人間というものは案外、自分のことを知っているようで知らないものである。
自分というものを定義付ける手段として、心理学の分野に「ジョハリの窓」というものがある。
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主語に「自分」「他人」、述語に「知っている」「知らない」というワードを置き、それぞれ組み合わせると…
①自分も他人も知っている一面
②自分は知っているが他人は知らない一面
③他人は知っているが自分は知らない一面
④自分も他人も知らない一面
の4つ側面が出来上がる。
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一人の人間の人格とは、この4つの側面から主観的かつ客観的にとらえることができるという考え方であり、4つを図式化すると「田」(←これが窓に見える)の字のようになることから、考案者の名前をとって「ジョハリの窓」と呼ばれている。
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分かりやすく例えるなら、
自他共に認めるリーダー性を持っていれば①、
まだ誰にもカミングアウトしていない同性愛であれば②、
本人が思っているほど歌が上手ではなければ③、
に当てはめていく、という具合。
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中でも④「自分も他人も知らない一面」というのは 特殊で、何かのきっかけでもなければ、自分のこの一面に気づかず、そのまま一生を終えてしまう人が多い。
誰一人ありかを知らない宝物をみつけるようなものであるからだ。
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今回は、幸か不幸か、そんな「自分も他人も知らない一面」を、偶然にも知ってしまった、ある女性の話である。
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私はごく普通のOL。
今まで、これといったトラブルに巻き込まれることもなく、平凡な人生を送ってきた。
そして、これからもときどき小さな幸せや不幸せを感じながら、ただ平凡に生きていく。
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そう思っていた。
あのショッキングな出来事を体験するまでは…。
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ある日の仕事帰り。
残業が長引き、普段よりだいぶ帰りが遅くなってしまった。
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地下鉄の乗り換えのため、ほとんど人気のないホームに独り佇み、電車を待つ私。
そこへ、一人の酔っ払いオヤジが近づいてきた。
足元はふらつき、目の焦点も定まっていない。
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「そこのお姉ちゃぁん♪可愛いなぁ♪どこのお店で働いてるのぉ~♪」
案の定、アホ面下げて話しかけてきた。
もちろん関わりたくなかったので、無視をして、ホームの中央に逃げるように移動した。
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それでもしつこくまとわりついてくる酔っ払いオヤジ。
そして一瞬、少しだけ油断をした隙に、あろうことか私の胸を触ってきたのだ。
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その直後、ほとんど反射的に、両手で思いっきり、酔っ払いオヤジを突き飛ばしていた。
すると、酔っ払いオヤジはバランスを崩しながら、あれよあれよと線路の方へ…。
そのまま足を踏み外すと、勢いよくホームの下に転落してしまったのだ。
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その直後、
「あっ!!!!危ないっ!!!!」
shake
・・・
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時すでに遅く、プラットホームに進入してきた電車の車輪によって全身を引き裂かれ、無惨な轢死体となってしまったのだ。
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電車のカン高い急ブレーキ音がホームに響きわたると、どこからともなくわいてきた野次馬たちによって、現場はにわかに騒然となった。
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当然、事故の当事者として、私にも責任が問われるものと、ビクビクしながら覚悟していた。
ところが、駆けつけた警察や駅員からは、ほとんど聴取を受けることなく、一目撃者として扱われ、すぐに自由の身となった。
どうやら「酔っ払いによる単純な転落事故」として処理されたようだった。
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幸運なことに、私が突飛ばした場面の目撃者はなく、防犯カメラも死角に入っていたらしい。
しかし、私が突き飛ばしたことが事故の直接的な原因であることに違いなく、しばらくは罪悪感を拭えずにいた。
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時々、事故の瞬間を思い出すことがあり、早く忘れてしまおうと努力していたのだが…。
その一方で、自分の心の中に、おかしな感情がわき上がってくるのに気づくようにもなっていた。
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鮮明に脳裏に焼き付いた強烈な事故の瞬間…。
それを思い起こすと、何故か快感に似た感情が沸き上がって来るのだ。
いや、それは快感に他ならなかった。
しかも、これまでの人生で得た快感のどれよりも強いものだった。
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私は気づいてしまったのだ。
「快楽殺人願望」という、秘められた自分の一面に…。
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今まで平凡な人生を送ってきた私は、これほど強烈で甘美な衝動を抑えつける術を持ち合わせていない。
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そして、私は追い求めている。
あんな事故さえなければ生涯知ることはなかった、あの快感を再び蘇らせてくれるチャンスを…。
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私は今、この瞬間もさ迷い歩いている。
人気のない駅のホームで、終電を待ちながら、スマホを片手に、今まさにこの投稿を読んでいるアナタの真後ろを…。
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作者とっつ
さあ、回りを見渡してごらんなさい♪
平凡なOLのふりをして、アナタの命を狙っている私がいますよ♪