タクシードライバーと交通事故 前編

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タクシードライバーと交通事故 前編

オヤジの知り合いのタクシードライバーの話

よくある女が乗り込んできて気づいたらシートが濡れていたという話は聞いたことがあると思う

しかし・・・・今回のはちょっとな・・・

まぁオヤジが絡むと「そうなるわな」という感じ

オヤジと私の知り合いになったこのタクシードライバーは勤続30年というベテラン

柔道や合気道などの段を取っている

オヤジとたまに居酒屋で一緒に飲むことがある

私が用を足しにトイレへ行く途中である客に呼び止められた

「君、大丈夫かい?あんなもんと一緒にいちゃあかんぞ、警察呼ぼうか?」と聞いてきた

はじめは「え!」と思ったけれどいちいち説明をするのはメンドくさいので「いえいえ」と言いながら用を足した

トイレから出てびっくり

まだそこにいたのだ

「君、ありゃどうみても「スジモン」だぞ・・脅かされてるんだろ?いくらカツアゲされてるんだい?」

「いえいえ・・・ご親切にどうも」と言い頭を下げて元の席へ戻った

席に戻って改めてオヤジの顔を見た

まぁ・・・確かに「スジモン」だわ

「おい、何だよ、ジロジロ見て、顔に何かついてるんか?」とオヤジの声

「いや・・・別に・・・」と私

それを見ていた例の客がもう一人の人を連れてこっちへ来た

「ほら、君、言わんこっちゃない、危ないからそこから離れて」と言ってきた

オヤジが「おい!何だよ」

もうひとりの連れらしき人が「おい!警察呼ぼうか!」とケンカ腰

「なんだと!」とオヤジの大声

2人の怒声と罵声が店中に響いた

30分ほど言い合いになり今にも拳でケンカしそうになったのを私がオヤジの体を押さえて

「オヤジ、あかん、相手は素人だぞ、1発でも殴ったらどうなるかわかるだろ」と言うと

「あ・・・あぁ・・・」と我に返って私を見た

「さすが、俺のせがれだ・・・そうや・・・」と言い椅子に座った

それを見ていた2人は呆気にとられていた

「え・・・せがれ・・・息子さんかい?」と聞いてきた

「そうです、うちのオヤジです」というと2人共、顔が真っ赤になり

「すまん・・・てっきり・・・そっか、息子さんかい、オヤジさん、すまん!勘弁して!」と2人共、頭を下げた

それからだ、このオヤジとお連れの方、タクシードライバーをしてるとか

ほぼ毎日、居酒屋で飲む間柄になった

このタクシードライバーをCさんと呼んでる

このCさんもケンカが好きであちこちケンカ沙汰を起こしていたらしい

顔はそういう感じには見えないのだけれど「正義感」が強いのかヤンキーとかチンピラとかスジモンとかなにかそういう感じの連中とケンカをしていたらしい

オヤジとはすぐに意気同行して昔話や自慢話を酒のおつまみにして話している

というか・・・この2人が居酒屋で飲んでたらまさに「スジモン」が飲んでると思われるだろ

実際にこの2人の周りにはお客が寄り付かない

ある日にオヤジの連れ、酒屋のオヤジが飲みに来て

「おい!!○○(オヤジの名前)、元気そうだな」と背中をパシッと叩いた

すると、店中の賑わいが一瞬で沈黙した

店の中がシーーンと静まりかえった

私が周りを見渡すとお客の顔が「ええ!」という顔になっていた

あぁぁ・・・と私

しばらくは沈黙していたがオヤジが何もしないので再び賑わい始めた

そのCさんがオヤジに連れられて我が家へ来た

あまりにも家族が多いのでびっくりしていた

「F君・・・すごいな・・・うちはな、家内と2人しかおらんから・・・」と私に話しかけてきた

夕飯の時間、Cさんがタクシードライバーでのいろいろな体験話をしてくれた

子供たちはうれしそうに話を聞いていた

早速、末娘の葵がCさんの隣へ座った

葵がいろいろと話しかけていた

「葵ちゃんと言うんかい・・かわいいなぁ・・・」と葵の頭をナデナデしていた

「おやじさん、いい孫娘をもって幸せもんだな」とオヤジに話しかけた

「いやいや」と言いながら笑顔で答えていた

これはすごいな・・・ああいう笑顔を見せるのは元課長だけだ

あとは子供たちだけ

ということはオヤジは相当、Cさんを信用している証拠だ

夕飯が終わりCさんと私とオヤジと3人娘は仏間へ行きCさんの話を聞いた

カナちゃんと葵が両脇に座りCさんの指を握っていた

「いやぁ・・・娘というか子供を持ったことがないので・・・俺はうれしい

おチビちゃんの指の感触って「あたたかい」んだな」とCさんは満面な笑顔になっていた

Cさんが真顔になり「今から話すのは・・・」と切り出した

3人娘たちも真剣な顔になりCさんを見ていた

Cさんの同僚の話だ

Cさんの同僚はCさんとは10歳年下

後輩としていろいろと面倒をみていた

ドライバーとしてのマナーや体験談などを後輩にアドバイスをしていた

その同僚がある日を境に会社へ来なくなった

Cさんは心配になりその同僚の家へ様子を見に行った

いくらドアを叩いても応答がない

もちろん携帯をかけてもだ

ますます心配になりCさんは大家さんの所へ行き事情を話して大家さんと一緒にスペアの部屋の鍵を使いドアを開けた

開けた瞬間に凄い臭いが漂ってきた

2人とも口を塞いだ

部屋は完全にゴミだらけ

部屋は明かりをつけないといけないくらい暗い

まだ昼間なのに

異様な雰囲気を醸し出していた

Cさんは勇気を絞って部屋の中へ入った

リビングには誰もいなかった

隣に部屋があるのを見たCさんは襖を開けた

いた!

目を開けて何かブツブツと言っている

体はやせ細りまるで餓死寸前の姿だ

Cさんは呆気にとられた

同僚の名前を呼んでも返事がない

聞こえていないようだ

Cさんはやむ得ずに同僚の背中を叩いた

「うわぁーーー」と同僚の大きな声

Cさんや大家さんもびっくり

同僚は我に返りあたりをキョロキョロと見まわした

「え・・・え・・ここどこ?」と同僚は今、自分が置かれている状況を理解していないようだ

Cさんは同僚に声をかけた

「大丈夫か?おまえが全然会社へ来ないから様子を見に来た

何かあったのか?なんか体が痩せてるぞ」

「え・・え・・・いや・・・別に・・・僕はただ座って寝てただけ」とCさんを見つめ答えた

「うそだろ!おまえ何かブツブツと言ってたぞ、今から病院へ行こう」

「嫌だ!僕は大丈夫!至って健康だ」と拒否をした

いやどうみても健康じゃない

Cさんは救急車を呼んだ

救急隊員が到着して同僚を抱えようとすると同僚はすごい抵抗をしだした

「俺は・・違う!・・・俺じゃない」と訳の分からない言葉を発して必死に抵抗をしていた

なんとか同僚を救急車に乗せて病院へ

病院につきすぐに注射を打たれた

医者もすごく困惑をしていた

そこから同僚は1週間も眠っていた

医者も首をかしげていた

見た目は確かにやせ細り餓死寸前の姿なのだが医療データをみるとすべてにおいて正常なのだ

Cさんもカルテやデータを見せてもらった

医者の説明を聞きながら医者が言っていたことがすべて本当だった

Cさんはどう見ても正常じゃない「何か」を感じたという

1週間後に目を覚まして同僚は病院食や治療を素直に受けて1か月後には退院をした

病院へ行き同僚が退院したことを聞いて同僚の家へ様子を見に行った

「ちょっと俺、・・」と言いオヤジは部屋から離れようとしたときに

「じいちゃ!!どこ行くんだぞ?」と葵は慌ててオヤジの手を握った

「いや・・・トイレだよ、葵ちゃん」と言い部屋から出て行った

葵の顔は今にも泣きだしそうな顔になっていた

「あ・・・ごめんごめん・・・話し方が怖かったね・・・」とCさんは葵に謝っていた

少し休憩に入った

わたしは窓から外を見ていた

いつもの変わらない景色

人の話声や車の音

まだ午前10時を過ぎだばかりだ

オヤジがトイレから戻ってこないもう15分は過ぎていた

「じいちゃ!!帰ってこないんだぞ」と葵は廊下を見渡した

もちろん廊下には誰もいない

仕方ないので私が様子を見にいくことにした

トイレには誰もいない

私は家の中を捜した

オヤジはいない

リビングの台所でS子とおふくろが片づけをしていた

もちろんオヤジの姿を見ていないという

私はおふくろにオヤジがいなくなったことを伝えた

おふくろは玄関へ行きオヤジの靴があるかどうか確認をした

「やはりね、あいつ、外へ行ったよ、靴がない」と私に伝えてきた

どこへ行ったんだよ

なかなか帰ってこない

時間ももう夜の11時を過ぎている

3人娘はお互いの顔を見ながら心配そうにしていた

おふくろが来て布団を敷いた

「さぁさ、おチビちゃんたちもう寝る時間だよ、早く寝とこへ入るんだよ」とおふくろに言われて3人娘は布団の中へ入った

「じいちゃ・・・どこ行ったんだぞ?ばあちゃ!!」と葵の今にも泣きだしそうな声

「じぃじぃは何か買い物でも行ったんだよ、おじちゃんやパパがいるから安心して寝ればいいよ」と優しく話しかけた

私とCさんとおふくろの3人は無言でオヤジの帰りを待った

3人娘たちも布団の中からこっちを見ていた

午前1時過ぎにオヤジが帰ってきた

え・・・何で・・元捜査課長と現役の捜査課長を連れてきたんだ・・・

「こんばんわ、夜分に申し訳ない・・・なんか訳がわからないけど「ついて来い」と言われたから来たけれど・・・奥さん、すいません」と元捜査課長がおふくろに頭を下げてきた

Cさんもびっくりしていた

オヤジはCさんに元捜査課長と現役の捜査課長を酒飲み友達だと紹介した

オヤジは「こいつらもなんかそういう話が好きだから連れてきた」とCさんに話した

Cさんは話の続きを話し出した

退院後の同僚の話やそのほかのことを1時間ほど話をした

まぁ・・・結果的には同僚は原因がわからないけど自殺したのだという

オヤジが深くため息をした

「Cさん・・・残念だ・・・せっかく友達になれたのに・・・もうすぐ迎えが来る・・・しばらくおとなしく待っててくれ」とオヤジは静かにCさんに話をした

「え・・・え?・・・待つ?何を」とびっくりした顔になっていた

およそ10分後に警察官が来た

「Cさん・・・詳しくは署で聞くといいよ・・・」とオヤジは残念そうな顔をしていた

Cさんと警官と元捜査課長と現役課長たちはパトカーに乗って走り去っていった

おふくろは目が点になっていた

「おい、あんた、どういうこと?」とオヤジに聞いた

オヤジはため息をついて「あまりにもある交通事故のことでよく知ってるな」と思って疑問に思ったんだとか

Cさんが同僚から原因を聞き出して何か起きたのかを話をした

そのCさんが「夜中になんか血まみれの女性が夢枕に立つ」という話をしたときに

オヤジはピーーンと来たらしい

その交通事故はひき逃げでなかなか捜査が進まなかった

夜中のことで目撃者もいない

被害者は若いOLの女性だ

Cさんの話も「若いOL風」と話していた

事故を起こした後の話も具体的でまるで本人が事故現場にいたような感じで話をしていたと感じ確信してオヤジはトイレへ行くふりをして元捜査課長の家へ行ったのだ

オヤジはその捜査が行き詰まった交通事故の話を元捜査課長から聞いていた

それで元捜査課長は後輩である現役の捜査課長へ連絡をして家に来たわけだ

オヤジから説明を聞いて改めて「オヤジ」の能力というかなんか恐ろしさを感じた

私は普通に聞いていただけだ

まさか交通事故の加害者がCさんとは思っていなかった

単なる同僚の怪談話だと思ってた

それにCさんは事故直後の話をし出したときに現役捜査課長は捜査段階で分かったことをなんでこのCさんが知ってるんだとすごい疑問に思ったのだという

それはそのOLの女性が横断歩道を渡っていた時にCさんが乗るタクシーが左折をしてそのまま女性を跳ね飛ばした

もちろんCさんはすぐに車を止めて倒れている女性のところへ行き声をかけた

車とぶつかって道路に倒れた時に顔の右半分がコンクリートに叩きつけられたのかもしれないが血まみれになっていた

それを見たCさんは急に怖くなってそのまま逃げたのだ

通行人から「女性が倒れている」と110番通報を受け捜査課長と警察官数名が現場へ向かった

ちょうど夜勤だった捜査課長が指揮を執ることになった

その女性が倒れていた時は顔の左側が見えていた

つまり、顔の右側の血まみれになっていたことをどうして動揺しているCさんが知っていたのか

ということは加害者本人しかわからないことだ

おそらく轢かれたときにはまだ意識があって顔を左側へ動かしたのだろう

そのあとに多分死亡したのかもということだ

「それにな・・・Cさんは俺と飲むようになっていろいろな話を聞かされたわけよ・・でもな・・・話のほとんどが「嘘」ばかりでな・・・なんで「嘘」がわかるかって・・・俺は相手の顔の表情を観察してるんだよ、特に目の動きをな・・・F・・・ほら、昔に俺にすごい嘘をついた時があったろ・・・ウソがばれて俺に相当叱られたろ、お前、「何でばれたんだろう」という顔をしていたろ・・・お前が嘘をつくときは必ず目が泳ぐ・・・おまえは根が正直すぎるんだよ・・・ましてや俺に対して嘘はつきたくないけど止む得ずに嘘をついたんだろうとは思う・・・目が完全に泳いていたぞ」とオヤジは私を見て話してくれた

私とオヤジは署へ呼ばれた

案の定、Cさんが犯人だった

すべて話をするからということでCさんが私とオヤジを呼ぶようにと頼んだらしい

Cさんは頭を垂れて無言で座っていた

残された奥さんのことが気になるらしい

奥さんは警察から事情を聞いて泣き崩れたということだ

オヤジが「Cさん・・・相手の遺族の方から民事の方は示談が成立して告訴を取り下げたよ・・・良かったな

まぁ示談金が・・・ちょっとな・・・

まぁ・・そのぉ・・・ある金持ちからお金は借りられたから示談金は払っておいたよ

まぁ・・・ちょこちょこと返してくれればいいよ・・・あんたは正直者だから・・・

でもなぁ・・轢いたときにきちんと事故処理すべきだったんだよ・・・被害者の女性はまだ生きてたんだからさ・・・」とCさんに話しかけた

Cさんは目から涙を流していた

「わたしは・・・恐ろしくなったんだよ・・・顔の半分が血まみれになってた・・・

もう死んでると思ってそのまま逃げた

悪いことはできないもんだな・・・・

毎晩毎晩・・・女性が枕元に立って「なんで逃げたの?」と問いかけてくる

もう怖くて・・・でも自首する勇気が出なかった

段々と睡眠不足になってついつい酒を飲んで憂さ晴らしをした

でも・・・酔っていても夜中にその女性が現れるんだ

「私の人生返して・・・」とあの右側半分の血まみれの顔が私の顔正面に現れるんだよ・・・仕事の面でもいろいろと支障をきたしてきて・・・原因は寝不足なんだが・・・段々と仕事に対する意欲がなくなってきた

1か月ほど無断欠勤してずっと家に籠った

家内も心配になり「病院へ行ってほしい」と言ってきた

私は断固として病院へ行くのを断った

1か月ほどして家内の知り合いが家に来て「話をしよう、いい居酒屋を知っているからそこで飲めばいい」と誘われた

久しぶりに外へ出た

そこにオヤジさんやF君がいた

それでオヤジさんと飲むようになって少し元気が出てきた

でも・・・その女性は許してくれなかった

家の中に誰もいないはずなのに人の気配がした

なんか見られてる感じ

その視線を感じて振り向いても誰もいない

でも目の隅に黒い人影らしいものが見えたんだよ

でもよく見ても誰もいない

家内も段々と気味が悪いと言い出してきた

家内は実家へ一応避難という形で家を出た

私、一人で家にいるとやはり・・・人の気配がする

それで・・・オヤジさんに相談して・・・・オヤジさんの家で話を聞くということでお邪魔したのだけれど・・・・

やはり・・・オヤジさんには嘘はつけないな・・・一応「同僚」という形にして私の体験談を話したのだけれどオヤジさんの眼力には敵わなかったよ・・私が話してる時のオヤジさんの目は鋭かった・・

でもやはり・・・オヤジさんに話をしてよかったよ

すべてのことは警察に話したから

裁判次第でどうなるかわからないけど・・・家内が心配で・・・・」

「奥さんの方はとりあえずは実家にいたほうがいいと思う

あの家には一人ではいないほうがいい」とオヤジはCさんの肩を軽く叩いた

それから1週間後にCさんは執行猶予付きの実刑判決を受けた

執行猶予は3年間

とりあえずは3年間は奥さんと一緒にいられる

Cさんが奥さんと一緒に家に来た

「オヤジさん・・・ありがとな・・家内と短い期間だけど一緒にいられる

すべてはオヤジさんたち家族のおかげだよ

裁判が終わってから何か肩の重さが無くなったよ

よく寝れるようにもなったし・・・」とCさんは頭を何回も下げていた

「Cさん・・・言っておくがあの家には今は絶対に住んでは駄目だよ

どこかアパートかどこか借りて住んだほうがいい・・・詳しいことはもう少し落ち着いたときに話すぜ」とオヤジは何か意味ありげなことをCさんに言っていた

「わかりました、オヤジさんの言う通りにしますわ・・・私と家内は家内の実家で当分は過ごします」とCさんは少し不安な顔をしていた

どういうことだよ?オヤジ

一件落着じゃないのか?

話が長いので一旦はここまで・・・

今回の出来事は・・・単なる交通事故ではなかった

Concrete
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執行猶予3年と言うのは、判決が出た日から三年間、犯罪を犯さなければ、収監される事はないと言う意味だったような気がする。文中の表現だと、三年経過したら収監されると言う意味になると思いますが?

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@アンソニー
はい、今回の件はすごく闇があります
普通の交通事故じゃないことがはっきりとわかりました

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