※以前投稿した「見える人」の前編と中編に、完結編を加え、全編にわたって加筆修正した完全版です。なので、これを読めばオールOK。中途半端のまま、一年以上も放置してごめんなさい。
※注意 ガンダムネタが多く含まれます。わからなくても内容の理解に影響はないので、ご自由にスルー願います。
僕の名前は太郎。見た目、学力、運動神経などなど、全てにおいて何もかも普通。「特徴がないのが特徴」というジムカスタムを擬人化したよう人間だ。
ただ、オカルトとアニメに関しては、他人より少しは詳しいといえるかもしれない。
そんな僕の高校のクラスに、ちょっと変わった女の子がいる。見栄子だ。
美人とは言えないが、小柄で愛嬌があり、性格は明るく気さく。
こちらはアッガイといったところか。
口が達者で、見栄っ張りなところがあり、おしゃべりに夢中になると、時々場の空気が読めなくなる一面があるのが玉にキズなのだが、そこも含めて「憎めないやつ」としてクラスの中心的存在だ。
そんな彼女は、霊感が強く、いわゆる「見える人」という噂がある。
オカルト好きな僕は、その噂がどれほどのものか確かめたくて、見栄子本人に確認してみたところ
「普通に見えるよ。ってか、ほら、今も天井のところを女の霊が通っていったよ」と、
アッケラカンとした表情で教えてくれた。
まぁ、僕をはじめ、このクラスには霊感がある人がほとんどいなく、真偽の確認のしようがないため、あくまで「自称・見える人」ということになるのだが…。
ある日、そんな彼女のもとに、とある相談が持ちかけられた。
相談の主は、隣のクラスの彩子(サイコ)ちゃんだ。
全長50メートルもあるわけではなく、イメージはパイロットのフォウ。とても可憐な少女だ。
彩子ちゃんにはマークツーというあだ名のマコトという彼氏がいる。
男気がある反面、ちょっと短気ですぐに他人に殴り掛かっちゃう癖がある。
そんな二人は最近、ある悩みを抱えているのだという。
彩子ちゃんによると、事の起こりは先週の日曜日。
マークツーたちと数人のグループで、軽い肝試しのつもりで、心霊スポットに出掛けたのだそう。
そこは、街の郊外にある、空き家になった廃墟で、昔から「幽霊屋敷」と呼ばれている場所。
もともとは大金持ちが住んでいた豪邸らしく、今は管理するものもなく、おどろおどろしく朽ち果てている。
肝試しの最中、特に恐怖体験は起こらず、無事に帰って来ることができたというのだが、その日を境にして、毎晩のように悪夢にうなされるようになってしまったのだという。
困り果てたふたりは「霊感のある見栄子なら、なんとかしてくれるかもしれない」と、相談にやって来たというわけだ。
彩子ちゃんの悩みの具体的な内容はこうだ。
深夜、部屋で寝ていると、息苦しさを感じて目を覚ます。
気づくと、閉めたハズの部屋のドアが開いていて、そこに見知らぬ少女が、なぜか背を向けて立っている。
さらに、その少女が現れると同時に、廊下の方から得体の知れない不気味なナニかが、足音をたてながら、だんだんと部屋に近づいてくる。
恐怖に体がすくみ、布団をかぶって怯えているうちに、いつの間にか意識を失ってしまい、夢の中で、その得体の知れないナニかに追いかけられ続けるのだという。
そして、その悪夢の終わりはいつも同じで、ナニかに追い付かれそうなピンチになると、どこからともなく現れた淡い緑色の光が、自分の身体を包み込み、助けてくれるのだという。
悪夢から目が覚めるころには朝を迎えていて、全身にびっしょりと汗をかき、ものすごい疲労感が襲ってくるのだとか。
こんな悪夢を毎日見るようになってしまったことで、安心して眠ることができず、たとえ眠ることができても、悪夢に襲われてしまうため、彩子ちゃんは心身ともに疲労困憊なのだという。
彩子ちゃんの話を聞き終わると、見栄子はいつもの明るい表情で、こう言った。
「原因はハッキリしているわ。
心霊スポットに行ったときに悪霊に取りつかれてしまったようね。
後ろ向きの少女も、得体のしれないナニかも、種類は違うけど、心霊スポットで彩子ちゃんに憑りついてしまった悪霊ね。
んで、淡い緑色の光の正体はあんたよ、マークツー。
彩子ちゃんを助けたいという一心が、彩子ちゃんの夢に入ってきてそうさせているのね」
「えっ?俺が?そうか、俺もそんな気がしてたんだよ。
俺と彩子は愛し合ってるからな」
彩子ちゃんとマークツーは、さっきまでの心配ムードが一気に吹き飛び、ふたりは互いに見つめあい、目をハートにしてランランさせている。
すっかりふたりだけの世界だ。
女性経験はコウ・ウラキ並みの僕は、嫉妬や羨望を抱きつつ、「ニュータイプの共鳴か!」と心の中でツッコんだ。
「ハイハイごちそうさま」と見栄子も少々呆れつつも、対処法をふたりに教えてくれた。
「部屋の四隅とドアの外側に、天然の粗塩で盛り塩をしておけば大丈夫。
たいていの悪霊はこれで退治できるから。
帰ったら、さっそくやってみて」
意外にも明るい見栄子の態度に勇気づけられたのか、彩子ちゃんは笑顔を取り戻し、「ありがとう。忘れずにやっておくね」と感謝していた。
僕も、見栄子の自信に満ちた態度に、感心と尊敬の念すら抱いた。
まるで、デラーズ閣下に膝まづくガトー少佐のように。
しかし、事態は、そう易々と解決には向かわなかった。
いや、むしろ悪化へと転じてしまったと言えるかもしれない。
どうしたものか、翌日から彩子ちゃんが登校しなくなってしまったのだ。
彩子ちゃんが休みはじめて3日後、心配に思ったマークツーがお見舞いのために自宅を訪れたが、彩子ちゃんは自室のベッドから離れようとせず、ケダモノのような凄い形相で睨みつけてきたのだという。
「彩子ちゃんがおかしくなってしまったのは見栄子の入れ知恵のせいなんじゃない?」
そう誰かに言われ、ハッと気づいたマークツーは、ある日の放課後、見栄子を捕まえると、猛烈な勢いで詰め寄った。
「見栄子が変な入れ知恵をしなければ、彩子がこんなことにはならなかったんじゃないのか!?ええ!!どうなんだよ!!
お前、本当に霊感なんかあるのかよ!!
デタラメ言ってんじゃねえぞ!!」
マークツーの怒りは相当なもので、物凄い勢いで一気に捲し立てた。
その剣幕に押され、さすがの見栄子も後ずさりしたが、普段から負けん気の強い見栄子はすぐに攻勢に出た。
「なに勝手に決めつけてんの!?
私のせいにしないでよね!!
そもそも心霊スポットなんかに行ったアンタたちが悪いんじゃない!!」
僕は思った。
「たしかに、軽い気持ちで心霊スポットなんかに行ったマークツーたちは悪い。
だけど、日頃からあれほど自分の霊感をひけらかし、自信満々に彩子ちゃんの相談に乗ったのに、事態が悪化すると、自分に責任はないような物言いをするのは、
筋が通らないんじゃない?」
僕の心の中で、見栄子に対する怒りがふつふつと込み上げてきた。
それは、周囲で見守っていた友人たちも同じようだった。
負けん気の強い見栄子でも、周囲から浴びせられる非難の視線に耐えきれなくなったのか、その場から立ち去ろうとした。
そんな見栄子を引き留めようと、僕は手を伸ばしたが、僕が引き留めるまでもなく、彼女の行く手を阻む者がいた。
マークツーか?
いや、違う。
マークツーもまた、僕と同じように、手を伸ばした姿勢でフリーズしている。
「いい加減、霊能者ごっこはやめたらどうなの?」
無口で物静かな、普段の様子からは想像もできないような、
神々しいオーラを身にまとった彼女がいた!
彼女はそう…
・・
・
ミコだ!
ミコは、この地に古くからある由緒正しい神社の一人娘。
普段は家業の手伝いで、巫女(みこ)をしている。
もうそのまんま、巫女のミコだ。
無口で物静かな性格で、親しい友達はクラスに一人もいないが、周囲と馴染めないのではなく、周囲を寄せ付けないようなオーラをあえて身にまとっているようなタイプの人間だ。
一見すると、知性的で落ち着いた雰囲気のある美少女なのだが、クラスメイトからは近寄り難い「変わり者」と認知されている。
肌は透き通るように色白で、なにか物凄い能力を秘めているような雰囲気を持っているので、イメージはティファ・アディールだ。
そんな彼女の突然の登場に、
見栄子だけでなく、マークツーも僕も呆気に取られた。
「いい加減、霊能者ごっこはやめたらどうなの?」
神々しいオーラを身にまとったミコが、鋭い口調で言い放った。
どうやら、事のいきさつを見守っていたようだ。
「私にはわかる。
恐らく、彩子ちゃんは今、大変な状態にある。
何らかの救いの手を差し伸べる必要があるわ。
もしかしたら、一刻を争う事態かも知れない。
馬鹿馬鹿しい言い争いは、いい加減にして。
彩子ちゃんを助けたかったら、今すぐ私を彩子ちゃんのところに連れていって」
僕たちは、ミコの剣幕に圧倒され、冷静さを取り戻すと、
さっそくミコ、僕、マークツー、見栄子の4人で、彩子ちゃんの家に見舞いに行くことになった。
彩子ちゃんは、見栄子が相談に乗った翌日から、部屋に閉じ籠ったまま出てこなくなり、すでに一週間ほど不登校が続いている。
家族によると、説得を試みても、ケダモノのように周囲を威嚇し、まともに話すらできない状況になっているという。
家に着いたところ、家族は最初、彩子ちゃんに僕らを会わせることを拒んだが、由緒正しい神社の一人娘であるミコが「早く彩子ちゃんをどうにかしないと手遅れになります」と真剣な表情で訴えたため、なんとか家に入れてもらえることになった。
その際、ミコは、家族にとあるお願いをしていた。
「先に、仏間に案内して頂けませんか?」
そして、仏間に通されたミコは、部屋全体を入念に確認した。
「…なるほどね…」
僕らはただ、訳も分からず、その様子を見守った。
用事がすんだのか、いよいよ彩子ちゃんの部屋の前に来ると、ミコはドアの前にある盛り塩を入念に確認した。
「…やっぱりね…」
僕には、ミコの瞳がキラリと光ったのが見えた。
そして、恐る恐る部屋の中へ・・・。
彩子ちゃんはいた。
布団にくるまりながら、ベッドの上からケダモノのような荒々しい視線をこちらに向けている。
可憐で女性らしい、いつもの彩子ちゃんとはまるで別人のような雰囲気だ。
ミコが近づこうとすると、彩子ちゃんはまるで野犬のように喉を鳴らして、激しく威嚇してきた。
しかし、ミコは動じない。
一歩一歩、静か彩子ちゃんへと近づく。
一触即発の距離まで近づいたときだった。
ミコは、袖の中からお札のようなものを取り出すと、すかさず彩子ちゃんの額にはりつけた。
すると、彩子ちゃんがまとっていた殺気は消え失せ、ミコの腕の中で、スヤスヤと寝息をたてながら、安らかな寝顔で寝入ってしまったのだ。
それはまるで、キョンシーを封じ込めるような、あるいは、猛獣を一瞬で手慣づけるムツゴロウさんのような、もしくは、ほとんど意識のない状態で突貫し、敵機にもたれかかったまま最期を迎えたガンダム・バルバトスのような、常人には理解し難い状況だった。
「安心して。お札の力で、少しの時間、安らかに眠っているだけよ。彼女に手出しをしていた悪霊は、とりあえず自分の巣に帰っていったわ」
ミコは穏やかな笑みを浮かべた。
「さて、それじゃあ、何から説明しようかしら。
でも、その前にまずは状況を整理しないとね」
そう言うとミコは、マークツーと見栄子にこれまでのいきさつを振り返らせた。
事の始まりは、今から2週間ほど前。
街の郊外にある廃墟に、彩子とマークツーのカップルらが肝試しに行ったことから始まる。
肝試しの最中は、特に心霊現象は起きなかったが、帰宅後、彩子は毎晩、心霊現象にうなされ続けるようになる。
その心霊現象とは、夜中にふと目が覚めると、部屋のドアが開いていて、そこに見ず知らずの少女が背を向けて立っている。
すると、廊下の方から不気味な足音が聞こえてきて、言い知れぬ恐怖が彩子を襲う。
恐怖に怯えるうちに、意識を失ってしまった彩子は、夢の中で、不気味なナニかに追いかけられるのだが、追い付かれる寸前に、体が淡い緑色の光に包まれ、夢から覚める。
そんな日々が一週間ほど続き、心身ともに憔悴しきった彩子は藁にもすがる気持ちで、見栄子に相談を持ちかけたのだ。
「で、見栄子はなんてアドバイスをしたの?」
ミコは切れ長の瞳を見栄子に向け、問いただした。
「取り憑いたふたつの悪霊が、彩子ちゃんに悪夢を見せるために毎晩やって来たわけだから、悪霊がこれ以上、近づいてこないように、部屋の四隅とドアの外側に盛り塩をするといいわ、と言ったわ。それがなんなのよ」
すると、ミコは声を荒げてこう言った。
「見栄子、あなたなんてことをしてくれたの?
本当に、この状況が理解できてるの?
霊能者ごっこはいい加減にして!!」
ミコは、腕の中の彩子をギュッと抱き締めると、フッとひとつため息をついて、穏やかに語りはじめた。
「まずは、その少女のことから話さないといけないみたいね。
そもそも、彼女は悪霊なんかじゃない。
彩子ちゃんのお父さんの双子の妹で、10歳の時に亡くなっているの。
さっき、仏間で遺影を見て確信したわ。
そして、仏になった彼女は、
彩子ちゃんの家にとっては守り神のような存在になっているの。
特に、彩子ちゃんにとっては強力な守護霊でもあるわけ。
肝試しのときに心霊現象が起きなかったのは、彼女が守ってくれたお陰ね。
だけど、その廃墟に潜んでいた悪霊は彩子ちゃんのあとを追って、家までついてきたようね。
そして、隙を見て彩子ちゃんに取り憑こうと、毎晩部屋に侵入しようとしていたわけ。
だけど、強力な守護霊である彼女が、部屋の入り口で身を挺して彩子ちゃんを守り続けたの。
つまり、守護霊は悪霊に立ち向かっていたから、後ろ向きで立っていたってワケよ。
でも、悪霊の力は強大で、守護霊が全ての力を防ぎきれず、彩子ちゃんは眠らされ、無防備な無意識の状態で、悪霊が彩子ちゃんの心と体を乗っ取ろうとしていたの。
でも、それを阻止していたのも守護霊。淡い緑色の光の玉となって、彩子ちゃんの意識に入り込み、悪霊の魔の手から彩子ちゃんを救い出していたのよ。
悪霊と守護霊の攻防の様子が、彩子ちゃんには悪夢として認識されていたわけ」
「なるほど、そういうことだったのか…」
霊感は全くない僕だが、ミコの話を聞けば、合点が行く。
僕は深く感心した。
「だけど…」
ミコは表情を曇らせた。
「そんな守護霊である彼女に対して、
見栄子が彩子ちゃんにさせた誤った悪霊退治は、
守護霊である彼女を、とことん弱らせてしまったのよ。
考えても見て…。
彼女はケダモノのような悪霊と対峙して、身を挺して守っていたのに、背後からは盛り塩によって、炎に焼かれるような痛みに、さらされていたのだから…
彼女の霊力は今や、風前の灯。
守護霊の力を無くした彩子ちゃんは、まんまと悪霊の手中に堕ちてしまったのよ…」
ミコの話には、確かに説得力がある。
「…そんな…」
さすがの見栄子も認めざるを得ないようだ。
「悪霊に取り憑かれてしまった彩子はどうなってしまうんだ?」
事態を見守っていたマークツーが重い口を開いた。
「悪霊の正体は、ある特殊な欲望の塊なの。
簡単に言うと、ロリコン野郎ね。
そんな悪霊が、少女の身体に乗り移ったら、やることはひとつ…。
まあ、コミケで売ってる薄い本とかに書いてあるようなことね。
そうすることで、彩子ちゃんから精気を奪い、より強力な悪霊へと進化しようとしているの」
シリアスな展開だったはずが、いきなりの展開に、Dボーイの僕は度肝を抜かれた。
綺麗系の彩子ちゃんのムフフンな姿を想像するだけでも鼻血ものだが、
なによりも、美少女であるミコがエロチックなサブカルの知識を持っていることに僕は驚愕した。
僕は、自分の頭の想像力や、股間の一部が、一気に膨らんだことを周囲に悟られないようするのに必死だった。
そんな僕をよそに、ミコは不安げな表情を浮かべたままだ。
「悪霊はケダモノと化していて、このまま取り憑かれ続ければ、二度と人間の心を取り戻せなくなってしまうかもしれない…」
「なんてこと…」
マークツーはその場に泣き崩れた。
優しかった彩子に二度と会うことが出来なくなるかもしれないという不安…
軽い気持ちで心霊スポットに行った、自分の軽率さへの後悔…
マークツーは絶望の縁に立たされた。
「でも、まだ希望はあるわ。
悪霊が潜む、郊外の廃墟…
そこで、全ての決着を着ける!」
ミコの言葉に、一同が「まさか!?」という表情を浮かべる。
「行きましょう!!あの廃墟へ!!」ミコは僕らを奮い立たせた。
「お、おう」
「ええ、そうね」
「オムツ持参でお供します」
と、マークツー、見栄子、僕がそれに乗った。
「それしかない」と覚悟を決めた僕たちは、ついにその廃墟へ向かう決心をした。
上手くいく保障なんて一切なかったが、その場のノリが僕らの背中を後押しした。
「中二病も、時には役に立つときがあるんだな」と僕は心の中でつぶやいた。
「と、その前に」とミコ。
「相手はラスボス。準備を万全に整えていく必要があるわ。まずはうちの神社によって、必要なものを用意しなきゃ」
彩子ちゃんを部屋に残して家を出た僕らは、その道中、今回の事件にまつわる全てをミコから聞くこととなる。
「あの廃墟はその昔、この辺一帯を治める大地主の持ち物で、下々の民衆はその大地主に逆らうことができないほど、強大な富と権力を誇っていたの。
大地主は、表面上はこの地域の経済を取り仕切るドンだったのだけど、裏では、その権力をかざして、欲望の限りを尽くしたの。
特に、強烈なロリコン趣味があったのは有名で、この地方で若い女性や女の子が神隠しにあう事件が頻発していたのは、その大地主の仕業と噂されていたの。
そんな大地主がある日突然、病に倒れ、あっけなく死亡。一族の柱を失った親族は、民衆からの反発を恐れて、夜逃げのようにこの街を去ってしまい、あの廃墟が残されたってわけ。
まあ、廃墟をとことん調べ上げれば、女性の遺骨がワンサカ出てくるでしょうよ」
「そんなことが…」
「んで、その大地主の怨念が、犠牲となった少女たちを取り込んで、強大な悪霊となり、この地に災いをもたらすようになったの。その事態を、なんとか収めたのが私のおじいちゃん。
でも、悪霊を完全に消し去ることはできず、封じ込めることまでしかできなかったの。そこで、いずれ復活した悪霊を完全に退治するときのために、おじいちゃんは強力なお札を3枚作り上げたの。
まあ、父にはあまり霊力は遺伝しなくて、その代わりに、隔世遺伝のように強力な霊力を持った赤ん坊が生まれ、おじいちゃんはその赤ん坊を霊能者として育て上げ、いずれやってくる決戦に備えたの。その赤ん坊がこの私。んで、今がその決戦の時ってわけ。おじいちゃんは『あとはよろしくね』といって3年前に病気で亡くなったわ」
「なんか、少年漫画のノリだね」
「事実なんだからしょうがないじゃない」
「さ、神社についた。みんなはここで待ってて」
僕ら3人は待つこと30分。日もとっぷり暮れ、時刻は午後10時。あたりは暗闇に包まれていた。
「おまたせ」
そう言って現れたミコの姿に僕らは驚愕した。
宮川大輔の言葉をそっくりお借りするなら「いい」×ハート100
手には決戦用のお札2枚。
しかし、着ているものは決戦に行くとは思えないような、露出度の高い、きわどいスリットの入った着物のような和服だ。
「さあ、行くわよ」
「はい」
なぜ、こんな衣装なのか。
その理由はあとでハッキリするが、この時の僕は、そんなことなどどうでもよく、ミステリアスな雰囲気を漂わせる色白美少女のコスプレを横目に見ながら、不安半分ワクワク半分で、廃墟へ向かった。
廃墟ではラスボスと対峙するまでに、場を盛り上げるイベントが待ち構えているのかと思いきや、ずんずんと歩を進め、あっという間に廃墟の最深部へ。
あまり長編になると、書くのも疲れるし、読むほうも大変だと思うので、その辺はご理解いただきたい。
いかにも最終ステージっぽい大広間に到着した一行。
「あなたね、彩子ちゃんに憑りついて悪いことをしている変態野郎は!」
ミコは誰もいない正面に語り掛けている。
霊感のない僕には見えないが、きっと紅白歌合戦でステージからはみ出そうなほどの衣装をまとった小林幸子のようなボスがそこにいるに違いない。
「そんなおかしなセットみたいなところから降りてきて、私と勝負しなさい」
僕は思った。(あっ!当たってたみたい)
するとミコは何もない空間で、横に飛んだり、高くジャンプしたり、受け身をとったり、なんか色々やっていた。
僕には見えないからよくわからないけど。
マークツーにも見えていないようだ。
見栄子は「見える人」のハズだから、見えているんだろうけど・・・。
と、その時だった。
ミコは巻いていた帯を緩め、露出度の高い衣装がさらにバージョンアップ。
僕は悪霊のことを一瞬忘れ、見入ってしまった。
特に、背中が大きくはだけ、艶々とした若々しい肌が露わに。
きれいなクビレと、透き通るような肌の白さに心を奪われた。
その瞬間、ミコはプロレスの序盤の攻防で見るバックの取り合いのような動きをみせ、次の瞬間にはバック転をしようとして失敗した人みたいに、後方に大きくブリッジをして後ろに大きくふんぞり返った。
両脚は天井を向き、可愛いクマさんのパンティが丸見えの状態で固まっていた。
僕は「見えない人」だが、この攻防はまるで見えているように分かった。
そう、見えなくてもわかる。
がーまるちょばに勝るとも劣らないパントマイムだったからだ。
ミコが背中をはだけた瞬間、悪霊もまた、その美しさにみとれ、もっと近くで見ようとミコの背後に回ったのだ。
それがミコの作戦だった。
背中側にいる悪霊を物理的に捕まえるため両手にお札を張り付け、華麗な体さばきでバックをとると、投げっぱなしジャーマンスープレックスの要領で、悪霊をぶん投げたのだ。
数秒間の沈黙ののち、ミコは、勝負パンツのクマちゃんパンティを隠して身なりを整えると、ホッとした笑顔を見せた。
「終わったわ。もう大丈夫よ。さあ、彩子ちゃんはもう大丈夫なハズだから、みんなでお見舞いに行きましょう」
そうして僕らはラスボスを倒し、最終ステージを後にした。
彩子ちゃんの家に戻る途中、僕はミコに質問した。
「悪霊を退治したって、何をしたの?」
「閉じ込めたのよ。絶対に出られない、完璧な場所にね」
「どういうこと?」
「ねえ、知ってる。アナベル・ガトーが連邦軍艦隊の観艦式で、奪取した試作2号機で核弾頭をぶっ放したんだけどさ。あれって、現実に宇宙空間で核爆弾を爆発させても、普通の爆弾より威力が弱いんだって?」
「えっ?そうなの?」
「爆弾はその威力を伝える伝達物質が存在して、初めてその威力を発揮できるの。つまり、真空状態の宇宙空間では、どんなに強力な爆弾を爆発させても、そもそもそのエネルギーが周囲に伝わらないのよ」
「ああ、なるほど。でもそれ、ガトーさんとガンダムオタクには内緒にしておかないとヤバいね」
「そうね」
「で、それと、悪霊退治は何の関係があるの?」
「私が悪霊をぶん投げた先には何があったと思う?」
「さあ・・・」
「それはね・・・彼女よ」
といって、ミコは見栄子を指さした。
「彼女の中に悪霊を閉じ込めてしまえば、悪霊は外には出られないし、見栄子にも何の影響もないの」
「なんで?」
「だって、悪霊がどんなに強力でも、それを伝達する霊力は、彼女には全くないんだもの。彼女、珍しいくらい、霊感ゼロの人間なの」
彩子ちゃんはその後すっかり元気を取り戻した。
見栄子は、ミコに「あなたがいてくれたおかげで、すべて上手くいったわ」と褒められ、それが何故かを知らないまま、今回の悪霊退治劇を友人に誇らしげに語って、皆の注目を集め、喜んでいる。
そして、会話の途中、相変わらずいつものあれをやっている。
「あ、今、窓の外を幽霊が飛んでたわ」
最強霊能師の遺伝子を持つミコ、本人の知らないうちにどんな悪霊でも完全に封じ込めることができる見栄子、お色気シーン解説者の僕・・・この3人のドタバタお色気ホラーはこの先も続く・・・のか?
(ごめんなさい。続きません。優秀な投稿者さんにあこがれて、書いてみたけど、こういうスタイルはなんか苦手。今後はまたいつものスタイルでやらせていただきます)
作者とっつ
苦手なジャンルに挑戦してみたけど、やっぱり苦手でした。
期待しないで読んでみてください。