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「え?どういうこと?八月。」
七月が問う。
「・・・フジツボ。」
八月がポツリと呟いた。
「えっ?」
一同は一斉に声を上げた。
「・・・渚の背中に・・・小さなフジツボがついていたの。」
八月が震えながら言うと、しばらく沈黙が続いた。
「ま、まさかぁ。八月の見間違いじゃない?」
怖がりの妹が、幻覚を見たのだと、七月は思った。
「ううん、本当だよ。ちらっとTシャツの襟元から見えちゃったの。」
怯える八月に、能天気な潮が勤めて明るく言う。
「きっと見間違いだって。たぶん、ゴミかなんかついてたんじゃないの?俺達からは言いにくいからさ、北嶋たちがさりげなく言って取ってやれよ。」
「それなら、渚はお風呂に入ってるんだから、もうちゃんと落ちてるはずよ?でも、トイレに行く前も見えたんだもの。しかも・・・・私が見た時より、二つ増えてた。」
八月は、もう泣きそうだ。
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「お待たせ~。」
「おお、渚、大丈夫か?」
潮が心配顔で問う。
「うん、何とか、大丈夫。」
渚がぎこちない笑顔を作る。
おのずと全員の視線は、渚に集まる。
「みんな、どうしちゃったの?私をジロジロ見ちゃって。私に何かついてる?」
おくびにもフジツボがついているなんて言えない。
皆も見てしまったのだ。
渚の襟元から覗くフジツボを。増えている。確実に。本人は、まったく違和感が無いようだ。
皆は動揺を隠せなかった。
そこで、東野が真剣な顔で、渚に歩み寄り、渚の肩を掴んだ。
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「ど、どうしちゃったんですか?東野さん。」
「渚、落ち着いて聞いてくれ。お前の体に・・・フジツボがついている。」
「えっ!うそっ!」
「鏡で、自分の襟元を見てみろ。」
そう言うと、東野は、渚に手鏡を手渡した。
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「えっ、なにこれ!さっきまではついてなかったのに!いやっいやっ、取れない!誰か取ってえ~~~!」
渚はパニックを起こし、暴れだした。
「落ち着け、渚!」
東野と、それを見ていた潮は、慌てて渚に駆け寄った。
泣き喚く渚をなだめて、皆でフジツボを取ろうとしたが、皮膚にがっちりと食い込んでおり、取れる様子が無い。
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「ねえ、東野さん、渚を病院に連れて行こう?」
泣き喚く渚を宥めながら、七月が言う。
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「この町には病院は無いんだ。それに、それは病院に行っても、恐らく駄目だと思うよ。」
いつ入ってきたのかは分からないが、そこには、無精ひげの青年が立っていた。
「あなたは?」
人の部屋に勝手にずかずかと入ってきた不審者に、責任感の強い東野は、前へと詰め寄った。
「ここの家の者だ。昨日から姉さんと連絡が取れない。」
「えっ、園さんの弟?でも、園さんに弟がいたなんて、聞いてない。」
正気に戻った渚が答えた。
「ああ、君が渚ちゃんか。無理も無い。君が小さい頃、俺はずっと東京の大学に行ってたまにしか帰ってこなかったからな。」
見た目が若いので青年だと思っていたが、そこそこの年齢のようだ。
「俺は民俗学を学んでいて、民間伝承について調べているんだ。今は、研究者。」
そう言って、名刺を見せてきた。
〇〇民族資料館 学芸員 西浦 雅人。
「姉さんみたいないい大人が一日連絡が取れないくらいで大げさかもしれないが、これは警察の力を借りるしかないみたいだな。嫌な予感がしたから、飛んで帰ってきたんだ。」
雅人は深刻な顔でそう話す。そして、おもむろに、七月と八月のほうに向き直ると、さらに話し始めた。
「君たちは双子だね。君たちは、偶然この地を踏んだように思っているかもしれないが、ここに双子がいるかぎり、君たちはこの地に呼ばれていたんだと思う。」
「どういうことですか?」
怯える双子の変わりに、東野が問う。
「今の平成の時代に、こんな話を信じられるかどうかは、わからないが・・・。」
そう前置きをすると、雅人は目を閉じた。
「厳田の本家と分家の話は、もう聞いたかい?分家の婆ちゃんは本家を嫌ってるから、双子がこの島に来るってことで、きっと君達を呼び寄せると思ったんだ。ところが、分家の婆ちゃんが双子を呼び寄せ、鬼灯村の伝承を伝えようとしたところで倒れちまった・・・。ねえ、君たちは、呪いって、信じる?」
「呪い・・・ですか?」
東野が、どう答えて良いかわからず、ただオウム返しにただ言葉を返す。
すると雅人は、ゆっくりとした動作で皆に座るように勧めると、自分も畳の上にあぐらをかいた。
もしかしたら、この人なら、今ここで起きている怪奇現象を解決できるかもしれない。
「渚ちゃんには、もしかしたら呪いが掛かっているかも知れない。」
そう言われた渚は今にも泣きそうだ。
「渚を助ける方法はあるんですか?」
潮が食い気味に雅人に顔を近づける。
「曲津島に渡るしかない。双子の妹が埋葬されているあの島へ。」
窓の外に、そんな禍々しい言い伝えがあるとは思えないほど、ぽっかりと海に浮かんだ島が見える。
「あの島に渡って、俺達は何をしたらいいんですか?」
東野が問う。
「あの島には、伝承の中で切り殺された娘の墓があり、その刀を奉納している神社がある。その神社を守っている一族が居る。その一族は強い力を持っていて、怨霊と化した双子の妹の霊を封印しているはずなんだ。
特に、その一族の、双子の巫女は、相当な力を持っていて、ちょっとやそっとじゃアレは外へ出る事はできないはず。」
雅人の顔が深刻になる。
「夜な夜な、娘は哀れな姿で、恨めしげに島の人間の前に現れたそうだ。」
「哀れな姿?」
七月が今度は、身を乗り出した。
八月は相変わらず、七月の腕を掴んで離さない。
「そう、顔と体中フジツボだらけの姿で徘徊したそうだ。」
「ひぃっ!」
渚は息を吸い込むと、口に手を当てた。
「渚ちゃん、フジツボ女が君を迎えに来なかった?」
雅人がそうたずねると、渚はまたハラハラと涙を流しながら震え始めた。
その肩をぐっと大丈夫だ俺がついてる、とでも言うように潮が抱き寄せた。
「渚ちゃんを曲津島に連れて行って、彼女達に怨霊を祓って貰う必要があるな。その呪いを解かなければ。」
「でも、何故、渚が呪いにかからなければならなかったの?」
「西浦家も実は、厳田の分家なんだ。厳田は、旅の売僧に騙されて、突然の不漁を西浦家の双子が禍を呼んでるというのを信じて・・・。
西浦家は、代々遺伝で双子が生まれる確立が高かったんだろう。そして、分家の西浦の娘を生贄に捧げた。もしかしたら、この地に、また双頭の魚が水揚げされたのかもしれない。」
「でも、呪われるのなら、渚ちゃんが呪われるのはおかしくない?本当は、厳田が呪われるべきよ。」
七月は、鼻息を荒くした。
「うん、実は、厳田家にも呪いはかかっているんだ。あそこは女系家族だ。男の子が生まれると、幼くして亡くなるか、もしくは成長して跡を継いでも、発狂して自殺するなどして、厳田は娘に婿養子を取る形で存続している。だが、厳田の家に入る男は、長生きしないんだよ。」
「行くしかないな。」
東野が皆の顔を見回すと、覚悟を決めたように頷いた。
「俺が案内するよ。船を手配しよう。」
そう言うと、立ち上がった。
「姉さんも探さないといけないしな。姉さんは、きっとあそこに居る気がする。」
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雅人は、窓の外の何の変哲も無い青空と海に挟まれてぽっかりと浮かんだ島を遠い目で見ていた。
作者よもつひらさか
この作品は、掲示板にて行われたリレー形式の投稿作です。
今作は7番目の投稿作となります。
走者
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special thanks(画像提供)
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(注1)コラボ作品のため、今作品のアワード受賞は辞退申し上げます。
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