私の大叔父はかつて中学の先生をしていた。
当時赴任した中学は田舎にあり、クラスは学年に2つしかない学校。
そのクラスにはA子という女生徒が居たのだが、その子はよく幽霊を見たなどと話していた。
他の友人達も信じてはいなかったが、
「どんなのを見たの?」
などと話のネタにしていた。
そんなある日、A子が
「その人の守護霊を見て良くないことがあったら、予言することが出来る」
などと言い出した。
皆、また始まったと思ったが暇だったのでその話に乗る事にした。
「B男君は右腕が危ないから気をつけて」
2日ほどしてB男が右腕に包帯を巻いて登校して来た。
クラスのみんなが騒然として、どうしたのか聞くと
「昨日、なにもない所で転んで骨折った」
と言うことだった。
その話を聞いて、皆が
「あれ?もしかしてA子の霊感って本物なのかも」
なんて思い始めていた。
そんな中、B男が
「でも転んだ時、誰かに押された気がするんだよなぁ」
と言い出し、そのことでクラスがザワザワしていた。
後日、C美が
「私の守護霊も見てよ」
とA子に言い見てもらった。
「うーん…………左足が怪しいから気をつけて」
とA子は言っていた。
その二日後、C美が松葉杖で登校して来た。
クラスの皆が集まってきて、どうしたのって聞いたら
「お湯沸かしていた時に、鍋がひっくり返ってお湯をかぶって火傷した。」
とのことだった。
その話を聞いてクラス中では、もうこれは本物だと大騒ぎになった。
だが、この頃からA子の様子が少し変わってきた。
だんだんとそういう話を自分からしなくなり、学校を休んだりするようになった。
たまに学校に来ては、
「黒い影が着いて来る」
と青い顔で周りに言っていた。
しかしクラスメイトたちはA子の霊感を信じ切っていたので、「そんなのいつもの事じゃん」と心配することも特に無かった。
むしろ霊感を信じ切っているので、
自分の守護霊も見てと言ってくる人までいた。
そんな中の一人のD太に、ビクビクしながら
「左腕に気をつけて」
とA子は言った。
その2日後にはD太は左腕を吊り下げて登校してきて、
「一昨日、塾の帰りに誰かに押されて階段から落ちて骨折した」
と言い出した。
クラス中は「また当たった」とA子を囃し立てた。
この頃にはA子の霊感の騒ぎは教師の耳にも入って来ていた。
しかし、生徒同士の遊びで騒いでいるだけだと放置されていた。
そんな中、教師の大叔父のもとをA子が訪れ、相談を持ち掛けてきた。
内容としては、
「私はずっと霊感があると嘘をついていた。」
「幽霊が居ると話すと周りが楽しんでくれるから、どんどん話が大きくなっていた。」
「守護霊が見えるっていうのも真っ赤なウソ。」
「適当に言っていたのに、本当に怪我をしている」
「そんなことを言っていたら、最近は黒い影のような物に付け回されている。」
「どうしたらいいのか分からなくて怖い」
というものだった。
大叔父はどうすれば良いのかなんてものは全く分からず、
「嫌な事が偶然続いて気持ちが落ちてしまっているだけだから、遊びにとか行って気分転換でもしなさい」
と言い、その日は返した。
相談に来た週の日曜日の午後、自宅で休んでいた大叔父のもとに学校から一本の電話が来た。
「学校の屋上から生徒が落ちた」
「すぐに来てくれ」
と言う内容だった。
急いで学校に向かうと落ちた生徒はすでに病院に送られた後だったが、どうやらその生徒はA子の様だった。
部活などで学校に来ていて目撃していた複数人の生徒から話を聞いたが、
殆どの生徒が、女生徒が飛び降りたと証言していた。
しかし少人数ではあるが、何人かは、
「人影が見えて突き落とされたように見えた」
と証言していた。
病院から連絡が入り、怪我はあるが命にべつじょうはないとのことだったので安心した。
そこで屋上に上がって確認してみようとしたが、屋上に続く唯一の扉は施錠がされており、鍵がないと上がることができない状況だった。
後日、A子の病室に見舞いに行き、話を聞くことができたが、
その日の記憶が全く無いとのことだった。
なぜ学校に行ったのかも、どうやって屋上に入ったのかも、何故落ちたのかも全く分からないとの事だった。
ただ、怪我の具合を聞くと
両手の骨折と左足の火傷が酷いが、他にかすり傷すら無く、落ちた場所などの状況から、骨折はあり得ても火傷なんてすることは無いと思うと医者も首をひねっており、医者にも本当に落ちたのかと何度も聞かれたらしい。
A子は自分が予言をし怪我をした同級生と同じ怪我をしたことに驚きつつも、自分が嘘を付いたことで何かしらを怒らせちゃったのかな。
と話していた。
それから何十年も経つが、今でもA子から毎年の様に年賀状が届いているらしい。
皆さんも、むやみやたらに霊感があるなんて嘘をついたりしないほうがいいですよ。
作者たくねこ