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この件に関して、学校側は沈黙をまもっている

中編5
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この件に関して、学校側は沈黙をまもっている

「校舎裏の沼には、死体が沈んでいる」

これは私が通っていた小学校に、昔から伝わる噂です。

なんでも昔、一人の児童が校舎の裏にある森に入っていったのを最後に、行方不明になっているのだそうです。

そして真偽は不明ですが、その児童のものとみられる足跡が、その森の中央にある沼までまっすぐ続いていたのだとか・・・。

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A「でも、それってただの噂だろ?」

その話は、私と友人たちの間で、さっそく話題に挙がりました。

B「”火のないところに煙は立たない”だろ?一昨日、国語で習ったやつ」

A「でもさすがに嘘っぽくないか?まず、土の上に足跡なんてそうそうつかないぜ。森ン中に足跡なんか・・・」

友人A、Bの間で、議論が白熱していました。

どちらの意見も正しいようで、またどちらも違うようで。私はどっちつかずの態度で、ただこの議論を眺めているだけでした。

二人に限らず、この話を知る児童の間では、噂の真偽に対して賛否が分かれている様子でした。

その大きな争点は「沼」の実在の有無にあったようです。

児童だけで裏の森に入ることは推奨されていないので、実際にその存在を確認した者はおりません。

否定派の意見の最たるものは、「”沼”のことについて、先生たちは何もいわない」というものでした。大人が公にアナウンスしないんだから、きっとそんなものは初めから存在しないんだ、という言い分です。

しかし、学校周辺の地図に目を走らせてみると、裏の森の中に「湖沼」を表す地図記号を見て取れるのです。

今考えると、それでも沼の存在を否定する児童が一定数いたのは、自分の学び舎にはびこる不気味な怪談を、根底から否定したいという心理の表れだったのかもしれません。

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B「”百聞は一見に如かず”!これは理科で習ったな。」

”こうなったら!”、とでもいうようにBがいきり立ちます。

B「ただの池とかじゃなくて、マジモンのドロッドロの沼があるのを確かめに行く!ついでに死体も拾ってくる!!お前も行くだろ、A?」

A「行くよ。どーせ死体とかねぇだろうし」

私「ああ、俺はやめとくよ」

正直言って、この時の私は好奇心よりも恐怖心の方が勝っていました。妙な曰くのある森の中へ分け入っていくなんてとんでもない。もしもうわさが本当で、そこにいる霊か何かに呪われるとしたら、それはこの二人に腰抜け呼ばわりされることよりもよっぽど恐ろしいことだと思ったのです。

案の定、二人には鼻で笑われて、私は一人で両名の調査報告を待つことにしました。

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夕方、16:00頃。

待ち合わせ場所のコインランドリーの前で二人を迎えました。

私「どうだった?」

A,B「・・・」

A「ああ、あの話ガセだったみたい」

B「うん。バッカらしいよな」

・・・・・・・

・・・・・・・

どこか歯切れの悪い返答でした。

ひとまずこの日はお開き。Aと帰りの方向が同じ私は、彼の様子を注意深く観察してみることにしました。

「・・・」

妙です。

なんというか、心ここにあらず、という様子でひたすら正面を凝視して、心なしかいつもより歩くペースも早いのです。

なんだか、どこかに置いてきた”なにか”から必死に距離を取ろうとしているかのようで・・・

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私「A」

A「ん」

私「なにかあった?」

A「いや何も」

こんなやり取りが何度か繰り返された後、

・・・・・・

・・・・・・

A「・・・聞いても後悔しない?」

そう述べるAの声は重く、真剣なものでした。

A「いや実はさ、Bと一緒に森の中をずっとずっと歩いていったら、あったんだよ。”沼”ってのが」

「Bが言ったとおりのドロッドロで、真っ黒のやつがさ」

「で、その沼の縁ン所が全ェ部、柵で囲まれてたんだよ」

「俺もBも、森の中にこんなエリア51みたいなところがあるのにびっくりして、しばらくそのまま眺めてたのね」

「そしたら、Bのやつ、急に隣でガタガタ震えだすの」

「まぁ、俺は無視して柵の方を眺めてたんだけど、・・・わかったんだよ。Bが震えてたワケが」

「沼の上に、ぷかぷか浮かんでたもの」ーーー「なんだったと思う?」

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「”人の顔”だったんだよ」

Aが話を続けます。

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「お前、俺たちがビビッて、その場からダッシュで逃げてきたと思うだろ?違うんだよ」

「なんというか”見ちゃったものは仕方がない。でも、さっさと記憶から消してしまおう”ていう考えが心の中に浮かんだんだ」

「なんかね、俺の脳の細胞全部が、そこで見たことを否定しにかかってんの」

「俺がBの方を向くと、あいつも俺の方を見た」

「アンモクの了解っていうのかな。”俺たちは何も見なかった、沼には何もいなかった、いやそもそもここに沼なんてなかったのかも”ってことを無言で納得して、あえてゆっくり歩いて戻ってきたわけよ」

「そこで走り出しちゃうと、怖いものを見たってことを自分で認めることになっちゃうから」

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A「まあ、全部話したら、逆にすっきりしたわ。なかったことにするよりも、受け入れちゃう方がいいのかもなぁ」

話す前と違って、Aの表情は心なし明るく見えました。

でも、私は釈然としません。なにか、重要な部分をはぐらかされたような。結局、沼に浮かんでいた”顔”とは一体・・・。

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私「それって、ホントに誰かが沼に落ちておぼれてたんじゃないの?」

A「ありえねえな。大人二人分くらいのでーっかい柵があんだぞ?てっぺんにトゲトゲまでついてるやつ」

私「じゃ、噂の死体は本当にあって、それが浮かんできてたとか?」

A「”沼”っていうのは人を沈めるもんだろ?沈んだはずの死体が勝手に浮いてきたりするか」

私「じゃあ・・・、その”顔”は幽霊のものだったってか?」

A「わっかんねぇ。でも確実に言えることはさ・・・

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”その顔”が俺たちの方を見て、ずっとニヤニヤ笑ってたってことだよ」

その時私は一生分の鳥肌が立ったような心地でした。

同時に、学校側がその沼の存在を児童たちに対して公にしない理由が、なんとなく分かった気がしたのです。

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