蒸し蒸しとした梅雨
6月に入り湿気のためなのかオヤジの体の調子があまりよろしくない
目の眼力がだいぶ落ちている
相手を一瞬で黙らせる鋭い目
それが「徐々に落ちてきた」と自分でも
嘆いていた
さてと・・・最近、無言の電話が家にかかってくるようになった
先月からかな
夜の10時ごろに電話が鳴った
楓が走って行って受話器を取って「もしもし」と言った途端に切れた
そういう感じで1週間に3回ほど同じ時間帯にかかってきた
家族全員、「イタズラ」だろうということになった
しかし、先月の末からみんな受話器を取るのがうっとうしいのと気味が悪いということでオヤジが受話器を取るようになった
ところがオヤジが受話器を取るようになって少し事情が変わった
なにか小さな声が聞こえるとオヤジがリビングへ戻ってきたときに話をしだした
雑音がひどくて何をしゃべっているのか聞き取りにくく途中で切れたということだ
女性の声らしいということらしい
もちろん、確認のためにF子やF君にも聞いてみたが「家に電話などしていない」と言われた
現にF子やS君が家にいるときにも電話はかかってきたから
6月の初めに今度は私が電話を取ることにした
しかし、私が受話器を取って「もしもし」と言った途端に切れてしまった
次にかかってきたときにオヤジが出た
やはり小さな声がしてブツブツと何かを言っているらしいのだが聞き取りにくい
オヤジはすこし不思議な感じをしたと家族に話をした
ブツブツと話をしているときになにか懐かしい感じがしたとなぜかオヤジの顔は楓のほうを向いていた
私は「え?」と思ったが後からオヤジに聞いてみた
「あのな・・あの時にはいいづらくて言い出しにくかったけど・・・なんとなく楓ちゃんのしゃべり方によく似てたんだよ・・・でもな・・・本当に雑音がひどくて自信がない
俺もなんで楓ちゃんのほうに顔を向けていたのかよくわからん・・・」
「楓のしゃべり方か・・・まぁ少し癖があるからな・・・」
「まぁ・・俺もよくわからん・・・今度かかってきたら思い切って「楓ちゃんかい?」と聞いてみるか」と私とオヤジとでヒソヒソ話をした
土曜日の午後10時ごろに電話がかかってきた
慌ててオヤジが走っていった
オヤジの怒鳴り声がした
私はびっくりしてオヤジの元へ駆け寄った
「クソ、坊主!!なんで今の時間帯に電話をかけやがるんだ!
びっくりしたぞ!!二度と電話をかけてくるな」とオヤジは怒っていた
オヤジが受話器を下ろそうとしたときに慌てて私はオヤジから受話器を取り上げた
「和尚様、何かありましたか?」
「いやぁ・・ちょっと・・・お寺のほうで・・・」
いつもの和尚様にしては歯切れが悪い
「はい?」
「あのぉ・・・先月からお寺に無言というかイタズラというか夜遅くに電話がかかってきましたんですわい
「こんな夜遅くに誰だろう」と電話に出て「もしもし」と言った途端に切れてしまったんですわい
それが1週間に3回ほどですかな・・・かかってきましてな
家内は「気味が悪い」と言って電話に出なくなりまして・・・
すべてわしが出るようになりましたわい
もしかして、F君からかもしれないとおもって確認の電話をしたんですわい
そしたら、オヤジさんの怒鳴り声でしょ、びっくりしてしまいましたわい」
「あ・・・すいません・・・その無言電話、私のところもかかっているんですよ、和尚様
これって・・・なにか・・・あるんでしょうか?」
「なんと、無言電話ですかい・・・」
などと結構長話をした
共通点として夜10時ごろに電話がかかってくること
そして、無言で電話が切れること
オヤジの場合はなにかブツブツと聞こえているらしい
1週間に3回ほど電話がかかってくること
曜日はランダムなこと
さすがに「イタズラ」としてではなく何か意味があるに違いない
最近のお寺さんの様子を聞いたら
宿泊客の予約が減ったということ
私は単に水の流れと同じでその月の予約は減ったり増えたりすると思っていた
しかし、和尚様の話だと例年だとおよそ半年分は予約で埋まるのだが今年はなぜか3か月分しか予約がなく3月に入っても予約がなくなってしまったらしい
さすがにこれはおかしいと思いネットでいろいろと調べたのだが別段、評判が落ちているわけではなくむしろ一度は泊まりたいという声が多数だということだ
しかし、現実的に4月からは予約客がゼロという状態が6月ま続いているとすこし涙声で訴えてきた
これはさすがにおかしい
私もネット上での検索をかけたが別に評判が落ちているわけではなかった
もう少し突っ込んだ検索をして私は思わず「えええ!!!嘘だろ」と大声を出してしまった
原因がはっきりとわかった
予約をしたい客がお寺に電話をかけたときに「無言で切れた」と某サイト上に書いてあった
それが某2チャンネルのような掲示板に同じような内容で話題になっていた
早速、和尚様にこのことを知らせた
和尚様もこのサイトを見て絶句した
「わしゃは一度も無言で電話を切ったことはないですわい
家内もですわい
大事な予約客をそんな無碍なことはしないですわい
どういうことですかのぉ・・・」
と落胆の声がした
オヤジにこのことを話をした
「なに!!そんなことになってたのかよ、こりゃ・・無言電話、絶対に関連してるぞ
今週の週末に寺へ行くぞ、F」
私はフッとおもいついた
オヤジに「予約客のフリをしてお寺に電話をかけてみろよ」と話をした
もちろんお寺の電話と宿泊用の予約専門の電話番号は違っている
「おう!!いっちょ、かけてみる」
かけてみた・・・案の定だった・・・何か女性の声らしくブツブツと言って切れた
私は和尚様に予約専用の電話システムに異常はないか一度専門の業者にみてもらったほうがいいと提案をした
和尚様も納得をした
後日・・・「無言電話の原因がさっぱりわからない」と電話があった
システムエラーを業者は考えていたのだがシステムをすべて変更しても無言で切れたとのことだ
原因が分からずに業者も首を傾げてたらしい
もう機械の故障じゃない・・・
週末にお寺へ行くと和尚様に話をした
和尚様は「早く来てくだされ」と涙声になっていた
週末・・・
メンバーは
オヤジ・私・楓・葵・カナちゃん
「もしかしたら行くかも」というF子とS君
私のオンボロ車に乗り一路、お寺へ
お寺へ着いた
お寺あたりは昼間なのにシーンと静まり返っていた
人の声はしないし散歩をしている人がいない
和尚様が出迎えてくれた
お寺の中も静まり返っていた
去年に来た時には宿泊客たちが本堂や庭などでワイワイと騒がしかったのに今は静まりかえっている
「和尚様・・・」と私は小さな声を発した
「このような有様ですわい・・・お客がゼロですわい・・・
「変だな、変だな」と思っていましたわい
まさか・・・無言だったとは・・・・」
と和尚様の目にうっすらと涙が出ていた
とりあえずいつもの仏間に全員座り今後のことを話をした
原因は間違いなく物理的なことではなく霊障だろう
その霊障の原因は何なのかを早く見つけ出すこと
和尚様の奥さんが水ようかんとお茶を出してくれた
「あれ・・S子ちゃん、いつのまに大きな子を産んだのかね・・・」と
カナちゃんを見て和尚様の奥さんはびっくりしていた
「いやいや・・違いますよ・・いきなり大きな子は産まれません」
と私が軽く返事をすると
「ですよね・・おばさん、びっくりしたわよ」と大げさに手を広げてみせた
一同、大笑い
少し緊張感が解かれたような気がした
「あいかわらず、女の子たち、かわいいわね、ずっとおばさんのそばにいてほしいわね」と言いながらカナちゃんの隣に座った
とりあえずは少し休憩をした
本当にお寺の中は静かだ
お寺にいるのは和尚様夫婦と私たち家族だけ
この無言電話の意味をいろいろと議論をした
オヤジだけがかすかに女性の声がするというのが大きなミソだろうということになった
お寺にある予約システムを和尚様に見せてもらった
別段、普通の予約システムなのだ
そこでオヤジに予約電話をかけてもらった
オヤジのスマホから予約電話番号をかけた途端にシステムが動作をし始めた
予約モニターに予約者のスマホの電話番号が表示された
オヤジのものだ
電話番号の表示の下に「通話中」という文字が現れた
「え・・・「通話中」?・・受話器は取ってないぜ」とオヤジはびっくり
やはり雑音の中に女性の声が聞こえているらしい
オヤジは耳を澄ませて聞き取ろうとスマホに耳を近づけて集中していた
ところが・・・予約のモニターは「終了」という文字が表示されてモニター画面は真っ黒になっていた
オヤジのスマホからは雑音と女性の声が聞こえているらしくオヤジの顔が真顔になっていた
オヤジの口が動き出した・・・
「じ・・ちゃ・・た・・・へ・・・」とオヤジはつぶやぎながら紙にメモをした
「切れた・・・・」
「どういう意味だよ?・・・」とオヤジは首を傾げた
完全に暗号文だ
「こりゃ・・・オヤジ、暗号みたいだぞ・・・なんだろう?」と私はみんなに問いかけた
全員・・・黙ってしまった
夕食の時間になり一旦は暗号文のことは忘れて
楽しい食事になった
カナちゃんは
たまに葵の顔を見ていた
気づいた葵は「カナちゃん、たくさん食べるんだぞ!お寺の料理はおいしいんだぞ」と言いながら自分の分を少しカナちゃんに渡していた
「ありがとう・・葵ちゃん」と小さな声で返事をしていた
食事も終わり娘たちはお風呂へ
3人娘たちはかわいい浴衣を着て大喜びしていた
「これは・・・」と私は和尚様の奥さんの顔を見た
奥さんは黙って頷いていた
そう、おアキ・おハルちゃんたちの浴衣だ
なつかしい光景を思い出した
しかし、カナちゃんが着ている浴衣は初めて見た
後に和尚様の奥さんから聞いた
時間はあっという間に過ぎていった
23時になり娘たちを寝かせつけた
「こんばんわーー」と玄関の方で声がした
和尚様の奥さんは慌てて玄関へ行った
「アニキ!!パパ!!まだ起きてるんだ!」とF子とS君、カナちゃんのお母さんたちが仏間に来た
「あれれ・・・来たんだ!F子、S君」と私はすこしびっくりした
「すいません・・・私も便乗して来てしまいました」とカナちゃんのお母さんは頭を下げた
和尚様の奥さんはじっとカナちゃんのお母さんを見ていた
「あのぉ・・・間違っていたらごめんなさい・・・もしかして〇〇(カナちゃんのお母さんの名前)ちゃんなの?」と和尚様の奥さんはカナちゃんのお母さんに尋ねた
「え!・・・は・・はい・・そうです・・・」とカナちゃんのお母さんはびっくりしていた
「〇〇ちゃん、私たちを覚えていない?」と和尚様の奥さんはカナちゃんのお母さんに聞いた
「・・あのぉ・・・なんとなく・・・このお寺へ入った途端に・・懐かしいというか・・そういう感じがしたいんです・・ここ、知ってるような・・・」
「やはり!!〇〇ちゃんだ、お父さん、私たちの「娘」が戻ってきましたよ」と和尚様の方を向いて奥さんは和尚様を呼んだ
「おいおい!大きな声で・・・え・・・まさか!!・・〇〇ちゃんかい?・・・うそですわい・・・信じられんですわい」と和尚様はヘナヘナと座り込んでしまった
私たちは何か起きたのか理解できなかった
全員、座って奥さんの話を聞いた
カナちゃんのお母さんは実は捨て子だった
もう20数年前のこと、和尚様がいつものようにお寺の門のあたりを掃除していた
ふと目の前の大きな木の下に小さな女の子が座っていた
気になった和尚様はその女の子の傍により話しかけた
すこし衰弱していた様子だったのでお寺の中に入れて食事をさせた
いろいろと話をしてその女の子の素性を知った
和尚様は話を聞いていくうちに腹が立った
親の身勝手な行動で自分の娘を捨てたのだ
奥さんと話し合いをしこの女の子を見ることにした
檀家衆や役所の了解を得て女の子を養女にした
里親が見つかるまで大事に育てた
およそ1年後に里親となる人物が現れた
カナちゃんのお母さんの義理の両親だ
大事な「娘」をこの人物に託していいかどうか相当迷った
和尚様はおハル・おアキちゃんのこともありおよそ半年間、その人物たちの様子を見た
半年後・・和尚様はこの人物たちを信用して「娘」を渡した
基本的に里親に出した子供のことは詮索することは禁止されていたので「どうか無事に大事にされてほしい」と願っていた
それを聞いて私たちは涙が出た
おハル・おアキちゃんたちの境遇を知っているからシンクロしたのだ
その「娘」が目の前にいる
和尚様夫婦の喜びはひとしおだろう
縁というのはどこで繋がっているかわからない
和尚様夫婦とカナちゃんのお母さんは別室で夜遅くまで思い出話をしていた
「アニキ・・・縁というのは不思議だよね・・・まさか・・お母さんが和尚様と縁がある人だったとは思わなかった
なんかね・・今回ね・・・誰かに導かれているんじゃないのかな・・・そう思ってきたよ」
「俺もそういう感じがしてきた・・・カナちゃんを見たときに俺はなんとなく「おハルちゃん」の顔が浮かんだんだよな・・・よくカナちゃん、俺の手を握ってくるからこの握り方は「おハルちゃん」の握り方によく似てるなと驚いたよ」とオヤジにしては珍しい真面目な意見が出た
「そういえば・・カナちゃん親子をおふくろが「家に住むように」と言った時にだれも何も言わなかったよな・・・普通は他人を住まわせるとなれば誰かが文句を言うだろう?
それが不思議だったな」と私は「これだったのか」と納得をした
オヤジもウンウンと頷いていた
深夜になった
辺りはいっそう静かだ
オヤジと私はなかなか寝付けなかった
和尚様がやってきた
子供たちとF子・カナちゃんのお母さん
が仏間にいると狭くなった
渡り廊下に3人は座った
オヤジのメモを見て黙り込んでしまった
全然わからない
「う~~ん、断片的だな・・・わからん」
「わからんですわい・・・」
「もうすこしこのお寺にいれば何かしら起きるかもしれんぞ、2、3日、この寺にいるぞ、クソ坊主!!」
「何日でもいてくだされ・・・原因がわからないとこのまま廃業ですわい」
次の朝
静かな朝を迎えた
朝食は本堂で食べることになった
全員揃っての食事
私は一同を見回した
全員・・何かしら・・・私たち一族と関りがある
ふと・・・無意識に楓を見た
楓も私のほうを向いた
「パパ!!何々?どうしたの?」と満面な笑顔で聞いてきた
「いや・・・別に」とそっ気のない返事
「うん?」と不可思議な顔をして葵とおしゃべりをし始めた
私はふと家にいるS子に電話をした
「パパ!!何かあったの?」
「いや・・別に・・・そっちは?」
「おっちーーー!!なにもないんだぞ!今、朝食中なんだぞ!!」
「ママー!!「おっちー」はやめてくれ」と匠の声が聞こえてきた
「おっち・・・・パパ・・怒られちゃったんだぞ・・・もう切るね」と寂しいそうな声
何もない様子だな
ふと・・・私は和尚様とオヤジの顔を見た
両者ともこちらを見て頷いた
食事が終わった
「和尚様・・・ちょっと・・・例のお墓へ行きましょう、オヤジもな」
「わかってるよ・・・」
「わしゃもですわい」
私は少し驚いた
例の墓とは・・・老婆の楓が眠っているお墓のことだ
本当は私たちの一族のお墓に入れたかった
今は無縁仏の場所に眠らせている
少しむごいとは思う
しかし、現在、私の娘の楓は生きている・・・
例のお墓に着いた
「オヤジ・・・楓を・・・なるべく私たちの一族が見える場所へ移したい」と私はオヤジに問いかけた
「俺もな・・・いずれ・・俺もあの世へ行く・・くそ坊主!、なんとかしろ」
「わしゃもそう思っていたんですわい・・・楓ちゃん・・・一人寂しく眠っている・・・毎月供養のためにお経をあげても・・・でも周りは無縁仏ばかり・・・場所を移しましょう・・・一族が少し見える位置へ来月移しますわい・・・」
((パパ・・・じっちゃ・・・和尚様・・・ありがと・・・本当に寂しかった・・・
あ!!それよりも!!じっちゃ!大変大変!!・・・・・))
「え・・・楓の声がきこえた」と私は周囲を見まわした
「わしゃもですわい」
「俺も聞こえたぞ」
「オヤジ・・・楓が「じっちゃ!!大変!大変!」と言ってたような・・・あれ・・・
オヤジ、暗号文の紙、持っているか?」
「お…持ってるぞ・・・あ・・・そういうことか!!」
「あの電話の声は楓だったのか・・・」と私は顔を天に向けた
「楓・・・・何が大変なんだよ?」と私は天に向かって話しかけた
「パパ・・・じっちゃ・・・和尚様・・・パパ、顔を空に向けて何してるの?」といつのまにやら楓たちが来ていた
「いや・・・そのぉ・・・」と私はおとぼけをした
「パパたち怪しいんだぞ!ママに言いつけるんだぞ」と葵はほっぺを少し膨らませていた
「あやしい・・・」とカナちゃんまで小さい声で葵の真似をした
「いやいや・・・朝の散歩ですわい・・・」と和尚様は3人娘に説明をした
「朝の散歩なら何で私たちを誘わないの?パパたち」と楓は少し不満気な顔をしていた
「さぁさぁ・・・本堂へ戻るぞ!」とオヤジの大きな声
「うん!!!」
「あれ・・・」と楓は例のお墓を見つめていた
「どうした?楓」と私は楓に聞いた
「ううん・・・何もないよ、パパ」と楓は笑顔で私のほうに顔を向けた
私は少し気になった
電話の件は落着をした
「オヤジ・・・あの「大変大変」が気になる」と私はオヤジに問いかけた
「俺も気になる・・・あの世の「楓」ちゃんが何か困ってるんじゃないかと思ってる」
「わしゃも気になりますわい・・・何が「大変」なんでしょう」
「あのしゃべりかたは間違いなく楓だけど・・・てっきり老婆の楓の声でメッセージをくれるのかと思ってたら・・・今の楓の声だった・・・」
「確かに・・・しかし・・・続きが気になりますわい」
夜になり何こともなく1日が終わりそうだ
「パパ・・・ちょっと・・・いいかな?」と楓がやってきた
「どうした?もう寝なきゃ」
「パパ・・・私ね・・・パパたちがいた場所の近くにたくさんのお墓があったでしょ
その中の一つにその・・・・」
「うん・・・どうした?」
「私・・・見えた・・・おばあちゃんが立ってた・・・笑顔で何度も何度も頭を下げてたよ・・・」
「え・・・見えた?おばあちゃんの幽霊?」
「うん・・・でもね・・あのおばあちゃん・・・なんか見覚えがあるような気がするの・・・初めて見たんだけどね、そのおばあちゃん・・・思い出せないんだよね」
「あ・・・いや・・そっか・・・もうそろそろ寝ような、楓」
「うん・・・」
私は「思い出さなくてもいいよ」と言いたい
「おい・・・F・・・絶対にこのことは誰にも言うなよ
俺たち3人の秘密だ・・墓場まで秘密だぞ」とオヤジに釘を刺された
「そうですわい・・・楓ちゃんに話をしたら・・・大変なことになりますわい・・・
楓ちゃんならすぐに理解するに決まってますわい・・・自分の未来を知っても何の得にもなりませんわい・・・」
3人は頷いた
すごい雷音が響いた
その後にものすごい雨が降り出した
「こりゃ・・すげぇーな・・・俺はもう寝るぜ」とオヤジはさっと起き上がって廊下に敷いてある布団の中に入った
用心のためにオヤジは廊下でいるように頼んだ
和尚様夫婦の部屋はトイレやお風呂場の近くなので何かあったら「和尚様の部屋に逃げ込め」と3人娘には言っている
ガタガタ
外は雷雨と風が強く風いている
雨戸がガタガタと音を立てていた
「パパ・・・」と楓の声
「え・・・どうした?」
「眠れない・・・」と3人娘
とりあえずは3人娘はオヤジの傍にいさせた
「じいちゃ・・・眠れないよ・・」
「そっか・・・じいちゃのそばにいればいいんだよ」
オヤジは3人娘を布団に寝かせた
「じいちゃ・・・何か外に気配がしてたんだよ」と楓
「え・・・気配?」
「うん・・・足音がしてた・・・気になって寝れなくなっちゃった」
それで私の所へ来たのか
「あのぉ・・・起きてましたか?」とカナちゃんの母親
「はい・・・」
「誰か?外へ出ているんでしょうか?外から足音がしたんです」
「え!?・・・いいえ、誰も外へは出ていませんけれど・・・」
「アニキ・・・私も聞こえたよ・・てっきりパパかアニキかと思ってた」とF子も同じことを言った
「おうし!俺が外を見てくるぜ」とオヤジはさっと立ち上がって玄関へ行ってしまった
「パパ!気を付けてね」とF子の心配そうな声
外は雨と風
しばらくするとオヤジが帰ってきた
ずぶ濡れ
「ちょいと着替えてくるわ」とオヤジは風呂場へ行った
「一応な、外を見てきたんだが・・・雨がすごくてな・・・足跡とか無かったよ
人もいそうにもない雰囲気だった・・・おまけに本堂の方も見てきたけれど誰もいない
こんな深夜でこんな天候の中、人がいたとは到底思えない
俺はずっと寝ずに番をするから」とオヤジは濡れた髪の毛をいじくっていた
「おやっさん・・・もし眠たくなったら、俺、代わりますから」とS君
「Sちゃん、いいよ、疲れてるだろ、寝ないとまずいぞ」とオヤジはねぎらいの言葉をS君にかけた
私とS君は部屋へ戻った
老婆の楓の「大変大変」がとても気になる
S君とそのことで話をしたがよくわからない
でもあの老婆の楓に何かあったに違いない
それとも・・・
結局何が「大変」なのかわからないまま月日が過ぎていった
作者名無しの幽霊
無言電話の件は落着した
老婆の楓の墓を一族が見える位置へ変えてから無言電話は無くなり「予約がどんどん入ってきた」と和尚様のうれしい声
もともと金儲けでしているわけではない
寺の維持管理費を賄うために格安で泊まれるようにとはじめただけ
遊ぶ施設はない
あるのは自然だけ
都会で疲れた体を癒すために泊まる人が多いらしい
主に家族単位で予約を取っている
もちろんひとりでもOK
贅沢な料理が出るわけでもない
お寺の精進料理が出るだけ
あとは説法とお寺の中や外を散歩
裏の山への登山
たったこれだけ
それでも予約がすぐに埋まる
お寺のいいところは「静けさ」
夜になると本当に静寂な世界になる
さて・・・足音・・・これはよくわからない
無言電話と足音は関連性はないと思う
もしかしたら・・・夜中に寺へ来た人なのかもしれない
それと老婆の楓の「大変」
これが一番気になる