「僕の声がきこえる?君はここのうちの子?」
進は優しく念じながら話しかけた。
"たすけて…わたしたちを…たすけて…ママを返して…”
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「僕たちも君に助けてほしい。だから、質問に答えてくれる?」
夏美も子供の声は聞こえている。進は、声に出して少女と話すことにした。
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「君とベッドの下にいる子は、姉妹だね?」
"そう…ママが連れて行かれたから…こわくて…”
「外にいる女の子は?知ってる?」
"私たちの…一番下の妹…
ここにいなくちゃダメって言ったのに…
ママを探しに出て行ったの…”
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『母親を一人で探し回るうちに、どんどん《念》が強くなって、
あの子だけが邪悪な力を身に着けてしまったのね』
そっと夏美がつぶやいた。
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「ママはどこに行ったの?」
"おじちゃんがママだけ連れて行ったの…”
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『…おじちゃんって、この子たちを殺した…?』
夏美が子供たちには聞こえないくらいの声で言った。
進は、夏美に頷いてみせ、更に続けた。
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「おじちゃんは、ママを連れてどこに行ったのかな?」
"わからない…ママが逃げなさいって言ったから…”
すると、怯えた声がベッドの下から聞こえてきた。
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"ふ…ふういん…ママを連れて…ふ…ふういん…”
「ふういん?」
「ふうい…え!?封印?
まさか、封印するのにこの子たちの母親を生贄?
…なわけないか…」
進がつぶやくと、考え込んでいた夏美が
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『誰かが男を封印しようとしたとき、
男が母親を引きづり込んでそのまま出られなくなった…とか…?』
「封印って…ただの殺人事件じゃなかったの?」
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母親の愛というものを、俺は全く知らずに育った。
さみしくはあったが、"母親とはそんなものなんだろう”と、不思議には思わなかった。
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母親は、祖父母のいないところで、俺のことを"忌み子”と呼んだ。
その意味が分かり始めた頃、母は俺を愛していないんじゃない、憎んでいるのだと知った。
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祖父母が他界してからは、母の俺への憎悪はあからさまになっていった。
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いつからか、母に憎しみの言葉を投げつけられると、
体中の血が逆流するような…
自分ではない何かが、自分の体中で脈をうつ…
そんな感覚を覚えるようになった。
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例年通り、冬になり杜氏の修行へ出かける朝…
「行ってくるから」そう言った俺に母は
「お父さんがあんなに早く死んだのも、呪われたお前のせいだったんだ。
お前が死ねばよかったんだ」
と、ぶつぶつとつぶやいていた。
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その母の姿を見たとき、また体中が"どくん どくん”と
脈をうつのを感じた。
ある日の夜…お世話になっている酒造屋の女将さんが、酒をふるまってくれた。
珍しく酔った俺は、母親の言葉を思い出しながら、布団に入った。
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"どくん どくん”
飲みすぎてしまったのか…"あの”鼓動が聞こえる…
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体の中が燃えるように熱い…
俺の心臓とは違う鼓動が、強くなる…
「…てしま…」「ぶっ…ろ…まえ」
俺の中から声がする…
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次の日の昼過ぎ…母親の変死体が見つかったと連絡をもらった。
なぜだか少しも驚かなかった。
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別荘の管理の仕事は、俺には合っていた。
訪れる人たちは、都会の金持ちばかりで、俺のことなど"使用人”としてしか見ていなかった。
あの家族を除いては…
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一番奥にある7番館の家族。
俺が作った野菜を持って行くと、老夫婦はいつも嬉しそうに
「秀夫さんの野菜を食べると、寿命が何年も延びた気持ちになるのよ」
と、言ってくれた。
この敷地内で、俺の名前を覚えてくれている唯一の家族だった。
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子供たちも、俺になぜかなついてくれ、きれいな花を見つけては見せに来てくれたり、
庭の手入れなどをしていると、決まって隣に座り、庭いじりの真似事をした。
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「洋服が汚れるよ」
そう言うと、若奥様が
「都会では、めったに経験できませんから」
と、もったいないくらいの笑顔で言うのだ。
本当の母親の愛…そんなものを感じてしまった。
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しかし、そんな絵に描いたような家族にも、欠点はある。
旦那は、最悪の人物だった。
避暑地に来ても、書斎から一歩も出ず、仕事ばかりをしている様子だった。
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「あっ、あなた、これ秀夫さんが作ってくれた採れたてのお野菜なんですよ」
たまたま玄関先に来た旦那に、奥さまは弾むような声で話しかけた。
『そんな、どこの土で作ったかも分からないもの。
いつもの店で、いつもの有機野菜を取り寄せするように言ったはずだろ』
「ぱぱぁ、見て見て。おじちゃんがね、竹トンボを作ってくれたのぉ」
嬉しそうに飛ばしてみせる娘たちに
『…そんなもの、いくらの値打ちがある?
お前たち、服に泥がついているじゃないか!
その服がいったいいくらするのか知っているのか!」
それだけ言うと、車に乗り込み行ってしまった。
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その時、奥さまは悲しげに
「この子達の父親が、秀夫さんみたいな方だったら…」
そう呟いたのだ。
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その日は突然に来た。7号館の裏庭の手入れをしていた時だった…
陶器の割れる音と、男の怒声。子供たちの泣き声と…奥さまの泣きながら謝る声…
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気づいてはいた。
いつも肌が見えない服ばかり着ていた。
それでも、隠せない場所はある…
口元のあざ、手首のあざ、時々少しだけひきづる足…
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“どくんどくん”
久しぶりな感覚…母が死んでから、一度もなかったのに…
「…せば…んだよ」「なにも…ぶっこ…」
血が逆流する。誰のものか分からなかった鼓動が、
俺の鼓動と重なる…
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「殺せばいいんだよ」
「何もかもぶっ壊してしまえばいいんだよ」
俺の中の誰かが囁きかけてきた。
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旦那だけを殺せば良かったんだ。
そしたら、この家族は幸せになれると思っていた。
返り血を浴びた俺を見る目が…
唯一、人として見てくれた子供たちの目が…
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…鬼を見るように、俺を見ていた…
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shake
《どんどんどん》
壊れるほどの勢いで、誰かが扉を叩いている。
いや、体当たりをしている音だ。
驚き、悲鳴も出せずに進と夏美はお互い手を握った。
ものすごい音とともに現れたのは、白目をむきだし、確実に憑かれた太郎だった。
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『もう!兄貴!どこに行っていたの!』
太郎と分かるや、夏美は駆け寄り、思い切り何度も右手をふりあげた。
「い…痛い。い…夏美やめて。懐中電灯も立派な凶器だから」
太郎が正気に戻ったことを確認した進が、冷静に尋ねた。
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「洋子は?」
「え!?ようこ…ようこ…ようk…!!!」
『はぁ!?信じられない!
この家は、女の人は危険すぎる!!
こんなところに洋子さん一人にしたの?』
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再度右手を振り上げた夏美を
「いや、太郎も憑かれてたし…」
と、進が冷静に止めた。
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太郎の"昔の血”が騒ぎ出す前に、
やはり冷静な進が
「とにかく、この部屋でもう少し計画を練るしかない…かな…」
と、言うと、
小さな洋服ダンスの上の写真立てを見つけた…
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「これ…この写真の女の人は誰?」
“それは…ママだよ”
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そこに写っている女性は、史華と瓜二つだった。
作者mami-2
ロビン様、あんひめ様、貴重な経験をありがとうございました。
はい、分かっております。錚々たるメンバーが名を連ねているなかで、しかも、こんなチャンス滅多にないであろう中で、私などが入っていること…
まさに「およびでない?」状態なのは、私が一番に感じております。
どうでしょう?
《寿司→てんぷら→すきやき》とくれば、一日くらい茶漬けが食べたくはなりませんか?
何とか、優し~いお気持ちで見ていただければと…
できるだけ、皆様の作品の流れを壊さないようにしたつもりでございます。
と、いうより、何一つ先へ進んでいないというか…
夏美達以上に、この部屋から出ることができませんでした…
これ以上ぶっこむと、後の方が大変かも!?とか、後の方々もすごい方々…ちょっと冒険しちゃっても…など、色々思いましたが、如何せん、ぶっこむ才能がない…
とりあえず、秀夫は狂っていなかったのかも!?みたいな?
それと、ラストの写真だけぶっこんでみました。
あっ、太郎を復活させました。
なんとなく…一発殴りたかったので…
最後の写真も…ムフ。矛盾は分かっておりますよ。
母親似なのに、なぜ末娘に憑かれたのか…とか…
そこは…分からないです。
なにせ、「何を封印したのか」も分かっておりませんから…
書いている者ですら何なのか、分かりもしないこのお話を導いてくれるのは…
そりゃ、【ゴルゴム13】様でしょう!!!
お願いします。
ありがとうございます。
色々な方に助けていただいた作品となりました。
また、最後までお読みいただいた方…心より感謝申し上げます。
★これまでのお話は、以下リンク先をクリックしてご覧ください。
第一走者:ロビンM太郎.com様→http://kowabana.jp/stories/25198
第二走者:鏡水花様→http://kowabana.jp/stories/25206
第三走者:紅茶ミルク番長様→http://kowabana.jp/stories/25219
第四走者:あんみつ姫様→http://kowabana.jp/stories/25232
第六走者:ゴルゴム13様
➡http://kowabana.jp/stories/25256
第七走者:ラグト様
➡http://kowabana.jp/stories/25269
第八走者:龍田詩織様
→http://kowabana.jp/stories/25277
第九走者:小夜子様→http://kowabana.jp/stories/25283
第十走者:よもつひらさか様
→http://kowabana.jp/stories/25296
皆殺しの家 外伝:マガツヒ様
→http://kowabana.jp/stories/25299
【登場人物】
野呂 太郎 → 年齢20歳、元暴走族上がりのオラオラ系だが、現在はすっかり丸くなり、ガソリンスタンドで契約社員として勤めている。霊感多少有り。
龍田 進 → 年齢20歳 太郎の親友(幼馴染み)。太郎とは正反対の容姿で、頭脳明晰な大学生。実家暮らし。霊媒体質。
平坂 洋子 → 年齢19歳、太郎の彼女。一方的な太郎の片思いと積極的なアプローチに負け、三カ月前から付き合い始めた。 社会人一年目の美容部員。霊感無し。
川久保 史華 → 年齢19歳。洋子の親友。高校卒業後、実家の由緒ある酒屋さんの手伝いをしている。話し口調は萌え系。密かに龍田進に想いを寄せている。霊感無し。
野呂 夏美 → 年齢17歳。太郎の妹で美人。口調は男っぽく柔道の有段者。意外と泣き虫。高校二年生。霊媒体質。
…※ これ以外の、建物の形状、殺害された家族構成、犯人の素性、等のイメージ描写は全て皆様にお任せ致します。
後、ご質問、ご要望、参加希望者の方がおられましたら、ロビンM太郎.com宛てにお願い致します