気屋も、いわくつきの開けないラーメン屋も、普段通りに閉まっていた。

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乳母引き婆の出るとされている場所も既に過ぎていた。

後は、道おいで。

けれど、彼女は、道おいでだけは、大丈夫。

ということを知っていた。

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彼女が、道路を歩いていき、数度、車の通りと共にバスが横を通り過ぎて。

道路を挟んで、Y字の分かれ道に着いた。

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道おいで。

Y字の分かれ道の中心にぽつんと、誰かが通っている。

その誰かの傍に寄って、道を通ってはいけない。

道を通るときは、出来るだけは、その誰かの傍を離れて通らないといけない。

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傍を通ってしまうと、「どっちに行く」と声をかけられてしまう。

声をかけられてしまったら、どちらかを選ばなければならない。

選ばずに通ってしまうと、捕まえられて、違う道に引きずられてしまう。

どちらかが、正解で、どちらかが、不正解。

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簡単に見分ける方法はある。

何も言わずに、一方の道を指を差すと。

道おいでは笑う。その道は不正解である。

逆に、恐ろしいまでに顔をゆがめると、その道は正解である。

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正解を選ぶ際は、しっかりと「こちらに進む」と話す必要がある。

何も言わずに進むと、手を引っ張られて、不正解の道に引きずられてしまう。

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正解の道を通ると。

「こっちにおいでおいでおいでおいで!」

「おいでおいでおいでおいでおいで!」

「おいでおいでおいでおいでおいで!」

と。大きな声で叫びだすが、声が聞こえなくなるまでは振り向いてはいけない。

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彼女は、臆することなく、普段通りに道路を渡って、Y字の右の道を選んで家に帰って行った。

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