グッタリと、男は疲れ果てた身体を横たえようとする。
だが、勤務中に満足に休憩をしていなかった為、眠気で無く喰い気………即ち食欲が勝(まさ)ってしまい、苛立ちながら夜食の準備を始める。
炊飯器の白米をよそって、容器に水を張って野菜や肉を入れ込み、電子レンジで温めたのちに袋拉麺(ラーメン)の麺を入れて又温めて、最後に粉末スープを溶かし込む。
ボホーとラジオを聴きながら喰おうとすると、何やら聞こえる。
「グルルル~………グルルル~………」
「怒鳴られたりしてるから幻聴だろ」
欠伸(あくび)をして、湯気の立ち上る味気無い夜食を再びボホーとしながら頂こうとする。
………毛むくじゃらな塊と目が合う。
「!!………」
普通なら食卓を蹴散らして、外に飛び出すのだが、精神的に参っていて、その気力すら失せている男は面倒臭そうに出勤鞄を居間から持って来て、ガサガサとやる。
餡(あん)パンが出て来た。
「………ほい」
仮に怪物に喰われようが、誰も悲しまなかろう………叱るばかりの親も亡くなり、上司に叱られてばかりの日々でグッタリした男は、むしろ無になる事を心の何処かで望んでいる。
「ウガァ」
長い舌をベロリと出して、毛むくじゃらな塊は上手く餡パンを飲み込んでしまい、ボフっと変な音を出して、消失した。
「………有難う位、言ってよ」
無自覚に変な言葉を発した事に気付いた男だったが餡パン一個で救われたなら安いと思って、食卓に目をやる………
「おーい………」
喰いはしたが、完食していなかった筈の即席ラーメンや茶碗に盛られた飯が、見事に平らげられていた───何故か隅に、あの毛むくじゃらな塊が残したとおぼしき毛が、輪ゴムと共に束ねられている。
「ガガァ」
嬉しそうな声がエコーの様に男の部屋全体に低く反響し、男の住むアパートの階段から、ズシリズシリと重み有る足音がして、遠ざかって行った。
作者芝阪雁茂
半年空きました………
最後に打ち込みました1ヶ月後にまさかの異動で、震災で大きな被害を受けた海沿いの町に来まして、冠婚葬祭も絡んで片付けに2ヶ月、隣県100km超の道のりを何往復もして、やっとこさ4月に荷物を全部運び込みまして………と御読みしたり打ち込んだりする余裕が無くなっておりまして御座います。
新居で夜食を摂っていたら?な所より着想を得ました変な御話、ではでは。