「疲れたぁ」
校門を出ると、浩介は伸びをしながら言った。彼の高校ではもうすぐ学園祭がある。生徒会に所属している浩介はこの頃になると、夜遅くまで学校に残ることが多くなるのだ。過ぎてしまえば楽しい青春の一ページとなるのだが、実行中はそんなこと考えてはいられないほど大変だ。
浩介は伸びをし終えると、何気なく本校舎の二階に目をやった。もうほとんど誰も残っていないのだろう。月明りに照らされた校舎内が開いたカーテンの隙間から僅かに見える。
「ん?」
ふと、何か違和感を覚えた。本校舎の二階には職員室がある。浩介が学校を出るときには、まだ顧問の先生や他の教員が数人残っていたはず。真っ暗というのはおかしいのだ。
先生たちも、もう帰る支度をして職員室の電気を消したのだろうか?そう思った浩介は、あまり気にせずに自転車を置いてある駐輪場へ向かうため、校舎の外を回って旧校舎のある敷地の校門を通った。
「あれ?」
駐輪場に着いた浩介は思わず声を上げた。自転車が無い。浩介の自転車だけではない。少ないが、まだ自転車通学の生徒も学校に残っているし、ずっと放置されている自転車もあったはずだ。それすらどこにも見当たらない。おかしい・・・そう思って何気なく旧校舎に目をやった。誰かいる。今はもう倉庫として使われているはずの旧校舎に、人影が見える。
浩介はゾッとした。早くこの場から離れなくては。そう思い咄嗟に校門の方を向くと・・・校門が閉まっていた。なぜだろう、さっきまで開いていたはずなのに。出る方法ならある。校門をよじ登っていけばいいのだ。しかしその時の浩介は、なぜかそれが出来ないでいた。なぜか・・・校門の前に、幾つもの黒い人影のようなものが立ち塞がっていたからだ。
浩介は思わず絶叫したくなった。だが声が出ない。息が苦しい。
○
「おい、大丈夫か!」
その声に気が付いて目を開くと、目の前には生徒会顧問の先生が俺の顔を心配そうにのぞき込んでいた。浩介はホッとしたと同時に、一気に涙が溢れ出した。
「倒れてるお前を見付けたから驚いたぞ。怪我は無いのか?何があった?」
先生は優しく背中を撫でながらそう言ってくれた。
「ごっ、校門に、人が・・・急に閉まってて」
浩介は泣きながらも先程までの状況を先生に伝えようとした。
「すまん、無理しないでもう少し落ち着いてから話そうか」
浩介は落ち着こうと呼吸を整えた。そして気付いた。
先生は、ここへ何しに来たのだ?
教員用の駐車場はこことは別の場所にある。こんな時間に余程の用が無い限り、旧校舎まで来たりはしないはず・・・。浩介の安心は徐々に不安へと変わりつつあった。
「どうした、落ち着いたか?」
聞き慣れた先生の声が、別の人の声に感じる。いや、そもそも人なのだろうか。浩介は恐る恐る先生の顔を見た。
「気付いたのか?」
先生の顔は、もう先生のものでは無かった。真っ赤に染まり歪んだ顔面は、もうこの世のものとは思えないものだった。
○
ただ一つのことを除いて、無事に学園祭を終えた生徒会室では、ある話で持ち切りになっていた。
「浩介のやつ、本当にどこへ行っちまったんだろうな」
生徒会長の杉坂はそう言って頬杖を付いた。
「あの日、学校を出てから行方不明なんですよね?」
「失踪・・・するような子じゃなかったし」
「本当は何か誰にも話したくない悩みがあったのかな」
「なぁ、この学校の旧校舎って、幽霊出るらしいぞ」
「ちょっと会長、怖いからやめてくださいよー」
「はっはっ、もしかしたら浩介・・・どこかに連れて行かれちまったのかもな」
浩介の自転車は、駐輪場に放置されたままだ。
作者mahiru
こんばんは。最近夏風邪というものをひいてしまいました。今も熱がさがりません・・・。
まさに夏風邪ノイズですねえ←
はいwそんな中、ふと書きたくなったので久しぶりに短編怪談を書かせて頂きました!そして明後日の7月6日には他サイト様ですが、空海まひるの新作小説が公開予定です!よろしくお願いします!
これを投稿したらお布団に入って風邪を治したいと思います。
それでは、皆様もよい悪夢を。フフフ・・・