短編2
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誰の足

Tさんは右足を地面から少し浮かべた状態で首をかしげました。

何かを踏んでいる気がする。

これは人の足なんじゃないか。

Tさんは後ろを振り返って、人がいないかを確認しましたが、誰もいません。

隣を歩いていた友人に、足を踏んでしまったかを確認しましたが、友人は踏まれていないといいます。

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Tさんが何かを踏んでいると感じるようになったのは、彼が高校生の頃。

Tさんは学校が休みの日、家に一人でいました。定期試験に備えて勉強をする必要があり、家族が皆出かけると二階の自室に閉じ籠りました。集中をしていると時間があっという間に過ぎていき、昼前になりました。

昼食でもとるか。

そう考えながら、大きく伸びをするとピンポンとベルがなりました。

家族の誰かが荷物を頼んだのだろう。

彼は急いで階段をおりようとして足を踏み外してしまいました。体勢を崩して、階段から転がり落ちそうになったものの何とか手すりを掴んで転落を防ぐことができました。

おっと危ない……!

彼はそのまま急いで玄関で荷物を受け取り、しばらくした後に右足の足首の痛みに気がつきました。

Tさんは階段で体勢を崩した際に、足首をひねってしまったようです。

痛みは3日程度で治まったものの足には違和感が残りました。

Tさんは時たまに、まるで誰かの足を踏んでいる感覚がするようになりました。

不安になり、Tさんは病院で診察を受けたのですが、特に異常はないようでした。

足には確かに妙な感覚があるのに。

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Tさんは、あるとき仕事の用で、都市郊外のビルを訪れました。そのビルは何となく気味の悪い雰囲気があり、入った途端に寒気を感じたそうです。

エレベーターに乗り込んだとき、Tさんは足にあの違和感を覚えました。

誰かの足を踏んでいる。

ぞくりとして、Tさんはエレベーターの鏡を見ることができなくなりました。何かが写っていたらどうしよう。

エレベーターに乗っているのはTさん一人だけでした。

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エレベーターが用事のある階についたとき、Tさんは耳元に微かな風を感じました。

……痛い

か細い声でそう呟かれました。

ぞくりと全身の毛が逆立ち、放心状態で一歩を踏み出しました。

ぐにゃり

今回は確かに人の足を踏んでいる感覚がしました。

Tさんの頭は恐怖に支配され、何も考えることができませんでした。Tさんはエレベーターを降りると、廊下の端に駆け込み、足に残る感覚を振り払うように、非常階段を急いで降りました。

結局、Tさんは先方に急用ができたと連絡をし、その日は仕事を早退しました。

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それ以降、Tさんは気がつきました。

足に違和感を覚えるときには、近くに何か得体のしれないものがひそんでいる。自分は確かに「それ」の足を踏んでいるのだ。

怖がりのTさんには、不安を振り払うために周りに足を踏まれた人がいないかを確認する癖がついています。

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