炎天直下のバス停に立っている。俺の他には誰もいない。暑すぎるからだろうか?
少し待つとバスが着たので、俺はそれに乗り込んだ。俺が今どこへ向かっているかというと、街の路地裏にある怪しい駄菓子屋、鬼灯堂だ。今日はそこの店主である十六夜日向子さんに用事がある。
駅近くのバス停で降車すると、大通りを外れて薄暗い路地へと入って行く。少し歩くと、鬼灯堂という看板の掲げられた古い商店が現れた。俺はそこのガラス戸を開き、カウンター越しで椅子に座り欠伸をしている少女に声を掛けた。
「こんにちは、十六夜さん」
「あら、しぐるくんじゃないの!今日は一人?最近鈴那ちゃんがお世話になってるみたいで~ありがとね~」
俺が店に入った瞬間、機関銃の如く話し始めたこの少女こそが鬼灯堂の主人である十六夜日向子さんだ。見た目は本当に露と同い年ぐらいだが、正体は妖怪なので歳はけっこういっているらしい。
「いえいえ、すみません急にお邪魔してしまって」
「いいのよ~暇だから~。何か用があるのかしら?何でも言って~。あと、呼び方は日向子ちゃんでいいのよ~」
十六夜さんはそう言うと椅子から降りて右手の人差し指を頬に当て「てへ」と言った。
「ああ・・・じゃあせめて日向子さんで」
「んも~その反応~、うねうねの刑にしちゃうぞ~」
「ちょっと話があって来たんですけど、いいですか?」
「え、無視・・・はい、何かしら~?」
「実は昨日、婆捨穴という心霊スポットの除霊にゼロたちと行ってきたんですけど、そこでロウと名乗る人の姿をした妖怪に会ったんです」
俺がそのことを話し始めると、日向子さんは何か分かったような顔をした。
「ロウね、昨日の夜にゼロくんから電話で聞いたわ」
やはり、既にゼロが話していたか。そうだとは思っていたが、さすがゼロは行動が早い。
「そうでしたか。まぁ、それで日向子さんなら何か知らないかなと思って」
「実はその子、私の知り合いのお弟子さんだった子かもしれないのよ。他の町に住んでる妖なんだけど、木斬という強力な妖術使いがいてね。それで、彼の弟子にロウって名前の子がいたんだけど、何十年か前に破門にされたと聞いたわ」
日向子さんは喉が渇いたらしく、お茶を飲んで話を続けた。
「それで破門にされた理由が、邪悪な意思を持ち始めたからと言ってたのよ。私も長らく木斬には会っていないけれど、そう人伝に聞いてね。あ、人じゃなくて妖か」
「そうだったんですか・・・ありがとうございます。でも、なぜそのロウがこっちに来て悪霊に術なんかかけてるんでしょう。あ、そういえばロウともう一人居ました!確かー、キノとか言ってたような・・・あと、そいつが首領様がどうとかって言ってて、何のことなんでしょう」
「キノという男については知らないけど、恐らくは組織化されてるわね。ロウもその組織の一員なのでしょう。でも意味が分からないわね、何が目的なのかしら」
確かに意味が分からない。日向子さんの言う通り何かの組織だということはありそうだが、なぜこの町でそんなことをする必要があるのだろうか。
「まぁ、深く考えてもよく分からないし~。それよりしぐるくぅん、ちょっと私といいコトしない~?」
日向子さんはそう言うと背中から触手をうねうねと出し、俺の胸元を突いた。
「な、なんですか急に・・・しませんよ」
「え~?うねうねでロリロリの子といいコトしたくないの~?」
「うねうねって気持ち悪いんでやめてください・・・なんですかいいことって、意味深なんですけど」
「ウフフ、冗談よ。びっくりした?」
日向子さんは俺に絡めかけていた触手をシュルシュルと背中に戻した。
「どうしたんですか?突然そんな冗談を」
「別に~、特に意味はないけれど、鈴那ちゃんとはもうしたの?」
「したって、どういう意味ですか?」
「え、だって一緒に寝たりしてるんでしょ?それなら~・・・」
そういう意味だったか・・・。俺が言葉の意味を察して顔を赤らめると日向子さんはニヤリと笑みを浮かべた。
「ないないないです!俺たちまだ17ですよ!ていうか何てこと訊いてくるんですか!」
「え~高校生でもいいじゃないの~。ダメなの?鈴那ちゃんは求めてこない?」
「いや知りませんけど・・・いや、求められたことは、ないかな」
そういえば、鈴那から身体の関係を求められたことは無い。俺もそんなに意識していなかった。というか、正直こんな話を日向子さんとするのは恥ずかしい。
「そうなのね~、プラトニックね~。じゃあ、鈴那ちゃんから何か悩みの相談されたこととかある?」
「悩み、ですか・・・あ、そういえばこの前、何か言い掛けてましたけど・・・教えてくれませんでした。あの、何かあるんですか?」
俺が訊くと日向子さんは少し考えてから首を横に振った。
「いいえ、本人が話すまで私は何も言わないわ。しぐるくん、鈴那ちゃんがもし何か相談してきたら、その時は優しく聞いてあげてね」
勿論、そのつもりだ。
「わかりました。そうだ日向子さん、もう一つ訊きたいことがあるんですけど」
「ん、なになに~?」
「その・・・ゼロは、霊や妖怪が嫌いなんでしょうか?」
俺が訊くと日向子さんは「う~ん」と言いながら視線を逸らした。
「どうしたの?そんなこと訊いて」
「いえ、何かそんな感じがしたので」
訊いてはまずいことだっただろうか。
「・・・あの子、お祖父さんを悪霊に殺されたのよ」
そういうことだったのか。
「だからゼロは・・・すみませんでした」
「いいのいいの、ゼロくんには黙っといてくれれば大丈夫。お祖父さんを亡くしてからあの子、ちょっと変わったのよ。いい人だったから、きっとゼロくんにも優しかったのね」
つまりゼロは、悪霊を憎んでいる。そう思うと、俺も同じかもしれない。妹のひなは悪霊に殺されたのだ。いつか妹を殺した悪霊に復讐してやりたい。それに似た憎悪が、ゼロの中にもあるのだろうか。
「大切な人が殺されたら、誰だって殺したヤツを憎みますよね。ゼロも、悪霊が許せないんだろうな」
「そうね。あの子は、もう二度と大切な人を死なせたくない。そんな思いで祓い屋をしているのよ。きっと、しぐるくんもそうなんでしょ?」
俺は黙って頷いた。確かに、俺もこの仕事を始めた時はそう心の中で決めた。そうだ、俺はそのために祓い屋をしいているのだ。強くなることばかりに囚われ過ぎて目的を見失いかけていた。
「日向子さん、俺もそのために祓い屋になったんです!最近色々なことがあって忘れてたけど、俺の目的はこの手で妹を殺した悪霊を除霊し、露や鈴那たちを守りたい。でも・・・認めたくないけど俺は弱い。強くなりたい。どうすればいいんでしょうか」
「しぐるくん、弱く見えないけど、どうして力を思うように発揮できないのかしらね・・・何かトラウマがあったり過去に縛られていたりすると、無意識にブレーキが掛かっちゃうこともあるようだけれど。」
ブレーキか、俺は一体何に囚われているのだ。なぜ強くなれない?祖父は強かった。ひなも強い霊力を持っていた。俺は・・・そんなことを考えながら俯いていると、日向子さんは俺の肩にポンと手を置いた。
「しぐるくん、一人で何でも抱え込んじゃうタイプね」
そう言うと俺の肩に置いていた手を頭に移動させ、撫でようとした。が、身長の差で届かないようだ。
「う・・・まぁ、悩みを吐き出したい時があればいつでもここへおいで。私でよければ聞いてあげるわ」
日向子さんは照れ臭そうに笑うと背中から触手を出し、それで俺の頭を撫でた。
「ニュルニュル・・・あ、ありがとうございます」
もし俺に深刻な悩みがあるとしたら、それが力のブレーキになってしまっているのだろうか?日向子さんの言う通り、俺は一人で抱え込んでしまうタイプかもしれない。と言うか、感情表現が下手なだけだ。過去にそれで親父からも個性が無いと言われたことがある。正直そのことは今でも根に持っているが、なるべく考えないようにしている。
「鈴那ちゃんが心配してたわよ、しぐがずっと元気ない~って」
「え、鈴那がですか?」
そんなことにまで気付いて心配してくれていたとは、それだけいつも俺のことを見ていているのか。
「しぐるくんが少しでも元気になるにはどうすればいいかなんて話しにきたりして、ほんと、いい子だわ。思い切って鈴那ちゃんに相談してみたら?その方が彼女も気が楽になるかも」
「そう・・・ですね、そうします。今日にでも、色々話してみようかな」
俺は鈴那に悩みを話したことがあまり無い。そもそも誰かに悩みなんて話さない。だけど、鈴那になら話せるかもしれない。
「日向子さん、ありがとうございました」
俺は頭を下げた。
「いいのよ~、またおいでね」
「はい!ではまた」
そう言って俺は鬼灯堂を出た。そういえばまだ昼前だ。昼飯を何処かで食べて行こうかと思い、とりあえず駅近くの公園のベンチに座った。鈴那と露とサキは家で遊んでいる。一人の散歩は久しぶりな気がして、たまにはいいかもしれない。
「しぐるくん、何してるの?」
不意に横から声を掛けられたのでそちらを振り向くと、オッドアイの青年が微笑みながら立っていた。
「昴!あ、さっき鬼灯堂に行って来て、今は街をウロウロと」
俺はそう言って苦笑した。北上昴はゼロの仲間の呪術師で、俺とは同級生だ。仕事で一緒になることはあるが、二人だけで会ったのは今日が初めてである。
「そうなんだ。お昼ご飯食べた?まだなら、よければ一緒にどう?」
「あ、そうしようか」
「よし、いいお店があるんだ。行こう」
ゼロから聞いた話によれば、昴は頭が良く運動もできて顔もかっこいいハイスペックな高校生らしい。勉強がそこそこでも他が駄目な俺とは大違いである。確かに、今こうして話していても話しやすい。俺は人見知りなところがあるけれど、昴はこちらが話しやすいように接してきてくれるのだ。イケメンとはこういう人のことを言うのか。
昴に案内されて入った店は街中のラーメン屋だった。どうやらそこそこ有名らしく、客は多かった。
注文したラーメンが来ると、俺達はそれを食べながら雑談をし始めた。
「昴は、なんで祓い屋になったんだ?」
「僕?元々家が祓い屋の一家だったから、その跡を継いだだけだよ。うちは結界師の家系でね、結界を使った術が得意なんだ」
「結界師か、かっこいいな。じゃあ、気を悪くしたらごめんだけど、その義眼について訊いてもいい?」
「全然いいよ」
昴は笑顔で続けた。
「僕は幼い頃に左目が見えなくなって、実は右目の方もほとんど視力が無いんだ。だから、このまま全盲になるのはまずいって、両親に連れられて町の有名な呪術師の所に行ったんだ。そこでこの義眼を貰った。これは適合する人と適合しない人が居るらしいんだけど、適合すれば普通の目のようにはっきり見えるようになる。でも、その代り色々なものまで視えてしまうんだ。霊とか、妖怪とか」
「昴は、適合したんだな」
「うん、僕は元々霊感がそこまで強くは無かったんだけど、この義眼を着けてからは世界が変わった。そこら中幽霊だらけなんだ。初めは怖かったけど、案外慣れてしまうものだよ」
本当に慣れとは恐ろしいものだ。霊の見える生活が当たり前だなんて、随分と突飛な話である。
「しぐるくんは、どうして祓い屋に?」
「俺か、俺は・・・妹を殺した悪霊に復讐するためなのかもしれない。勿論、露や鈴那を守りたいという意思もある。けど、それ以前に俺が弱いから今のままじゃどうにもできない」
「なるほど、それで焦ってたんだね」
「うん、どうすれば少ない霊力で効率的に除霊できるかみたいなことも自分なりに調べて考えてはみたんだけど、やっぱり難しい。一応、右京さんに術を教えてもらったから、それだけでも前よりはいいかもしれない」
但し、呪術の威力は大半が自分の霊力に依存するものだ。つまり俺が右京さんの術を使ったとしても、右京さん程の力は発揮できないということである。
「色々頑張ってるんだね。僕は見守ることしかできないけど、応援してるよ」
昴はそう言って優しく笑った。
「ありがとう」
俺達はラーメンを食べ終えると、店を出て駅のバスターミナルへ向かった。
「じゃあね、しぐるくん。また機会があれば」
「ああ、今日はありがとうな。また」
俺は昴と別れてバスに乗り込んだ。今の俺に必要なものは何なのだろうか。悩みを解消することか、何かを克服することか、ただ強くなるために修練するのか・・・。
「君は復讐するためなら、命も惜しくないの?」
「ああ、ひなの仇を討てるのなら俺なんてどうなろうと構わない。って、は?」
不意に聞こえてきた誰かの声と共に、視界は真っ白な世界へと移り変わった。
「それは、ひなちゃん喜んでくれるのかな」
声は背後から聞こえる。
「いっそのこと、ひなと同じ場所に行ければ・・・」
「鈴那のこと、忘れちゃった?」
「・・・!」
俺は背後にいる声の主を見るべく振り返った。
「こんにちは、雨宮しぐるくん」
綺麗な女性が俺を見て言った。どこかで見たことのあるような顔で、とても懐かしいような感じがする。
「あなたは・・・?」
俺が訊くとその女性はフフッと笑った。
「鈴那がお世話になってます。嬉しいよ、あの子が君のような人と巡り合えて」
そこで俺は気が付いた。この女性は・・・。
「鈴那の、お母さんですか」
「あ、もう時間が無いや。また会えたら、次はもっと沢山の話をしよう」
女性はそう言うと、優しい笑顔を浮かべて消えていった。
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「きっと君は、あの夏の温度を忘れられないままでいるんだね」
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目が覚めると、そこはまだバスの中だった。車内アナウンスが家に近い停留所の名前を言ったので、俺は慌てて降車ボタンを押した。
バスから降りると、先程まで見ていた夢のことを思い出してみた。どんなことを話したのかは何となく覚えている。だが、話した相手のことを全く思い出せない。
「復讐のためでも・・・俺が死んでいいはず無いか」
俺は小さく呟いた。俺には鈴那や露が居るのだから、復讐のためだけに命を懸けるのは間違っている。夢の中のその人は、それを気付かせてくれた。どんな人だったのか忘れてしまったけれど、とても優しい笑顔の人だった気がする。
家に着くと玄関の戸を開き「ただいま」と言って靴を脱いだ。
「おかえりなさーい」
「おかえり~!」
露と鈴那の声が聞こえた居間へ行くと、そこでは二人が仲良さそうに何かの話をしていた。サキはどこかと探してみれば、露の横で丸くなっているのが見えた。
「何の話してたの?」
俺が訊くと鈴那と露は楽しそうに話し始めた。
「色々だよ!漫画とかテレビとかの話~!」
「鈴那さんも私と同じ漫画が好きだったので、その話で盛り上がってました~」
「なるほど、趣味が合ってよかったね。サキはどうしたんだ?」
「サキさん、寝ているのでしょうか」
「起きてるよ、ちょい考え事してただけだ。おかえり、しぐる」
サキはそう言いながら頭だけを上げて俺を見た。
「そうか、ただいま」
サキが考え事なんて、一体どんなことを考えていたのだろうか。彼なりの、妖怪なりの悩みみたいなものがあるのだろうか?
「サキさん、夕飯のお買い物行くけど一緒に行きますか?」
露がサキを手で拾うように持ちながら言った。
「行く。てか連れてく前提だったろ」
サキはそう言って露の肩に飛び乗った。正直なところ、サキが露の外出に付いていてくれた方が安心である。
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二人が・・・いや、一人と一匹が夕飯の買い物に出掛けて、家には俺と鈴那だけが残った。
「鈴那、ちょっと相談があるんだけど」
俺は思い切って鈴那に言った。
「ん、どうしたの?」
鈴那は心配そうに俺を見た。
「いや、何ていうか・・・漠然としていて自分でもよく分かんないんだけど、その・・・」
やはり誰かに言葉で伝えようとすると上手く出てこなくなる。昔からそうなのだ。
「俺、どうすればいいんだろうって・・・」
そう言ったところで、堪えきれずに大粒の涙が流れてきた。本当に俺は泣き虫だ。格好悪すぎる。
「しぐ・・・しぐ、大丈夫だよ」
鈴那はそう言いながら俺を抱いてくれた。その優しい温もりで更に泣いてしまった。
「おれ・・・俺、ひなが死んでから生きる気力なんかとっくに無くしてて・・・それでも生きてれば色々考えなきゃいけないし、ひなが死んだって事実も受け入れなきゃいけないし・・・」
「ずっとそれを一人で抱え込んじゃってたんだね。一人、怖かったよね」
「うん・・・怖かった。何よりもずっと、一人でいることの方がずっと怖かった」
「でも、今のしぐは一人じゃないよ。だって露ちゃんも居て、あたしも居て、ゼロたちだっているよ。だからもう一人で怖がらなくても大丈夫。大丈夫だから」
鈴那はそう言いながら俺の頭を撫でてくれた。俺はただ泣くことしか出来なかった。こんなに泣いたのは何時ぶりだろうか。
「鈴那、ごめん・・・ごめんね。俺はまだ・・・まだあの日のことを」
「しぐ、謝らなくていいんだよ。何も悪くないんだから。あの日のこと・・・?」
バスの中で夢から覚める直前に聞こえたあの言葉が、再び脳裏を過る。
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「きっと君は、あの夏の温度を忘れられないままでいるんだね」
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あの夏・・・俺はまだ、ひなが死んだ三年前の夏に囚われたままなのだ。きっと心も、そこに置き去りなのかもしれない。
「ひなが死んだ夏のことを、忘れられないんだ。今までずっと目を背けてきたけど、やっぱり乗り越えたい。鈴那・・・手伝ってくれる?」
「当然だよ、しぐの心の痛みまで好きになってみたい。そうじゃなきゃ嫌だ。だって、大好きだもん」
鈴那はそう言って涙を流しながらまた俺を抱き締めた。俺もまた涙が溢れてきた。
「それなら・・・それなら、俺だって鈴那の痛みを愛したいよ」
「しぐ・・・もう、受け入れてくれたじゃん」
鈴那は頬に涙を伝わせながら微笑んだ。
「あたしの消えない過去も、手首の傷も、全部受け入れてくれたじゃん。今度はあたしの番だからね」
そうだった。気付いたら俺は・・・。
「鈴那、ありがとう」
俺は涙を流しながら言った。
「しぐ、いっぱい泣いたね」
「うん・・・服ごめん」
「いいの、ちょっとは溜まってたの吐き出せた?」
俺は無言で頷き、涙を拭った。
「そっか、よかった」
鈴那はそう言いながら俺の頭を撫でた。心地いい、今はただ、鈴那の温もりに触れていたい。暫くは、このままで。
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「サキさん、どうしたんですか?」
夕飯の買い物を終えてスーパーから家までの道を歩いている途中、今日はサキさんがいつもより元気のないように見えるので訊いてみた。
「ん~?いやぁ・・・」
「何か、お悩み事ですか?」
「・・・露ちゃん、昨日は勝手に風呂覗いてごめんな」
「それは、別にもう気にしてないのでいいですよ。そのことで元気無かったんですか?」
「いや、それもなんだけど・・・俺さ、元々は蛇神だったんだわ。でも、ちょっと悪いことしちまって、神の地位を剥奪されると同時に尻尾の先を切り落とされたんだよ」
サキさんは自分の切られた尻尾から出ている紫色の炎のようなものを見せてから続けた。
「まぁ、それだから今この町で起きてることがどんなことなのか何となく分かるんだわ。それをどのタイミングでしぐる達に話せばいいもんかなぁと思ってさ」
「なるほどです。サキさんってやっぱり神様だったんですね」
以前から何となくそんな気がしていた。特別な理由は無いけれど、サキさんの話を聞いているとそれっぽいようなことも話していたからだ。
「今はもうただのちっこい蛇妖怪だけどな」
サキさんは苦笑した。
「小さくてかわいいですよ。それにしても、この町で起きていることですか?」
私の問いにサキさんはチョロリと舌を出してから小さく呟いた。
「災厄さ、それに・・・」
ヤツが近くにいる。夕景を背にして、最後にそう言った。
作者mahiru
こんにちは、夏風ノイズ26話です。