今回は怖い話ではないです
たまには息抜きをしないとね
ふと・・・中庭から今は物置になっている部屋をぼんやり見ていた
昔はここに縁側があってまだ葵が1歳前後だったかな赤ちゃんの時だ
オヤジを中心にして縁側でいろいろな話を聞いたなと昔を思い出していた
その昔は私とF子がオヤジの話を聞いていた
そうだな・・・縁側を作ろうかな・・・
中庭を作る際にもう縁側は必要ないと思い壊してしまった
今思えば残しておけばよかったなと後悔している
仏間はいまは両親の寝室になっている
その反対側の部屋は客間になっているがほとんど使っていない
6畳ほどの広さ
畳になっているために使い道がない
普段はS君が昼寝用にと使ってはいる
今は東京にいるのでたまに帰ってきたときに一人でリラックスしたいときに使っている
その隣が今は物置部屋になっている
昔はここで私たち兄妹が小さいときにおふくろが使ってた
ここからガラス戸をあけると縁側になっていた
暑いときはここを開けると涼しい風が吹き込んできていた
庭という庭ではないが少し空き地があったな
そこで私とF子は土いじりをしてた
夜になると縁側でジュースやアイス・スイカなどを食べたり飲んだりしながらオヤジの馬鹿話を聞いてた
今思い出すとなぜか涙が出てくる
オヤジの話を小さな声でF子が「うんうん」とうなづいていた
怖い話になるとオヤジの手を握って話を聞いていたな
今じゃ・・・完全にS君、F子のいいなりになっている
変われば変わるものだと感心してる
ふとWEBで縁側の検索をした
いろいろと載っていた
工事費など合わせて一番安いもので50万円などがあった
ちょっとな・・・・
クレジット払いOKとはなっていたが・・・・
子供4人抱えている身としては・・・きついな・・・
知り合いの大工さんに頼もうかな・・・どのくらいで引き受けてくれるかな
などとぼんやりしてた
「わぁ!パパ、何してるんだぞ」と後ろから大きな声が聞こえた
「びっくりした!!S子!!突然後ろから声をかけるなよ」
「エヘヘヘ・・・ぼんやりしてるからだぞ
若ボケがはじまったのかと心配して声をかけたんだぞ」
「ボケじゃいないよ
昔を思い出してた
ここに縁側があったろ
葵がまだ赤ちゃんの時だ
縁側でオヤジの下らん話をみんなで聞いてたろ
縁側を作ろうかなと思ってる」
「うん!いいと思うんだぞ
みんなで縁側に座って色々な話をするっていい事だぞ
作るといいぞ」
「でもな・・・安いもので50万円はするんだよ」
「50万円!!・・・高いんだぞ
うちは無理だぞ・・・・
ママ(おふくろ)に相談するんだぞ」
「そうだな・・・」
夕食時に縁側について話を振った
「え・・・縁側・・・パパ、いいとおもうけど・・・昔にその・・・怖いことがあったじゃん・・・それでも作るの?」と楓が心配そうに言ってきた
「あぁぁ・・・・あれかぁ・・・」
「俺はいいと思うぞ、俺の話を聞く場所として最高だったし
夏はあそこで夕涼みもできたしな
もし今縁側があれば座って中庭を見ながら話ができると思うとうれしいぞ」
とオヤジは大賛成
「私も賛成だよ、みんなで座って話をするのはいいことだよ」とおふくろも賛成
「おっちーー!!工事費が50万円なんだぞ!!」
「おい!!S子!!今言うときじゃないぞ」
能天気S子暴走中
「え!50万円!高いわね」
「ママ(おふくろ)に出してもらいたいんだぞ!!」
とさらに追い打ち・・・
「うちでは無理だよ・・・」とおふくろはため息をついた
おいおい・・・S子のせいで・・・話しづらくなったじゃないか
話が全て吹っ飛んだ
わかりきっていたけど・・・・
財閥の総帥だから50万円なんで簡単に出してもらえるとS子は思ってたらしいが
総帥だからといって財産を勝手に使えるわけじゃない
すべては一族の財産だからね
「パパ・・・ごめんね」とS子が謝ってきた
「よぉし!俺が知り合いの大工に頼んでくるわ」とオヤジが大見栄を張ってくれた
それから数日後・・・その大工さんが下見に来た
「よぉ!お久しぶり、F君!元気そうでよかった
オヤジさんから頼まれて下見に来たよ」
「忙しい所すいません
昔を思い出してもう1度縁側を作ろうと思ったもので・・・」
「話はオヤジさんから聞いたよ
良いことだよ
みんなで座っておしゃべりすることはいいことだ
今日は大体の寸法を測りに来たから
なるべく昔の縁側を再現するようにするからな
明日にもう1度見積もりを持ってくるからさ」
「はい!お願いします」
翌日の夜に知り合いの大工さんが来た
「えーーと・・・見積もり・・・無料でこの仕事請け負うよ」
「え!?・・・無料?・・・大丈夫なんですか?」
「まぁ・・・そのぉ・・・えへへへ・・・1週間後に作業を始めさせてもらうよ」
どういうことだよ・・無料って・・・
縁側は二日ほどで完成した
昔の縁側だ・・・涙が出てきた
その夜にさっそくみんなで座ってオヤジの話を聞いた
子供達には大うけをしていた
中庭の明かりがちょうどいい感じの雰囲気を醸し出していた
それから三日後・・・帰り際に大工さんに会った
どうして無料になったのか気になっていたからだ
「この前はありがとうございました・・・そのぉ・・・聞いていいですか?」
「はい・・・なんでしょう?」
「なんで無料なのかずっと気になっていたんです・・・」
「あ・・・そのことですか・・・気になさらなくていいですよ」となにか物を挟んでるかのような口ぶり
「気になります・・・何かあったんですか?」
「いやぁ・・・そのぉ・・・どうしよう・・・おやっさんに内緒にしておけ・・・と言われたし」
「え・・オヤジ・・・まさか!オヤジに脅かされたんじゃないですか?」
「え・・・まぁ・・・息子さんの前で言うのは・・・」
「されたんですね・・・」
「まぁ・・・そのとおりで・・・・おやじさんが店に来て「すぐに縁側を作ってくれ」と言ってきたんですよ
昔の縁側の写真を持ってきて「これを作ってくれ」と頼まれたんです
まぁ・・・そこまではいいのですが・・・
いざ見積もりの話をしたら「高いだろ!おい!無料にしろよ」と大きな声を出してきたんです
「無料は無理です・・・私の家族もいるし・・・」と話をしたら
「俺にも家族はいるぞ!そんなお金あるわけないだろ」と言われまして
「なにぃーーーこの俺様が頭を下げて頼んでるんだぞ、いいのかい!あのことをしゃべってもよ」と脅かしてきたんですよ
おやじさんのあの顔で迫ってきたら「はい」としか言えないじゃないですか」と大工さんは少し涙目で話をしてくれた
おーーーやーーじーーー!!!!
やってくれた!!!
どうもおかしいとおもった
いくら知り合いでも無料でできるわけがない
さっそくおふくろに事の詳細を電話で話をした
おふくろがキレたよ
「そっかい!そういうカラクリだったかい
おかしいと思ってたよ
アイツ・・・許さん
今から私、大工さんのところに行ってお金を払ってくるよ」と言い電話を切った
その夜はすごい嵐だった
1時間ほどオヤジはおふくろに説教されていた
仏間から聞こえるおふくろの怒声、罵声
オヤジの謝る声
子供たちはおふくろの怒声や罵声が聞こえるたびに体をピクッとさせていた
「ばあちゃ・・・怖い・・・じっちゃ・・・大丈夫かな」と楓は心配そうに言ってきた
「毎度のことだよ、気にしなくていいよ、楓」
1時間ほどしてシーーンとなった
オヤジがリビングへ来た
完全に死に体になってた
「F!俺は今晩は隣の客間で寝る・・・布団を客間に運んでおけ」
「おいおい・・・」
「じっちゃ・・・私が布団を運ぶね」と楓が言ってくれた
「楓ちゃん、ありがとな、頼むよ」
「俺は客間に行く」と言いながら出て行った
「じっちゃ・・・」と言いながら葵もオヤジの後を追って出て行った
「アイツのせいで恥をさらしたよ
疲れたわね
もう寝るわね」とおふくろは疲れた顔をしていた
今日は縁側での話はない
「今日は・・・縁側での話はないよな、仁」
「うん、じいちゃの話は面白いのにな、残念、2階へ行こう、匠兄ちゃん」
私一人縁側に座って空を見た
夜空には月が出ていた
月の明かりで中庭が白く映し出されて幻影のような光景が昼間の疲れを一掃してくれた
「おっちーー、中庭、白く輝いてるんだぞ、パパ」
「だろう、綺麗だ・・・」
「あ・・パパたち・・」と客間の部屋から楓と葵が覗いていた
客間のガラス戸を開けて楓と葵が顔をのぞかせて
「パパたち・・・何をしてるの?」と聞いてきた
「こっちへおいで・・」
「うん」
4人で座りながら幻想的な中庭を見ていた
すると・・・中庭に2人の小さな人影が見えた
「あ!オハルちゃんとオアキちゃんだよ」
「うん、楓姉ちゃん!」
「え・・影しか見えないんだぞ・・・」
「パパも・・影しか見えない・・・」
「2人とも笑顔でこっちを見てるよ、ママ」
「あ・・・消えちゃった」
「そろそろ楓と葵は寝ないとね」
「うん・・じっちゃのところで寝るから」
「あたちも」
2人は客間のガラ戸を開けて中に入っていった
「パパ、私もそろそろ寝るね」とS子も寝室へ行った
私一人になった
虫の声がよく響く
縁側があると家族団らんの場になる
暑い日なんかは涼みもできるし作ってよかった思っている
子供たちの友達もこの縁側が気に入ったらしく部屋にいるよりも縁側にいた方が気持ちが落ち着くと言っていた
単なる縁側だ
なにも飾りっ気もない素朴な縁側だけどね
特に末娘の葵は中庭の作業の休憩に縁側で休んでるようだ
たまに縁側で寝ている葵を起こしてるとS子が言っていた
午前中は一人ぽっちで本当に申し訳ないと思う
本来なら幼稚園や保育園に預けたいのだが家の財政はギリギリ
たまにS子がS子の実家に預かってはもらっている
また義理母が様子を見に来てもらってはいる
なるべく一人にはさせたくはないからね
今回は「縁側」についてお話させていただきました
作者名無しの幽霊
縁側の記憶が蘇ってきた
あの時の至福の時間
中庭造成のために縁側を解体してしまった
やはり縁側は必要だと再認識した
とくに我が家は化け物屋敷だから余計にリラックスできる空間が欲しかった
なにか負担があれば縁側に座ってのんびり過ごすのも悪くはないはずだ
今回は怖い話ではなく単に「縁側」の魅力の話でした