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中編3
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予知夢【烏シリーズ】

 高校三年生の夏に見た夢の話をさせてくれ。

 いつもの通学路。それなのに、人は一人も居ない。俺は横断歩道の前で、赤信号が青に変わるのを待っていた。車は一台も通らない、無視してもいいのに。そんなことを考えていると、歩行者用の信号は青に変わった。

 その瞬間、俺の後ろから自転車に乗った人影のようなものが突然現れ、青信号の横断歩道へと走り出した。俺がそれに続いて歩き出そうとすると、それは起きてしまった。白い車が猛スピードで横断歩道へ突っ込んできたのだ。信号無視だった。

 自転車の人影は車と衝突し、道路へと投げ出された。俺の視界が真っ赤に染まってゆく。ああ、困ったものだ・・・。

 そこで目が覚めた。自分が夢を見ていたということは覚えている。だが、その内容が思い出せない。そんな出来事があってから半年以上経ったある日のことだ。

 俺はバイト先へ向かうためにバス停を目指して歩いていた。普段なら最寄りのバス停までそれほど距離は無いのだが、この日はいつものバスの時間を逃し、徒歩で出来るだけ次の次のバス停へと進んでいた。田舎なので、バスの本数が少ないのだ。

 次のバス停付近の横断歩道まで来た時、俺はあの夢の内容を思い出した。昔から、たまに予知夢を見ていた。そして、それは目が覚めた瞬間忘れ、事が起こる寸前になると思い出す。

 この時もそうだった。そう考えているうちに信号は青へと変わり、俺は凍り付きそうになった。後ろには自転車に乗った男性がいる。彼は信号が青に変わったのを見て、ペダルを漕ぎ出そうとした。

「待って!!」

 俺は咄嗟に叫んだ。自転車の男性はそれに驚くと自転車を漕ぐ足を止め、俺の方を振り返った。その直後、一台の白いスポーツカーらしき車が猛スピードで横断歩道を通過した。勿論、信号無視であった。背後ではそれに驚いたタクシーが大きなクラクションを鳴らしている。

「あ・・・ありがとうございます」

 自転車の男性は顔を強張らせながら俺に言った。自動車とはスレスレの距離だったのだから、怖かったに違いない。

「いえ、はい。何も無くてよかったです」

 その後、バス停まで着いて暫くするとバスが来たので俺はそれに乗った。そして無事、バイト先のカフェに辿り着くことが出来たのであった。めでたしめでたし。

   ○

 その日の夕方、俺はバイト先の店長に夢の事とさっき起きた事を話した。

「へぇ~、カラスくんって予知夢とかも見れるんだね~」

「高校生の頃は、たまに見てましたね。あれ以来は全く見なくなりましたけど」

 店長(23歳)は俺の高校時代の恩師の元教え子で、高校を中退し職も無い俺をアルバイトとして雇ってくれたのだ。飲食店のバイトはきついイメージが強かったが、個人経営の小さなカフェは客が多いわけでもなく、正直暇だ。その分、バイト代も少ないが・・・。

 平日はほとんど客も来ないので、普段から店長と俺はカウンター席でテレビを観ながら駄弁っていることが多い。

「そうなんだ~、俺も予知夢とかちょっと見てみたいなぁ。怖いけど」

「店長、怖がりですからね」

 俺がそう言いながら笑うと、店長も苦笑した。

 店長にも言った通り、俺はあれ以来予知夢というものを見ていない。その理由などは分からないが、もしかすると、カラスになったことと関連があるのだろうか?

Concrete
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