男は、妻を殺した。
浮気がばれ、口論の末に逆上して殺してしまったのだ。
我を忘れ、気がついたときには、男の目の前に、妻の絞殺体が転がっていた。
「困った。この死体をどう処理しようか」
しばらく考えた末、名案を思いついた。
男の家の向かいには、近所でも有名なゴミ屋敷がある。
「これを利用しよう」
ゴミ屋敷には頑固なじいさんが住んでいて、ずいぶん昔から町中のゴミステーションからゴミを持ち帰っては、自宅にため込んでいた。
今では塀を内側から押し倒さんばかりに、家の外にまで何重ものゴミの層を築いている。
ゴミ屋敷は常に異臭を放っているし、ゴミをついばむカラスも山ほどやってくる。
ゴミの山に人間の死体を隠すのは簡単だし、臭いが出ても、今さら誰にも怪しまれない。
「この中に隠してしまえばわからないはず。
死体もそのうちカラスやネズミやゴキブリやウジ虫が、綺麗に処分してくれるだろう。
妻が行方不明になったとか嘘をいって、警察には適当に捜索願いでも出しておけばいいさ」
男はさっそくこの日の深夜に実行した。
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深夜の2時頃、男は人目を気にしながら妻の死体をゴミ屋敷まで運んだ。
ゴミの山の上に死体を無造作に投げたあと、死体を隠すための穴を作ろうとゴミをどけはじめた。
!!!!!!!!!!!!!!!!
そのとき、男は衝撃の光景を目にした。
「なんということだ。
すでに先客が。
しかも、2人も」
男が見たのは、折り重なるように絡み合った2人分の死体だった。
ほとんど腐っていて、全身をウジ虫が這い回っている
ところどころにカラスについばまれたようなあともある。
「以前にも、死体の処理に困った奴らがこの場所を利用していたのか。
考えることは皆同じということか。
2人もまとめて処分するなんて、ヤクザかなにかの仕業に違いない」
思いがけない出来事に恐怖心を覚えながらも、必死に冷静さをたもちつつ、作業に取りかかった。
ゴミは幾重にも分厚い層をつくり、複雑に絡み合っていて、穴を掘る作業は男の想像以上に重労働だった。
作業はなかなか進まず、気付けば夜明けが近くなっていた。
作業開始から2時間ほど。
俺はようやく、人間がすっぽり収まるほどの穴をしつらえた。
「手間とらせやがって」
男は悪態をつきながら、妻の死体を無造作に放り込んだ。
その時だった。
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足下のゴミがムクムクと動いたかと思うと、次の瞬間、人間の腕が飛び出し、男の足を掴んだのだ。
「ひぃっっっ!?」
突然の出来事に、ひきつった悲鳴をあげる男。
振りほどこうにも、あまりに強い力で足首を掴まれていて、なすすべがない。
身じろいだ際、うかつにもバランスを崩し、妻のいる穴の方へ倒れ込んだ。
「いったい、なんなんだ!!
どうなってるんだ!?」
男は全く事態を飲み込めない。
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すると今度は、穴の周囲から、無数の腕が飛び出し、触手のようにのたうち回りながら、男の身体に掴みかかってきたのだ。
先客は、2人どころではなかったらしい。
身動きひとつとれない男の身に、さらなる恐怖が襲いかかった。
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男の体の下敷きになっている妻の死体が、突然動き出したのだ。
ブルブルと痙攣したかと思うと、両腕を天に突き上げ、男の顔面を覆った。
口は塞がれ、鋭く尖った爪の先が、眼球にめり込んでくる。
身動きするどころか、悲鳴すらあげられず、助けを求めることすらできなくなった。
気づけば、男の体の回りには、無数の腕以外にも、モゾモゾと蠢く影が…。
それはネズミやゴキブリやウジ虫の大群だった。
男は生きながらにして、全身のいたるところを、気色悪い生き物たちによって、食い破られ始めた。
浮気男への罰とでもいうかのように、特に股間への攻撃が強烈だった。
いまだに意識は明瞭のまま、男のデリケートゾーンは見るも無惨な姿に。
やがて、朝日が昇り始め、カラスたちが活動を始めた。
男のもとへと降り立ったカラスたちは、ジワジワともてあそぶように、男の身体を痛めつけ、文字通り「死ぬほど痛い」苦しみを味あわせたのだった。
完
作者とっつ
遥か昔、創作を始めた頃の作品に、加筆修正したものです。
実際、ゴミ屋敷は犯罪利用されないのでしょうか。
簡単に見つかる場所に無造作に死体が捨てられた事件は、過去にいくらでもありますが、ゴミ屋敷が重大事件の舞台になったというのは、記憶にありません。
ゴミ屋敷は、犯罪者すら敬遠してしまうものなのでしょうかね、やっぱり。