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誤解は仕方がないが損をすることもある

中編3
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誤解は仕方がないが損をすることもある

 電車で居眠りをしていたら、なんだか解らないが衝撃で目が覚めた。寝ぼけながらなんだなんだと目を開けてみると、目の前に文字通り目が醒めるような美女が立っていた。

 あまりの美しさに思考が止まり、目を見開き、何を言うわけでもないのに喉の奥が詰まる。

 美女も一瞬こっちを見るのだが、よく見る反応なのだろう、表情を変えずにまた窓の方に視線を移す。

 顔から化粧から着ている服からバッグから、何から何まで統一され洗練された美しさなのだが、左目の眼帯だけが普通のドラッグストアで売られている市販品で、そこだけ浮いている。

 じっくり見続けるわけにもいかないので私も視線を落とすのだが、そこで変な物が視界に入った。

 人間の視界とは結構広いものなのだが、それは左右のもので、両腕をまっすぐ横に伸ばしたらぎりぎり指先が見えるかどうかというほど広い。が、上下はそこまでではない。

 しかし今は、上の視界に何かが入った。

 目を向けてみると何もない。いつもの車内だ。

 また視線を落とすと、やはり何かが視界に入る。

 視界のぎりぎり上に意識を集中すると、美人の左肩あたりに黒いモノがあるのが解った。

 何だろうと意識を保ち続けていると、声ならぬ声が聞こえてきた。

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね…

 ただ呪いの意思だけがあるのか…いや、この美女が呪われているのか!

 まっすぐ美女に向けられた声なので私は少しも怖くない。さてどうしたものかなぁと思案していたら、その声の奥から別の声が聞こえてきた。

 醜醜醜醜醜醜醜醜醜醜…

 崩崩崩崩崩崩崩崩崩崩…

 その増えてくる声を聞いているうちに、はっきりとした声で

「お前の左目はもう無いんだよ!お前はそこから腐っていくんだよ!」

 そして哄笑が聞こえてきた。

 電車が停まる。

 美女が降りるのだが小さい駅で他には誰も降りないし、誰も乗ってこない。

 私はその短い時間に迷いに迷ったが、飛び起きて電車を降りた。

 扉が閉まる瞬間に間に合ってホームに降りたのだが、

(そういえば、駆け込み乗車はご遠慮くださいとは言われているけど、駆け降り降車に関しては誰も何も言わないな)なんてことに気がつく。

 階段に進もうとしている美女に声をかける。

「あの!すいません!」

 大声に美女が振り返る。

「突然すいません!」

 そこでまたも喉が詰まる。

 美女は変な男に呼び止められた警戒を顕わにする。

 根性を振り絞って、なんとか続ける。

「その呪い、私にもらえませんか?!」

 こんどははっきりとした恐怖を表情に浮かべ、美女は脱兎の如く階段に走り出した。

 …あーあ、やっぱりダメかぁ…

 次の電車が来たので乗る。美女が駅員に言ったら、ホームに監視カメラがあったら、変質者として逮捕されること確実である。それも不安なんだが、それ以上に(あーあ、失敗した…)という悔やみで駆け出したくなる。

 あの呪いは、する側が想像を絶するほど苦しい死に方を、自殺をしなければできないものである。

 あれだけの美人だ、性格は解らない、しかしそれだけの呪いをする人が出てもおかしくないことがあったんだろうなぁ。

 あー、あれは欲しかった、あれだけの呪いはそうそう見られない、あまりの美しさに喉だけでなく体も固まったし、まだあの程度では呪われている自覚も生まれてないのかもしれない、話をしたって理解されないだろうし、名刺なんか渡したらそのまま警察に駆け込まれるだろうし、あー!何から何まで大失敗だ!

 またあれだけの呪いに出会えるかどうか!

Concrete
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