中編4
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幸運な男

そのパチンコ屋は拘置所の隣に寄り添うようにひっそりとあった。

俺は、その日の朝どうにか執行猶予をもらい拘置所を出た。

肩が当たった当たらないのとるに足らない喧嘩だったんだが

相手が失神し脱糞までしてしまったとなっては

検察は「とるに足らない」とは思わなかったようだ。

「執行猶予にはなりましたが今度やらかしたら懲役は間違いありませんからね?」

はいはい弁護士先生、感謝しておりますよ。

さて、久しぶりのシャバの空気を吸って気を緩くしたのかな

俺は先ほどの如何にも流行ってないパチンコ屋に

運試しと洒落こんだわけさ。

昭和からあるんだろう薄汚れたドアは自動ですらない。

開けるとタバコのヤニでうっすら黄色くなった美少女キャラクターのポスターが「いらっしゃいませ」

と出迎えた。

「ちっ!」

俺は婦警の格好をした美少女キャラクターに舌打ちをした。

いや、軍服かも知れないんだが長々と拘置所生活だった俺は

制服とかそういうの見たくはなかったんだな。

「いらっしゃいませ…」

カウンターで新聞を読みながら座っていた爺さんが

老眼鏡越しに俺を見ながら気のない挨拶をした。

客も俺だけみたいだな。

一体、どうやって経営してるのか聞いてみたいもんだよ。

さて、俺はパチンコ台を見て回ったんだが…

余程力を入れてるのか仕入れが安かったのか台は

「悪鬼一掃シンドケヤ」

とか言うので統一されていた。

先ほどの制服を着た婦警みたいなのがキャラクターなわけか…

待機画面で「座れ!」とふんぞりかえっている。

ま、しゃーない…

俺は適当な台に座ると札を入れて打ち始めた。

カウンターをチラっと見ると爺さんはノンビリ電話をしている。

こりゃ出んなぁ…

いくら運試しとは言え、こんなんなら違う店に行くべきだろ。

俺は、千円打ったら帰ろうと考えていた。

「13番台のお客様スタートです!」

店内に女性の声で大当たりのアナウンスが響く

俺以外に客なんて居たかぁ…?

「右打ち開始!」

台の液晶画面から婦警が声をかける。

「はぁ?…えぇー!?」

777

揃ってるわ…

知らない間に俺の台は当たっていた…

突当たりとかな演出だろうな。

出玉は4ラウンドで300発ほど出て終わり

台は執行猶予チャンスとやらに入った。

6回転以内に当たればシンドケヤチャンスとかな

高確率ゾーンに入るんだが

まぁ、この店から見て単発終了だろな…

やはりと言うか…6回転は呆気なく終わった。

さて、帰るか…

「まだ、貴方の刑期は終わっていない!」

婦警が叫ぶと高確率ゾーンであるシンドケヤチャンスが始まった。

お、続くのか?

続かないだろ?

それから1時間位の間、台は連チャンが止まらなくなった。

いや、こんな店で出して良いのか?

等価じゃなくても四万円は出してるんだが…?

とにかく連チャンだから便所にも立てない。

「麻薬は薬なんかじゃない!毒なんだ!」

「被害者の思いを伝える為にー!」

婦警が叫ぶ度に数字が揃い出玉カウンターは二万発を越えた。

俺は、すっかり気を良くしてしまい

キャラクターの婦警を気に入ってしまった。

だが、さすがに台も終わる時が来たようだ。

高確率ゾーンが終わり出玉数が表示される。

やれやれ、終わりか…35000発ね12~3万は出たかな?

俺は時計を見ると10時きっかりだった。

すると突如、液晶画面にボタンが現れた。

「押してぇえぇ!!」

振り絞るような婦警の声が俺以外は爺さんしか居ない店内に響く。

俺は慌ててチャンスボタンを押したが復活ならず連チャンは終了した。

「お疲れ様でした~」

婦警の声と共に台は高確率から通常に戻る。

カードを取りカウンターで爺さんに渡すと

「ありがとうございました」

と、うやうやしく頭を下げられ景品を渡された。

「14万かよ~♪たまんねぇわ」

引き替え所で俺は歓声を上げたよ。

コンビニで飯とビールとパチンコ雑誌を買うと

俺は意気揚々と久々にアパートへ帰った。

「シンドケヤ…シンドケヤと…なんだ無いのかよ?」

スピード感ある連チャンで俺を魅了した台の記事は1ページも無かった。

「チェッ!」

俺はゴミの山に雑誌を放り投げるとテレビをつけた。

じき昼のニュースが始まって、美人のアナウンサーが今日のニュースを読み上げる。

「13年前、放火で10人を殺害し死刑判決を受けていた男の刑が今日、10時に執行されました」

「ははっ、ついてねぇなぁ」

俺はビールの泡を口から飛ばして笑ってしまった。

俺が連チャンしてた頃に吊るされたのかよ

笑っちまうわ。

しかし、なんだな…逮捕された時は終わったと思ったが

吊るされた奴はもちろん死刑のボタンを押した奴とかさ

俺よりツイてない奴は必ず毎日どこかに居るってわけだな。

「さぁ、明日は職安でも行くかな」

俺は缶ビールを飲み干すと二本目に手を伸ばした。

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@アンソニー さん
死刑は拘置所で行われると知らなければ
何も気になりません( ゚∀゚)

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