S君とF子の2人は新しい新居にだいぶ慣れてきたようだ
あまりの静けさにS君はともかくF子が少し気味がっている
土曜日か日曜日にこちらへ泊りに来るようになった
まさに本末転倒だな
久々に全員が揃った
リビングでは狭いので仏間で食事をすることになった
「あれ・・また能面が一つ増えてるね、アニキ」とF子は能面を見ながら私に話しかけてきた
「オヤジの趣味だからな・・・」
オヤジの趣味は落語と歌舞伎だ
暇を見つけてはラジオで聞いたりTVで見たりまた寄席へ行ったりしている
能面なども買っては飾っている
正直・・・私は能面は苦手
横溝正史の金田一耕助シリーズを見てるから余計に不気味で仕方がない
小さいときにこの仏間で一人でいるときにどうしても能面の視線が気になって仕方なかった
まるでじっと見られてるようで・・・・
「私・・・じいちゃの趣味だからどうのこうのと言えないけど・・・あんまし・・・」と楓が話に割り込んできた
「なに?どうした?楓?」
「パパ・・・私、能面が気になって仕方ないよ、なにか見られるという感じ・・・」
「パパも同じだよ、パパも小さいときにこの仏間でね、一人いたときに何か見られてるという感じがしてたよ」
「パパも視線感じてるんだ・・・だから私は仏間でいるときはじいちゃか葵がいないと無理」
「わたしもね・・たまに感じることがあるんだよね・・・気のせいだとは思うけど・・・
朝に仏壇の水などを替えるときに何となく視線を感じるんだよ」とおふくろも人の気配を感じている
「おいおい・・・俺の趣味にケチつけんなよ!!・・・歌舞伎や能は俺の心の癒しになってるんだから」とオヤジは少し不機嫌になった
「仁、部屋へ行こうぜ、今度こそラスボスを倒そうぜ!!」
「うん!!」
匠と仁は早々に自分の部屋へ行ってしまった
「あたち・・・今日はじいちゃと一緒にいたいんだぞ」
「うんうん・・・葵ちゃんは俺のところにいるといい」
「わたし・・・どうしよう・・じいちゃや葵がいるから・・・わたしもここにいようかな」
「そのほうがいいかも、2階の自分の部屋で一人だと少し不安だろ・・・オヤジや葵がいるから安心だろ」
「楓ねえちゃん、じいちゃのお話を聞くんだぞ」
「うん!!じいちゃの話は面白いからわたしここにいるね、パパ」
「ここにいたほうがいいぞ、俺がいろいろな話をするからな」
オヤジの話が始まった
作り話や実体験をいろいろと混ぜ合わせているので全部が全部、嘘とは言えない巧妙な口調で話すので葵と楓はマジで真に受けている
「じいちゃの話は怖いのや面白いのやいろいろと話してくれるから飽きないよ、パパ」
「あたちもじいちゃの話はワクワクするんだぞ」
もう完全にオヤジの手中にはまってる
ドンドンドンドン
ドン
<<おい!!今何時だと思ってるんだ!!やかましいぞ!!>>
一同、びっくり
「え!・・・何?今の音、今の声」とおふくろ
「仏壇の方向から聞こえたよ、パパ」
「なんだ!今のはよ・・・」
もう一同びっくりして一斉に仏壇がある方向へ顔を向けた
たしかに仏壇の方向から壁ドンだった
しかし、自分の家は一軒家
アパートやマンションではない
壁の向こうは道路なのだ
「「やかましい」と聞こえたけど・・・」とおふくろ
「確かに聞こえたよ、ばっちゃ」
「なんか変だよ、パパ、壁の向こうは道路なのになんでドンドンと壁を叩けるんだろ?」
実際は塀と壁の間に人が通れるくらいの隙間があるのだ
道路側から壁を叩くことはできない
仏間の部屋から道路を走る車の音や歩行者の喋り声は聞こえる
「俺、ちょっと見てくるわ」と私は勝手口から壁の向こうへ行ってみた
しかし、壁には何も異常はなかった
外を見ると車や歩行者が往来していた
まだ午後10時30分、人の往来や車などで少し騒がしい
「おかしいな・・・何もなかったよ」
「でも・・・確かに壁を叩く音や人の声は聞こえたよ・・・」
「まさか・・・仏壇の中から・・・」とおふくろは急いで仏壇を開けてみた
別に何も異常はなかった
「おかしい・・・全員が聞いてるんだ・・・あの野太い声はいったい誰だろう?」
「おっちーー、おかしいんだぞ、もうそろそろお開きにしたほうがいいんだぞ」とS子のこの一語とでお開きになった
「仕方ねーな・・・今夜はもう寝よう」とオヤジは少しがっかりしていた
「葵と楓はこの仏間で寝たい?それとも自分の部屋へ行く?」と私は聞いた
「んと・・・自分の部屋も・・・じいちゃとならここにいるよ」
「あたちもだぞ、楓姉ちゃんがいるからあたちはここにいるんだぞ」
「あ・・そう、それじゃ、パパたちは自分の部屋へ行くからね」
私はS子と一緒に寝室へ行った
それからおよそ3時間後にまた異変が起きた
ドンドン!!!
ドンドンドン!!
すごい勢いで壁を叩く音がした
「うわっ!!!何??」と楓がびっくりして悲鳴を上げた
「怖いんだぞ」と葵も目を丸くしていた
「なんだ・・・今の音は・・・今何時だと思ってるんだよ」とオヤジは周囲を見回していた
「こんな夜中に・・・誰だろうね」とおふくろも少し呆れ顔になっていた
「じっちゃ!怖いんだぞ」
「わたし、パパを連れてくるね」と楓は急いで私の寝室へ行った
「パパ!!大変!!また壁ドンだよ!!起きてよ!!」
楓の大きな声で私は目が覚めた
「なに!?なに・・・どうした?楓?」
「パパ、今さっきね、壁を叩く音がしたよ、仏間へ来てよ」
「何!また壁を叩く音がしたの?」
「うん!そうだよ」
私は起き上がり仏間へ行った
「また、壁を叩く音がしたんだって・・・」
「そうだよ、こんな夜中にね、誰だろうね」とおふくろ
「あかん、完全に目が覚めた、くそっ!」とオヤジ
これは絶対におかしい
直接外から壁を人間の手で叩いてもこんな音になるはずがない
しかし、どうみても壁ドンなのだ
「オヤジ、この壁の間に何かあるんじゃないのかよ?」
「いや・・ないだろ・・・F、お前が言いたいのは隠し部屋みたいな空間があるのかと言いたいんだろ、ないはずだぞ」
「そうだよ」
「でもな・・壁を叩く音はどうみても外側から叩かないと無理だよ
それも相当強く叩かないと・・・どう見ても隠し部屋の空間は無理だろ」
もし隠し部屋があれば外からの騒音は相当小さくなるはずだ
私はふと能面を見た
野太い声・・・能面を一枚一枚じっくりと見た
あった・・・左側から3番目の能面
ちょっと強面な感じの能面
なんとなくこっちを見てるような視線を強く感じだ
ゾッとした
「さぁさ・・楓と葵はママのところへ行こうね」と私は葵と楓を寝室へ行かせた
「うん・・・ママのところで寝るね」
「おい・・・オヤジよ、左から3番目の能面・・・あの野太い声とイメージ的に会う気がするけど・・」
「ん?・・・どれ・・・あぁぁ・・・なるほどな・・・これは・・・たしか・・人からもらったんだよ・・・誰だっけ・・・思い出せん・・・」
「おいおい・・・買ってきたんじゃないのかよ・・・」
「あぁ・・・くそっ!思い出せん・・・」
私は少し勇気を奮ってその能面を手に持った
裏を見た・・別にどうのこうのという感じはなかった
普通の能面のような気がした
その能面をオヤジに渡した
「おい、F、その能面をこっちへくれ
誰だっけな・・・もう5年前のことだからな・・・」
オヤジは能面の裏を見た
一瞬、オヤジの顔がゆがんだように見えた
「こ・・これは・・・思い出したぜ・・・」
「思い出したのかよ」
「あぁ・・・この能面の元の持ち主はよ・・・もうこの世にはいねぇ」
「え?・・・」
「交通事故であっさりとな・・・俺が病院へ駆けつけた時にはもう・・・虫の息だったよ・・そいつが・・・この能面を大事にしてくれと頼まれた・・・俺にとっちゃ・・大親友だった・・」
オヤジはこの能面のいきさつを話した
この能面はその大親友の一族の宝物で代々受け継かれてきた
その大親友の一族は能を舞う一族らしい
オヤジの一族とは切っても切れない関係だとか
神様を祭る一族と能を舞う一族
その大親友とは幼馴染で家族ぐるみの付き合いをしていたとか
だからオヤジは能や歌舞伎をこよなく愛でているわけだ
「あいつが・・・しゃべったのかな「やかましいぞ」と・・・」
オヤジの目から涙が出ていた
なんとなくわかる気がした
「しかし・・・この能面・・・考えすぎかな・・・」
「え・・・どうした、オヤジ」
「一瞬な・・・黒い影が見えた・・・黒い影というか・・・目玉がギョロリと見えたような感じがした・・・」
「え・・・目玉!?・・・」
「まぁ・・・気のせいだろ」
気のせい?・・・
いや・・仏間にいるとなぜか人から見られてるという感じがしていた
おふくろもそう言ってたし・・・
楓も・・・同じことを言ってた
間違いないだろ
原因はこの能面だ
「オヤジ・・すまんが・・・1日だけ・・・あの能面をしまってほしい」
「ん?・・・なんでだよ?」
「いや・・おふくろや楓や俺もこの部屋にいると誰かに見られてるという感じがするんだよ
」
「そっか・・・仕方ないな・・・とりあえずケースにしまっておく」
オヤジはその能面を黒いケースの中に入れた
その黒いケースを仏間にある小物入れなどが入れてあるスペースに入れた
「これでいいだろ?」
「うん・・・後は少し様子を見よう」
やはりというか・・・翌日にいつもの仏壇に水などをあげるためにおふくろが仏間で作業をしていた
「F・・・なんか仏間の雰囲気が変わったような気がするよ・・軽くなった感じ・・」
とおふくろは仏間の様子を私に話してくれた
2日後の夜に楓と葵はオヤジの話を聞くために仏間にいた
匠と仁に一緒に遊びたいと訴えたけれどオンラインゲームを一緒にやるのはダメと言われてオヤジのところに来たのだ
私もオヤジの与太話を聞こうと仏間にいた
「パパ・・じいちゃんの部屋、なんだか空気が軽くなったような気がするよ・・あれ?あの能面はどこ?」
「あの能面はケースに入れてしまってるよ」
「そっか・・・」
「やはり、あの能面が原因だな」とオヤジ
「間違いないだろ、とりあえずはもう少し様子を見て和尚様に相談するよ、オヤジ」
「そうしてくれ、得体のしれないものを持ってても仕方ないからな」
あれから一週間
仏間の雰囲気・空気が完全に軽くなった
間違いなく原因はあの能面
私は早速和尚様に今までの経緯を話をした
「そうですかい・・・ほぼ間違いなくその能面でしょうな
わたしゃ・・今忙しくて・・3日後にお家へ行きますわい
その能面を入れたケースはそのままにしておいてくだされ
」と和尚様から言われた
3日後の夕方に和尚様が家に来た
「おひさしゅうですわい
仏間へ行きましょう」と和尚様は着いたとたんに仏間へ歩き出した
仏間にはオヤジと楓と葵がいた
「オヤジ殿、おひさしゅう、楓ちゃん、葵ちゃんも元気にしてたかな?」
「うん!!和尚様!楓は元気だよ」
「あたちもだぞ!!」
「さてと・・・その例の能面を拝見しましょう」
「おう、ちょっとまっててくれ・・・え・・・・おいおい・・・ないぞ!!!」
「うそだろ、オヤジ」
「ケースの中の能面がない!!俺は触ってないぞ」
一同動揺が走った
能面はどこだよ
「あれ・・・パパ、あそこに飾ってるのそうじゃない?」
「え・・・誰だよ、飾ったのはよ・・おかしいなちゃんとケースに入れてたはずだぜ」
不思議なことにその能面は元の位置に戻っていた
「うそだろ・・・誰だよ、動かした奴はよ」
「あれですかいのぉ・・・・こりゃ・・・あかんですわい
すぐに除霊をしますわい」
と和尚様は除霊の儀式の準備をはじめた
「楓ちゃんと葵ちゃんはこの仏間から隣の客間へ移ってほしいですわい
ママと一緒にいるといいですわい
こりゃ・・・難儀ですぞ」と和尚様は少し不安そうな顔をしていた
和尚様のあのような顔は初めて見た
いったい何を感じてるんだろう
「和尚様、大丈夫ですか?」と私は和尚様に聞いた
「いや・・・そのぉ・・・能面が語りかけてきたんですわい
わしゃ・・・やはり・・成仏をさせてあげないと・・・」と和尚様の顔がさらに悲しい顔になっていた
「くそ坊主!!なんちゅう顔をしとるんじゃ!能面が語りかけてきたって能面は何を語ったんだよ?」
「まぁ・・・」と和尚様は少しため息をついて話し始めた
和尚様の話だとこの能面は戦国時代にある村の一人の男が時間をかけて作ったとか
しかし、戦国時代の戦でその村も戦火に巻き込まれた
その男は大事にその能面を抱えながらあちこち逃げ延びていた
だが、後ろから槍を一突きにされてその男は息絶えた
その能面は戦利品として戦勝したお殿様に献上された
そのお殿様は能を愛でて自らも能を舞っていた
もちろんその能面を顔につけていた
能の舞も終わり面を外そうとしたのだがなぜか顔から離れない
力を入れても離れない
そのお殿様は近くにいた家来に面を外すのを手伝うようにと言うと
3人の家来がお殿様の近くに寄り力を込めて面を外そうとした
だが、なかなか外れない
もう1度力づくで面を引っ張ってみた
見事に面が外れた
だが・・・・外れたとたんにお殿様は悲鳴を上げた
なんと!お殿様の顔の皮膚と一緒に面が外れていたのだ
お殿様は顔を手で覆い転げまわっていた
それを見ていた家来衆はどうしたらよいのかただ茫然と見ていただけだった
すごい悲鳴をあげてお殿様は息を絶えた
民衆は祟りだと噂をした
そう祟りなのだ
能面の作者の祟りだとお城中で大騒ぎになった
その能面はいつのまにかなくなっており最終的にはオヤジの幼馴染の一族の元へ
渡っていたのである
だからこそこの一族は不幸が相次ぎオヤジの一族に助けを求めたのである
一旦は静まったのだがやはり・・・怨念が強いのか今現在でも現象は起きている
その結果がオヤジの幼馴染の交通事故死である
何百年という時間が過ぎても怨念が消えていない
だからこそ和尚様は不安な顔をしたんだとおもう
「こりゃ・・・わしゃの力では・・・無理かも・・・オヤジ殿や楓ちゃんの力がいるかもですわい
でも・・・楓ちゃんは今回はやめておこうと思いますわい
オヤジ殿となんとかしますわい」
早速、オヤジと和尚様は除霊の儀式をはじめた
3時間ほどして部屋からオヤジや和尚様が出てきた
「あかんですわい!!全然理解してくれませんわい
やはり・・・わしゃの力じゃ・・・無理だったですわい
オヤジ殿も何度も説得してくれましたわい
しかし・・・オヤジ殿の力なら出来るはずなんですわい
なにかがあの能面に纏わりついているようですわい
何だろう・・・・」
「くそ坊主!!ありゃダメだぞ!俺の力でも駄目だ!!
ありゃ怨念という念じゃないぞ
怨念の除霊なら俺一人で出来るがあの能面そのものになにか憑りついてるぜ
あの能面の職人じゃない!職人はとうの昔に成仏してるぜ
俺は・・・あいつは・・・」とオヤジは言葉を詰まらせた
はじめてみて、オヤジの苦渋の顔
「こりゃ・・・くそ坊主!後で話すぜ」
「オヤジ殿・・・」
何かを隠してる、オヤジ
いやもう真相はオヤジにはわかったんだろうな
気になる・・・・
「俺、明日に俺の一族の菩提寺へこの能面を持っていくよ
くそ坊主もついてこい
菩提寺の住職と会ってくれ
俺の大おじにあたる人だ
この現象を終わらせるぜ」
「わかりもうしたわい、ついていくですわい」
「それと・・・楓ちゃんと葵ちゃんもじいちゃんと一緒に来るんだ」
「うん、じっちゃ!!」
「ついていくんだぞ」
「おいおい!!明日はまだ学校あるんだぞ
勝手に決めるなよ、オヤジ」
「おい!学校なんでくそくらえだ!、俺は学校は大嫌いだ!」
「おいおい!オヤジの個人の意見なんぞ、聞いてないよ」
「オイ!もう時間がないんだよ、一刻も争うんだ
大親友の一族の不幸を俺が止めるぜ
何百年も苦しめられてきたんだぜ
大親友の一族はもう妹さんしかいないんだよ
あとは年寄りばかりだ
もう時間の問題だ
妹さんも持病があってあんましいい体調じゃない
F!!!てめぇ、俺の息子だが今回だけは俺の意見を聞けや」
オヤジの真剣な顔
こりゃ逆らったら今度こそ海の底だな
「わかったよ、楓と葵を連れていけ
俺も行きたいけど・・・会社、休むかな・・・」
「そうしろ!今回の件は俺たち一族も深くかかわってるんだ
むしろ・・・この騒動の元は・・・」
オヤジは口をつぐんだ
珍しい・・・
「明日の朝早くに菩提寺へ行くぜ」
一族が関わってるって・・・
どっちの一族だろ
オヤジの一族かおふくろの一族なのか
オヤジがおふくろの顔を見た
おふくろの顔が一瞬、悲しげな顔になった
え・・・おふくろもこの件について何か知っているのか
この夫婦の不思議なことはなぜか阿吽で相手の考え方がわかるというのをたくさんみてきた
不思議だ
S子とはそこまでの域に達していない
「あんた・・・あんまし・・・深入りしちゃダメだよ・・・」
「わかってるぜ、でもな・・ここで止めなきゃ・・・この一族は滅亡だよ
もう妹さんしかいないんだぜ・・・何百年の因縁を切らなきゃな」
朝早く慌ただしく準備をして早々に家を出た
オヤジの菩提寺までは少し時間がかかる
私も久しぶりに行く
私が小さいときにはちょこちょことじいさんとオヤジとで菩提寺まで遊びに行っていた
ここの住職はというかオヤジの一族はなぜか目玉が大きい
しかし、なぜか私だけは目玉がそんなに大きくない
たまにS子からパパ(オヤジ)の子供じゃないんじゃないとからかわれる
F子も目玉が大きい
もちろん子供たちも目玉が大きい
楓からも「なんでパパの目玉は大きくないの?」とよく聞かれた
「そりゃ!!Fは失敗作だからだよ」と冗談でオヤジが言うと家族全員が大笑いする
「パパ・・・かわいそう」と葵が私の顔を覗き込んで言ってくれた
車の中は誰一人言葉を発することなく
菩提寺についた
和尚様が門のところで待っててくれた
「おう!!よう!来た!来た!」と大きな声で出迎えてくれた
「お!!!楓ちゃん、葵ちゃん、大きくなったのぉ!!」
「うん!!おじさん!!」
「ところで・・・お前は誰だったけな?」と私を見てジロジロと見つめていた
「え・・・Fだよ、冗談はよしてよ、おじさん」
「大おじよ、そいつは俺のせがれだよ、失敗作のせがれだよ」
「おおおお!思い出した!!Fかぁ!!、何年振りかのぉ・・」
「オイオイ・・・」
「ところで・・・そこにいる・・・坊主頭の方は誰かのぉ?」
住職様は私の後ろで静かにしていた
私はおじさんに住職様を紹介した
「そうかい!!同業かい!!そっかそっか」
「おい!○○(オヤジの名前)、○○(おふくろの名前)さん、元気にしてるかのぉ?」
「あいつなら元気だよ」
「そうかい、いいことじゃで」
「ところで、○○(住職の名前)さん、あとで、わしのところへ来ておくれ」
「はい!!」
「○○(オヤジの名前)、例の能面、持ってきたんかい、あとで見せておくれ」
「あぁ・・持ってきた、あとで見せるぜ」
奥の部屋へ案内された
8畳ほどの和室だ
大おばさんがジュースとお菓子を持ってきてくれた
「ありゃ、Fちゃん、お久しぶりだわね、S子ちゃん、元気にしてるの?
F子ちゃんの写真集、おばさん、買ったわよ
本当にきれいなお嬢さんになったわね
でも・・・F子ちゃんを撮影してる人って・・・下手糞だわね
おばさんが文句を言ってあげようか?
楓ちゃん、葵ちゃん、いつのまにか大きくなったね、可愛い娘さんになったわね
○○(オヤジの名前)は相変わらずだわね・・・おばさんが小さいときから見てきたけど全然変わらないわね、Fちゃんも相当苦労してるんじゃないの?
子供は親を選ぶことができないからね
さぁさぁ・・・ジュースとお菓子を置いていくから食べて頂戴ね」
S君・・・今頃、くしゃみしてるだろうな
あいかわらずおばさんは優しい
F子と一緒に行くとすごく喜んでくれた
少し落ち着いた
オヤジとおじさんと和尚さんは別室へ行った
何を話してるんだろう、気になる
おばさんが来て楓と葵の相手をしてくれている
おじさん夫婦には子供がいない
だから私やF子が来ると大喜びをしてくれた
「Fちゃんのところ、4人もお子さんがいていいわね、おばさん、がんばったんだけどね」
「おばさん・・・」
突然、壁から
ドンドン!!ドンドン
と壁を叩く音がした
一斉に音がした壁を見た
「え・・・何、今の音は?」とおばさんは目を大きくしていた
まさか!!ここでもか!
「パパ!!怖いよ!!!」
「あたち・・・も・・・」
完全に娘たちは怯えていた
ドンドン!!
ドン!!
さらに壁を叩く音
壁の向こうは外だ
「誰だろうね、叩いてるのは・・・悪戯にしては度が過ぎてるわね
おばさんが注意してあげてくるわね」
「いや・・・おばさん・・・ちが・・・」
おばさんはさっさと部屋から出て行ってしまった
おばさんが戻ってきた
「おかしいわね、誰もいなかったよ
しかし・・・逃げ足の速い人だわね
今度はきっと捕まえてやるわよ」
ドンドンドン!!!
とすごい連打で壁を叩く音がした
「こりもせずに!」とおばさんは慌てて部屋を出て行った
「パパ・・・どうするの?じいちゃんたちを呼ぼうよ」
「そうだな・・・呼ぼうか・・・」
「おかしいわね!!もういないのよ
裏は竹林になっててそんなに早く逃げれるわけがないのに」とおばさんは首を傾げていた
この和室の隣は竹藪が広がっている
おばさんが言うようにすぐに逃げれる場所じゃない
逃げるとしたら竹藪を避けるはずだ
すると西か東のほうへ逃げるはずだ
それにここはお寺の敷地だ
竹藪の向こうは塀がある
お寺の門からしか出入りできないはずだ
障子を開けると竹藪が丸見えなのだ
夏は障子をあけると気持ちの良い風が部屋に入ってくる
私とF子がお泊りの時は必ずこの和室だった
私はオヤジたちを呼びに行った
「なに!!壁ドン!!あぁ・・・」
「どうやら・・・能面ですかなぁ・・・」
原因は間違いなく能面だ
「おじさんよ、まぁこういうこった
何とかしないと非常にまずい
1回、そこのくそ坊主と除霊はしたんだが・・・力不足で無理だった
そこでおじさんに頼もうと来たんだけどな」
「ぁぁ・・・お前が連れてきたのは幽霊じゃないぞ!!この馬鹿垂れ!!!
よりによって・・・あぁ・・・わしもなんとかするけど・・・無理だった場合は・・・
おい!!○○(オヤジの名前)、わかっているよな?」
「あぁぁ・・・あ・・・まぁ・・・俺が犠牲になるよ」
「よぉし!お前が犠牲になったところで家族のものは誰一人悲しまないからな
親族も誰一人反対する奴はおらんで・・・お前を生贄にしていっちょやってみるか」
おいおい・・・すごい話になってる
大叔父も元々口は悪いがさらに口が悪くなってる
幽霊じゃなくて何を連れてきたんだろ
「Fよ・・お前のオヤジ、失敗したら死ぬからな
今のうちに何か言いたいことがあれば言ってたほうがいいぞ」
「えぇ・・・冗談でしょ?」
「いや、真剣だ!こいつが連れてきたのはな・・・(耳元でヒソヒソと話してくれた)」
「ギョェーーー無理だろ・・・」
「そういうこった!今のうちになにか言いたいことがあれば言い尽くせ」
「言い尽くせ」と言われてもな
いろいろとあるけど・・・これから地獄へ堕ちる人間になぁ・・・・
「オヤジよ、地獄へ行っても元気でいろよな
それと二度と戻ってくるなよ」
「おうよ!失敗する確率はほぼ100%だからな・・・あははははは・・・
まぁ地獄へ行って暴れるかなぁ・・・」
もう和尚様の顔は何を話しているのかという顔になっていた
「あのぉ・・・今さっきからすごい話をしてますけれど・・」と和尚様がオヤジに話しかけた
「くそ坊主!世話になったな!今度の奴は敵わんぞ
俺が犠牲になるからな・・・あばよ!!」
「え!オヤジ殿、ぜんぜんわしゃには理解できませんわい」
楓と葵や匠や仁も唖然としていた
「じいちゃ!!どこかへ行くの?」と楓がオヤジに話しかけた
「そうだよ、楓ちゃん、ちょっと・・旅へ出る」
「どこ行くの?教えてよ」
「まぁ・・・後でFに聞いてごらん」
「パパ!!じいちゃがどこかへ行くんだって!!止めてよ」
「楓・・無理だよ、行かせてあげないとな」
「え・・・」
その日の深夜にオヤジと大叔父と和尚様が本堂で除霊の儀式をした
私たちは遠くから見ていた
オヤジがパタッと倒れた
もちろん子供たちはもう寝かせつけた
「あぁぁ・・逝ったな、オヤジ!!がんばれよ、バイバイ!!」
和尚様と大叔父はすぐにオヤジを棺の中へ入れて
本堂の一番奥へ隠した
このシリーズを読んでる人はもうピンと来てると思う
そのまさかをさせるために・・・そういうことです
初めて読む人には刺激が強すぎるかも
ヒントとして能面に憑いていたのはオヤジとほぼ互角の力をもったもの
とてもじゃないが現生では太刀打ちできない
地獄へ行ってもらうしかない
まぁ・・閻魔大王の嫌がる顔が想像できるけれどね
失敗したらまぁそのまま地獄にいてくれればいい
そのうちに閻魔大王がオヤジを追放するからそのまま蘇るだろう
まぁ・・そういうことで
作者名無しの幽霊
はい
案の定でした
3日後にオヤジが戻ってきましたよ
能面に憑いていたものはきれいに浄化してきたとか
やはり・・・閻魔大王の使いが来て「もういいから元の世界へ帰ってくれ」と言われたようだ
ある意味すげぇなーと思う
地獄界から超絶に嫌われてるオヤジ
死んだら天国へ行けるからな
散々悪さしてるんだから普通なら地獄行きだろ
オヤジが戻ってきた
大叔父は「うわぁ!!本当に帰ってきた・・・そのままいればいいのに」(これ、マジで本音だろ)
大叔母「あちゃ!!マジで帰ってきたのね・・・せっかく葬式の準備をしてたのに・・残念だわね」(これも本音だろ)
和尚様「よかったですわい!!飲み友が一人いなくなるところでしたわい(S君も飲み友の一人にされてる)」
わたし「案の定だな・・・やれやれ」
まぁ・・・めでたしめでたし