7月
なぜか蒸し暑い日が続いた
夕方になると雷が鳴り響き大雨が降る
私は停電に備え商店街の店へ葵とカナちゃんを連れて買いに行った
台風や停電に備えていろいろと買い込んだ
買った荷物を一番後ろの空きスペースに置いた
助手席にも余りの荷物を置いた
オンボロ車だからさらに狭くなった
夕方になり雨が降るのかと思ったけれど今日はどうやら降らなさそう
家に着いて懐中電灯やタッチ式ライトやラジオを各部屋に置いた
携帯式懐中電灯はリビングにいた家族全員に手渡した
それと和尚様から届いた薬とお守りを新しいのに取り換えた
今晩も蒸し暑い
全員がリビングに集まっているからとにかく狭い
ワイワイガヤガヤと賑やか
珍しく匠や仁も自分の部屋へ行かずにリビングにいた
オヤジもだ
私はS子の実家へ懐中電灯とお守りや薬・電池を届けようと思い
玄関へ向かった
「パパ!!!私たちも行くよ」と楓の声
「パパ、あたちも行くんだぞ!」
「カナも・・・」
「おっちーー、私も行くんだぞ」とS子
「いや・・単に懐中電灯やお守りなどを届けに行くだけだよ・・・」と私が言うと
「おっちーー、私も用事があるんだぞ」
辺りはすっかりと暗くなっていた
S子の実家へ着いた
S子の実家は義理父と義理母の2人しかいないので静かだ
それが突然の訪問者でリビングは賑わいを始めた
昼間買った品物を置いた
「少しみんなで散歩しない?」と珍しく義理母が提案してきた
もちろん賛成だ
蒸し暑い夜の散歩だけれどS子の家族と一緒に散歩はそうそうにない
家の裏の田舎道を通ることにした
だいぶ住宅地ができたがまだまだ田んぼが多い
なるべく車通りの少ない道を歩いた
その分、街灯がないので懐中電灯が頼りだ
少し歩いただけで汗が出てくる
水分を補給しながら神社がよく見える位置まで来た
「パパ・・・神社の街灯がよく見えるね・・・」
「そうだね・・でも今晩は神社は行かないからね」
「うん・・・」
神社を遠巻きにしてゆっくりと歩いた
「パパ・・・ちょっと・」と楓が私の耳元でささやいた
(「え・・・後ろから足音が聞こえるって・・・」
「うん・・・私たち以外の足音が聞こえるよ、パパ」)
私は後ろを振り向いてじっと暗闇の中を見た
誰もいない・・・
「楓・・・誰もいないよ」
「でも・・かすかに足音がするし後ろから誰かがついてきてるような気がする」
私は一度全員に「この場で止まってほしい」と言った
「楓・・・まだ足音聞こえる?」
「ううん・・・聞こえないよ・・・気のせいだったのかな・・・」
S子を前に行かせて私は一番後ろへ移動した
その私の前に楓も来るように手招きをした
「少し休憩しよう」とみんなに声をかけた
みんな、ホッとため息が出ていた
カエルの鳴き声と虫の声で辺りはうるさがった
しばらく休憩をして自宅へ帰ることにした
「パパ・・・もう帰ろう・・」と楓が何かを感じたのだろう
「そうだな・・・」
楓の直感(霊感)はF子より鋭い
「もうそろそろ帰ろう、みんな」と言うと全員うなづいた
正味30分の散歩だった
珍しくS子の義理父・義理母と散歩が出来て娘たちは喜んでいた
特にカナちゃんは義理父の手を繋いでの散歩だったので少し緊張気味だった
「F君・・・カナちゃんと手を繋いでいると小さい時のS子を思い出したよ
やはり散歩についてきて良かった」と話してくれた
楓が「パパ・・ちょっと・・・やはりね・・何か気配を感じる・・・
何だろう・・・匂いがする・・・じっちゃ、ばっちゃ・・・家に泊まっててほしい・・
外に出ると危険な気がするよ、パパ」と小さな声で言ってきた
私はオヤジを呼んだ
「楓が何かの気配を感じてる・・義理父と義理母は今夜、家に泊まってもらおう
詳しいことは楓に聞いたほうがいいぞ、オヤジ」
「そっかい・・楓ちゃんがそういうのなら泊まっていったほうがいいよな」と言い
楓と話をしていた
「やはり・・こりゃやばいものが家のほうまで憑いてきたぞ、F、
今のところ、家の周りにある結界があるから安心だが外へ出ると非常にヤバイ」と言い出してきた
私はよく理解できなかった
要するに・・・例の神社の化け物たちが楓たちの匂いを嗅ぎつけたらしい
確かに風は吹いていた
それも北から南へ少し風が吹いていた
つまり風に乗って楓たちの匂いが流れていたということだ
それをあの化け物たちは気づいたのだ
ところが全員お守りを首にかけているので手が出せなかったらしい
それで家まで憑いてきたということだ
例の化け物たちはいろいろな形で脅かしてくるだろう
家の各部屋に線香を置いた
線香に火をつけて家中、線香の匂いで充満した
私は家族全員に状況を話した
みんなびっくりした顔になった
「絶対に何かあっても外へ出ないこと
家の中なら一応安全だから
普通に過ごしてほしい」と説明をした
「パパ、俺たちは自分たちの部屋へ行くよ、仁、行くぞ」
「うん、ちょっとまって!!」
2人は勢いよく階段を昇って行った
夜も23時頃を過ぎた
今のところ何も起きていない
義理父と義理母は私たちの寝室で過ごしてもらうことになった
「さぁ・・もう子供たちは寝る時間だよ」とおふくろの声
「ばあちゃ・・・少し怖いよ・・・」と珍しく弱音を楓が言ってきた
「あたちも・・・」
「カナ・・・も」
3人娘たちは何かの気配を感じているのだろうか
「大丈夫だよ、じいちゃんもパパもいるからね」とおふくろは優しい言葉をかけた
「うん・・・」と3人娘たちは布団の中に入った
なかなか寝れそうもない顔をしていた
「私もそろそろ寝ますね」とカナちゃんのお母さんはそう言いながら客間へ入っていった
「おっちーー、パパ、私も眠くなってきたんだぞ、あんまし無理しないでほしいんだぞ」と言いながら客間へ
「おい!!オヤジ、例のごとく廊下でいろよ」と言うと
「またかよ!!仕方ない・・・俺はラジオを聴きながら夜更かしするかな」
夜も0時を過ぎた
外の車の音や人の声もしなくなった
私は座りながら仏間の窓から外を覗いた
まぁ・・見えるのはコンクリートの壁と壁と家の間の景色だけ
もう少し顔を上げてやっと外が見える
別段・・・何もない
日付が変わっても蒸し暑い
寝れそうもない
私は誰もいないリビングへジュースを取りに行った
明かりが点いたままだった
リビングの明かりを消して仏間へ戻った
廊下からはオヤジのラジオの音が聞こえていた
「おい!もう少しラジオの音を小さくしろよ」とオヤジにむかって文句を垂れた
「お・・・おお、もうこんな時間かぁ・・・」と言いながら音量を下げた
「F・・・私も横になるよ」とおふくろは3人娘の寝ている横で楓を見ていた
「ばあちゃ・・・少しゾクゾクする・・・」
「そうかい・・・楓ちゃん・・・目を閉じてごらん...自然と寝れるからね」
「うん・・・」
私は眠気に勝てずにウトウトと眠りそうになった
「あかん・・・寝そうだ・・・」
突然、玄関の方でチャイムが鳴った
「アニキ!!」とF子のような声が聞こえた
「え・・・F子?・・・今の時間帯に来たのか?・・・」
「おやおや・・・F子の声がしたけど・・・」とおふくろも聞こえていたようだ
「あ!F子姉ちゃんが帰ってきたんだんだぞ」と葵が勢いよく布団から飛び出した
「あたちが迎えに行くんだぞ!!」と言いながら部屋から出そうになった時に
私はふと葵の手をつかんでいた
「ちょっと待って、葵・・・パパと一緒に行こう」
「うん!!」
常夜灯の下にオヤジが座っていた
「おい、オヤジ、F子が来たぞ」と言うと
「え!?・・誰が来たって?」
「F子だよ」
「え!?・・・俺は聞こえなかったぞ」
「ええ・・オヤジ、寝てたな」
「いや・・俺は起きてラジオを聞いていたぞ」
「それなら聞こえていたはずだ」
「いや・・・聞こえなかった」
どういうこった
オヤジの方が玄関に近い
チャイムの音とF子の声が聞こえないはずはない
私は葵をオヤジのところに置いて玄関へ行った
昼間、100均で買っておいた常夜灯のおかげで廊下は見やすくなっていた
ゆっくりとリビングへ向かった
リビングには玄関の外にあるカメラから映るモニターがある
私はモニターを見た
やはり・・・誰も映っていない
そっと・・・廊下に出てオヤジの所へ戻った
「やはり・・誰もいないよ・・・」
「そっか・・・罠かもしれんな・・」
私はスマホでF子にメールをした
しばらく待ったが返事は来ない
もう寝てるんだろう
またチャイムが鳴った
「アニキ!!ごめん・・・鍵を忘れてきた、ここを開けてほしい!!」と聞こえてきた
葵は私の顔を見て「パパ・・・F子姉ちゃんなんだぞ、開けてあげるんだぞ」と言ってきた
「オヤジも葵も仏間へ行こう」と私は葵の手を握りながら仏間へ戻った
「おや?F子はどうしたの?」とおふくろが聞いてきた
「おふくろ・・・」と言いながら目をバチクリした
おふくろはすぐに悟った
「オヤジ・・・例の魔物がF子の声色を使って玄関のドアを開けさせようとしてるよな」
「そうだな・・・しかし・・本物じゃないよな?F」
「本物は寝てるよ」
F子と私は緊急時には必ずメールで連絡しようと2人で決めていた
電話でもいいのでは?と思うけれど電話だとどうしても声を出さないといけない
メールなら静かに緊急時の用件を打ち込めれる
今はS子ともそうしている
「そっか・・・このまま無視だな」
「とりあえずは各部屋の明かりを消そう」
リビングは消してきた
仏間だけ明かりが点いている
家の外から明かりが見えれば起きていると思われるからだ
私は仏間の窓を閉めた
窓のカーテンを広げた
客間の方はちゃんと消してある
蒸し暑いので仏間と客間の襖は開けてある
廊下の常夜灯のおかげで真っ暗闇にならずに済んだ
オヤジが「俺は廊下に戻るよ」
仏間から廊下へ出て行った
「オヤジ、ラジオを切ってくれ」
「おお・・・すまんすまん」とラジオの電源を切った
義理母が仏間へやってきた
「婿殿・・・私たちのいる部屋の外から・・・何か人の声がするのよ・・・
こんな深夜なのにね・・・義理父さんも気になって寝れないのよ・・・」と小さな声で私に言ってきた
「はい・・ちょっと確認しますね」と私は寝室へ行った
「義理父さん・・・声が聞こえると義理母から聞きましたけれど・・・」
「そうなんだよ・・・外からヒソヒソと人の話し声が聞こえるんだよ」と義理父は少し怯えているようだ
私は寝室の窓側に耳を傾けた
確かに外から人の声がする
誰かが外にいるようだ
(Sアニキ・・・どうし・・・・わたし・・・鍵を忘れてきた・・)
(一度戻ろう・・・カギを・・・とり・・・)
F子とS君!?
本当に家に来たのか!?
私はもう1度F子にメールを送った
やはり返事は来ない
外でしゃべっているからメールが来たのを気づいていないのか?とも思った
本物か?罠か?
時たま、この2人は突然深夜でも家に来るから・・迷った
決心した・・・無視だ
しばらくすると壁と家の間の敷石を踏んでジャリジャリと人の歩く足音がしてきた
え・・・私はびっくりした
カーテンがあるので確認ができない
確かに2人分の足音がする
(アニキたち・・・もう・・・寝た・・のかな)
(かも・・・な)
本物なのか!?
どうしよう・・・
足音が仏間のほうへ行ったように思えた
私は寝室から仏間へ戻った
仏間の窓際に耳を傾けた
何となく何かがいるような気配がする
外から
ドンッ
と壁を叩いた音がした
私はびっくりしてひっくり返ってしまった
子供たちもびっくりして窓のほうを見ていた
(なかなか・・出てこないよな・・・こりゃ寝ているのかもな・・・
まぁ・・いいさ・・・)
やはり・・・偽物か・・
(またチャンスを逃したな・・・)
(あぁ・・・人間を早く食べたい・・・)
(もしかして・・・わしら・・ばれたのかもな・・・)
(いやいや・・・人間にわしらは見えないよ・・・人間は下等だからな)
(そういうこった)
(さぁ・・・行こう・・・あの方が呼んでるよ)
少し聞き取りにくかったけれど背筋に寒気がほどばしった
作者名無しの幽霊
夕方5時以降の神社へ行くのはやめたほうがいい
「逢魔が時」と言って神様と魔界の住人が入れ替わる時間帯
と言われている
あの時に咄嗟に葵の手を握らなければどうなっていたことやら
あの魔界の連中は早々にあきらめることはしないだろう
なるべく夕方以降にはあの神社へ近寄らないように子供たちにも言い聞かせた