第三回 リレー怪談 鬼灯の巫女 第6話

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第三回 リレー怪談 鬼灯の巫女 第6話

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朝の身支度を終え、まだ眠る渚の部屋で一同円を描くように座り込んだ。

1秒でも惜しい、早く曲津島へ行こうと興奮気味の東野さんに異議を唱えたのは、珍しくも潮だった。

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・この状態の渚を一人置いてはいけないこと。

・昨夜の渚に何があったのか、何一つわかっていないこと。

・双子がまつわる島へ、私達西浦姉妹が行くことに安全性があるとはまだ思えないこと。

・客をほったらかしたまま消えた園さんが、無関係とは思えないこと。

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日頃、ヘラヘラして頼りない潮にしては、力強く、もっともらしい内容だった。

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東野さんの落胆ぶりは、絵に描いた様に分かり易かったが、

「確かに…準備が足りない…か」

一言つぶやくと、渚の方に目をやった。

昨夜の渚の様子から、既に私たちが、良からぬ何かに足を踏み入れたことは、皆が分かっていた。

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私は、島へ行くことが先延ばしになったことへ、少し安心しながら八月の顔を見た。

いつもと変わらない、怯えた様子はあるが、昨日までと変わった様子はない。

昨夜の、“あれ”を見たり聞いたりしたのは、やはり私だけのようだった。

皆に話すべきか…私は迷っていた。

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食事の買い出しに、私と潮が行くことになった。

漁業の町は朝が早く、近くの商店も惣菜やらパンやら、コンビニまでとはいかずとも、それなりに並んでいた。

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私達が、店ごと買い占める勢いでどんどん商品を手にするのを、店番のおばあちゃんはニコニコと見ていた。

観光客なんて来そうにもない場所の割に、よそ者に警戒心がないんだなぁ…と漠然と思っていた。

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田舎で、よそ者が来ていることは知れているようだが、民宿に泊まっている私たちが食材を買い込むことに何も思わないのだろうか…

それは潮も同じだったようだ。

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会計の時に、潮がおばあちゃんと世間話を始めた。

都会から来た若者との話を、嬉しそうに楽しんでいたが、

「民宿の園さんがいなくなった」

その話をすると、顔中皺だらけでどこが目なのだろう?と思えるおばあちゃんの笑顔が止まった。

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『笑顔がなくなった』のではなく、まさに『止まった』。

笑顔が張り付いたように感じた。

しかし、すぐに優しいおばあちゃんに戻り

「ほうかほうか。

食べ盛りの若いもんが、それじゃ足りんだろう。

ちょっと待ってなね」

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そう言うと、自分たち家族のご飯をお握りにしてくれた。

何度も何度もお礼を言う私達に、今度はおばあちゃんが色々と話してきた。

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内容は「いつまでの予定か」「何人なのか」など、他愛のない話しばかりだったが、そこに

「もしかして、双子がいるのかい?」

の質問を挟んできた。

おばあちゃんは自然に振る舞ったつもりだろうが、この質問以外はダミーなのだとすぐに分かった。

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無言の朝食を終え、ゴミを片付けようとした時…

「あぁぁ!ずるい。なんで起こしてくれないの?」

と、渚が大声を出しながら飛び起きた。

これには、さすがの東野さんも驚いたようだった。

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「渚…あんた、大丈夫なの?」

「へ?何が?

それより、お腹ペコペコだよ。私にも何かちょうだい!」

食材に飛んできた渚から、鉄と生臭い臭いが漂った。

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「うっっ…

渚、先にシャワー浴びておいでよ。

あんた、昨日シャワーも浴びずに寝っちゃったから、汗臭いよ。

それに、歯磨きもしてないよ。

ほら、行って行って!」

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「えっ?臭い?

って、七月、なんか言い方きつくない?」

「いいからいいから。はい、タオルね。

歯磨きセットも持っていって。早く早く!」

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可哀想なくらい強引に追い出してしまった。

八月はまた私の腕をがっつり掴み出した。

「覚えて…ないみたいだな…」

「…ですね。

ひとまず俺、脱衣所の外で見張っときます」

残された3人は、各々何かを考えているのか、黙ったままだった。

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20分ほどすると、二人が言い合いながら部屋へ入ってきた。

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「信じられない。

女の子が入ってる風呂場の前で何してんのよ!」

「だからぁ…はぁ…東野さん何か言ってくださいよ」

「あぁ…ほらあれだ。

ばあさんの歌の事もあるしな。

それに、昨夜から園さんもいないんだよ。

だから念のため…な」

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この東野さんの言葉で、昨夜の渚の行動は、ひとまず本人には内緒にするのだと、全員が分かった。

「八月…お前、いい加減七月の腕離してやれよ。

ほら、お前の手形のあざが出来てて、完全にホラーだよ。

握られすぎて、片腕だけゾンビみたいじゃん。

それ以上握ってると、脂肪分だらけのミンチができるぞ」

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十分、射程範囲内にいた潮を、条件反射で仕留める。

「あんたら、本当に仲良いね」

その言葉に、我に返ると、皆が私たちを見て、微笑んでいた。

その微笑みに癒されつつも、懐かしく感じた。

皆の笑顔があったのは、いつまでだったんだろう…

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私は、昨夜見たものを、皆に聞いてもらおうと決意した。

一人で抱え込むのは怖すぎる。

皆で考えた方が、何か分かるかもしれない。

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話しを聞いた東野さんが、今朝までの経緯を事細かに、順に紙に書いていった。

昨夜の渚のこと以外…

商店のおばあさんの質問すら書き留めた。

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その用紙を眺めていた東野さんが

「一つ気になるな…

禁忌だった話をあのばあさんが聞かせたのが、西浦。

“若い者が来ていることが嬉しいから”と園さんは言っていたが、あの歌も禁忌に近い。

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それを聞かせられたのも、西浦。

どちらも西浦に聞かせる前には

“これを聞くのは、あんたが最初で最後”

と言っている。

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鍵は西浦な気がしてきた…

西浦、お前なんでここから引っ越したんだ?」

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「え?何でって…

何でだろう?」

「お前さ…姉妹いないか?」

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「えー、何で知ってるんです?

いました。いや、いたらしいです。

私はあまり覚えてないんですけどね、二人とも死んじゃったんです」

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「…二人?

…もしかして、お前…

三つ子だったんじゃないか?」

「そうなんです。よく分かりましたね。

珍しいでしょ?」

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「…ここに来ること、親に言ってきたか?」

「…いやぁ、それが…

うちの親、ここの話しをするのも嫌がるんですよね」

「どういうことっすか?」

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「恐らく…

西浦の他二人の姉妹は…

この町の何かの儀式に利用されたんじゃないのか…

しかし、ここでのこだわりは“双子”だ。

三つ子でも、二人だけ並べば双子に見える。

しかし、事実は三つ子。

禁忌の禁忌…だった…とか…」

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「えっ…

いや、それは…そんなこと、ないでしょう。

だって、私がここを出たのなんて、十数年前ですよ。

平成の時代ですよ。

そんな時代に、禁忌だの、生贄だの…」

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「そっ、そうですよ。

東野さん、いくらなんでも・・・なぁ?」

「う…うん…」

「……私…トイレに…行ってきます…」

少しふらつきながら、渚が部屋から出て行った。

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すぐに後を追おうと、潮が立ちあがると

「トイレに付いてくるとかやめてよね」

そう言い残し、襖をぴしゃっと閉めて行ってしまった。

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部屋の隣にあるトイレの扉が閉まる音を、皆が確認した後で、東野さんが小声で言った。

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「西浦から目を離すな。

特に…今夜。

もしまた西浦がどこかに出ていきそうなら、制止せず後をつけよう」

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後をつけた結果、渚が何を食べるのか…

想像しただけで吐き気がする…

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全員がそう感じつつも頷いて見せた時、八月が一言…

「渚ちゃん…

渚ちゃんなんだけど…

…渚ちゃんじゃない…」

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