小学生の頃の話です。
その日はスキー学習がありました。
5年生2クラス約60人で、学校から歩いて30分ほどのところにある小さなスキー場に、みんなで連なって向かっていました。
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スキー板とストックは、トラックでまとめて運ばれていたので、子どもたちの荷物は、リュックに入ったスキー靴のみ。
その日は、氷点下20℃を下回るほどのひどく凍(しば)れた朝でしたが、快晴に恵まれたこともあって、子どもたちはちょっとした遠足気分で、楽しげに歩を進めていました。
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途中、長さ100メートル以上もある大きな橋が架かっていて、その橋を渡っていたときのこと。
数人の女子のグループが何か異変を感じたのでした。
すぐさま、担任の先生に「ガードレールの下に何かあるよ」と伝えました。
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しかし、先生としても、60人もの列を乱してまで、止まって確認するわけにもいかず、軽くあしらって、そのまま子どもたちを歩かせました。
当の女子たちも、その時はそれ以上気にすることはありませんでした。
スキー学習は午前中で終わり、帰りもその橋を渡って帰りました。
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その翌日のことです。
「どこぞのだれかが自殺した」「男性の首吊り死体が発見された」というウワサが、まちを駆け巡りました。
僕らは皆、小学生でしたから、誰がどんな理由で自殺したのかを知るよしはありませんでした。
が、衝撃だったのは、その場所です。
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そう…。
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その場所こそ、あの大きな橋だったのです。
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自殺の状況はこうです。
ガードレールに紐をくくりつけた男性は、自らの首に紐を巻き付けたあと、分かりやすく例えるならバンジージャンプの様にして、橋から身を投げ、自殺を図ったのです。
そして、遺体は誰にも見つけられることはなく、丸一日以上、その橋の下にぶら下がり続けていたのでした。
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時間帯的にも、遺体がぶら下がり続けていた、まさにその上を、僕らは二度にわたって通過していたことになるのです。
女子グループが異変を感じ、目にしていたものこそ、まさにその時、遺体の首を締め上げていた紐の片端だったのです。
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スキーに向かう無邪気な小学生の行進と、北国の真冬の厳しい風雪に丸一日晒された首吊り死体…。
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それが一枚の写真に収まるほどの距離感にあるという光景を想像すると、いまだに、切なく、いたたまれない気持ちになります。
もう30年以上も前の、僕のまちの出来事です。
作者とっつ
実話です。
過去にホラーテラーに投稿していたものですが…。
数ヶ月ぶりに投稿してみました。
肩慣らしに、短めのをひとつ…。