リーーンリーーン
家にある宅内電話(固定電話)が鳴った
私は慌てて玄関の傍においてある固定電話の受話器を取った
「ブーーブーーブーー」
切れていた
ここ1週間ほどこういう感じで固定電話が鳴るようになった
今時、固定電話など置いていない家もあるとおもうが
オヤジとおふくろが同居している
もしもの場合にと今でも固定電話の解約はしていない
イタズラなのか知らないが非常に迷惑
次回からは出ないようにと思っている
次の日も電話が鳴った
もうそのまま無視
次の日も鳴った
無視無視
その次の日も鳴った
もちろん無視
その次の日も鳴った
いい加減にしろ!!
ついに私は切れた
「もしもし!!!」
「ブーーブーー・・・・・F君・・・なんで電話に出ないの?
わたし・・・・ザァーーザァーー
もうそろそろ・・・む・・・え」
切れてしまった
なんなんだよ
毎日かけてきたのはこいつなのか?
するとスマホに着信が来た
「もしもし!!」
「あ!Fちゃん!わたし、○○だけど・・・娘が・・・娘が・・・」
おばさんからだ
オヤジの親戚筋のおばさんからの電話だ
幼少のときにオヤジに連れられてよく遊びに行った
もちろんF子も一緒だ
とても気さくな人であちこち遊びに連れて行ってもらった
「おひさしぶりです、おばさん!どうしたの?」
「娘が・・・・娘が・・・今朝・・・亡くなったのよ」
「え!?・・・姉貴(おばさんの娘の名前)が亡くなった?
うそでしょ?1週間前に僕の家に来て葵や楓のお相手をしてくれたんですよ
娘たちはすごく喜んでいましたよ・・・そんな・・・」
「娘も「葵ちゃんや楓ちゃんと遊んでとても楽しかった」って言ってたのよ
・・・・昨日から容態が急変してね・・・・今日の今朝に息を引き取ったのよ・・・
突然だから・・・頭が真っ白なのよ・・・今でも信じられない・・・夢を見てるような感じなの・・・それでね・・」
「ちょっとまって、おふくろに代わったほうがいいと思う」
「あ・・・そうだよね・・・○○(おふくろの名前)ちゃんに代わってね」
○○さん(おばさんの娘)を私は「姉貴」と呼んでいた
私は大きな声でおふくろを呼んだ
「はいはい・・・大きな声でどうしたの?」
「おふくろ・・・今、○○の家のおばさんから電話だよ
姉貴・・・今朝息を引き取ったみたい・・・詳しくはおばさんから聞いて」
「え!?・・・うそでしょ」
「とにかく電話に出てくれ」
そう言っておふくろに受話器を渡した
なんでこった・・・姉貴(おばさんの娘)が亡くなるとは・・・
私より10歳上の人でオヤジもすごくお気に入りだった
オヤジが聞いたら倒れるかもな・・・
そのくらいかわいがっていた
私はリビングへ戻り葵と楓に姉貴の死を知らせた
「えええ・・・うそだぁ・・・○○おねえちゃんが・・・そんな・・・」
「パパ!!うそはいけないんだぞ!!○○ねえちゃんは元気だったぞ!!」
娘2人も信じられないという顔をしていた
私も同様だ
オヤジはソファで新聞を読んでいた
「おい!!オヤジ!!姉貴・・今朝、亡くなったよ」
「テメェ!!!冗談はよせ!!お前段々と性格が悪くなってきてるぞ
俺を脅かそうとしても10年早いわ!!」
と鋭い顔つきで睨みつけてきた
(マジで怖ぇーー)
「冗談じゃない!!今おふくろがおばさんと話してるよ」
「え・・・・」
オヤジのあの鋭い顔つきが消えた
ポカーーンと天井を見ていた
「そんな・・・ありえん・・・」とボソッと聞こえた
おふくろが戻ってきた
「○○ちゃんのお通夜ね・・・○○寺(オヤジの菩提寺)で執り行うそうだよ
んと・・・時間は夜の7時30分から
今から準備しなくちゃね」
「今日の残業は無しだ」
大事な人が突然この世から消えるとは現実的に受け入れることができない
お通夜の準備で我が家は大騒ぎだ
急いで東京にいるF子とS君にも連絡した
F子のびっくりした声と大泣きした声でこっちも胸が詰まる思いだった
S君も「うそだろ・・・信じられん」と言い放心状態に・・・
「仕事を放棄してすぐに帰るから」とS君は涙声でスマホを切った
オヤジの家系の菩提寺は家から1時間ほどにある
久しぶりにお寺へ行く
喪主はなんとオヤジをおばさんとおじさんが指名してきた
おいおい・・・大事な娘の葬儀にチンピラオヤジでいいのか?
しかし・・・おじさんとおばさんは「ぜひぜひ」と強く勧めてきた
オヤジはノリノリやる気十分
夕方になり私は残業なしで急いで家路についた
家に着くと葬儀の準備は出来ていた
メールを見るとS君たちは今夜遅くにはお寺へ着くと書いてあった
タクシーとボロ車でオヤジの菩提寺へ出発した
なんとか開始30分前に着いた
お寺ではお通夜のお客の車が埋め尽くされていた
お通夜のお客はざっと50人ほどか・・・
久しぶりに会う人や私の知らない人まで・・・・
おばさんが私たちを見つけると急いで駆け寄ってきた
「ごめんなさいね・・・突然のことで・・○○君(オヤジの名前)には喪主をお願いしたけれど・・・娘もぜひに・・・と思ってるはず
少しでも娘が静かに眠ってくれればそれでいいと思うの・・・・」
「おばさん・・・」
「あら・・・楓ちゃんと葵ちゃん・・・大きくなったわね・・・おばさんを覚えてるかしらね?」
「私は覚えてるよ、おばさま!!」
「あたち・・・・覚えてない・・・」
「葵ちゃんはまだ1歳のころだったからね・・・本当にかわいくなって・・・」
おばさんの目から涙があふれていた
「さぁ・・・どうぞ・・・一番先の席へ座って頂戴ね」
豪華ではないが質素でいい感じのセットだ
微笑んでいる姉貴の遺影はなんとなく「よく来てくれたね」という雰囲気を私は感じた
お通夜は午後7:30からだという
オヤジは遺影を見て目に涙を浮かばせていた
あのオヤジが人前で涙を流すのを私は初めて見た
それに、あの鋭い目つきが消えていた
((F君・・・来てくれてありがと・・・でも・・・なんで・・・私の電話に出なかったの?・・・・))
「え!?・・・何だ?・・・」
私は思わず遺影を見た
なんとなく寂しげな顔になったような気がした
姉貴なのか・・・
おばさんの家へ遊びに行くと必ず姉貴は私とF子と遊んでくれた
特にF子は人見知りが激しくてなかなか人と話すことができなかったが
唯一S子やS君以外で素直に話ができた
((F君・・・お世話になったね・・・おじさん(オヤジ)・・・が泣いている・・・私のために・・・泣いてる・・・私・・・本当にいい人たちに恵まれていたんだね・・・
楓ちゃんや葵ちゃんともっと遊びたかったよ・・・小さな妹だもんね・・・
F子ちゃんに会いたい・・・・F子ちゃんともっといろいろなおしゃべりをしたかったな・・・))
「姉貴・・・・いつまでも姉貴を忘れないよ・・・F子は夜遅くに来るからね・・・
俺も姉貴ともっと一緒にいたかったよ・・・天国へ行ったらおハルちゃんやおアキちゃんがいるからね・・・寂しくはないと思うよ・・・本当に姉貴、かわいがってくれてありがとう」
と私は心の声を響かせた
遺影の姉貴を見るとまた微笑んでるような感じがした
お通夜がはじまった
オヤジの透き通る声が会場に響いた
途中でオヤジが泣き出して会場にいたお客たちも泣き出した
私たち家族も同様に泣いた
和尚様のお経が会場に響き幻想的な雰囲気になった
こんなお通夜というか葬儀ははじめてた
暖かい雰囲気なのだ
まるで姉貴が棺から顔を出して「冗談でした!!!アハハハハ」といつもの茶目っ気な姉貴が現れそうな気がした
だが・・・・いつまでたっても・・・棺から・・・
お通夜も終わった
お客たちは静かに帰っていった
シーーンとなった会場
私たち家族とおじさんとおばさんだけになった
おふくろとおばさんがおしゃべりをしだした
オヤジは魂が抜けたような感じで座っていた
いつもの鋭いオーラが出ていない
子供たちはうつむいたままだ
午後11時が過ぎた
F子とS君がやってきた
「アニキ・・・・遅くなっちゃった・・・「姉貴」・・・現実だったんだね・・・お姉ちゃん・・・」
「ごめんな・・・早く来ようと思ったんだけど・・・結構時間がかかった・・・・
○○姉貴・・・・信じられん・・・・おとついまで姉貴と電話で話をしてたんだよ・・・
まさか・・・・」
2人ともまだ姉貴が死んだことが信じられないような顔をしていた
(((みんな・・・・ありがと・・・お父さん・・お母さん・・・おばさん・・・おじさん・・・F君・・F子ちゃん・・S君・・・S子ちゃん・・・匠君、仁君、楓ちゃん・・・葵ちゃん・・・ありがとう!!!私・・・決心がついたよ・・・今ね・・おハルちゃんとおアキちゃんが傍にいるの・・・もう寂しくないよ・・・短い人生だったけれど・・・みんなに会えて良かった・・・おじさん・・・私が一番大好きなおじさん・・・もう泣かないでね!!)))
棺のほうから声が聞こえたような気がした
みんな一斉に棺のほうを見た
「お姉ちゃんの声が聞こえたよ、パパ」
「あたちも聞こえたんだぞ」
「俺もだ」
「俺も」
「おい!!F!!俺も聞こえたぞ!!おまえら・・また悪戯してるんじゃねーのかよ
!!しばくぞ!!コラァ!!○○(おばさんの娘の名前)ちゃんは生きてるんだろ?」
「オヤジ・・・・現実を見ろよ・・・棺の中を見たろ!静かに寝てたろ!」
「ううううう・・・・・」
オヤジはしゃがみこんでしまった
チリーーンチリーーンと鈴の音が響いた
その鈴の音は私たちの傍を通って棺へ向かってるような気がした
「あ!!!おハルちゃんだ!!」と楓が叫んだ
だが大人たちには見えない
「おハルちゃんだぞ!!」と葵も叫んだ
「おハルちゃん・・・お姉ちゃん・・がみえるよ・・・あっ・・2人とも手をつないだよ・・上から光が見えるよ・・・2人ともその光の中に吸い込まれていったよ、パパ!!」
と楓はびっくりした顔でまるで生中継の実況みたいな感じで叫んでいた
大人たちには全然見えない
「そっかぁ・・・天国へ行ったんだね・・・安らかに!姉貴」と私はつぶやいた
「アニキ・・・お姉ちゃん・・・もっといろいろとおしゃべりしたかった・・・」
「姉貴もそう言ってたよ・・・F子」
「え!?・・・」
「姉貴が俺の心の中でそう言ってたんだよ」
「そうなんだ・・・」
私たち家族とおじさんとおばさんは葬儀場で一晩を過ごした
それぞれ・・・姉貴の夢を見たと朝になり話題になった
なんとなく疲れが一気に取れたような気がする
体が軽い
もう1度姉貴の遺影を見た
微笑んでる・・・・
作者名無しの幽霊
あの電話は姉貴からだったのか・・・
後悔してももう遅い・・・
死因はおそらく急性心不全だろうとおばさんは言っていた
そうかな・・・なんとなく引っかかるんだけどな・・・
オヤジは葬儀から1週間ほど落ち込んでいた
オヤジの家系はあんまし良くない死に方をするとおふくろは言っていた
それかな・・・と私はなんとなく・・・