夕日に照らされた何て事ない普通の公園。そこで学校から家に帰っている途中の宮内加奈は奇妙な人物を見かけた。見た目はどこにでもいそうな初老の男性なのだが
「買いますか?」
その男性は近くに人が来る度にそう言う。男性のまわりには何も売り物らしき物はない。当然、声をかけられた人達は警戒した目をしながら、男性から距離を離していく。
「買うのですか?」
落ち着いた優しげな声がすぐ横から聞こえる。いつの間にか男性が加奈の側に来ていた。驚いた加奈の体が跳ねる。加奈は動揺のあまり、少し震えた声で男性に尋ねる。
「か、買うって……何を?」
「れいです。」
加奈から「え?」とすっとんきょうな声が出る。「れい」と言っても何のことだか全く分からなかったからだ。
「れ、れいって……どんな商品なんですか?」
「死んだ人間の魂です。」
加奈は男性の説明から加奈は売っているものが「霊」ということだとようやく分かった。
男性が言う。
「今なら死んだばかりで新鮮な霊を4000円でお売りしますよ。」
その時、加奈はこの男性は本当は何もないのに、霊を売るなどと言ってお金を取ろうとしているのではないかと思った。そこで加奈は本当かどうか確かめることにした。
「あ、あの…。霊見せてくれませんか?」
「ああ、貴方…霊感ないのですね。それでこんなに興味を持ってくれるのは嬉しいことです。しかし、残念なことに霊感がない方に霊を見せる術を私は持っていないのです。」
そう言うと男性は誰もいない空間に手を振ると、また加奈の方を向いた。
「特別に貴方には無料でこの新鮮な霊を差し上げます。」
「えっ…。」
「では。ありがとうございました。」
一礼し、男性がすたすたと去っていく。加奈はそれを呆然と眺めるしかなかった。
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家に帰り、加奈は宿題をするために勉強机に座った。あの男性は加奈に霊をくれたらしいが、これまで特に変わったところはなかった。だが。
「…きゃっ!?」
突然、宿題の紙に水滴がついた。反射的に上を見たが何もない。すると加奈の顔に、何もない空間から水滴がポツッと落ちてきた。
(ま、まさか…れ、霊が私のすぐ上に…。)
サーッと体の温度が一気に下がる。加奈の顔に水滴が落ちてくる頻度が多くなる。加奈は理解した。霊がどんどん自分の方に近づいてきていると。
「い、嫌だ…!!あっち行ってよ!」
加奈は霊にむかって叫ぶ。しばらくして、加奈は水滴が顔に落ちてこなくなったことに気づいた。
いなくなった。あっち行った。加奈は、ほっと安堵の息を吐いた。
「せっかく来てあげたのに。」
前から恨めしそうな低い女の声が聞こえた。
作者りも