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こういう話をするとさあ、寄ってくるって言うじゃんね。だからさあ、この話はもう終わり。
怖い怖いって考えるのやめな。
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~ダレ~
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「最近の若者は駄目だなまったく、これだからゆとり世代は...」
くたびれたスーツを着たサラリーマン風の男がコンビニの前に立っていた。胸ポケットから携帯を取り出し忙しなく指を動かす。時折眼鏡を外し、ぶつぶつと独り言を言いながら自身のシャツでレンズを拭いた。
「ったくよぉ...畜生..ふざけんなよ...」
shake
ピピピッ ピピピッ
男の携帯が鳴った。
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「はいもしもし○○です!はい!はい!もちろんです!はい!今すぐ..ええ、はい!分かりましたー直ぐに参ります!はい!はい!はい宜しくお願い致しますぅー」
男は何度も頭を下げ、最後に深々とお辞儀をし電話を切った。電話で話をしていた時の笑顔は消え、真顔で再びぶつぶつ呟きながら歩き出した。
「ったく人使いが荒い野郎だ...何時だと思ってんだよ!俺のプライベートは無ぇのかよ!くそ!」
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「あの人、相当ストレス溜まってるな」
男の動きを少し離れた所で加藤はみていた。友人宅へ向かう途中でコンビニに寄り、酒やつまみを買いこみ出た直後の出来事だった。普段はあのような事があっても無視するのを、今日は何故か立ち止って様子をみていた。
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キーンコーンカーンコーン キーンコーンカーンコーン
加藤の携帯の着信音が鳴った。画面には市川と表示があった。
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「うあっ!びっくりした...もしもし、いっちゃん?」
「お~、今どの辺?コンビニでおつまみ買ってきて~」
「もう買ったよ、近くまで来てるからすぐ着くよ」
「おっけ~じゃあ鍵開けとくね~」
「ほーい」
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コンビニから市川宅までさほど時間はかからなかった。買い過ぎた為にビニール袋が重かったが、あまり苦にはならなかった。
マンションがみえてきた。駐車場には黒いセダンが一台駐車されていた。誰がみても高級車だとわかる車だ。
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正面玄関を通り友人に着いた事を連絡すると、エレベーターに乗った。エレベーター内は異様な臭いがした。獣の臭いと生臭い臭いが混ざった様な臭い。加藤はこの臭いを大量の血を被った熊の臭いと表現した。
「うあっくっさーい、誰か消臭スプレーしてー」
鼻をつまみたかったが両手のビニール袋が重くて腕が上がらなかった。
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shake
”ポーン...4階です”
エレベーターの音声案内がいった。
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市川の部屋の前に着き、インターホンを押そうと指を近づけた。
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sound:26
ガチャッ
ボタンを押す前にドアが開き、中から見知らぬ男が出てきた。
加藤は驚いて後ずさりした後、相手に挨拶をした。男からの返答はなかった。俯き視線を落としたまま加藤の前を通ろうとした。
その時男ははじめて加藤の存在に気が付いたように顔を上げ、耳からイヤホンを外す動作をした。
「こんばんは」
男は挨拶すると片方のイヤホンを耳に入れた。
「こんばんは!あの、ここに来る時エレベーター臭くなかったですか?」
一瞬男の目が見開いたようにみえた。
「臭かったです、それに...」
男は言葉をためると、辺りを見渡すように視線をゆっくり左右に動かした。
「それに...ここ、うるさいですよね、声。今も...」
「声?」
加藤が怪訝そうな顔で問うと、男はなんでもないと言って足早に階段を降りていった。
マンション内には自分と男の他に声は聞こえなかった。
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「ど~した~?早く入ってきなよ~」
市川がドアから顔を出して言った。
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「いっちゃん、今部屋から出て行った人友達?」
「う~ん、まあそんな感じ」
「ふーん、その人が言ってたんだけど、ここのマンションってうるさい?人の声する?」
「子供の泣き声とか、夫婦の喧嘩みたいなのは聞こえるねぇ。でもたまにだよ」
「ほー、そうか」
加藤は男の言っていたことが頭にひっかかっていたが、酒を飲んだり食べたりしているうちにそのひっかかりは薄れていった。
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買ってきた酒が半分以上無くなってきた頃、加藤は玄関の方から声がする事に気が付いた。
市川は聞こえていないのか、ソファーの上に横になり目をうつらうつらさせていた。
今にも瞼が閉じようとしている。
「いっちゃん、起きてよいっちゃん!玄関の方から声がする」
何度も揺さぶるも市川は起きない。瞼を無理やり開いても起きない。加藤は諦めて一人玄関の方へ向かった。
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ひたひたと歩く自分の足音と共に、ドアの向こうから男の唸るような声が聞こえてきた。
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sound:26
ガチャ...ギィィィ...
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加藤はそっとドアを開けて外を窺った。誰も居ない。しかし、声は階段下の方から聞こえていた。
”~~~~、~~~!~~~!~~~~~~~!”
声が響いて何と言っているのかはわからない。
後から、眠っていたはずの市川がやってきて一緒に声を聞いた。
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「苦しんでるのかな、声かけたほうがいいかな...でもなんか怖い」
加藤は市川の顔をみて言った。市川の顔はいつもより白くなっていて、視線は真下を向いていた。
階段の方をみないようにしているようだった。
「声なんてかけなくていい、ドア閉めるから早く入って」
市川は加藤を急いで中に入れると急いでドアを閉めた。
声はもう聞こえなくなっていた。
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二人は飲み直し、気晴らしに映画を観た。内容が頭に入ってこないおかしな映画だった。
酒はなくなり、つまみだけ少し残った。
壁にかけた時計をみると、時刻は12時を過ぎていた。
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「あの声なんだったんだろう」
「なんだろね、気持ち悪いね」
「うん。そうだ、いっちゃん、俺そろそろ帰るわ。時間経つのが早いね」
「もう遅いもんね。ゴミ捨てついでに一緒に下まで行くよ」
「一人で下まで行くの怖いと思ってたんだ、二人なら安心だー」
二人でエレベータに乗った時、あの異様な臭いはしなかった。
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少し歩いてから、ふと、もう一度マンションをみた。市川が中に入っていく姿が見え、視線を横にずらすと正面玄関がみえた。
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「なんだあれ...」
shake
music:2
正面玄関の硝子ドア前に全身真っ黒の男がゆっくりゆっくり手を振っていた。
顔は覆面を被っているみたいに真っ黒で顔がみえない。そのゆっくりと手を振る動作が酷く気持ち悪く感じた。
加藤は自宅まで一目散に走った。怖くて後ろをみることができなかった。
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music:2
自分の部屋に入り、気持ちを落ち着かせてから市川に電話をかけた。手を振る男をみた時にすぐに市川に電話をかけなかった事を後悔した。
呼び出し音が鳴るだけで市川は出ない。
「いっちゃん電話に出て...お願い...」
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「もしもし?」
市川が電話に出た。
加藤は安堵すると、市川に不気味な男をみた話をした。
説明を聞き終わるまで、市川は黙って話を聞いた。
「それは気持ち悪い男だな、でもそんな男みなかったよ」
「え、いっちゃんが入っていった時に男は正面玄関にいたよ?裏口から正面玄関って近いよね?幽霊かな...怖いよ...追いかけて来たら嫌だな...怖いな...どうしよう...」
市川は、うーんと唸り考えた。
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「将、きっと気のせいだよ。気のせいだと思おう。こういう話をするとさあ、寄ってくるって言うじゃんね。怖い怖いって考えるのやめな。リラックスできる音楽でも聞いて、さっきの事は忘れて寝な」
市川は加藤に言い聞かせるように言った。
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「部屋の施錠はしっかりして、今夜は絶対にベランダに近づくなよ」
市川は語尾を強めて言った。普段はこんな言い方をしない市川の声に加藤は不安になった。
「うん、そうするよ。いっちゃんも気をつけてね」
「はいよ~、なにかあったら直ぐ電話しなよ~おやすみ~」
声がいつもの市川に戻り、加藤は安心して電話をきった。
部屋中の施錠を確認し、ベランダの鍵はカーテン越しに確認した。
本を読み、気持ちがリラックスしたところでベッドに入った。
目を瞑るとだんだんと眠気が襲ってきた。黒い波が自分を覆うように睡魔に包まれていく。
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music:6
ガチャガチャガチャ!ガチャガチャガチャ!
コンコンコン!コンコンコン!
誰かがドアを叩く音が部屋に響く。加藤は驚いて飛び起きた。時刻は2時を過ぎていた。
コンコンコン!コンコンコン!
”開けて!早く!”
市川の声だった。切羽詰まったような声でドアを開けるよう訴えている。
「いっちゃん?いま開けるよ!」
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shake
コンコンコン!コンコンコン!
”早く!早く開けてよ!”
より強くドアが叩かれる。
加藤は勢いよくドアを開けた。
「いっちゃん!」
ガチャ...
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作者群青
久しぶりの投稿になります。この話は二か月前に友人から聞いて書いた話です。
友人いわく、「黒い男の人がこっちに向かって手を振ってきた。動作がゆっくりしていて気持ち悪かった」と。
"それ"の大きさは成人男性程の身長で体格がよかったそうです。
手を振ってきたものは、何者だったのでしょうか...
誤字脱字などございましたら、ご指摘いただけると幸いです。お気軽にコメントください。
最後まで読んで頂きありがとうございます。