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短編2
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喰われる前に

 いつもと変わらない道を歩く。数日前に付いたであろう電柱の派手な血痕は未だ消されておらず、少し鼻のいい私は辺りに血の匂いが残っているのが分かる。

最近、この匂いが妙に心地よく感じられる。食欲をそそり、空腹感が増すのだ。やはり、私もあの人喰いの怪物たちと同類なのだろう。左腕にある腕輪が、その証拠だ。

 私には二年以上前の記憶が無い。この腕輪がどこで付けられたのかも分からない。ただ、私の腕輪と他の怪物たちの腕輪は少し形が違うのだ。

「私は、何者なんだ」

 カーブミラーに映る自分を見て、そう呟いた。この顔を見るたびに、何かが私の中から出ようとする。思い出せない昔の記憶が、微かに蘇ろうとする。

「ギャアアアアアアッ!」

 背後から聞こえた獣の声に振り返ると、いつもの人喰い怪物が誰かの腕を口に咥えてこちらを見ていた。血の匂いが私の食欲をそそり、怪物の食べかけを欲してしまう。

「人喰いだらけの町は住みづらいな」

 私は遺言になるかもしれない言葉を吐き捨てると、左腕の腕輪を右手で握った。

『喰われる前に、喰え』

 私の中の私が、そう言った気がした。

「殺す・・・」

 気が付くと、私は目の前の怪物の腹を抉っていた。血肉にまみれた腕は、既に人間のものではなかった。私も、人喰いの怪物になってしまったのである。未だかつてない程の爽快感と同時に、私の頭には激痛が走った。

なぜだろう、痛みを感じたことなど無かったのに。

「痛い・・・」

 包丁で乱暴に刺され続ける私の身体、私を殺した男が目の前にいる。これは、私が殺されたときの記憶だ。そうだ、私は死んでいるのだ。気が付くと人間のものに戻っていた右手で、もう一度腕輪を握る。

『喰われる前に、喰え』

 再び私の中の私が言う。

人間を・・・喰え。

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